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8 新たなる武器
76 実戦にて 6
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まばゆい光の中から現れたのは、先程までとは売って代わり小さくなった何かだ。
光が弱まってきてようやくその全貌が見えた。
「獣人……?」
そこに立っていたのは、濃い緑色の長髪を揺らめかせ薄黄色の鋭い眼光をこちらに向けた美青年だった。だが、そんなきれいな顔に右目を縦断するような傷跡が残っており、目を少しだけ開きにくそうにしている。
「獣人? それは違うな、我は魔物を統べる王の一角……魔王コロカジール。緑炎帝とも呼ばれているが……それはどうでもいいか。以後お見知りおきを……と言っても来世で、再びこの世界に転生できたらの話になるがな!」
途中から男の声が背後から聞こえた気がする。だが間違いなく僕の目の先に男はいる。空耳だと思った。だけど、それは違った。
「どこを見ている?」
今度は完全に背後から声が聞こえた。
まるで、脳が錯覚を起こしたかのように、目の前に立っていた男は消え去り背後から背中に猛烈な衝撃が走る。
骨のきしむような音が耳に入り、それからようやく痛みを感じた。いいや、激痛だ。だがそれでも最初にもらった一撃ほどではない。それなのに僕の足は地面から離れ、体は前方へと吹き飛ばされる。
目の前に木が迫ってくる感覚は圧巻で、なんとも言い難い恐怖心と、ほんの少しの疑問が頭と心を行き来し、それから少し時間が立つと暗闇が訪れた。
「いっ……!」
痛みが顔面に現れたときには、ある疑問が頭をよぎる。
どうして僕は死んでいいないのだろう。明らかに最初の一撃よりも遥かに強い一撃だったはずだ。衝撃はあった。それなのに痛みは最初よりも遥かに少ない。つまり、僕の耐久力が上がってるということだ。しかし、理由がわからない。突然変異でもしない限りは、突然成長したりはしないはずだ。人生にはレベルなんてものは存在しないのだから。
「……スキ……ルなんて、非現実的なものも……魔力……なんて……ものもあるけど……」
それでも、何もかもが都合よく行くわけではない。自分の意思で、力で乗り越えなければならない局面が今だ。
体中が軋むが、そんなことを考えている場合ではない。もし、次もあの攻撃を受けてしまったら、たぶん僕は死んでしまう。
何かないか……何かを思いつかなければ。
「無駄だ。どうあがこうと、絶望の前ではすべてが無意味……夢、希望、命……そのすべてが無意味に帰す」
男が僕の肩を軽く叩く。
「いつの間に……」
確かにさっきまでは向こう側にいたはずだ。ほんの数秒の隙に僕の横に来たという事か……いやそれはおかしい。もし、そんな高速で移動したら、さっきみたいに風圧を感じるはずだ。そもそも、そんな音速を超えるようなスピードで動いたらあたり一面が衝撃波で吹き飛ばされるだろう。
考えてみれば最初からそうだった。あれだけの速度で動けるのに、連続で攻撃してこない理由はなんだ。連続で攻撃してこない理由は? おかしなことはいっぱいある。今だってそうだ。僕を殺したいなら、僕に気付かせるより前に攻撃をすればよかった。それですべてが終わっていたはずだ。なのに、なぜそれをしなかった?
