よみがえりの一族

真白 悟

文字の大きさ
72 / 109
2.3 密室にて

3.矛盾

しおりを挟む
「だったら戻してくれ」

 僕はどうしても、自分の身に起きたこの1週間の出来事を知らずにはいられない。普通に考えたのであれば、自分自身が望んで消し去った記憶を取り戻すことは正気の沙汰とは思えないかもしれないが、全てを投げ捨ててしまった僕に取って、こちらで得たものは悪影響を与えるものであったとしても、取り返したい。――それがこの短期間で僕が得た結論だ。

「悪いがそれは無理だ」

 無情にも悪魔はそう言い放つ。
 そんな冷徹な言葉を前に僕は呆然とする他に何らかの表現方法を見つけられず、ただただ、気の抜けた腕をぶら下げて方を落とした。

「……え? いや、出来るって言ったじゃないか!」
「俺が言いたかったのは、理論上出来るということだ。俺は最初から言っているがどちらか片方のお前に傾くことはない」
 なるほど……確かにそうだ。出来るとは言ったがやるとは言ってないというわけだ。だがそうなると、この状況は詰みというわけになるが……

「……さすがに、そう言われて、はい、そうですかと諦められない。だからといって、無理やりやらせるっていっても実体の無いお前に対して何か脅しが聞くとも思えない」
「まあそうだろうな。だが、それ以外に方法は無いわけだろう? なら諦めるしか無いと思うけどな」
 僕はニヤリと笑って悪魔の言葉を否定する。
「それは違う。お前は何か忘れていないか? 心が読めるのはお前だけじゃない」
 悪魔は馬鹿笑いする。
「はっはっは、お前が俺の心を!? 無理に決まってるだろう、お前はどこまで間抜けなんだ? 優柔不断なだけでなく、間抜け、馬鹿正直で純粋だ。だからこそ流されるし、騙される。普通の人間はな悪魔の言うことは疑うんだよ……悪魔である俺の言葉を全部信じるなんて気が狂っているとしか思えない。つまり、俺がお前の心を読むなんてこと出来るわけないだろう?」
「……は? 出来ない? いやちょっと待て、お前は実際僕の心を読んでただろう?」

「お前の心なんて読む必要あるか? 読まなくても単純すぎて分かるだろう?」

 悪魔が言ったその言葉は僕にとっては他言語なのかと錯覚するほどに意味がわからなかった。
 もちろん言葉はわかっている。だが読まなくてもわかるとはどういうことだ? 僕が単細胞とでも言いたいのだらろうか? いやそんなはずない。

「僕は単細胞じゃない」
 意固地になって僕はそうつぶやいた。これには悪魔も呆れてしまったのだろうか、ため息を吐いた。
「誰もそんな話してないだろうが……俺の言う単純とはそんな話じゃない。お前の裏表の少ない性格の話をしているんだ……」
 なんだか、不思議とその言葉には不満がなかった。むしろ悪魔に言われた言葉の中で最上級の褒め言葉だろう。――だからこそ僕はその言葉を信用することは出来ない。
 むしろ、悪魔の言うとおりで、悪魔の言葉を鵜呑みにしてきたのは明らかに気が狂っていた。むしろ、以前の僕ではありえなかったことだろう。
 それが起こった原因としては、この悪魔が全てを失った僕にとっての唯一の持ち物だからかもしれない。僕が以前の世界から知っていて、唯一僕の手元にあるものだからだろう。その代役は他にはいない。
……と言ってもこいつが堺の代役みたいなもんだけどな。

「また失礼なことを考えているのだろう? 言っておくが俺はお前の道具ではないし、友人でもない。強いてこの関係に名前をつけなければならないとするのであれば、敵という言葉が一番似合うだろう。敵の敵は味方と言うやつだ……何が俺とおまえの共通の敵か、までは言えんがな」

 また悪魔はおかしなことを言う……

「敵はサルガタナスだろ?」
 そんな言葉を口にして、ようやく間違いに気がついた。
 そうだ。僕はサルガタナスなんて見ていない。その存在はこの悪魔の口からもたらされた情報だけで、もしこいつが嘘をついていたとするなら、その情報こそが嘘かもしれない。
「いいや、サルガタナスは確かに敵だ。だが今はそんな小さいものの話しをしているのではなく、お前の知らない更に大きな物の話をしているんだが……まあ、少しは成長したということだろう…………」
 今度は僕の間違いに呆れ返るのではなく、静かな笑みをこぼして続けた。

「さて、そろそろ退屈になってきた。続きは外に出て話すとしようか?」

 矛盾、それは人の焦りから突如として生み出された結果とでも言うべきなのだろう。もちろん最初だって稼ぎを焦った商人が最強の矛と最強の盾を売り始めたのが始まりだ。だが、今回はそんな故事成語の物語の中よりも遥かに矛盾した言葉を聞いた。――それはもう驚きのあまり起ち上がりそこねて転んでしまう程に……

「出さないんじゃないのかよ!?」

 ある角度から見れば、僕は突如として狭い部屋で一人で叫び始めた狂人だろう。だがそれは、僕から悪魔への言葉のキャッチボール。つっこみと言うやつだ。

「だから、俺は出せないといっただろう? さっきまでの状況ではお前をこの部屋から出すことは出来なかった。いや出したくなかった。だが状況は常に変わる。今はお前を出せるし出してもいい……と言ってもお前が出たくないというのであれば話は別だが……」
 僕は出来るかぎり大きな声で即座に返事する。
「――出ます! 出させてください!」
「だったら最初から意見などするな」
 なんとも理不尽だ……

 こうして、僕たちは密室という殺人が起きてもおかしくないような状況から、ただただ二人で思い出話をするという意味不明なことだけして、特になんの進展もないまま脱出できてしまった。
 まあ、自分で閉じこもって自分で出られなかっただけなんだけどね。

 案外簡単に扉は開いた。もちろん簡単に開くことにこしたことはない。もしここから、なんとかの試練だから印を取ってこいとか、ここを開けるのには〇〇の鍵が必要じゃ……なんて悪魔が言い始めたら僕は怒り狂ってたかもしれないが、そんなことにはならなくてよかった。
「お前が怒り狂おうが俺にはなんの影響もないがな」
 こいつ、やっぱり俺の心を読んでいるんじゃないか……?
 まあいい、とにかく外に出られたわけだし……外に?
「おい、悪魔これはどういうことだ? まさか、何時間もかけてなんの進展もないままここまで来て、そしてこれか?」
 僕の目の前には同しようもないほど壁で覆われていた。もちろん天井もあるし、ドアも付いている。つまりは、また外に出るために悪魔の許可が必要ということなのだろうか? ――いや流石に違うよね?

「まあまた許可が必要というわけ……」
「ぶっころ……」
「ではない。 で? なんか言ったか?」
「……」

 早とちりも人間にだけ赦された特権だ……
「それだけ俺に対して疑いを抱いてくれているのなら問題ないだろう。そうでなければサルガタナスの相手は出来ない……」
「あ?」
 悪魔がなにかつぶやいた気がしたが、よく聞き取れなかった。
 何を言ったかが気にはなったが、僕はとにかく早くニヒルの元へ帰りたいような気もしていたから、ドアノブに手をかけドアを開いた。
 その時の僕は、悪魔が何を言ったのだろうとか、どうして悪魔は僕を部屋からだす気になったのかだけを考えていた。
 僕はあまりにも余裕がなく、眼前に広がるその歪な景色に気が付かなかった。いや気がついてはいたが、気持ちが追いつかなかったというべきだろう。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...