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1.1 忍び寄る死の気配
7.漂う気配
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優雅な食事を終えると、ニヒルの言う仕事の時間まではまだまだ猶予があることに気がついた。
どうせだから、ニヒルからもらった五十音表でも見て勉強でもするかななどと、木目で歩くたびにキシキシと音を立てる廊下に不快感を感じながら考えていた。
木が軋む音は確かに気持ちが悪いのだが、それよりもなにかもっと不吉な音が聞こえた。まあ。実際に音がなったわけではないが、僕の人生で嫌なことが起きる前触れとでも言えばいいのか、とにかく気味の悪い気配とでも言うのかよくわからない。
なにも、悪いことが起きなければいいのだがな……
だけど、この国では内乱も戦争も縁が無さそうで、悪いことが起きるとしても大したことはないだろう。部屋に帰った頃には気配は消えてしまい、僕も忘れるように勤める。
――たぶん気のせいだろう。
部屋の中はまだ家電が散乱している始末。
自分の部屋一つ片付けることが出来ないなんて、僕はなんて情けないやつなのだろうか……
それにしても、昨日の僕はどうしてあんなにも気分が高揚していたのだろう? 家電は確かにすごいが、それはあくまで、魔法が使えないからであって魔法が使える世界にとって、そんなものは努力賞といったところだ。大した価値はない。
さっさと片付けて、勉強をしたほうがよさそうだ。
あらかた、家電を片付けて、ひらがなを同じくニヒルからもらったCDなるもので音を聞きながら勉強しようと思ったのだが、いかんせん使い方がわからない。
使い方が分からなければ勉強どころではないだろうし、堺にでも聞きに行こうと思った矢先、部屋のドアが開いた。
「よう、勉強は進んでるか?」
そんな陽気な声で話しかけて来るのは堺しかいない。もちろんその正体は堺だ。
「いや、このしぃでいぷれいやぁってやつがうまく使えなくて…………」
それを聞いて吹き出す堺。いったいなにがおかしいというのだろう。
「それで1時間もつかったん?」
堺が言った言葉でようやく気がついた。
まさか、1時間もこれとにらめっこしていたのか俺は?
「……へぇ、あのニヒルも大変だったんだね」
CDのことなどどうでも良くなり、堺と世間話をはじめてはや10分。ニヒルが僕と同じように勉強した時のことで盛り上がった。
「そら、さすがのあの天才でも日常で使える程度になるには何ヶ月もかかったみたいやで」
ニヒルを天才という堺だが、僕にはいまいち分からない。だけど天才で何ヶ月もかかるなら、天才じゃない僕は、日本語の読み書きに何年かかることやら。
「そうや、懐かしい話をお前にしに来たわけじゃないんや。大事な話があるんやった……」
堺が真剣な顔をするのはこれで二回目だろう。よっぽど大切な話なのだろうか……
「大事な話ってなんですか?」
「ええか、実はお前がどこの誰なんかもうわかってる」
「?」
この人はいったい『何』を言っているんだ?
