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3.3虚なる魔法
虚
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「……悪魔化?」
ムトは聞こえるか聞こえないかぐらいの声でつぶやいた。
彼女の表情から何かを読み取ることは出来ないが、少なからず興味は持ってくれたらしい。
「面白いやろ? もっとも、人間と悪魔の協力技や……二人の協力がなけりゃ、俺らのようになるのは無理やけどな」
もっとも、強大な力をえるためには、大きな犠牲が生じるのは当たり前のことだ。
楽に力を手に入れられる……誰かにそう切り出されたら、警戒するのは当たり前のことだし、俺だって警戒する。
だが、いま悪魔に警戒されるわけにはいかない。
「なるほど、その力があれば目的に大幅に近づくことが出来るというわけか……人を傷つけて、その魂を集める必要がなくなるってすんぽうだな?」
体も、声も完全にムトのものだが、話し方はまるで違う。
俺は警戒しつつも、相手に警戒心を与えな用にできるだけ言葉を選んだ。
「どっちがいいかは、言わんでもわかるやろう?」
「お前の話が本当だとするなら、な。だが、私はどうもお前のことが信用できない。私と同じ匂いがするからかな……」
ムトは俺の耳に近づいて、ささやいた。
――最初から警戒されていた。
想像はついていたことだが、対策を立てていない。
もし、悪魔が真実に気が付いてしまったら、それこそムトごと殺す以外なくなってしまう。
落ち着け……警戒されているとはいえ、分はこっちにある。力はこちらの方が上なのだから、相手も下手な動きを見せることはないだろう。
「信用なんてしてもらう必要はないさ。俺はただ、お前たちが人を殺すのをやめてもらえればそれでいい。だから、口車に乗ってもらえないというのなら、警察としてお前をとらえることになるだろうな」
「ふふ、長い間、しっぽをつかむことすらできなかった警察に何ができるというのだ。私が何者かも知らないくせに」
人間らしい笑いを見せる悪魔だ。
俺は予想外のことに少し驚いている。人間と協力体制にない悪魔は、人間らしさを持っていないと思っていたからだ。
ところがどうだ。彼女はとても人間らしく振舞っている。
まさに悪魔的に、人の心理を完全に把握しているからこそできることだろう。
「見た感じ、かなり上位の悪魔と見受ける。だったら、俺の計画に乗ることがどれだけメリットかわかるやろう?」
「だからこそさ……メリットばかりを提示されると、疑いたくなるのが人間の性ってやつさ。おいしい話ってやつにはたいてい裏がある。その悪魔化ってやつにもかなりのデメリットがあるんだろう? 私と取引をしたいのなら、それも提示するんだな」
見抜かれていた。
そうだ。悪魔化には悪魔にとって大きなデメリットがある。それは悪魔が人間の従者にならなければいけないということだ。
主従関係の契約。それは悪魔にとってかなりのデメリット足りえる。
もともと、人間の体を借りて動くことが出来る悪魔にとって、人間の制約の下でしか動けなくなるということはもちろん。宿主である人間のやりたくないことは出来なくなる。
つまり、悪魔が俺との契約に違反して、悪魔化の力を手に入れて、なおかつ人間の魂も集め続けるということは出来ない。
それはムトが望まざることだからだ。
「……デメリットね。どうせ俺が何を言ったって信じる気なんてないんやろ?」
彼女は先ほどから、視線をあたり一帯に向けている。
もう逃げることしか考えていないということだろう。信じるというのならそんなことはしない。もはや疑い以外の感情を持っていないのだろう。
「あるわけない。もし仮に信じていたとしても、それは自分自身で何とかするさ……今の君には力では勝てそうにないしね」
彼女は俺の全身をくまなく見て、逃げることなど余裕だと言わんばかりに笑う。
