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66 武器 2
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ノラはさらに黒い布を剥いていく。中から出てきたのは、得体のしれない筒状の棒だ。白い何かで出来ていて、見た目上はそれほど重そうにも見えないが、遠くから目を薄めてみれば鉄パイプのようにも見えなくはないが、やはり白く塗装されており、それほど頑丈そうにも見えない。
「これがおぬしにおすすめの武器じゃ」
ノラはそれを軽々と片手で持ち上げて僕の方に差し出す。
近くで見るとなおのこともろそうだ。落としたら破損してしまいそうなほどにもろそうだ。
僕はその白い棒をノラから受け取る。
「軽い……」
たぶん、僕が考えていた数十倍は軽い。何も持っていないのとほぼ変わらないぐらいの重さだろう。段ボールの筒だってたぶんもっと重たいぐらいだ。だが、握ってみた感触では思った以上に固そうだ。武器として乱暴に扱えば破損するだろうが、重量を考えると落としたぐらいじゃ破損はしないだろう。
しかし、かえってこの白い棒の正体がわからなくなった。
まさか魔法のステッキというわけではあるまい。子供用のおもちゃのステッキだとしたら納得できるが、実戦用のステッキとしてはなんの役にも多々なさそうだ。
僕は騙されているんじゃないかとアニーの方にちらりと視線を送る。
アニーは物珍しそうに僕の手の中にある棒を見つめている。しかし、彼女の視線はどこか不穏な感じもする。
「……何か珍しいものなんですか?」
僕が不安そうにしているのが楽しいのか、ノラは再びケタケタと笑いながら僕の手の中にあるその物体の正体を明かした。
「魔物の骨を砕いて固めた物を筒状に固定したものじゃ。魔力抽出の媒介によく使われるものじゃな。専門用語で言うなら『杖』じゃ」
「ほ、骨!?」
僕はあまりも衝撃に棒を地面に落とす。地面との衝突音はほとんどしなかった。
「コレっ! 落とすでない。貴重品というほどではないが、一応は商品なんじゃぞ。冒険者が魔物の骨ごときで慌てるでない」
いや、ふつう慌てるだろう。武器として渡されたものが生物の骨だったんだから。なんてツッコミを心の中で入れながら、さも冷静であるかのように僕は骨を拾った。
「これを僕にどうしろと……?」
ノラを軽く睨みつける。
こんなものじゃ碌に戦うこともできないだろう。それはアニーも同意見だったらしく、僕が口を開く前にノラに対して物申した。
「魔物の骨……さすがはブラックマーケット。でもそれじゃ、武器にならないわ。私は武器を用意してとお願いしたはず」
それに対してノラが反論する。
「じゃから武器を用意した。魔法使い専用の……それもかなりの上物をのう。上物といっても、まあまあ珍しいぐらい魔物の骨だ。それほど高価なものではないが、それを希望したのはウィークじゃったはずじゃ。希望のものを要してクレームを入れられるのはいかがなものかのう?」
なんだか不穏な空気だ。一触即発といったところだろうか。とにかく、アニーの方が今にも噴火してしまいそうな火山のように頭に血が上っているのだろう。彼女がどうしてそこまで怒っているのかわからないが、言葉の節々からかなりの怒りを感じる。
「もう一度言うけど、私は武器を注文した。確かに魔法使いの武器といえば、杖を現わしているのかもしれないけれど、ケンは冒険者であって魔法使いじゃない」
ますますアニーの口調がとがる。
しかし反対に今の言葉を聞いてノラは不思議そうな顔をしている。そして僕は渦中の人物であるはずなのに、蚊帳の外だ。2人の間に割って入れるほどの知識もない。
今はただ、嵐が過ぎ去るのを待つばかりだ。なんてことを考えていたら、その時はすぐに訪れた。ノラが、アニーの勘違いに気が付いたらしい。
