転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

文字の大きさ
26 / 170
4 勇者が生まれる

25 懐かしい場所

しおりを挟む
 役所を最後に訪れたのは出店の申請をした時だろう。それ以降の手続きは全て業者に委託して、出来る限り来ないようにしていたのだが、メリーを人質にとられてしまっては致し方ない。
 しかし、人質を取るとはあの天使、ますます悪魔のようだ。
 両腕でしっかりと抱えていたメリーを右腕でしっかりと抱え込み、ため息交じりに扉を開いた。私が通っていた頃と比べても遜色ないぐらいに内装はボロボロだ。一つだけ決定的に変わっていることと言えば、床にぽっかりと空いた穴だ。
 ここの所長はドケチで有名だが、壊れたところの修理だけは以上に早い。つまり、その穴が開いたのはつい最近のことということだ。これでようやくボロい床ともおさらば出来るだろう。
……私には全く関係ないがな。
 
「――イザベラ様!?」
 役所に入るなり、1人の女性が駆け寄ってくる。
 その女性は、床の抜けた部分をよけて、私にとびかかる。
「こら! 私に抱き着くんじゃない……グレー!」
「イザベラ様、私のことはベティと呼んでくださいと何度も言ってるじゃありませんか!」
 このやりとは、何度も繰り返したやり取りではあるのだが、冒険者を引退した後でもあまり慣れてはいない。同性とはいえ、むやみやたらに抱き着いて来る獣人を好きになれないしな。

「それで今回はどのような……なるほどわかりました。そういうことですね……」
 ベティは私の腕で眠っているメリーを見て、何かを納得したらしく何度も強くうなずいた。
「おい、何1人で納得してる?」
 彼女は思い込んだら他人の言葉など意にも解さず勝手に話を進めてしまう性分だ。きっと今回もその性分に踊らされることになるだろう。
「大丈夫ですよ。問題ありません。ささ、こちらの部屋へどうぞ」
 そう言って彼女が私を案内した部屋は一際きれいな部屋だ。応接室と、ネームプレートには書かれているが、その昔超一流冒険者のみしか入ることしかできなかったことから、ベリーポータントパーソンルームと呼ばれていた。それなのに、今では部外者である私ですら入れるらしい。
「VIPルームじゃないか……いや、まあ丁度いいか」
 公の場で、誰かの個人情報を聞くというのは憚られるし、個室をとってくれるならこちらとしてもありがたいことだ。断る理由もない。
「とにかく、おかけください」
 私は勧められるまま、部屋の中にあるレザー調のソファーにメリーを寝かせてその横に座る。
 以前この部屋に招かれた時はもっと上等の椅子が置いてあって、机ももっと良い物だったはずだが何ランクか格下げされたらしい。部屋の隅に置かれていた超重要書物なども片づけられたらしく、かなりすっきりした印象だ。もちろん良い意味ではなく、物さみしく味気のない部屋になったという意味だ。
 まあそれは仕方ないことだろう。以前は冒険者派遣業を受け持つ業者はおらず、全ての依頼と冒険者が役所に集まったものだ。
 それが今では、儲かるからとあちこちで一般企業が冒険者業を始め出したら、税金で賄われていた役所が勝てるはずもない。今では安くてきつい仕事集まっていると、世間でもっぱら噂されているぐらいだ。ここに登録されている冒険者もかなり減ったことだろう。
 今では3k(キツイ、汚い、危険)な職業と言われている冒険者だ。誰も安月給ではやりたがらない。ゆえに、この役所は衰退の一途をたどった。

 つまり今まさに、ここの役人たちは存亡をかけて冒険者を集めたいときだってことだ。それは目の前に座る彼女、ベティ・グレイも同じはずだ。彼女の輝かしい表情を見るに、私が希望の星にでも見えているのだろう。と言っても、彼女の目が開いていないから実のところ本当に輝かしい表情をしているのか読みにくい。
 だが実際、少し上がった口角、わずかにあふれ出した魔力、それに長年の付き合いから来る勘というものが、私にそうだと教えている。

「それで今回は、冒険者に復帰――」
「――冒険者に戻るためにここに来たのではなく、頼みがあってここに来た」
 
 ベティがすべてを口に出してしまうよりも早く、私は断りを入れる。余計なことをして彼女の機嫌を損ねるわけにもいかない。彼女の言葉に対して否定的に答えれば、次は『なぜ?』『どうして?』と疑問が続くはずだ。それに対して否定ばかりしていれば、もしかしたら、彼女だって怒るかもしれない。
 長い付き合いだ。それぐらいのことでベティが怒るはずがないとはわかっているが、余計なことをして自称天使との約束を果たせなかったら後が面倒だ。

「わかってます。昔みたいにわがままは言いませんよ」

 予想していたよりもはるかにベティは聞き分けがよかった。まるで最初から、それが目的でこの部屋に呼んだわけではないと言わんばかりにすぐさま納得した。そしてすぐさま、1人で弁解をし始める。 
「イザベラ様が冒険者に復帰して下さればどれほどうれしかったでしょう……ですがそれはかなわない話。があったんですからね」
 まるで、『いまさらあんたに戻って来られても、私たちには何のメリットもありませんよ』という言葉をひた隠しにしているような誤魔化し方だ。
 別にどう思われようが私は気にもしないというのに……やっぱり彼女は優しい性格のままだ。だがそれがかえって人を傷つけるということを知らない。
 だけど彼女の優しさにはいつも救われたことだし、今回は私も優しさで答えてやるとしよう。
 
「昔の話だ……そのことについてはそれほど気にしていない。ただ、今の仕事を気に入ってるんでな」
 もちろん、これは本当の言葉だ。
 いまさら安月給で下働きなどしたくもないし、する必要性もない。生活費ぐらいは喫茶店で稼げているからな。なにより一番大きな理由を上げるなら、もう私の時代は終わった。次はケンたちの時代だ。私のような老兵がいつまでも戦場をうろちょろしていては、目障りでしかないだろう。『老兵は死なずただ去りゆくのみ』なんて言葉をだれかが言っていたような気がするが、それが誰なのかは全く思い出せない。ただその言葉は、今の私にもっともふさわしい言葉だろう。
 この役所に近づきたくないという気持ちだって、懐かしくなって、戦場に戻りたくなる可能性があったからだ。
 だけど、どうやら私は、それほど冒険者という職業に誇りは持っていなかったらしい、ここを訪れてそのことがよくわかった。

「イザベラ様……なんだかすっきりとした顔をしてらっしゃいますね?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...