「なるほど、甘く見られたもんやな」
「そうでもないさ……普段ならギブアップだったろうけど、時期が悪かったね。いや場所が悪かったというべきか……ともかく、今なら苦も無く逃げることが出来るよ。試してみるかい?」
ハッタリではないだろう。
本当にいつでも逃げられる――そんな気迫が彼女からは感じられる。
「逃げたとしても、見つけるのは時間のもんだいやぞ」
「それまでにお前より強くなるだけさ」
それだけ言うと、彼女は目にもとまらぬ速さで移動を始める。
俺も一応は応戦するが、予想外のスピードについていくことすらできなかった。不意打ちでもなく、宣言されてからの敗北だ。ぐうの音も出ないほどに、彼女に対してスピード面で俺が劣っていたというわけだ。――今この時点では。
「やれやれ、やられた」
「油断するからだ。スピードなんてもんはある一定以上は早くならない。摩擦に体が耐えきれないからだ……だとするならすべては初速にかかっている。こんなぬかるんだ場所じゃ、相手が最も強いであろう満月の夜に勝てるはずもない」
本当にその通りだが、ベリアルに言われるとなんだか非常にむかつく。
「それよりも、どうするかや……次に会ったときは、たぶん悪魔化した俺よりはるかに強くなってると思うで……俺はかなり弱い方やからな」
「ずいぶんと自信がないんだな?」
自身なんてあるはずもない、俺と比べると、あの体の持ち主は化け物だ。
短期間での成長速度だって、予想をはるかに上回ることになるだろう。
「まあ、なんや。この際、仕方ない。本当は巻き込みたくなかったけど、もうそんなこと言ってる場合じゃなくなった。イグニスに手伝ってもらうほかないやろな……」
「ずいぶんと嫌そうだな? あいつだって、お前に比べたらかなり強くなる。心配する必要なんてないんじゃないか?」
悪魔ってやつは、人間のことに詳しいようで、やはり疎い。
イグニスは確かに潜在能力は高いが、それでも精神面では平均以下というべきだろう。これ以上負担はかけたくなかった。
――だが、世界が滅びるよりは幾分かマシだ。
ムトは聞こえるか聞こえないかぐらいの声でつぶやいた。
彼女の表情から何かを読み取ることは出来ないが、少なからず興味は持ってくれたらしい。
「面白いやろ? もっとも、人間と悪魔の協力技や……二人の協力がなけりゃ、俺らのようになるのは無理やけどな」
もっとも、強大な力をえるためには、大きな犠牲が生じるのは当たり前のことだ。
楽に力を手に入れられる……誰かにそう切り出されたら、警戒するのは当たり前のことだし、俺だって警戒する。
だが、いま悪魔に警戒されるわけにはいかない。
「なるほど、その力があれば目的に大幅に近づくことが出来るというわけか……人を傷つけて、その魂を集める必要がなくなるってすんぽうだな?」
体も、声も完全にムトのものだが、話し方はまるで違う。
俺は警戒しつつも、相手に警戒心を与えな用にできるだけ言葉を選んだ。
「どっちがいいかは、言わんでもわかるやろう?」
「お前の話が本当だとするなら、な。だが、私はどうもお前のことが信用できない。私と同じ匂いがするからかな……」
ムトは俺の耳に近づいて、ささやいた。
――最初から警戒されていた。
想像はついていたことだが、対策を立てていない。
もし、悪魔が真実に気が付いてしまったら、それこそムトごと殺す以外なくなってしまう。
落ち着け……警戒されているとはいえ、分はこっちにある。力はこちらの方が上なのだから、相手も下手な動きを見せることはないだろう。
「信用なんてしてもらう必要はないさ。俺はただ、お前たちが人を殺すのをやめてもらえればそれでいい。だから、口車に乗ってもらえないというのなら、警察としてお前をとらえることになるだろうな」
「ふふ、長い間、しっぽをつかむことすらできなかった警察に何ができるというのだ。私が何者かも知らないくせに」
人間らしい笑いを見せる悪魔だ。