彼は僕の疑問をすぐに解決してくれた。
「だから、お前がよみがえりの一族であることを知てるんや!」
その言葉に僕は衝撃が走った。
「どうして、そのことを知っているんだ!?」
―――この世界には魔法の痕跡がない。つまり、僕と同じ世界の住人はいないはずだ。
それなのに、堺は『よみがえりの一族』を知っている。そこには幾つかの矛盾点がある。
だけど、そんなことは僕にとってはどうでもいい。重要なことは別にある。
「まさか……いや、やっぱり君はっ! 君の名は!」
堺が口に指をあて、僕の言葉を止めた。
「今となっては、それもどうでもいいことや……お前に死なれたら困るから、これだけは言わせてくれ」
僕はとても緊張していた。なにか期待通りの言葉がきけるのではないかと淡い期待を抱いのだ。
「この世界では魔法を使ったらあかん!」
堺の言葉は僕にとって期待はずれだ。しかし、魔法を使うなとはいかがなものだろう。それに、そもそも僕は魔法が使えない。
「魔法を使うなって言われても、僕は魔法なんて使えないからどうしようもないけどね」
「はあ? 魔法が使えないやって? お前あの世界の住人と違うんか?」
「あの世界とか言われてもわからないよ……だけど、僕は確かに『よみがえりの一族』の末裔だ」
混乱しているのか堺は頭を抱えている。
「いや、でも、そうじゃないやろ? あー……」
ついに堺が壊れてしまったようだ。言葉すらまともに話せていない。
……このままでは、らちがあかないな。ちょっとこちらからアクションするか。
「どうした?」
「どうしたやない! 一族はみな高い魔力を保有しとるはずや!」
堺の声は鼓膜が張り裂けそうになるぐらい大きかった。
「お前! 僕の耳を潰すつもりか!?」
「ちょっと待ってくれ……頭が働かん……」
堺はうーんと唸り、頭をかきむしっている。いったいどうしたというのだろう。
「魔法が使われへんってのは信じたる。けど、お前のまわりに魔法の痕跡が大量にある。そのままじゃ大変なことになるから、それを消しさらんといかん」
「大変なこと?」
なにやら話が大きくなって来た。だけど、僕のまわりに魔法の痕跡があるというのはどういうことだ? 僕にはそんなものは感じられない。一度翻訳魔法を使おうとしたからだろうか。でも魔法はいつも通り発動しなかった。どういうことだ? どうやら、堺の癖が移ってしまったようだ……考えがまとまらない。
「いや、今日はまだ大丈夫やろうし、時間もないからまた夜話すわ……。ただ一つだけ忠告や、今日家に戻ってくるまで絶対にニヒルのそばから離れたらアカンで……」
忠告自体はありがたいものではあるのだが、なんだか釈然としない。
堺が突然そのようなことを話してきたことと、先ほどの不吉な予感。その二つが関係あるように思えて仕方がない。
だが、堺が話してくれないのでは僕から聞くことも出来ないし、ニヒルに聞いた所で返ってくる返事はおそらく堺と変わらないだろう。
――なら僕がすることはたった一つ、堺の忠告通りニヒルと一緒に行動することだ。
釈然としないままではあるが、ひとまず仕事のこともあるしニヒルのもとへと向かうのが得策なのだろう。
どうせだから、ニヒルからもらった五十音表でも見て勉強でもするかななどと、木目で歩くたびにキシキシと音を立てる廊下に不快感を感じながら考えていた。
木が軋む音は確かに気持ちが悪いのだが、それよりもなにかもっと不吉な音が聞こえた。まあ。実際に音がなったわけではないが、僕の人生で嫌なことが起きる前触れとでも言えばいいのか、とにかく気味の悪い気配とでも言うのかよくわからない。
なにも、悪いことが起きなければいいのだがな……
だけど、この国では内乱も戦争も縁が無さそうで、悪いことが起きるとしても大したことはないだろう。部屋に帰った頃には気配は消えてしまい、僕も忘れるように勤める。
――たぶん気のせいだろう。
部屋の中はまだ家電が散乱している始末。
自分の部屋一つ片付けることが出来ないなんて、僕はなんて情けないやつなのだろうか……
それにしても、昨日の僕はどうしてあんなにも気分が高揚していたのだろう? 家電は確かにすごいが、それはあくまで、魔法が使えないからであって魔法が使える世界にとって、そんなものは努力賞といったところだ。大した価値はない。
さっさと片付けて、勉強をしたほうがよさそうだ。
あらかた、家電を片付けて、ひらがなを同じくニヒルからもらったCDなるもので音を聞きながら勉強しようと思ったのだが、いかんせん使い方がわからない。
使い方が分からなければ勉強どころではないだろうし、堺にでも聞きに行こうと思った矢先、部屋のドアが開いた。
「よう、勉強は進んでるか?」
そんな陽気な声で話しかけて来るのは堺しかいない。もちろんその正体は堺だ。
「いや、このしぃでいぷれいやぁってやつがうまく使えなくて…………」
それを聞いて吹き出す堺。いったいなにがおかしいというのだろう。
「それで1時間もつかったん?」
堺が言った言葉でようやく気がついた。
まさか、1時間もこれとにらめっこしていたのか俺は?
