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2.記憶喪失
2 不満の疑問
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ともかく、成長していない事自体が大きな問題で、それを父さんにどう伝えるかということが課題であった。しかし、それは生半可な覚悟では受け入れられないだろう。父さんは非常に難しい人である。難しいと言っても厳しいわけではない、ちょっと人より頼りないというだけだ。
「お前のこと、父さんにどう説明したものか……」
僕は妹の方を見ながら、そんなことをつぶやいたように記憶している。その時の妹の表情はこうだ。無表情。とにかく喜び悲しみもなく、ただ単に生まれたままの表情でいる。
「父さんは別に放っておけばいいんじゃない?」
彼女は一切表情を変えずにそう言い切った。僕と再会した時とは大違いだった。それだけ父さんに興味ないのか、それとも。
「そうは言っても、父さんに何も話さないと言うのは無理だろう? 流石に許可なくお前を家におくなんて僕には無理な高等技術だぞ」
「だから、あたしは別にいいって!」
「だけど、お前、魔法少女団体から追われているんだろう?」
「そうだけど……」
この時ばっかりは、妹は不安の意向を示した。
「だったら、ここにいるしかねえだろ?」
「でも、あたしはあの人には会いたくない。あの人には…………」
「確かに、父さんとしては頼りないけど、あの人なんて呼ばないでやってくれ」
「わかった……兄ちゃんの言う通りにするよ……」
なんとも納得のいかないような表情ではあるが、それであっても、ご機嫌斜めな様子の彼女をなだめるのは非常に難儀だった。
「はあ……」
僕は性にもなく、大きなため息をつく。だが妹に関してだけは、ある意味では一年もの間、苦労して来た僕だ。しかし、今までと違うのはいないものに対してしていた苦労をいるものに対して出来ると言うのは、ある意味僕の心の救いとなった。――だが、それはある意味間違いであった。いないものに対する不満と、いるものに対する不満では、大きな違いがあった。それは不満をぶつける対象。つまりは、ストレスのはけ口があるということだ。
僕は多分、これから先ストレスを抱え込むことは無いのだと思っていた。『妹と喧嘩するのもいいかも』なんて考えていた。この時は……
「とりあえず、ここが俺達の家だ。今日からはお前の家でもあるが……覚えているか?」
家の前についてすぐに、僕は彼女の記憶について確認したかった。もし、彼女にもう少しだけでも記憶が復活しているとなると、それを活かし、記憶を復元しやすくなるからだ。
「……ううん、全然分からない」
「そうか……まあ、仕方ないだろう。記憶をどうやって取り戻すのかは分からないが、もしかしたら、魔法少女的な方法でなくても記憶が戻るかもしれないしな」
「うん、そうだね! 可能性は高くはないけど、0じゃないよね」
ずっと、不満そうだった妹もなんとか元気を取り戻してくれたようだ。
「そうだ。希望はいくつあったって困りはしない。僕は頭は良くないけど、それだけはわかる」
「その頭が良くないって卑下するのやめたほうがいいよ、兄ちゃん」
「うるさい、それより家に入るぞ!」
僕はいつもそうするように、家の鍵を開けてドアを開いた。当然父さんは返ってきていない。だけど、そんないつもの普通のことを気にせず中へと入っていく。
「ちょっと、待ってよ!」
妹がそんな風に騒いでいたことが、いつもとは違った。いつもと違って少し口が緩む僕に、僕自信が予想だにしていなかったように、高揚する心臓に驚かされた。そのためか、いつもと同じ真っ暗な部屋に入っても、なんだかいつもよりも若干明るいようなそんな錯覚に囚われた。
「兄ちゃん、どうしたの? そんなところで立ち止まって?」
「どうもしないよ。ただ、なんか少しうれしくて……」
年甲斐もなく、涙がこぼれてだす。こんな情けない姿を妹に見せるわけにもいかず、リビングへと続くドアの前で立ち尽くして振り返ることも出来ない。
「もう、そこに立っていたら入れないじゃない!」
「悪い。今入るよ」
なんとかこぼれ落ちる涙をごまかしながら、リビングへと入る。
それからは早かった。僕は外から持ってきた菌を洗い流すという名目で、洗面所へと向かい、証拠を全て水に流した。水を隠すには水の中が最適だと言うことだ。
「あ、兄ちゃん。顔洗い終わったんだ。涙まみれだったもんね」
「って! 気がついてたのかよ!?」
どうやらばれていたらしい。
気がついていたのなら言ってほしかった。そんなことを考えながら妹の方を振り向くと、ほんの少しだけ違和感があった。その違和感はすぐに確信へと変わる。
「おい、お前どうして靴を履いているんだ?」
せっかくきれいにしていた、フローリングは土まみれで靴跡まみれだ。
「……だって、アメリカ人は靴を脱がないって聞いたことがあるよ」
「は? お前、ここがどこだかわかってないのか?」
僕の質問の意図をわかっているようで、わかっていなような、そもそもそれが質問であるのかすらわかっていないのかもしれない。でも彼女は確かに言った。自分の家のことを思い出したと。だったら、僕の質問には簡単に答えられるだろうし、質問かどうかすらわからなくても問題ではない。というより、そもそも問題にすらないものが質問なのだから、考えて答える必要はないと思うが、彼女は考え込んでいる。――僕の簡単な問題。いや質問に対して。
