よみがえりの一族

真白 悟

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1.1 忍び寄る死の気配

6.わが愛しの社長

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 目が覚めると頭が割れるように痛かった。お腹も減っているし、目も痛い、それに時計の針は6時40分を指している。
 激しい頭痛をこらえながらもなんとか立ち上がり、出口へと向かう。昨晩いじくり回した家電がその辺に転がっているが気にも止めずドアへと足をすすめる。ドアを開け、廊下の隅にある洗面所を目指して歩き始めた。
 ――――その時、背後でドアの開く音が聞こえた。
 特に何か変なことがあったわけでもないのに、僕は嫌な気配を感じてゆっくりと振り返る。だがなんのこともない。そこに立っていたのは目を擦っている堺だった。

「おはようさん、初日やし起こしてやろうと思ったんやけど……自分で起きれたんやな」

 僕を心配した堺だが、彼は自分の心配をしたほうが良さそうだ。
「随分とお疲れの様子だな? しっかり眠れなかったのか?」
 興味本位でそう訪ねてみる。
「いや、ただ朝弱いだけやから気にせんといて、でもお前も同じようなもんやと思ったけど……」
 堺はそこまで言うと言葉をつまらせ、僕の顔を覗き込んだ。そして、声を荒げて言った。

「――お前! なんで泣いとったんや? なんか嫌なことでもあったんか!?」

 彼の勢いに押され僕は本音を話してしまう。
「いや、そういうことじゃないんだ……ただ家が恋しくなっちゃってね……」
 堺は僕の言葉に心配そうな顔をしている。
「ホームシックか……? それなら恥ずかしいと思ってしまうのも仕方がない。でもな、自分1人で抱え込むのだけはやめろ……精神的な傷は1人では癒されへん。だから次なんかあったら俺を呼ぶんやで!」
「そう言ってもらえると有り難いよ。でもちょっと顔を洗いに行ってもいいだろうか?」
「ああ、悪い。やけど、俺の親友が精神病にやられて自殺してもうたからちょっと敏感になっとってな……」
「親友?」

彼の親友については興味がないわけではない、もう少し話を聞いていくか。

「よかったら話を聞かせてくれないか?」 
「こんなことは他人であるお前に話すのも自分がどうかしてるともうけど……お前は俺の親友によく似とる」

 昨晩の陽気な態度とは違い、堺は今にも壊れてしまうのではないかと不安になるほど、悔しげな表情をしている。

「おかしなことを言うが、俺の親友は騎士やった。質問もあるやろうけど黙って聞いといてくれ!」
 僕が何か言わんとするのを察してか、僕を黙らせ続きを語り始めた。

「あいつは騎士で魔法使い幼馴染がおった。でも、その幼馴染は殺されてしもうた。あいつにとって幼馴染はとても大切な人物やったことは知っているし、いつかくっつくんやろうなとも思っとた。
 その幼馴染は事故ではあるが、自分の手で殺してしまったんや。まあそれも大きな理由があったわけであいつを責めるやつなどおらん……。もしそんなやつがおったら俺が殺してたかも知らんけどな……それからあいつは目に見えるように弱っていった。
 やけどそれでもあいつは強く生きようとしとった。それでも、心にある傷はいつまでも癒えんかったんやろな。あいつはある事件を境に行方不明になってしもうた」
 
 彼の話を聞いて僕はあることに気がついてしまった。その話は彼にとっても僕にとっても関係のあることで、僕はまた過ちを犯してしまうところであった。結局どこにいても助けてくれるのは友というわけだろう。
 
 ひとまず堺と別れ、顔を洗うために洗面所へと向かった。
 鏡に映る顔はとても酷いものだ。目は腫れ上がり真っ赤で、それだけでも恥ずかしいのに涙の跡がくっきりと残っている。
 こんな顔だったら、堺に泣いていたことがバレたのは不思議ではない。というか、こんな顔でもう一人の住人に合わなくてよかった。
 顔についている涙のあとやら、他の諸々をとるために備え置きのものだろう石鹸を使い顔を洗う。目覚めのあとに顔を洗うのは、どこであっても気持ちよいものであると再認識して顔を上げる。
 
 よくよく考えれば拭く物を持っていないぞ……

 そんなことを考えながら顔を横にやると、そこには可愛いくまのタオルがかかっている。
 手を伸ばしつかもうと思うが、使っていいものかどうか悩んでしまう。
 
「――どうぞ、使ってもらってかまいませんよ」
 全く気配を感じなかった背後から、突然にも声が聞こえてきたことに驚き後ろを振り返る。そこには、とても可愛い女の子が立っていた。
 髪は白く、目は琥珀色に近いものでまるで人形のような見た目をしている。僕はきっと彼女ほどの女性を見たことなどなかっただろう。あまりもの衝撃についつい黙り込んでしまった。

 そんな僕を見て、心配になったのか彼女はこちらに近づいてきて、目の前で手を振る。
「……どうしたんですか?」
 その挙動があまりにも美しく、僕はつばを飲み込んだ。
 だけど、ずっと黙っているわけにもいかないだろう。緊張と焦りから声が裏返えるのも気にせずに慌てて否定する。
「いやっ、なんでもないよっ!!」
 突然の裏返った大きな声にびっくりした様子の彼女は、こちらを見つめ、少しの間をおいたあとでクスクスと笑った。