「……へぇ、あのニヒルも大変だったんだね」
CDのことなどどうでも良くなり、堺と世間話をはじめてはや10分。ニヒルが僕と同じように勉強した時のことで盛り上がった。
「そら、さすがのあの天才でも日常で使える程度になるには何ヶ月もかかったみたいやで」
ニヒルを天才という堺だが、僕にはいまいち分からない。だけど天才で何ヶ月もかかるなら、天才じゃない僕は、日本語の読み書きに何年かかることやら。
「そうや、懐かしい話をお前にしに来たわけじゃないんや。大事な話があるんやった……」
堺が真剣な顔をするのはこれで二回目だろう。よっぽど大切な話なのだろうか……
「大事な話ってなんですか?」
「ええか、実はお前がどこの誰なんかもうわかってる」
「?」
この人はいったい『何』を言っているんだ?
彼は僕の疑問をすぐに解決してくれた。
「だから、お前がよみがえりの一族であることを知てるんや!」
その言葉に僕は衝撃が走った。
「どうして、そのことを知っているんだ!?」
―――この世界には魔法の痕跡がない。つまり、僕と同じ世界の住人はいないはずだ。
それなのに、堺は『よみがえりの一族』を知っている。そこには幾つかの矛盾点がある。
だけど、そんなことは僕にとってはどうでもいい。重要なことは別にある。
「まさか……いや、やっぱり君はっ! 君の名は!」
堺が口に指をあて、僕の言葉を止めた。
「今となっては、それもどうでもいいことや……お前に死なれたら困るから、これだけは言わせてくれ」
僕はとても緊張していた。なにか期待通りの言葉がきけるのではないかと淡い期待を抱いのだ。
「この世界では魔法を使ったらあかん!」
堺の言葉は僕にとって期待はずれだ。しかし、魔法を使うなとはいかがなものだろう。それに、そもそも僕は魔法が使えない。
「魔法を使うなって言われても、僕は魔法なんて使えないからどうしようもないけどね」
「はあ? 魔法が使えないやって? お前あの世界の住人と違うんか?」
「あの世界とか言われてもわからないよ……だけど、僕は確かに『よみがえりの一族』の末裔だ」
混乱しているのか堺は頭を抱えている。
「いや、でも、そうじゃないやろ? あー……」
ついに堺が壊れてしまったようだ。言葉すらまともに話せていない。
……このままでは、らちがあかないな。ちょっとこちらからアクションするか。
「どうした?」
「どうしたやない! 一族はみな高い魔力を保有しとるはずや!」
堺の声は鼓膜が張り裂けそうになるぐらい大きかった。
「お前! 僕の耳を潰すつもりか!?」
「ちょっと待ってくれ……頭が働かん……」
堺はうーんと唸り、頭をかきむしっている。いったいどうしたというのだろう。
「魔法が使われへんってのは信じたる。けど、お前のまわりに魔法の痕跡が大量にある。そのままじゃ大変なことになるから、それを消しさらんといかん」
「大変なこと?」
なにやら話が大きくなって来た。だけど、僕のまわりに魔法の痕跡があるというのはどういうことだ? 僕にはそんなものは感じられない。一度翻訳魔法を使おうとしたからだろうか。でも魔法はいつも通り発動しなかった。どういうことだ? どうやら、堺の癖が移ってしまったようだ……考えがまとまらない。
「いや、今日はまだ大丈夫やろうし、時間もないからまた夜話すわ……。ただ一つだけ忠告や、今日家に戻ってくるまで絶対にニヒルのそばから離れたらアカンで……」
忠告自体はありがたいものではあるのだが、なんだか釈然としない。
堺が突然そのようなことを話してきたことと、先ほどの不吉な予感。その二つが関係あるように思えて仕方がない。
だが、堺が話してくれないのでは僕から聞くことも出来ないし、ニヒルに聞いた所で返ってくる返事はおそらく堺と変わらないだろう。
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