「アメリカでしょ?」
「お前のこと、父さんにどう説明したものか……」
僕は妹の方を見ながら、そんなことをつぶやいたように記憶している。その時の妹の表情はこうだ。無表情。とにかく喜び悲しみもなく、ただ単に生まれたままの表情でいる。
「父さんは別に放っておけばいいんじゃない?」
彼女は一切表情を変えずにそう言い切った。僕と再会した時とは大違いだった。それだけ父さんに興味ないのか、それとも。
「そうは言っても、父さんに何も話さないと言うのは無理だろう? 流石に許可なくお前を家におくなんて僕には無理な高等技術だぞ」
「だから、あたしは別にいいって!」
「だけど、お前、魔法少女団体から追われているんだろう?」
「そうだけど……」
この時ばっかりは、妹は不安の意向を示した。
「だったら、ここにいるしかねえだろ?」
「でも、あたしはあの人には会いたくない。あの人には…………」
「確かに、父さんとしては頼りないけど、あの人なんて呼ばないでやってくれ」
「わかった……兄ちゃんの言う通りにするよ……」
なんとも納得のいかないような表情ではあるが、それであっても、ご機嫌斜めな様子の彼女をなだめるのは非常に難儀だった。
「はあ……」
僕は性にもなく、大きなため息をつく。だが妹に関してだけは、ある意味では一年もの間、苦労して来た僕だ。しかし、今までと違うのはいないものに対してしていた苦労をいるものに対して出来ると言うのは、ある意味僕の心の救いとなった。――だが、それはある意味間違いであった。いないものに対する不満と、いるものに対する不満では、大きな違いがあった。それは不満をぶつける対象。つまりは、ストレスのはけ口があるということだ。
僕は多分、これから先ストレスを抱え込むことは無いのだと思っていた。『妹と喧嘩するのもいいかも』なんて考えていた。この時は……
「とりあえず、ここが俺達の家だ。今日からはお前の家でもあるが……覚えているか?」
家の前についてすぐに、僕は彼女の記憶について確認したかった。もし、彼女にもう少しだけでも記憶が復活しているとなると、それを活かし、記憶を復元しやすくなるからだ。
「……ううん、全然分からない」
「そうか……まあ、仕方ないだろう。記憶をどうやって取り戻すのかは分からないが、もしかしたら、魔法少女的な方法でなくても記憶が戻るかもしれないしな」
「うん、そうだね! 可能性は高くはないけど、0じゃないよね」
ずっと、不満そうだった妹もなんとか元気を取り戻してくれたようだ。
「そうだ。希望はいくつあったって困りはしない。僕は頭は良くないけど、それだけはわかる」
「その頭が良くないって卑下するのやめたほうがいいよ、兄ちゃん」
「うるさい、それより家に入るぞ!」
僕はいつもそうするように、家の鍵を開けてドアを開いた。当然父さんは返ってきていない。だけど、そんないつもの普通のことを気にせず中へと入っていく。
「ちょっと、待ってよ!」
妹がそんな風に騒いでいたことが、いつもとは違った。いつもと違って少し口が緩む僕に、僕自信が予想だにしていなかったように、高揚する心臓に驚かされた。そのためか、いつもと同じ真っ暗な部屋に入っても、なんだかいつもよりも若干明るいようなそんな錯覚に囚われた。
「兄ちゃん、どうしたの? そんなところで立ち止まって?」
「どうもしないよ。ただ、なんか少しうれしくて……」
年甲斐もなく、涙がこぼれてだす。こんな情けない姿を妹に見せるわけにもいかず、リビングへと続くドアの前で立ち尽くして振り返ることも出来ない。
「もう、そこに立っていたら入れないじゃない!」
「悪い。今入るよ」
なんとかこぼれ落ちる涙をごまかしながら、リビングへと入る。
それからは早かった。僕は外から持ってきた菌を洗い流すという名目で、洗面所へと向かい、証拠を全て水に流した。水を隠すには水の中が最適だと言うことだ。
「あ、兄ちゃん。顔洗い終わったんだ。涙まみれだったもんね」
「って! 気がついてたのかよ!?」
どうやらばれていたらしい。
気がついていたのなら言ってほしかった。そんなことを考えながら妹の方を振り向くと、ほんの少しだけ違和感があった。その違和感はすぐに確信へと変わる。
「おい、お前どうして靴を履いているんだ?」
せっかくきれいにしていた、フローリングは土まみれで靴跡まみれだ。
「……だって、アメリカ人は靴を脱がないって聞いたことがあるよ」
「は? お前、ここがどこだかわかってないのか?」
僕の質問の意図をわかっているようで、わかっていなような、そもそもそれが質問であるのかすらわかっていないのかもしれない。でも彼女は確かに言った。自分の家のことを思い出したと。だったら、僕の質問には簡単に答えられるだろうし、質問かどうかすらわからなくても問題ではない。というより、そもそも問題にすらないものが質問なのだから、考えて答える必要はないと思うが、彼女は考え込んでいる。――僕の簡単な問題。いや質問に対して。
「アメリカでしょ?」
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