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59 冒険者として
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「……もしかして、アニーか?」
イチゴが横から口を挟む。
僕としては話題がそれるのは助かるのだが、なんだか面倒なことになりそうな気配がしている。
「ど、どうも……」
声をかけられたアニーはどもりながらも何とか返事をする。
僕と話すときとはまるで印象が違う。どうやら、アニーはイチゴともそれほど親密な関係ではないらしい。彼女の姉があれだけイチゴのことを慕っているというのに、彼女はそうではないらしい。
「人見知りは相変わらずか……まあ、ケンと仲良くやっているようで安心はしたが、いつまでも1人でやっていけるわけじゃないのだぞ? いずれはどこかのパーティに入らなければ、そこそこの稼ぎで終わってしまう」
「い、い、いいん、ですよ。そこそこで」
アニーはイチゴの前で何とか虚勢を張ってみせてはいるが、明らかに威圧されている様子だ。
もっとも、イチゴはアニーを威圧しているつもりはないのだろう。だからこそ、アニーのそんな様子を見てさらに口数は増えてゆく。
「この国には年金という制度があるし、確かにそこそこの稼ぎでも生きていくことは出来るだろう。だが、中級冒険者程度の稼ぎでは貯金は出来ないし、いざというときのための休養期間だって取れないのだぞ? 特に役所に持ち込まれる依頼は年々減ってきているし、今は国が仕切るような仕事でもなくなってきている。つまり、冒険者はこれからの時代、役人から安定して仕事をもらえるような仕事じゃなくなるってことだ。仕事を取るためには、お前は知らない相手とコミュニケーションをとる必要が出てくるだろう。その時、コミュニケーション能力があれば、依頼主から直接依頼を受けることも出来るが、アニーはそういうことは苦手だろう? だから仲間がいなければならない。仲間がいることによって、依頼を仲介する業者からは信頼できる冒険者だという印象を与えることが出来るし、この先、冒険者として生きていくにも――」
――イチゴの説教にも似た、ためになる話は1時間にも及んだ。
最初こそは黙って聞いていた。というよりは、威圧されて反論すら出来ずにいたアニーだったが、途中からはお互いの考えを話し合ういわば討論会のようになってしまったのは否めない。
おかげで、僕がアニーとの約束を忘れていたことについては流れてしまったようだが、彼女は別の意味で不機嫌になってしまった。しかし、アニーが僕の手を引っ張って店を強引に出た時には驚いた。最初に会った頃の彼女には絶対に出来なかったことだ。
確かに、アニーはよくもわるくも自我が強い。
自分の思ったことはやらなければ気が済まないし、そのせいで命の危機にさらされたことも覚えている。だけど、それはあくまで彼女と僕が2人きりだったときか、そこに役所の受付にいるお姉さんが混じった3人だった時だけだ。
もしかしたらアニーもイチゴとは親密な関係にあるのではと、喫茶店を訪れてきた時には期待もしたが対面した時の様子から見るに、そうでもなかった。
「イザベラは苦手……人の嫌がることばかり言うから」
なんてアニーは愚痴をこぼしているが、案外相性は悪くないのかもしれない。たぶんアニーのお姉さんは、アニーに対して強く言い聞かせたりはしないだろうし、僕は彼女のやり方にとやかく言えるほど冒険者として生きてきた年月が長いわけでもない。
その点、イチゴは彼女の身内でもなければ、駆け出し冒険者でもない。
むしろ一流の冒険者であるイチゴの言葉は、この上ないほどの説得力を生んでいる。だけど、そうは言っても今アニーの機嫌を損ねるわけにもいかないから、僕の心の内を語るわけにもいかないし、彼女の話を無視するというわけにもいかない。こうなったら、話題を変えるに限る。
「まあまあ、それよりも本当にごめんなさい」
「どうして謝るの?」
どうやらアニーは自分がイチゴの店に来た目的を完全に忘れてしまったらしい。
