よみがえりの一族

真白 悟

文字の大きさ
54 / 109
1.6 潜む悪夢

7.英雄と魔女と悪魔

しおりを挟む
――――あれから何十分かの時が流れたが、あいにく時計がないこの部屋で時間を確認できるものはギルドでもらったスマホなるものだけだが、なんとなくこの状況下でスマホを出すのは憚られる。
 どうしてそんな気持ちになったのかは分からないが、今スマートフォンをいじるのはなんだか空気が読めないような気がした。

「イグニスさん」

 突然の声になんとなく驚いたが、この部屋には僕以外にもニヒルがいるわけだから突然と言うのもおかしな話だ。僕は動揺を悟らせないように気のない返事をした。
「なんだ?」
 それを聞いて安心したのかどうかは分からないが、彼女はホッとしたようにため息をついた。
「いえ、もしかしたら私のことを軽蔑したのかと思いまして……」
 もし、本当にそう思われたのであれば、甚だしくも心外だ。僕は彼女に信用してもらえたはずなのだから。
「僕のことを信用していないんだね?」
 少しだけ八つ当たり気味に冗談目かしくそう訪ねて見ると、彼女の反応は少し楽しめた。彼女は慌てふためいたように、僕に対して言い訳を繰り返していた。その様子がどうしても面白くて、愛らしくて勢いのあまり笑みがこぼれてしまった。
「……どうして笑うんですか?」
 などと言ってふくれる彼女を見ていて僕は少しだけ気持ちが穏やかになった。やはり僕を救ってくれるのは他でもなく、友なのだと思い知らされた。

 だけど、やはり僕達の仲を引き裂くのはやはり悪魔だった。またあの喋りたがりの悪魔が僕に問いかけてくるのだ。
(まあ、お前らにしたら上出来だが……ベリアルと言うやつはどうせまた攻めてくるぞ? もちろん何か手立てを考えているのだろうな? それともそこの女と乳繰り合って死んでいくとでも言うのか? お前はベリアルと言うやつを下位悪魔だとか言っていたがあいつは俺よりも遥かに上位の悪魔だと思うぞ……ていっても、俺にとっては今は余生だ。いつ死のうがどうでもいいがな)
……ちょっと待て、堺はベリアルを下位悪魔だとはっきり言っていたぞ!?
(確かに下位悪魔だろうな……力を失っている今はだがな)
「なんだって!? 力を失っているとはどういうことだ?」
(おい! 声に出てるぞ?)
 しまった。僕は驚きのあまり、悪魔との思考会話をつい口に出してしまった。だけどもともと僕の中に潜む悪魔についても紹介するつもりでいたから何も問題はない。これは決して自分の過ちを正すために言っているわけではないと弁解させてもらいたい。
(お前は一体誰に対して言い訳をしてるんだ?)
……うるさい!

 とりあえず、悪魔との会話は中断して、ニヒルに出来るだけ正確に自分の中に潜む悪魔イグニスのことを話した。話している間は彼女も静かに聞いてくれたし、何故か悪魔もしずかにしていた。
 僕としては好都合なのだが、なんとも張り合いがないような気がしなくもない。もしかすると、悪魔のペースに乗せられているのかもしれないが、まあ良いだろう。これから一生を悪魔と暮らしていかなければならないわけだし、慣れているに越したことはないしな……。
 それよりも問題があるとするなら、説明が終わってなお黙っているニヒルだろう。怒っているわけではないだろうし、怒るようなことでもないとは思うのだが、念のために確認するべきか? いや確認しよう。
「ニヒル……?」
 恐る恐る問いかけた反応は、なんとも可愛らしい表情でキョトンとするだけだ。
よし! 怒らせたわけではないようだ。でもじゃあどうして黙っているのだろう? だがではどうしたんだ? おい! 悪魔何か知っているなら教えてくれ?
(騒がしいやつだな、つうかそんなこと俺に聞くなよ……俺が人間ごときの考えなど知るわけがないだろう?)
 確かにそうだ。どうして僕は悪魔にこんなことを聞いているのだろう?
 僕はゆっくりとニヒルを見直した。だがやはり言葉はない。僕は一体何が起こっているのか考えもつかなかった。
……もしかして幻術なのか? また幻術なのか?
「あの! イグニスさん……あっ、人間の方のイグニスさん」
 油断していた。まさかこのタイミングで話しかけられるとは思っても見なかった。返す言葉を考えていない!
 ニヒルはそんな風に考えすら追いついていない僕の何手も先を行っていた。まさにそれは僕のために発せられた言葉なのだろう。僕は純粋に気遣う勝負に知らぬ間に敗北の二文字を背負うこととなった。
「イグニスさんはきっとこの話を他の社員の方にもされるおつもりなんでしょう? ぜひ私にも協力させて下さい!」
 それは願ってもないことだが、僕の話を聞いて僕が怖くはないのだろうか。曲がりなりにも僕は心に悪魔を宿しているというのに……なんて考えが浮かぶのは、僕がニヒルを信用していないという証拠だろう。
 僕はニヒルを信用すると決めたのだから、これについては何も言わないことにしよう。
「本当に!? それはありがたいよ!」
 それを聞いて満面の笑みを浮かべる彼女はまるで女神さまのようだった。だが、すぐさまその表情には暗雲が立ち込める。
「もちろんです! ……ですが、その後のことは何かお考えですか?」
 その時、僕の頭に強い衝撃が走った。
……そうだ、よくよく考えれば何も考えていなかった! どうしよう!
「ごめん、何にも……」
 彼女は僕のその頼りない言葉に、やっぱりかという風に強くため息をついた。さっきまでの女神とは反対で、まるで悪魔のような目つきをしている。
「どうせそんなことだろうと思ってましたよ。でも目的がないままに行動するのはいささか非効率だと思いますし……。では、これだけははっきりさせておきましょう! イグニスさんは堺さんをどうしたいんですか?」
 これは彼女らしからぬ質問だ。そんなことははなっから決まっていることで、愚問である。
「そんなの助けたいに決まってるだろう?」
 それを聞いて彼女は安心したように表情を崩した。そして、僕に対して指を立てた。
「では答えは簡単じゃないですか! 堺さんを助けるということはベリアルを倒すということ、ベリアルを倒すというこは、こちらの世界から悪魔を消し去るということ、ひいては世界を救うということです!」
……あれ? ちょっとずれてないか? 堺を救うことはこの世界を救うこととは繋がらないし、今のは三段論法としては明らかにおかしい。
 だけど、こんな情けない英雄ではあるけど、非力な凡才ではあるけど、こんな小さな力ではあるけど、悪魔を宿す体ではあるけど、それでも再び世界を救えるというのなら、僕はどれだけ幸せなのだろうか? もし、そんな夢物語であったとしても、誰も信じることすらない話であったとしても、彼女がそう信じてくれるのなら僕はやってもいいと思えるように感じた。
「ああ、そうだな!」
(俺も暇だし手伝ってやるよ……悪魔を全部蹴散らしたら、実質俺が悪魔の王だし、どうせこんなくだらない余生暇だしな)

 そんなこんなで、小さな英雄と孤独な魔女と封印されし悪魔の3人で世界を救う物語が今始まろうとしていた。

「では、早く参りましょう!」
「どこに?」
「決まってるじゃないですか…………『会社』にですよ」

 かくして、魔女な社長と英雄だった社畜と悪魔な下僕の熾烈な業界戦争が始まるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...