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6 勝者と敗者
38 これから
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元勇者イチゴによる指導のもと、新たなる勇者メリーの修業は始まりを告げた。
といっても僕が何かをするわけでもないので、今回に関しては僕は傍観者というわけだが、なんだか僕の手は汗ばんでいる。
「ケン、どうしたんだ? そんなに汗かいて」
僕の様子を見て、イチゴが心配そうにしている。
「いえ……何でもありません」
ただただ気がはやったというだけなのだが、まさか心配されるとは思ってもみなかった。
今はまだ朝の7時ぐらいで、朝ご飯すらまだ食べてはいない。むしろ、朝ご飯が出来たことを知らせるために僕のもとを訪れた妹と熱く語り合っていたところをイザベラに目撃されて、それを誤魔化すために話題をそらしたのだが、たまたまイチゴにメリーの修業をお願いすることになって、それが承諾されたというだけの話だ。
時間はほとんど進んでいない。
「それならいいんだが……本当に大丈夫なのか? 心なしか顔色も悪いような気もするが」
親心というやつなのだろうか、イチゴは僕のことをずいぶんと気にかけてくれているらしい。
「なんだでもありませんって。元勇者が妹を鍛えてくれるって言うものだから、少し興奮しただけですよ」
僕は初めて他人の思いやりというやつに触れて、少しだけ胸がつっかえるような気分に陥った。
学校の友人、仕事仲間、そして家族……前世の僕だったらくだらないと、投げ捨ててきたものだろう。だが、今の僕にとってはなんだかこそばゆい存在だ。
「ん? まあいいか。それより朝飯だ。さっさと食べないと、冷えておいしくなくなるからな」
「いえいえ、イチゴさんの料理は冷めてもおいしいですよ!」
むしろ、彼女の料理ほどおいしいものは食べたことはない。それこそ高級レストランで出しても問題ないレベルだ。
「そう言っていもらえるのはうれしいが、料理人というのは、料理を一番おいしいタイミングで食べてもらえることこそ思考なのだよ」
イチゴはそういうとにっこりと笑った。
昨日のあの出来事から、彼女はずっと悩んでいたようだから少しだけ安心だ。
「兄ちゃん。早く行こう!」
「ああ」
妹に促されるまま、僕は部屋を出て食事に向かった。
「――それで、どうするつもりなんだ?」
食事を終えると、すぐにイチゴが尋ねてくる。
「まずは僕も実力を上げないと……ですね」
「ああ、いくらロットワイラーが秘匿すると言っても、所詮はロットワイラーだ。いつメリーのことが世間に知られるかわからない。教会に対抗できるだけの戦力を持っておかないと、安心は出来ない」
よっぽどロットワイラーを信頼していないらしく、苦虫をかみつぶしたような顔をイチゴはしている。
僕はリグミダス・ロットワイラーがしてきたことを見たわけじゃない。すべてはイチゴから聞いた話で、僕は証人ではない。だからこそ、彼のことをどうにも悪い人物だとは思えないわけだ。
「まあそれもそうなんですが、それよりも心配なことがありまして……」
「……金か?」
「はい、生きるためにはお金が必要で、僕がそれを得るためには実力が足りませんからね」
「確かに、一番重要なことだな。死活問題ともいえる」
「イチゴさんには店を閉めてまで、メリーに修行をつけてもらうわけです。出来ればその代金も――」
「――それ以上は言うな。ガキが大人に気をつかうんじゃない。私にだって数年は持つであろうたくわえはある。何年も店を閉めるわけでもないし、メリーやお前の二人ぐらいはどうにかできる」
イチゴは怒りを露わにする。
自分のことを信じてくれなかったことに対する怒りだろう。だがそんなこと言われても、僕の中身は大人だ。普通にイチゴよりも年上だ。そんな僕がイチゴに養ってもらうというのは、かなりおかしいことだと思う。
といっても、この世界において年上なのはイチゴであるわけで、子供に対して思うことは僕と同じ。彼女の気持ちは痛いほどわかるというわけだ。
「そうですね……わかってます。ですが僕も男です。その意味もわかっていただけますよね?」
「ああ、だが私が言いたいのはあまり気負うなってことだ」
別に気負ってはいないけど、まあイチゴの言うとおりだ。危険な仕事にはプライドは必要ない。必要なのは死なないということだけだ。