「ごめん、突然の声にビックリしちゃって」

 僕が慌てて取り繕うも彼女はそんなことを気にも止めない様子だ。
「そうなんですか、私も驚いちゃいましたよ」
「ごめん」
「いえ、それより早く顔を拭いちゃってください。あと、ご飯が出来てるんで、顔を吹いたらリビングに来てください」

 顔を拭き終わりスッキリしたところで、食堂へと向かう。
 タオルからはとてもいい香りがしていた。

 食堂に入っていくとすでにさっきの少女と堺が座して待っていた。机の上には美味しそうなトーストや卵料理の数々が並んでいる。僕の国でも主食として食べられているパン料理がメインらしい。
 料理も期待はしていたが、やはり気になるのはあの少女だ。

 僕の考えを読んだようにこちらに気がついた少女が話しかけてきた。
「来られましたね、どうぞこちらにおかけください」
 彼女に促されるまま木のテーブルを囲んでいたダークオーク椅子に座り込んだ。
 堺が少しだけはにかんだようにも見えたが、まあどうでもいか。
 近くで見てもやはり、机の上に並べられていたのはただのパンとベーコンあと卵と僕の国でもよく食べられているものばかりだった。
 でも、どこか僕の国で食べていたものとは色もツヤもかなり異なっている気もする。
 心の何処かでは、遠い国に来ただけではないのか……などと甘いことを考えていたが、やっぱり異世界に来ていることは間違いないようだ。
 ひとまず、この状況だけでも確認しておきたいと思い、二人にあることを提案する。

「そういや、二人には僕のこと教えていなかったね。ここらで自己紹介でもしないか?」
「それはいいですね」
 その提案を待っていましたと言わんばかりに彼女は立ち上がった。
「では、一番年下であろう私からさせて頂きます。私の名前はニヒルです。15歳でこの家の食事当番をしています。それと、イグニスさんの仕事場の社長になります」
 ニヒルと名乗った少女が何やら、聞き捨てならないことを言った気がする。
「ん?ちょっと待って、社長?」
 僕はあまりに突然のことに、言葉がまとまらなかった。だが彼女はその反応を待っていたようにすぐさま返す。
「はい、社長です」
 驚きのあまり堺の方を見るが、特に状況は変わらない。そんな僕に更に追い打ちをかけるように堺はつぶやく。
「……驚いているとこ悪いけど。そいつはほんとに社長やで」

 こんなに可愛い子が社長って普通ありえないだろ……
 感慨深い僕の考えを遮るように、堺が自己紹介を始める。

「じゃあ、次は俺やな。俺は堺二郎ていいます。歳は38や、まあお前らにとっては父親みたいな年齢やけど心はいつまでも18歳やから気軽に接したって。
 俺はこの愛しのニヒル社長のもとで派遣みたいはことやってます」
 見た目からはわからなかったが結構な年齢のようだ。

 僕の番が来たことによる緊張でご飯が喉を通らなくなっていた。自己紹介には慣れているつもりだが、そうでもなかったみたいだ。
「僕はイグニスだ。年齢はおそらく18といったところだろう。日本のことはまだまだ分からないので教えてもらえると助かる」
 それから自分たちの境遇を話し合った。
 
 どうやらニヒルは、俺と同じで外国から一文無しで来たらしい。
 ここに来た動機も俺と同じで行き倒れていたところを火山に保護されたということらしい。
 そして今ではよくわからないグループの社長を務めているらしい。

 堺は日本人とアメリカ人のハーフらしく38年間ずっと日本に住んでるらしい。
 
 僕はこのとんでもない状況の中で、この2人に出会えたことは幸いだと思った。
 もし、この2人に出会えていなければ、また間違いを犯したかもしれない。

「ニヒル、そういえば僕が君の会社で働くことになってるみたいだけどどういうこと?」
 さっきからずっと疑問に思っていたことをようやく聞くことが出来た。
「それはもちろん火山さんから頼まれたんですよ。おそらくですが、日本社会を良く知らないイグニスさんにとっては比較的働きやすい環境だと思いますよ」
 ニヒルはうれしそう答えた。
「仕事の話は後でええやろ、とりあえず飯を食わんとな」
 時間がない言わんばかりに堺が急かしてきた。
 しかし、特に反論することもないのでとりあえず同意した。

 まずはパンを口に運んだ。
 パンは僕がいつも食べていたものに比べ、パサパサしておらず食べやすかった。
「なんていうんだろう、こんな美味しいパンは初めて食べたよ」
 その言葉を聞いていたニヒルはまた嬉しそうに笑った。
 堺も心なしか少し表情が柔らかいような気がした。
 ベーコンも卵も明らかに味が違った。
 これがこっちのごはんだというならば、僕が今まで食べてきたものはなんだったのかわからなくなる。
 僕の中で、食事の常識が裏返ってしまうほど衝撃的だった。

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