ファンタズマ

真白 悟

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「ねえ、聞いてるの?」

 アカリが心配そうな目でこちらを見つめている。
 しまった……思わず考え込んでしまった。

「う、うん。聞いてる」
「やっぱり、どこか上の空って感じね……」
「ごめん」

 未だに思考がまとまらない。
 本当に僕はさっきの講義中に姿を消していたのだろうか?

「僕、本当に教室にいない時間があったの?」
「ええ。気が付いたら戻ってたけど、少なくとも5分はいなかったわ」

 何やら珍妙なものを見るような目を僕に向けた彼女は、特に悩む様子もなくそう言い切る。
 しかし、5分も姿を消していた。つまり能力を発動していたとなると、かなりすごい能力だ。その5分が最高持続時間だとしても、ヒーローが持つ能力としてはかなり役に立つことだろう。能力がヒーローという印象からかなりかけ離れたものだとしてもだ。
 ともかく、やはり石の能力に関してはもっと詳しく調べてみる必要がある。

「ごめん、アカリの言うとおり少し疲れているみたいだ……今日は帰って休ませてもらうことにするよ」

 アカリに心配をかけたくはないが、僕自身の問題に巻き込むことはもっとしたくない。人をいともたやすく殺めることが出来る存在を彼女に近づけさせたくない。

「わかった。最近、かぜが流行っているみたいだから、しっかりと栄養を取って、十分に睡眠すいみんをとるのよ」
 彼女の心配癖しんぱいぐせは昔からだ。
「大丈夫、ありがとう」

 そう返答した僕の目を覗き込んで、彼女は一言だけ「約束だからね」とつぶやいた。
 その後、エフェルのことについても多少話したが、昨日のことについては全く話すことが出来なかった。

 アカリに別れを告げて、僕は構内からゆっくりと立ち去る。
 おかしな気分だ。講義のある日は、エフェルとアカリと僕の3人で食事をとっていた。しかし、それは2度と取り戻すことは出来ない日常だ。そう考えると、再び気分が落ち込む。そのことをアカリに告げることが出来ないという事も相まって、僕の心はけれらた。

 何気ない日常というやつは、いつも気が付けば取り戻すことが出来ない時空の彼方へと消え去っている。
 宇宙に終わりがあるように、僕たちにだっていつか終わりは来る。だけど……それはいつも突然で、心の準備なんてしているひまはない。死というやつは目の前に迫っていても、その時が来るまでは理解することさえ出来ないものだ。

「エフェル……いや、別の世界の僕は……自分の世界に帰ることが出来たのかな……」

 彼の故郷こきょうについてはよく知らない。
 だけどそれでも、願わくば、彼が自分の生まれ育った故郷こきょうに最後は帰ることが出来たと信じたい。
 
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