「ええ、ですので僕は死なないように、自分の役割を果たしますよ」
僕はメリーを護る……ただそれだけだ。
といっても僕が何かをするわけでもないので、今回に関しては僕は傍観者というわけだが、なんだか僕の手は汗ばんでいる。
「ケン、どうしたんだ? そんなに汗かいて」
僕の様子を見て、イチゴが心配そうにしている。
「いえ……何でもありません」
ただただ気がはやったというだけなのだが、まさか心配されるとは思ってもみなかった。
今はまだ朝の7時ぐらいで、朝ご飯すらまだ食べてはいない。むしろ、朝ご飯が出来たことを知らせるために僕のもとを訪れた妹と熱く語り合っていたところをイザベラに目撃されて、それを誤魔化すために話題をそらしたのだが、たまたまイチゴにメリーの修業をお願いすることになって、それが承諾されたというだけの話だ。
時間はほとんど進んでいない。
「それならいいんだが……本当に大丈夫なのか? 心なしか顔色も悪いような気もするが」
親心というやつなのだろうか、イチゴは僕のことをずいぶんと気にかけてくれているらしい。
「なんだでもありませんって。元勇者が妹を鍛えてくれるって言うものだから、少し興奮しただけですよ」
僕は初めて他人の思いやりというやつに触れて、少しだけ胸がつっかえるような気分に陥った。
学校の友人、仕事仲間、そして家族……前世の僕だったらくだらないと、投げ捨ててきたものだろう。だが、今の僕にとってはなんだかこそばゆい存在だ。
「ん? まあいいか。それより朝飯だ。さっさと食べないと、冷えておいしくなくなるからな」
「いえいえ、イチゴさんの料理は冷めてもおいしいですよ!」
むしろ、彼女の料理ほどおいしいものは食べたことはない。それこそ高級レストランで出しても問題ないレベルだ。
「そう言っていもらえるのはうれしいが、料理人というのは、料理を一番おいしいタイミングで食べてもらえることこそ思考なのだよ」
イチゴはそういうとにっこりと笑った。
昨日のあの出来事から、彼女はずっと悩んでいたようだから少しだけ安心だ。
「兄ちゃん。早く行こう!」
「ああ」
妹に促されるまま、僕は部屋を出て食事に向かった。
「――それで、どうするつもりなんだ?」
食事を終えると、すぐにイチゴが尋ねてくる。
「まずは僕も実力を上げないと……ですね」
「ああ、いくらロットワイラーが秘匿すると言っても、所詮はロットワイラーだ。いつメリーのことが世間に知られるかわからない。教会に対抗できるだけの戦力を持っておかないと、安心は出来ない」
よっぽどロットワイラーを信頼していないらしく、苦虫をかみつぶしたような顔をイチゴはしている。
僕はリグミダス・ロットワイラーがしてきたことを見たわけじゃない。すべてはイチゴから聞いた話で、僕は証人ではない。だからこそ、彼のことをどうにも悪い人物だとは思えないわけだ。
「まあそれもそうなんですが、それよりも心配なことがありまして……」
「……金か?」
「はい、生きるためにはお金が必要で、僕がそれを得るためには実力が足りませんからね」
「確かに、一番重要なことだな。死活問題ともいえる」
「イチゴさんには店を閉めてまで、メリーに修行をつけてもらうわけです。出来ればその代金も――」
「――それ以上は言うな。ガキが大人に気をつかうんじゃない。私にだって数年は持つであろうたくわえはある。何年も店を閉めるわけでもないし、メリーやお前の二人ぐらいはどうにかできる」
イチゴは怒りを露わにする。
自分のことを信じてくれなかったことに対する怒りだろう。だがそんなこと言われても、僕の中身は大人だ。普通にイチゴよりも年上だ。そんな僕がイチゴに養ってもらうというのは、かなりおかしいことだと思う。
といっても、この世界において年上なのはイチゴであるわけで、子供に対して思うことは僕と同じ。彼女の気持ちは痛いほどわかるというわけだ。
「そうですね……わかってます。ですが僕も男です。その意味もわかっていただけますよね?」
「ああ、だが私が言いたいのはあまり気負うなってことだ」
別に気負ってはいないけど、まあイチゴの言うとおりだ。危険な仕事にはプライドは必要ない。必要なのは死なないということだけだ。
「ええ、ですので僕は死なないように、自分の役割を果たしますよ」
僕はメリーを護る……ただそれだけだ。
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