「うん? ちょっと待て、ウィーク、おぬし何か勘違いしとらんか? 儂は杖を冒険者の武器として持ってきた。戦闘で使える道具として、それこそが武器屋として最善の選択だと信じておる。確かに、材料は骨じゃ、太古の刑罰のようにそのまま叩いて使うようなことをすれば、たちまち真っ二つとなるじゃろうが、ようは使いようということじゃよ」
「使い方?」
今度はアニーが不思議そうな顔をしてそう尋ねる。もはや怒りはどこかに消え去ったらしい、ノラもそれほど気にしていないといった風に質問に答える。
「そうじゃ。確かに、そこのいぬっころはどんな武器だって使いこなせるじゃろうが、今重要なのは魔力を扱えるようにするにはどうすればいいかじゃ。そうでなければ魔力水を見つけることもできんからのう?」
唐突な言葉に今度は僕が驚かされ、ようやく言葉を発することが出来た。
「なぜそれを!?」
驚きのあまり、声が裏返ってしまった。確かに魔力水を探す依頼のために装備を整えているのだが、それは今の今間で心の奥底にしまい込んでいたことだ。ノラの能力がノラの言う通りだとするなら、心を読んで知ることなど出来るはずもない。
その事実を誤魔化すがごとく、ノラは地面に落ちていた杖を僕の持たせると、あわただしく閉店の準備を始める。
「おっと、もう店じまいの時間じゃ。さっさと商品をもって出て行ってくれるかのう……これでも儂はかなり忙しいのでな。あ、そうじゃった。これとこれも持っていくがよい」
問いただすために彼女に迫ろうとした僕の胸に黒い布で包まれた何かが投げ込まれた。
「ちょっと待ってください。僕はまだ……というかこれは何ですか?」
あわただしく片付けながら、ノラはこちらも向かずに中身の説明を始める。
「おぬし専用の防具じゃ、魔物の毛で作った特殊な服といったところじゃな。サイズは……まあ大丈夫じゃろう。とにかく、森に行くときはそれを着てゆくとよい。鉄の鎧ほどではないが、それなりに丈夫じゃ。何より、鎧に比べてかなり軽い。おぬしにはその方がいいじゃろう」
「ええ」
彼女の言葉に僕は生返事をする。
確かに彼女の言う通り、さほど鍛えてもいない僕の体には鎧のような重いものは堪えるから、軽い素材で丈夫なものの方がいいだろう。だが、何とも釈然としない。おそらくだが、色々な説明がおざなりになっているからだろう。僕は次々と起きるせわしないイベントに辟易としているのかもしれない。
そんな僕の目の前にノラが迫る。
「あ、そうじゃ。料金じゃが2枚はほしいところじゃが、えっと1枚というところか……仕方ない。お得意様の紹介じゃ、もう1枚は報酬が入ってからでいい。とにかく、1枚出すのじゃ」
せわしく動いていたと思ったら、僕の目の前で止まり、右手の平を僕に差し出してそう言った。
「1枚?」
手のジェスチャも踏まえて考えると、おそらく装備の料金を求めているのだろう。僕は懐から一番小さな通貨を1枚だけ差し出した。
1枚とはずいぶんと良心的だ。
「バカ、違う。金貨1枚じゃ……ああ、そういうことか。仕方ない、おぬしはいぬっころとはいえ、将来有望そうじゃからな。その金貨がおぬしだけのものじゃないというのなら、今回はその金貨以外のおぬしの所持金全部ということで手を打とう。残りはボーナス払いじゃ」
「全部!?」
まるで異次元の生物と話しているようだ。彼女の言葉があまりにも早口だったためか、半分近くりかいできなかったが『所持金を全部渡せ』と言っていることはかろうじて分かった。所持金は金貨の半分とあとはほんの少しだが、それをすべて渡せば、これからの生活がかなり厳しくなる。
それだったら、装備はすべて返さなければならない。
しかし、僕が装備を返すよりもはやく、再びアニーがノラにせまる。
「ノラさん。私はそれなりの装備でいいって言ったはず」
その言葉で、またもや2人に火がついてしまった。
「有望なものには投資する。それが商売の基本じゃ。本当は金貨5枚はほしいところを原価ギリギリ、維持費を考えればマイナスもいいところの値段で売ってやろうといっておるのじゃ、それもおぬしたちが死なない程度の考慮をしてボーナス払いも認めておる。これ以上何が不満じゃというのじゃ?」