「お察しの通り、条件があるというわけだ。条件を教えるつもりはないが……こうやって、肩をつかんでいれば逃げられることもない。少々、気がつくのがおそかったかな」
「今思えば、あんたが言った『魔法』という言葉の意味は、そのままの意味だったというわけだ……」
「ああ。その通りだ。我はお前と同じように、魔力で自分の力を増強している。だから高速で動けるし、攻撃の威力に姿形は関係ない」
嘘だ。
奴は高速で動いてなんかいない。そもそもあれほどまでに高速な攻撃を受けて、僕が死なないはずがない。いいや、どんな生物だって、目にも留まらぬ速さで繰り出された攻撃を受けきれるとは思えない。僕が勝手に高速で攻撃されたと思い込んでいただけだ。
ここで1つ仮定を立てる。奴の魔法が体内に魔力を込めて、自らの体に何等かの作用をもたらしているというのなら実質詰みに近い。だがもし仮に、魔力を体外に放出して、空間に何らかの影響を与えているのだとすれば、さっき奴の炎を吸収したように、それすらも吸収できるのではないか。そんな淡い期待を込めた仮定だ。根拠もなければ、命を賭して証明しなければならない実験というわけだ。
そもそも、『魔力が放出されていれば、吸収できる』という命題が成り立つのかすら怪しい。それでも、時間を稼ぐためには実行しなければならない。それも、相手に思惑を悟られることなくだ。
「なるほど……でもこれだけ時間を稼いだんだ。僕が死んだとしても、お前が街にまで行くことはもう出来ないだろう?」
なんて強がっては見せたものの正直なところ、イーブンと言ったところだろう。『仲間が来ていることが匂いでわかる』なんてことを匂わせてはみたものの、正直なところ、そんなものがわかるはずもない。だが、僕が本当のことを言っているのか、嘘をついたのかは相手にはわからないだろう。
とは言っても、たびたび僕の心を読むような言動をとってきた相手だ。正直なところ、本当に嘘が通用しているかどうかも怪しい。だから、出来るだけ自分の思考をそこに向ける。もう一つの思惑が読まれないように。
「勘違いしているようだが、我にとっては獣人が1人増えようが、2人増えようが……いいや、1000人に増えようが同じことだ。王の前では全ての存在がひざまずくしかないという事だ」
「僕はまだひざまずいていないぞ? 死んでもひざまずかないけどな」
僕がそう言い切った時には、もうすでに魔王は僕の目線から消えていた。
「犬畜生は頭が悪いから、物理的に分からせるしかないようだ」
「その攻撃、もう飽きたよ」
一瞬の間に僕の背後に移動していた魔王に僕は杖を突きつける。自分でもその行動にどれほどの意味があるのかわからないが、それでも僕が出来ることはそれ以外にない。
「なるほど……流石は犬と言ったところだ。どこまでも小賢しい」
「さっきと言っていることが真逆じゃないか?」
「ふん。我の魔力を吸収するとは……まるでヒルようだ。まさに地球の命を吸い取る人間のようだ。これほど不快な気分は久しぶりだ……」
魔王が移動する時に使ったであろう魔力が、杖を通して僕の中に流れ込んでくる。それが体を癒して、体から痛みを奪い去ってゆく。
「何を言っているのかわからないが、これで十分に時間稼ぎが出来そうだ」
「井の中の蛙……まるで人間のように傲慢な奴だ。やはり犬種は滅ぼさなければならないようだな」
今度は目に見えるほどのスピードで攻撃を繰り返してくる。それでも僕は躱すことすら出来ない。次々と繰り出される拳を何とか魔王より奪った魔力によって抑えてはいるが、その魔力だっていつまでも持ちはしないだろう。
「分かるか? 魔力も武器も、仲間を生かすことや、敵を殺すことに使うものだが、それを扱えるだけの肉体があって初めてまともなものとなる。付け焼刃では、最後にはボロが出るという事だ。経験も、知識もなく、神から与えられただけの才能では本当の窮地を乗り越えることは出来まい! 人間はそれ故に滅びた」
「人間がどうなろうが知ったことじゃないが、僕にだって多少の経験と知識がある!」
「経験と知識だと!? なるほど、ようやく理解した。だが、それは単なるボーナスに過ぎない。実戦の中で役に立つものがいかほどあるというのだ!? 野性を忘れ、社会でのうのうと生きて来た貴様に何が出来る!? なにも出来ぬさ……ただ滅びを待つこと以外はな!」
