転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

文字の大きさ
5 / 170
1 冒険者になる

4 魔力

しおりを挟む
「魔力というのは、先ほども説明させていただいた通り、生物の中に存在する潜在的な力です。何もしなくても、身体能力を向上させるという補助が付きます」
 お姉さんは魔力の説明を一から始める。
 おそらく、マニュアルなのだろうが、一度説明したことは省いてくれても構わないのだが……役所の受付嬢にそこまで求めるのも酷だな。

「はい」
 僕は適当に相槌を打ちながら、説明を聞く。

「ですが、それでは向上率が低く、魔力を体の外へと放出することで、更なる能力向上が期待されます。人によっては2倍とも、3倍とも言われていますが、その実、使い方次第では種族の限界を超えるとすら言われているんですよ!」
「種族の限界を超えるですか……」
「はい! 犬種の方でも一般の熊族並みの力は発揮できるようになるでしょう!!」
 なんだか、お姉さんはテンション高めだ。
 これもマニュアルなのか? いや、そんなわけがない。魔力が好きな人なのだろう。
 なんてことを考えている間も、説明は続く。

「ですので、しっかりと魔力の使用法を覚えていきましょう。まず、魔力のもととなる力についてなんですが……これが、今の魔力学権威であるプレスティージオによって、生命力にあるのではないかといわれて――」
「――申し訳ないんですが、使用法を教えていただいてもいいですか?」
 このまま彼女の魔力話をすべて聞くことになったら、日が暮れてしまいそうだ。
 メリーもはしゃぎ疲れて寝ているし、できれば早めにイチゴのもとへ帰りたい。

「ここからが面白いところなんですが……わかりました。基本的なことだけ説明させていただきます」
 お姉さんは肩を落として、再び説明を始める。
「魔力を引き出す時には、まず、集中力を高めます。そして、心の奥に筒状の入れものを描き、その中に水が溜まっていくようにイメージます」
 お姉さんに言われた通り、僕は心の中に水入りの入れ物を浮かべた。
 水の色は、赤から青、青から黄色と様々に変化し、最後には虹色へ変わった。

「すごい魔力量です」
 自分ではわからないが、彼女曰く、すごいらしい。
 すごい力なんて必要ないんだけどな……ある一定以上の力があれば十分だし。大きな力なんて持ったら、どうせ碌なことにならない。世界の意思……いや、世界を支配するものの意思に利用されるだけ、いつの時代も力を持つものは、優れた頭脳を持つものの道具になる。僕はそんな生活はごめんだ。ゆるゆるに生きていきたい。

「はあ、そうなんですか」
 僕は一気に集中力を失った。
 あふれていた魔力は供給を失い、空中に離散する。チリが舞うように、白い粉のようなものが、次々に色を変えて、消えていく風景は幻想的だ。
「コツはつかめましたか?」
「ええ……ですが、戦いの最中にこんなことできませんよ」
 戦いながら瞑想で集中力を高めるなんて、どう考えたって自殺行為だ。なにより、集中している間だけ魔力が高まるだけなら意味がないしな。

「そうでもないですよ。修行に修行を重ねた冒険者は、戦いの最中、集中できると言います。その領域に達すれば、おそらく最上の冒険者になれるはずです」
 笑みをこぼしながら、お姉さんはそんなことを言うが、それはもはや、才能だ。
 最上の冒険者になるためには、最高の魔力と、最高の集中力、それに経験値が必要だということに他ならない。
 僕は普通の人間だ。
 集中力だって並だし、経験に至っては0だ。
 言うなれば、未経験に『経験すれば、経験者になれるよ!』と言ってるのと同じ。――当たり前だ。
 
 経験を積めるほどの実力がなければ、どこまで行っても経験は積ませてもらえない。それが、冒険者の実態というやつらしい。
 本当に世知辛い世の中だ。

「なるほど、そうなんですね……頑張ります」
 まるで上司に無理難題を押し付けられて、それを断ることも出来ない部下の気持ちだ。
 しかも、それが出来なければ死ぬ。そんな絶望的な状況に僕の表情は硬くなるばかりだ。

「大丈夫です。私が保証します! これだけ膨大な魔力をお持ちなケン様なら、問題なく冒険者として、かなりの地位につくことが出来るはずです」
 僕が落ち込んで居ることに気がついてか、お姉さんは必死に励ましてくれる。
 だが、冒険者でもない彼女からの励ましなど、いわば気休めでしかない。生死をかける戦いに気休めなど意味はない。

「ありがとうございます。どちらにせよ、冒険者として生きて行く以外に、生きる道もありません……死なない程度に頑張りますよ」
 僕は適当に言葉を返す。
 神め、こんなクソみたいな世界に転生させてくれどうもありがとう。差別は酷いわ、能力は最高なのかもよくわからない上に、職業は死と隣り合わせのものしか選べない。何より犬がいない。僕も犬ではない。
 本当に最高の世界さ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...