ノラの言うことは正しい。だがそれは、受け取る方の思い次第ではないだろうか。ほしくもないものを押し付けるのは投資ではなく、押し売りだ。在庫処分とはいえ、福袋でももっとましな商売をしてくれるだろう。
「投資は損する覚悟でするものでしょう?」
アニーの言うことももっともだ。しかし、それは投資される側が絶対に口にしてはいけないことだと僕は思う。しかし、そこの言葉がノラの琴線に触れたらしい。彼女は強く何度かうなずくと、アニーに自分のそばにくるように手招きした。
「なるほど、ウィークよ。少し儂のそばに寄れ」
それから、数分間、2人は僕に背を向け話し合う。話し合いが終わると、2人はすっきりしたような顔で僕の方を振り返った。
そしてノラが今日一番のテンションの高さで、僕に向かって大声で言う。
「よし! 分かった。それなら、今回の分はすべてボーナス払いでいい。それに料金も金貨1枚までまけよう! それでどうじゃ?」
「ケン、これでいいかな?」
続けてアニーがそう僕に聞く。
状況はいまいち理解できていないが、理解できていないからこそうなずく以外にどうすることもできない。
「うん? はい。大丈夫です」
僕は戸惑いながらもそう返答した。
ノラは嬉しそうに両手を天に向けて伸ばして伸びをする。しかしそれもすぐにやめて、何かを思い出したかのように片付けを再開した。
「交渉成立じゃ。次の仕事があるから、商品を持ったらさっさと出て行くんじゃ」
さっきは店じまいだと言っていたのに、彼女は今『次の仕事』と口にした。交渉成立の油断から口を滑らせたのかは分からないが、僕たちのほかにもここを訪れる人物がいるということなのだろう。どうせ碌なことでもないだろうから、あまり詮索はしたくない。
アニーはそんなことを気にするでもなくノラにお礼を言い、ノラもそれに返答した。
「ノラさん。私のお願いを聞いてくれてありがとう」
「お互い様じゃ」
それからすぐに僕とアニーは店を後にした。
あの場では聞けなかったが、2人がどんな交渉をしたのかが気になり、帰り際にアニーに尋ねてみる。
「一体何を?」
「ないしょ……」
彼女はほんの少しだけ悪そうな笑みを浮かべてそうつぶやいた。
「これがおぬしにおすすめの武器じゃ」
ノラはそれを軽々と片手で持ち上げて僕の方に差し出す。
近くで見るとなおのこともろそうだ。落としたら破損してしまいそうなほどにもろそうだ。
僕はその白い棒をノラから受け取る。
「軽い……」
たぶん、僕が考えていた数十倍は軽い。何も持っていないのとほぼ変わらないぐらいの重さだろう。段ボールの筒だってたぶんもっと重たいぐらいだ。だが、握ってみた感触では思った以上に固そうだ。武器として乱暴に扱えば破損するだろうが、重量を考えると落としたぐらいじゃ破損はしないだろう。
しかし、かえってこの白い棒の正体がわからなくなった。
まさか魔法のステッキというわけではあるまい。子供用のおもちゃのステッキだとしたら納得できるが、実戦用のステッキとしてはなんの役にも多々なさそうだ。
僕は騙されているんじゃないかとアニーの方にちらりと視線を送る。
アニーは物珍しそうに僕の手の中にある棒を見つめている。しかし、彼女の視線はどこか不穏な感じもする。
「……何か珍しいものなんですか?」
僕が不安そうにしているのが楽しいのか、ノラは再びケタケタと笑いながら僕の手の中にあるその物体の正体を明かした。
「魔物の骨を砕いて固めた物を筒状に固定したものじゃ。魔力抽出の媒介によく使われるものじゃな。専門用語で言うなら『杖』じゃ」
「ほ、骨!?」
僕はあまりも衝撃に棒を地面に落とす。地面との衝突音はほとんどしなかった。
「コレっ! 落とすでない。貴重品というほどではないが、一応は商品なんじゃぞ。冒険者が魔物の骨ごときで慌てるでない」
いや、ふつう慌てるだろう。武器として渡されたものが生物の骨だったんだから。なんてツッコミを心の中で入れながら、さも冷静であるかのように僕は骨を拾った。