「勘違いするな……人間だって、野性の一部に過ぎない!」
「なら見せてみろ! 野生の本能を! 文化など使わずに! 出来るはずがない。野生だけで戦うなど……出来ぬから、獣は人間を模倣し、そして進化した。人類が滅びた後も、また同じ踵をたどって同じことを繰り返す……それが運命と言うものだ。そしてそうさせるのが、小賢しい犬種だ。人とともに生き、人間社会を経験し、人間に品種改良され賢さを得たがために、人間と同じことを繰り返し、それ故に滅びるだろう。ならば我がそうなるより前に滅ぼしてやろうというのだ。勇者などというくだらないものとともにな……」
「そんな……それだけの理由で……」
「理由としては十分だ。危険因子は排除する。それこそが魔王の役割なのだから」
勝手な言い分だ。
「まるで神みたいだな」
「そんなものと一緒にしないでもらえるかな……我はクズだ。癌とも言える存在だ。そういった存在にも出来ることがあるというわけだ」
僕が魔王を神と呼んだ瞬間から、攻撃の威力が格段に跳ね上がった。
先ほどまでは耐久力を上げて何とか痛みもほとんどなかったが、もはや仲良く話してなどいられないぐらいに強い。一撃一撃が骨にひびく。
光が弱まってきてようやくその全貌が見えた。
「獣人……?」
そこに立っていたのは、濃い緑色の長髪を揺らめかせ薄黄色の鋭い眼光をこちらに向けた美青年だった。だが、そんなきれいな顔に右目を縦断するような傷跡が残っており、目を少しだけ開きにくそうにしている。
「獣人? それは違うな、我は魔物を統べる王の一角……魔王コロカジール。緑炎帝とも呼ばれているが……それはどうでもいいか。以後お見知りおきを……と言っても来世で、再びこの世界に転生できたらの話になるがな!」
途中から男の声が背後から聞こえた気がする。だが間違いなく僕の目の先に男はいる。空耳だと思った。だけど、それは違った。
「どこを見ている?」
今度は完全に背後から声が聞こえた。
まるで、脳が錯覚を起こしたかのように、目の前に立っていた男は消え去り背後から背中に猛烈な衝撃が走る。
骨のきしむような音が耳に入り、それからようやく痛みを感じた。いいや、激痛だ。だがそれでも最初にもらった一撃ほどではない。それなのに僕の足は地面から離れ、体は前方へと吹き飛ばされる。
目の前に木が迫ってくる感覚は圧巻で、なんとも言い難い恐怖心と、ほんの少しの疑問が頭と心を行き来し、それから少し時間が立つと暗闇が訪れた。
「いっ……!」
痛みが顔面に現れたときには、ある疑問が頭をよぎる。
どうして僕は死んでいいないのだろう。明らかに最初の一撃よりも遥かに強い一撃だったはずだ。衝撃はあった。それなのに痛みは最初よりも遥かに少ない。つまり、僕の耐久力が上がってるということだ。しかし、理由がわからない。突然変異でもしない限りは、突然成長したりはしないはずだ。人生にはレベルなんてものは存在しないのだから。
「……スキ……ルなんて、非現実的なものも……魔力……なんて……ものもあるけど……」
それでも、何もかもが都合よく行くわけではない。自分の意思で、力で乗り越えなければならない局面が今だ。
体中が軋むが、そんなことを考えている場合ではない。もし、次もあの攻撃を受けてしまったら、たぶん僕は死んでしまう。
何かないか……何かを思いつかなければ。
「無駄だ。どうあがこうと、絶望の前ではすべてが無意味……夢、希望、命……そのすべてが無意味に帰す」
男が僕の肩を軽く叩く。
「いつの間に……」
確かにさっきまでは向こう側にいたはずだ。ほんの数秒の隙に僕の横に来たという事か……いやそれはおかしい。もし、そんな高速で移動したら、さっきみたいに風圧を感じるはずだ。そもそも、そんな音速を超えるようなスピードで動いたらあたり一面が衝撃波で吹き飛ばされるだろう。
考えてみれば最初からそうだった。あれだけの速度で動けるのに、連続で攻撃してこない理由はなんだ。連続で攻撃してこない理由は? おかしなことはいっぱいある。今だってそうだ。僕を殺したいなら、僕に気付かせるより前に攻撃をすればよかった。それですべてが終わっていたはずだ。なのに、なぜそれをしなかった?