俺は予想外のことに少し驚いている。人間と協力体制にない悪魔は、人間らしさを持っていないと思っていたからだ。
ところがどうだ。彼女はとても人間らしく振舞っている。
まさに悪魔的に、人の心理を完全に把握しているからこそできることだろう。
「見た感じ、かなり上位の悪魔と見受ける。だったら、俺の計画に乗ることがどれだけメリットかわかるやろう?」
「だからこそさ……メリットばかりを提示されると、疑いたくなるのが人間の性ってやつさ。おいしい話ってやつにはたいてい裏がある。その悪魔化ってやつにもかなりのデメリットがあるんだろう? 私と取引をしたいのなら、それも提示するんだな」
見抜かれていた。
そうだ。悪魔化には悪魔にとって大きなデメリットがある。それは悪魔が人間の従者にならなければいけないということだ。
主従関係の契約。それは悪魔にとってかなりのデメリット足りえる。
もともと、人間の体を借りて動くことが出来る悪魔にとって、人間の制約の下でしか動けなくなるということはもちろん。宿主である人間のやりたくないことは出来なくなる。
つまり、悪魔が俺との契約に違反して、悪魔化の力を手に入れて、なおかつ人間の魂も集め続けるということは出来ない。
それはムトが望まざることだからだ。
「……デメリットね。どうせ俺が何を言ったって信じる気なんてないんやろ?」
彼女は先ほどから、視線をあたり一帯に向けている。
もう逃げることしか考えていないということだろう。信じるというのならそんなことはしない。もはや疑い以外の感情を持っていないのだろう。
「あるわけない。もし仮に信じていたとしても、それは自分自身で何とかするさ……今の君には力では勝てそうにないしね」
彼女は俺の全身をくまなく見て、逃げることなど余裕だと言わんばかりに笑う。
「なるほど、甘く見られたもんやな」
「そうでもないさ……普段ならギブアップだったろうけど、時期が悪かったね。いや場所が悪かったというべきか……ともかく、今なら苦も無く逃げることが出来るよ。試してみるかい?」
ハッタリではないだろう。
本当にいつでも逃げられる――そんな気迫が彼女からは感じられる。
「逃げたとしても、見つけるのは時間のもんだいやぞ」
「それまでにお前より強くなるだけさ」
それだけ言うと、彼女は目にもとまらぬ速さで移動を始める。
俺も一応は応戦するが、予想外のスピードについていくことすらできなかった。不意打ちでもなく、宣言されてからの敗北だ。ぐうの音も出ないほどに、彼女に対してスピード面で俺が劣っていたというわけだ。――今この時点では。
「やれやれ、やられた」
「油断するからだ。スピードなんてもんはある一定以上は早くならない。摩擦に体が耐えきれないからだ……だとするならすべては初速にかかっている。こんなぬかるんだ場所じゃ、相手が最も強いであろう満月の夜に勝てるはずもない」
本当にその通りだが、ベリアルに言われるとなんだか非常にむかつく。
「それよりも、どうするかや……次に会ったときは、たぶん悪魔化した俺よりはるかに強くなってると思うで……俺はかなり弱い方やからな」
「ずいぶんと自信がないんだな?」
自身なんてあるはずもない、俺と比べると、あの体の持ち主は化け物だ。
短期間での成長速度だって、予想をはるかに上回ることになるだろう。
「まあ、なんや。この際、仕方ない。本当は巻き込みたくなかったけど、もうそんなこと言ってる場合じゃなくなった。イグニスに手伝ってもらうほかないやろな……」
「ずいぶんと嫌そうだな? あいつだって、お前に比べたらかなり強くなる。心配する必要なんてないんじゃないか?」
悪魔ってやつは、人間のことに詳しいようで、やはり疎い。
イグニスは確かに潜在能力は高いが、それでも精神面では平均以下というべきだろう。これ以上負担はかけたくなかった。
――だが、世界が滅びるよりは幾分かマシだ。
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