転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

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6 勝者と敗者

37 ゴズワード家

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「呼びに行ったメリーも戻ってこないから何事かと思えば……なるほど、兄妹で仲良くしていたか。どうやら邪魔してしまったようだな」
 いつの間にか、部屋の中に入ってきていたイチゴが大きなため息を吐く。
 間借りしている分際で偉そうなことは言えないのだけれど、出来ることならノックぐらいはしてほしかった。そうしてもらえたなら、もう少しだけ自重出来ただろうに。

 ともかく、今の空気を何とかするためには話題を変えるほかないだろう。
 僕は出来る限り声色を高く、本音を少しだけこぼした。
「イチゴさん……僕は、メリーには危険なことはさせたくありません」
 それはイチゴだって思っていることだろう。それだけに問題としては重要な部類に入る。つまるところ、僕達がこうやって兄妹らしく話し合っていたことに対する解答にもなるということだ。もっというなら、それ以上追及してくれるな、という抑制にもなる。
 そして続けざまに、妹が泣きそうな声でこう言う。
「兄ちゃん……」
 これは幼いというメリットを最大限に利用した技法だ。
 これによって、僕に対して向けられていた思考も、全てが妹の方へといくだろう。
 それはもう見事に効果的だ。特に、犬種を大切にしたいと思っているイチゴに対して行ったからこそ、通常以上に効果的だったといえよう。

「……わかっている。だがそれは――」
「――もちろん、メリーが勇者に選ばれてしまったというのは、どうあがいても変わることのない事実です。ですから、本当の意味でメリーが勇者になれるように指導する人物が必要なのです……たとえば凄腕の冒険者とか」
 イチゴが結論を話すより先に、僕の方から一つの提案を挙げる。もちろんイチゴには何のメリットもない提案だ。受けるも受けないもイチゴ次第で、断られても僕にはどうすることも出来ない。
「なるほど、どこで知ったのかは知らないが、私のことを調べたようだな……」
 やはり、イチゴは冒険者だったようだ。
 確信はなかったが、役所に彼女の身分証を持って行った時の受付にいたお姉さんの反応から、もしかしたらそうなんじゃないかと考えていた。
「イザベラ・チリィ・ゴズワード……」
 メリーが小さくこぼした。
 その名は、イチゴがくれた身分証に書いてあった名前だ。
 最初にイチゴから自己紹介された時に気がつくべきであったが、イチゴというのは偽名……いや通称とでも言うべきものだ。犬種の獣人だからといって、犬のような名前を使っているものはいない。僕の故郷でも早々めぐり合うことはなかった名前だ。
 つまり、彼女には名前を隠したい理由があった。そのことからも、彼女が何らかの分野での有名人であるということは明白だ。

「ゴズワード家……それは昔の名家だ」
「昔?」
 イチゴの言葉に引っ掛かり、僕は思わず聞き返した。
「笑い話にもならないことさ。勇者の家系、英雄の子孫、王族の血を引く者達……かつてそう呼ばれたのがゴズワード家さ」
 吐き捨てるようにそう言って、イチゴは僕達に背を向ける。怒っているのだろうか、それとも悲しんでいるのだろうか……彼女の声色からはそのどちらも感じられなかった。
 だが、触れられたくない話だということはよくわかった。
 メリーのためとはいえ、これ以上人の傷口をえぐるような真似は出来ない。それにイチゴは僕たちの救世主でもある。むやみに傷つけるのは、人間としてよくないことだろう。つまり今僕がするべきことは一つ、黙ることだ。話したくないことを話した後の相手にどんな言葉をかけたとしても、傷つける可能性が高いからだ。
 弁解も、フォローもすべては慎重に行わなければならない。――ゆえに『沈黙は金』ということだ。

「どうしたんだ? 黙り込んで」
 突如として何も話さなくなった僕を変に思ったらしく、イチゴはこちらを振り向いた。
「いえ、何でもありません」
「そうか……まあそうだな。この店も朝から晩までにぎわっているというわけでもないし、メリーの秘密を守りながら鍛えられるのは私ぐらいだろう。しょうがない、メリーの修行相手は私が引き受けるとしよう。……この元勇者の私が」
 イチゴは静かに微笑むと、快くメリーの相手を引き受けてくれた。
 まあそれはいいとしよう……それよりも。
「元勇者!?」
 凄腕冒険者だとは思っていたが、元勇者だったとは予想外だ。
「言っただろう? ゴズワード家は勇者の家系だって」
 何を驚いているのだと、彼女は不思議そうな顔をしている。
 確かに、イチゴ本人の口から直接、それも今さっき聞いた話だ。だがそれはあくまでかつてそう呼ばれたという話で、その血を引くものが必ずしも勇者だとは聞いていない。

「イチゴ、私と同じなんだ……」
「ああそうだ、私もかつて勇者に選ばれた。犬種でありながらだ……まあ、メリーと同じように隠してはいたが、ロットワイラーのような権力もなかったからだろう、すぐに勇者だということは知られてしまったけどな」
 メリーとイチゴが二人でそんな話をしている。
 僕は予想外すぎることに対応しきれていないというのに、メリーはどうしてそんなに対応力があるのだろう。それが不思議でならない。
 
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