「お察しの通り、条件があるというわけだ。条件を教えるつもりはないが……こうやって、肩をつかんでいれば逃げられることもない。少々、気がつくのがおそかったかな」
「今思えば、あんたが言った『魔法』という言葉の意味は、そのままの意味だったというわけだ……」
「ああ。その通りだ。我はお前と同じように、魔力で自分の力を増強している。だから高速で動けるし、攻撃の威力に姿形は関係ない」
嘘だ。
奴は高速で動いてなんかいない。そもそもあれほどまでに高速な攻撃を受けて、僕が死なないはずがない。いいや、どんな生物だって、目にも留まらぬ速さで繰り出された攻撃を受けきれるとは思えない。僕が勝手に高速で攻撃されたと思い込んでいただけだ。
ここで1つ仮定を立てる。奴の魔法が体内に魔力を込めて、自らの体に何等かの作用をもたらしているというのなら実質詰みに近い。だがもし仮に、魔力を体外に放出して、空間に何らかの影響を与えているのだとすれば、さっき奴の炎を吸収したように、それすらも吸収できるのではないか。そんな淡い期待を込めた仮定だ。根拠もなければ、命を賭して証明しなければならない実験というわけだ。
そもそも、『魔力が放出されていれば、吸収できる』という命題が成り立つのかすら怪しい。それでも、時間を稼ぐためには実行しなければならない。それも、相手に思惑を悟られることなくだ。
「なるほど……でもこれだけ時間を稼いだんだ。僕が死んだとしても、お前が街にまで行くことはもう出来ないだろう?」
なんて強がっては見せたものの正直なところ、イーブンと言ったところだろう。『仲間が来ていることが匂いでわかる』なんてことを匂わせてはみたものの、正直なところ、そんなものがわかるはずもない。だが、僕が本当のことを言っているのか、嘘をついたのかは相手にはわからないだろう。
とは言っても、たびたび僕の心を読むような言動をとってきた相手だ。正直なところ、本当に嘘が通用しているかどうかも怪しい。だから、出来るだけ自分の思考をそこに向ける。もう一つの思惑が読まれないように。
「勘違いしているようだが、我にとっては獣人が1人増えようが、2人増えようが……いいや、1000人に増えようが同じことだ。王の前では全ての存在がひざまずくしかないという事だ」
「僕はまだひざまずいていないぞ? 死んでもひざまずかないけどな」
僕がそう言い切った時には、もうすでに魔王は僕の目線から消えていた。
「犬畜生は頭が悪いから、物理的に分からせるしかないようだ」
「その攻撃、もう飽きたよ」
一瞬の間に僕の背後に移動していた魔王に僕は杖を突きつける。自分でもその行動にどれほどの意味があるのかわからないが、それでも僕が出来ることはそれ以外にない。
「なるほど……流石は犬と言ったところだ。どこまでも小賢しい」
「さっきと言っていることが真逆じゃないか?」
「ふん。我の魔力を吸収するとは……まるでヒルようだ。まさに地球の命を吸い取る人間のようだ。これほど不快な気分は久しぶりだ……」
魔王が移動する時に使ったであろう魔力が、杖を通して僕の中に流れ込んでくる。それが体を癒して、体から痛みを奪い去ってゆく。
「何を言っているのかわからないが、これで十分に時間稼ぎが出来そうだ」
「井の中の蛙……まるで人間のように傲慢な奴だ。やはり犬種は滅ぼさなければならないようだな」
今度は目に見えるほどのスピードで攻撃を繰り返してくる。それでも僕は躱すことすら出来ない。次々と繰り出される拳を何とか魔王より奪った魔力によって抑えてはいるが、その魔力だっていつまでも持ちはしないだろう。
「分かるか? 魔力も武器も、仲間を生かすことや、敵を殺すことに使うものだが、それを扱えるだけの肉体があって初めてまともなものとなる。付け焼刃では、最後にはボロが出るという事だ。経験も、知識もなく、神から与えられただけの才能では本当の窮地を乗り越えることは出来まい! 人間はそれ故に滅びた」
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「経験と知識だと!? なるほど、ようやく理解した。だが、それは単なるボーナスに過ぎない。実戦の中で役に立つものがいかほどあるというのだ!? 野性を忘れ、社会でのうのうと生きて来た貴様に何が出来る!? なにも出来ぬさ……ただ滅びを待つこと以外はな!」
「勘違いするな……人間だって、野性の一部に過ぎない!」
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「そんな……それだけの理由で……」
「理由としては十分だ。危険因子は排除する。それこそが魔王の役割なのだから」
勝手な言い分だ。
「まるで神みたいだな」
「そんなものと一緒にしないでもらえるかな……我はクズだ。癌とも言える存在だ。そういった存在にも出来ることがあるというわけだ」
僕が魔王を神と呼んだ瞬間から、攻撃の威力が格段に跳ね上がった。
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