どれほど嫌なことがあったとしても、それを上回る嫌なことがあったら、最初にあった嫌なことは記憶の遥か彼方にいってしまうようだ。
イチゴが横から口を挟む。
僕としては話題がそれるのは助かるのだが、なんだか面倒なことになりそうな気配がしている。
「ど、どうも……」
声をかけられたアニーはどもりながらも何とか返事をする。
僕と話すときとはまるで印象が違う。どうやら、アニーはイチゴともそれほど親密な関係ではないらしい。彼女の姉があれだけイチゴのことを慕っているというのに、彼女はそうではないらしい。
「人見知りは相変わらずか……まあ、ケンと仲良くやっているようで安心はしたが、いつまでも1人でやっていけるわけじゃないのだぞ? いずれはどこかのパーティに入らなければ、そこそこの稼ぎで終わってしまう」
「い、い、いいん、ですよ。そこそこで」
アニーはイチゴの前で何とか虚勢を張ってみせてはいるが、明らかに威圧されている様子だ。
もっとも、イチゴはアニーを威圧しているつもりはないのだろう。だからこそ、アニーのそんな様子を見てさらに口数は増えてゆく。
「この国には年金という制度があるし、確かにそこそこの稼ぎでも生きていくことは出来るだろう。だが、中級冒険者程度の稼ぎでは貯金は出来ないし、いざというときのための休養期間だって取れないのだぞ? 特に役所に持ち込まれる依頼は年々減ってきているし、今は国が仕切るような仕事でもなくなってきている。つまり、冒険者はこれからの時代、役人から安定して仕事をもらえるような仕事じゃなくなるってことだ。仕事を取るためには、お前は知らない相手とコミュニケーションをとる必要が出てくるだろう。その時、コミュニケーション能力があれば、依頼主から直接依頼を受けることも出来るが、アニーはそういうことは苦手だろう? だから仲間がいなければならない。仲間がいることによって、依頼を仲介する業者からは信頼できる冒険者だという印象を与えることが出来るし、この先、冒険者として生きていくにも――」
――イチゴの説教にも似た、ためになる話は1時間にも及んだ。
最初こそは黙って聞いていた。というよりは、威圧されて反論すら出来ずにいたアニーだったが、途中からはお互いの考えを話し合ういわば討論会のようになってしまったのは否めない。
おかげで、僕がアニーとの約束を忘れていたことについては流れてしまったようだが、彼女は別の意味で不機嫌になってしまった。しかし、アニーが僕の手を引っ張って店を強引に出た時には驚いた。最初に会った頃の彼女には絶対に出来なかったことだ。
確かに、アニーはよくもわるくも自我が強い。
自分の思ったことはやらなければ気が済まないし、そのせいで命の危機にさらされたことも覚えている。だけど、それはあくまで彼女と僕が2人きりだったときか、そこに役所の受付にいるお姉さんが混じった3人だった時だけだ。
もしかしたらアニーもイチゴとは親密な関係にあるのではと、喫茶店を訪れてきた時には期待もしたが対面した時の様子から見るに、そうでもなかった。
「イザベラは苦手……人の嫌がることばかり言うから」
なんてアニーは愚痴をこぼしているが、案外相性は悪くないのかもしれない。たぶんアニーのお姉さんは、アニーに対して強く言い聞かせたりはしないだろうし、僕は彼女のやり方にとやかく言えるほど冒険者として生きてきた年月が長いわけでもない。
その点、イチゴは彼女の身内でもなければ、駆け出し冒険者でもない。
むしろ一流の冒険者であるイチゴの言葉は、この上ないほどの説得力を生んでいる。だけど、そうは言っても今アニーの機嫌を損ねるわけにもいかないから、僕の心の内を語るわけにもいかないし、彼女の話を無視するというわけにもいかない。こうなったら、話題を変えるに限る。
「まあまあ、それよりも本当にごめんなさい」
「どうして謝るの?」
どうやらアニーは自分がイチゴの店に来た目的を完全に忘れてしまったらしい。
どれほど嫌なことがあったとしても、それを上回る嫌なことがあったら、最初にあった嫌なことは記憶の遥か彼方にいってしまうようだ。
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