よみがえりの一族

真白 悟

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1.6 潜む悪夢

7.英雄と魔女と悪魔

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――――あれから何十分かの時が流れたが、あいにく時計がないこの部屋で時間を確認できるものはギルドでもらったスマホなるものだけだが、なんとなくこの状況下でスマホを出すのは憚られる。
 どうしてそんな気持ちになったのかは分からないが、今スマートフォンをいじるのはなんだか空気が読めないような気がした。

「イグニスさん」

 突然の声になんとなく驚いたが、この部屋には僕以外にもニヒルがいるわけだから突然と言うのもおかしな話だ。僕は動揺を悟らせないように気のない返事をした。
「なんだ?」
 それを聞いて安心したのかどうかは分からないが、彼女はホッとしたようにため息をついた。
「いえ、もしかしたら私のことを軽蔑したのかと思いまして……」
 もし、本当にそう思われたのであれば、甚だしくも心外だ。僕は彼女に信用してもらえたはずなのだから。
「僕のことを信用していないんだね?」
 少しだけ八つ当たり気味に冗談目かしくそう訪ねて見ると、彼女の反応は少し楽しめた。彼女は慌てふためいたように、僕に対して言い訳を繰り返していた。その様子がどうしても面白くて、愛らしくて勢いのあまり笑みがこぼれてしまった。
「……どうして笑うんですか?」
 などと言ってふくれる彼女を見ていて僕は少しだけ気持ちが穏やかになった。やはり僕を救ってくれるのは他でもなく、友なのだと思い知らされた。

 だけど、やはり僕達の仲を引き裂くのはやはり悪魔だった。またあの喋りたがりの悪魔が僕に問いかけてくるのだ。
(まあ、お前らにしたら上出来だが……ベリアルと言うやつはどうせまた攻めてくるぞ? もちろん何か手立てを考えているのだろうな? それともそこの女と乳繰り合って死んでいくとでも言うのか? お前はベリアルと言うやつを下位悪魔だとか言っていたがあいつは俺よりも遥かに上位の悪魔だと思うぞ……ていっても、俺にとっては今は余生だ。いつ死のうがどうでもいいがな)
……ちょっと待て、堺はベリアルを下位悪魔だとはっきり言っていたぞ!?
(確かに下位悪魔だろうな……力を失っている今はだがな)
「なんだって!? 力を失っているとはどういうことだ?」
(おい! 声に出てるぞ?)
 しまった。僕は驚きのあまり、悪魔との思考会話をつい口に出してしまった。だけどもともと僕の中に潜む悪魔についても紹介するつもりでいたから何も問題はない。これは決して自分の過ちを正すために言っているわけではないと弁解させてもらいたい。
(お前は一体誰に対して言い訳をしてるんだ?)
……うるさい!

 とりあえず、悪魔との会話は中断して、ニヒルに出来るだけ正確に自分の中に潜む悪魔イグニスのことを話した。話している間は彼女も静かに聞いてくれたし、何故か悪魔もしずかにしていた。
 僕としては好都合なのだが、なんとも張り合いがないような気がしなくもない。もしかすると、悪魔のペースに乗せられているのかもしれないが、まあ良いだろう。これから一生を悪魔と暮らしていかなければならないわけだし、慣れているに越したことはないしな……。
 それよりも問題があるとするなら、説明が終わってなお黙っているニヒルだろう。怒っているわけではないだろうし、怒るようなことでもないとは思うのだが、念のために確認するべきか? いや確認しよう。
「ニヒル……?」
 恐る恐る問いかけた反応は、なんとも可愛らしい表情でキョトンとするだけだ。
よし! 怒らせたわけではないようだ。でもじゃあどうして黙っているのだろう? だがではどうしたんだ? おい! 悪魔何か知っているなら教えてくれ?
(騒がしいやつだな、つうかそんなこと俺に聞くなよ……俺が人間ごときの考えなど知るわけがないだろう?)
 確かにそうだ。どうして僕は悪魔にこんなことを聞いているのだろう?
 僕はゆっくりとニヒルを見直した。だがやはり言葉はない。僕は一体何が起こっているのか考えもつかなかった。
……もしかして幻術なのか? また幻術なのか?
「あの! イグニスさん……あっ、人間の方のイグニスさん」
 油断していた。まさかこのタイミングで話しかけられるとは思っても見なかった。返す言葉を考えていない!
 ニヒルはそんな風に考えすら追いついていない僕の何手も先を行っていた。まさにそれは僕のために発せられた言葉なのだろう。僕は純粋に気遣う勝負に知らぬ間に敗北の二文字を背負うこととなった。
「イグニスさんはきっとこの話を他の社員の方にもされるおつもりなんでしょう? ぜひ私にも協力させて下さい!」
 それは願ってもないことだが、僕の話を聞いて僕が怖くはないのだろうか。曲がりなりにも僕は心に悪魔を宿しているというのに……なんて考えが浮かぶのは、僕がニヒルを信用していないという証拠だろう。
 僕はニヒルを信用すると決めたのだから、これについては何も言わないことにしよう。
「本当に!? それはありがたいよ!」
 それを聞いて満面の笑みを浮かべる彼女はまるで女神さまのようだった。だが、すぐさまその表情には暗雲が立ち込める。
「もちろんです! ……ですが、その後のことは何かお考えですか?」
 その時、僕の頭に強い衝撃が走った。
……そうだ、よくよく考えれば何も考えていなかった! どうしよう!
「ごめん、何にも……」
 彼女は僕のその頼りない言葉に、やっぱりかという風に強くため息をついた。さっきまでの女神とは反対で、まるで悪魔のような目つきをしている。
「どうせそんなことだろうと思ってましたよ。でも目的がないままに行動するのはいささか非効率だと思いますし……。では、これだけははっきりさせておきましょう! イグニスさんは堺さんをどうしたいんですか?」
 これは彼女らしからぬ質問だ。そんなことははなっから決まっていることで、愚問である。
「そんなの助けたいに決まってるだろう?」
 それを聞いて彼女は安心したように表情を崩した。そして、僕に対して指を立てた。
「では答えは簡単じゃないですか! 堺さんを助けるということはベリアルを倒すということ、ベリアルを倒すというこは、こちらの世界から悪魔を消し去るということ、ひいては世界を救うということです!」
……あれ? ちょっとずれてないか? 堺を救うことはこの世界を救うこととは繋がらないし、今のは三段論法としては明らかにおかしい。
 だけど、こんな情けない英雄ではあるけど、非力な凡才ではあるけど、こんな小さな力ではあるけど、悪魔を宿す体ではあるけど、それでも再び世界を救えるというのなら、僕はどれだけ幸せなのだろうか? もし、そんな夢物語であったとしても、誰も信じることすらない話であったとしても、彼女がそう信じてくれるのなら僕はやってもいいと思えるように感じた。
「ああ、そうだな!」
(俺も暇だし手伝ってやるよ……悪魔を全部蹴散らしたら、実質俺が悪魔の王だし、どうせこんなくだらない余生暇だしな)

 そんなこんなで、小さな英雄と孤独な魔女と封印されし悪魔の3人で世界を救う物語が今始まろうとしていた。

「では、早く参りましょう!」
「どこに?」
「決まってるじゃないですか…………『会社』にですよ」

 かくして、魔女な社長と英雄だった社畜と悪魔な下僕の熾烈な業界戦争が始まるのだった。
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