「これを僕にどうしろと……?」
ノラを軽く睨みつける。
こんなものじゃ碌に戦うこともできないだろう。それはアニーも同意見だったらしく、僕が口を開く前にノラに対して物申した。
「魔物の骨……さすがはブラックマーケット。でもそれじゃ、武器にならないわ。私は武器を用意してとお願いしたはず」
それに対してノラが反論する。
「じゃから武器を用意した。魔法使い専用の……それもかなりの上物をのう。上物といっても、まあまあ珍しいぐらい魔物の骨だ。それほど高価なものではないが、それを希望したのはウィークじゃったはずじゃ。希望のものを要してクレームを入れられるのはいかがなものかのう?」
なんだか不穏な空気だ。一触即発といったところだろうか。とにかく、アニーの方が今にも噴火してしまいそうな火山のように頭に血が上っているのだろう。彼女がどうしてそこまで怒っているのかわからないが、言葉の節々からかなりの怒りを感じる。
「もう一度言うけど、私は武器を注文した。確かに魔法使いの武器といえば、杖を現わしているのかもしれないけれど、ケンは冒険者であって魔法使いじゃない」
ますますアニーの口調がとがる。
しかし反対に今の言葉を聞いてノラは不思議そうな顔をしている。そして僕は渦中の人物であるはずなのに、蚊帳の外だ。2人の間に割って入れるほどの知識もない。
今はただ、嵐が過ぎ去るのを待つばかりだ。なんてことを考えていたら、その時はすぐに訪れた。ノラが、アニーの勘違いに気が付いたらしい。
「うん? ちょっと待て、ウィーク、おぬし何か勘違いしとらんか? 儂は杖を冒険者の武器として持ってきた。戦闘で使える道具として、それこそが武器屋として最善の選択だと信じておる。確かに、材料は骨じゃ、太古の刑罰のようにそのまま叩いて使うようなことをすれば、たちまち真っ二つとなるじゃろうが、ようは使いようということじゃよ」
「使い方?」
今度はアニーが不思議そうな顔をしてそう尋ねる。もはや怒りはどこかに消え去ったらしい、ノラもそれほど気にしていないといった風に質問に答える。
「そうじゃ。確かに、そこのいぬっころはどんな武器だって使いこなせるじゃろうが、今重要なのは魔力を扱えるようにするにはどうすればいいかじゃ。そうでなければ魔力水を見つけることもできんからのう?」
唐突な言葉に今度は僕が驚かされ、ようやく言葉を発することが出来た。
「なぜそれを!?」
驚きのあまり、声が裏返ってしまった。確かに魔力水を探す依頼のために装備を整えているのだが、それは今の今間で心の奥底にしまい込んでいたことだ。ノラの能力がノラの言う通りだとするなら、心を読んで知ることなど出来るはずもない。
その事実を誤魔化すがごとく、ノラは地面に落ちていた杖を僕の持たせると、あわただしく閉店の準備を始める。
「おっと、もう店じまいの時間じゃ。さっさと商品をもって出て行ってくれるかのう……これでも儂はかなり忙しいのでな。あ、そうじゃった。これとこれも持っていくがよい」
問いただすために彼女に迫ろうとした僕の胸に黒い布で包まれた何かが投げ込まれた。
「ちょっと待ってください。僕はまだ……というかこれは何ですか?」
あわただしく片付けながら、ノラはこちらも向かずに中身の説明を始める。
「おぬし専用の防具じゃ、魔物の毛で作った特殊な服といったところじゃな。サイズは……まあ大丈夫じゃろう。とにかく、森に行くときはそれを着てゆくとよい。鉄の鎧ほどではないが、それなりに丈夫じゃ。何より、鎧に比べてかなり軽い。おぬしにはその方がいいじゃろう」
「ええ」
彼女の言葉に僕は生返事をする。
確かに彼女の言う通り、さほど鍛えてもいない僕の体には鎧のような重いものは堪えるから、軽い素材で丈夫なものの方がいいだろう。だが、何とも釈然としない。おそらくだが、色々な説明がおざなりになっているからだろう。僕は次々と起きるせわしないイベントに辟易としているのかもしれない。
