転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

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1 冒険者になる

4 魔力

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「魔力というのは、先ほども説明させていただいた通り、生物の中に存在する潜在的な力です。何もしなくても、身体能力を向上させるという補助が付きます」
 お姉さんは魔力の説明を一から始める。
 おそらく、マニュアルなのだろうが、一度説明したことは省いてくれても構わないのだが……役所の受付嬢にそこまで求めるのも酷だな。

「はい」
 僕は適当に相槌を打ちながら、説明を聞く。

「ですが、それでは向上率が低く、魔力を体の外へと放出することで、更なる能力向上が期待されます。人によっては2倍とも、3倍とも言われていますが、その実、使い方次第では種族の限界を超えるとすら言われているんですよ!」
「種族の限界を超えるですか……」
「はい! 犬種の方でも一般の熊族並みの力は発揮できるようになるでしょう!!」
 なんだか、お姉さんはテンション高めだ。
 これもマニュアルなのか? いや、そんなわけがない。魔力が好きな人なのだろう。
 なんてことを考えている間も、説明は続く。

「ですので、しっかりと魔力の使用法を覚えていきましょう。まず、魔力のもととなる力についてなんですが……これが、今の魔力学権威であるプレスティージオによって、生命力にあるのではないかといわれて――」
「――申し訳ないんですが、使用法を教えていただいてもいいですか?」
 このまま彼女の魔力話をすべて聞くことになったら、日が暮れてしまいそうだ。
 メリーもはしゃぎ疲れて寝ているし、できれば早めにイチゴのもとへ帰りたい。

「ここからが面白いところなんですが……わかりました。基本的なことだけ説明させていただきます」
 お姉さんは肩を落として、再び説明を始める。
「魔力を引き出す時には、まず、集中力を高めます。そして、心の奥に筒状の入れものを描き、その中に水が溜まっていくようにイメージます」
 お姉さんに言われた通り、僕は心の中に水入りの入れ物を浮かべた。
 水の色は、赤から青、青から黄色と様々に変化し、最後には虹色へ変わった。

「すごい魔力量です」
 自分ではわからないが、彼女曰く、すごいらしい。
 すごい力なんて必要ないんだけどな……ある一定以上の力があれば十分だし。大きな力なんて持ったら、どうせ碌なことにならない。世界の意思……いや、世界を支配するものの意思に利用されるだけ、いつの時代も力を持つものは、優れた頭脳を持つものの道具になる。僕はそんな生活はごめんだ。ゆるゆるに生きていきたい。

「はあ、そうなんですか」
 僕は一気に集中力を失った。
 あふれていた魔力は供給を失い、空中に離散する。チリが舞うように、白い粉のようなものが、次々に色を変えて、消えていく風景は幻想的だ。
「コツはつかめましたか?」
「ええ……ですが、戦いの最中にこんなことできませんよ」
 戦いながら瞑想で集中力を高めるなんて、どう考えたって自殺行為だ。なにより、集中している間だけ魔力が高まるだけなら意味がないしな。

「そうでもないですよ。修行に修行を重ねた冒険者は、戦いの最中、集中できると言います。その領域に達すれば、おそらく最上の冒険者になれるはずです」
 笑みをこぼしながら、お姉さんはそんなことを言うが、それはもはや、才能だ。
 最上の冒険者になるためには、最高の魔力と、最高の集中力、それに経験値が必要だということに他ならない。
 僕は普通の人間だ。
 集中力だって並だし、経験に至っては0だ。
 言うなれば、未経験に『経験すれば、経験者になれるよ!』と言ってるのと同じ。――当たり前だ。
 
 経験を積めるほどの実力がなければ、どこまで行っても経験は積ませてもらえない。それが、冒険者の実態というやつらしい。
 本当に世知辛い世の中だ。

「なるほど、そうなんですね……頑張ります」
 まるで上司に無理難題を押し付けられて、それを断ることも出来ない部下の気持ちだ。
 しかも、それが出来なければ死ぬ。そんな絶望的な状況に僕の表情は硬くなるばかりだ。

「大丈夫です。私が保証します! これだけ膨大な魔力をお持ちなケン様なら、問題なく冒険者として、かなりの地位につくことが出来るはずです」
 僕が落ち込んで居ることに気がついてか、お姉さんは必死に励ましてくれる。
 だが、冒険者でもない彼女からの励ましなど、いわば気休めでしかない。生死をかける戦いに気休めなど意味はない。

「ありがとうございます。どちらにせよ、冒険者として生きて行く以外に、生きる道もありません……死なない程度に頑張りますよ」
 僕は適当に言葉を返す。
 神め、こんなクソみたいな世界に転生させてくれどうもありがとう。差別は酷いわ、能力は最高なのかもよくわからない上に、職業は死と隣り合わせのものしか選べない。何より犬がいない。僕も犬ではない。
 本当に最高の世界さ。
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