そんな僕の目の前にノラが迫る。
「あ、そうじゃ。料金じゃが2枚はほしいところじゃが、えっと1枚というところか……仕方ない。お得意様の紹介じゃ、もう1枚は報酬が入ってからでいい。とにかく、1枚出すのじゃ」
せわしく動いていたと思ったら、僕の目の前で止まり、右手の平を僕に差し出してそう言った。
「1枚?」
手のジェスチャも踏まえて考えると、おそらく装備の料金を求めているのだろう。僕は懐から一番小さな通貨を1枚だけ差し出した。
1枚とはずいぶんと良心的だ。
「バカ、違う。金貨1枚じゃ……ああ、そういうことか。仕方ない、おぬしはいぬっころとはいえ、将来有望そうじゃからな。その金貨がおぬしだけのものじゃないというのなら、今回はその金貨以外のおぬしの所持金全部ということで手を打とう。残りはボーナス払いじゃ」
「全部!?」
まるで異次元の生物と話しているようだ。彼女の言葉があまりにも早口だったためか、半分近くりかいできなかったが『所持金を全部渡せ』と言っていることはかろうじて分かった。所持金は金貨の半分とあとはほんの少しだが、それをすべて渡せば、これからの生活がかなり厳しくなる。
それだったら、装備はすべて返さなければならない。
しかし、僕が装備を返すよりもはやく、再びアニーがノラにせまる。
「ノラさん。私はそれなりの装備でいいって言ったはず」
その言葉で、またもや2人に火がついてしまった。
「有望なものには投資する。それが商売の基本じゃ。本当は金貨5枚はほしいところを原価ギリギリ、維持費を考えればマイナスもいいところの値段で売ってやろうといっておるのじゃ、それもおぬしたちが死なない程度の考慮をしてボーナス払いも認めておる。これ以上何が不満じゃというのじゃ?」
ノラの言うことは正しい。だがそれは、受け取る方の思い次第ではないだろうか。ほしくもないものを押し付けるのは投資ではなく、押し売りだ。在庫処分とはいえ、福袋でももっとましな商売をしてくれるだろう。
「投資は損する覚悟でするものでしょう?」
アニーの言うことももっともだ。しかし、それは投資される側が絶対に口にしてはいけないことだと僕は思う。しかし、そこの言葉がノラの琴線に触れたらしい。彼女は強く何度かうなずくと、アニーに自分のそばにくるように手招きした。
「なるほど、ウィークよ。少し儂のそばに寄れ」
それから、数分間、2人は僕に背を向け話し合う。話し合いが終わると、2人はすっきりしたような顔で僕の方を振り返った。
そしてノラが今日一番のテンションの高さで、僕に向かって大声で言う。
「よし! 分かった。それなら、今回の分はすべてボーナス払いでいい。それに料金も金貨1枚までまけよう! それでどうじゃ?」
「ケン、これでいいかな?」
続けてアニーがそう僕に聞く。
状況はいまいち理解できていないが、理解できていないからこそうなずく以外にどうすることもできない。
「うん? はい。大丈夫です」
僕は戸惑いながらもそう返答した。
ノラは嬉しそうに両手を天に向けて伸ばして伸びをする。しかしそれもすぐにやめて、何かを思い出したかのように片付けを再開した。
「交渉成立じゃ。次の仕事があるから、商品を持ったらさっさと出て行くんじゃ」
さっきは店じまいだと言っていたのに、彼女は今『次の仕事』と口にした。交渉成立の油断から口を滑らせたのかは分からないが、僕たちのほかにもここを訪れる人物がいるということなのだろう。どうせ碌なことでもないだろうから、あまり詮索はしたくない。
アニーはそんなことを気にするでもなくノラにお礼を言い、ノラもそれに返答した。
「ノラさん。私のお願いを聞いてくれてありがとう」
「お互い様じゃ」
それからすぐに僕とアニーは店を後にした。
あの場では聞けなかったが、2人がどんな交渉をしたのかが気になり、帰り際にアニーに尋ねてみる。
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