僕の生き別れの妹は魔法少女

真白 悟

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3.もう一人

1.赦されざる少女

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 嵐が去っていった。僕のクラスメートである六香織はまさに嵐で、特にこれといった利益をひとかけらを残すこともなく、ただ僕の缶コーヒーを飲んで不穏な空気を残すだけで帰ってしまった。何より彼女は妹と一切言葉を交わすことなかった。一体彼女がここに何を市に来たのか分からない。

「本当に何だったんだ?」

 僕はおとなしくしている妹に尋ねたが、妹はどこか遠いところを見ているように放心したまま動かない。いつもはバカみたいに騒いでいる妹がここまで静かなのは奇妙である。だから僕は一ついたずらでもしてやろうと立ち上がったが、それは失敗に終わった。

「何、何か言った?」

 金縛りから開放されたかのように妹はあたりを見渡しながら、僕に尋ね返す。

「ちっ……!」

 思わず舌打ちをする。出来るだけ妹の耳に聞こえないように静かな舌打ちだ。妹に嫌われてしまっては僕は生きていけないだろう。それだけにイタズラも慎重に行わなければならない。だからこそ、妹が気が付かないようにするいたずらが精一杯出来ることで、それの何が楽しいか聞かれると困るが、それでも妹と兄妹らしきことがしたいという僕の気持ちの現われと思ってもらえれば、分からないほどでもないだろう。

 しかしながら、長い間離れて暮らしていた僕達は言わばほとんど他人に近い。つまり、僕が妹にいたずらをするということは、友達の友達の女の子に嫌がらせをすることに近いだろう。それでも僕はやってみたかった。――それだけに残念でならない。

 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、妹は深く考え込むように唸ったかと思えば、すぐさま口をひ開いた。

「……あの人、どこかで…………」

 僕は妹の思わせぶりな言葉に、特に何か思うところがあったわけでもないが、仕方なく問い返す。

「あの人って、六香織のことか?」

 妹は簡単に頷く。だが、それは僕にとって答えの分かった質問、もちろん妹の疑問の答えもわかっている。

「そりゃ、この前あったからだろう?」

「うーん……そうじゃない気がするけど、この前あった時には感じなかったというか、違ったというか」

 妹の歯切れの悪い言葉をよそに、僕はわかったような気になってた自分自身が恥ずかしく感じた。熱くなる顔を妹にさとられないように僕は妹に尋ねる。

「まさか、魔法少女ってわけじゃないだろう?」

「団体の方では見たこと無いけど、でもなんか変なんだよね」

 変と言った妹の心は分からないが、魔法少女団体であったことがないというのであればほぼほぼ妹があったことがあるなんてことはないだろう。いやあったことはあるのかもしれないが、幼かった妹がそれを覚えているとは思えない。

 もし覚えていたとするのであれば、それはそれで記憶が戻りつつあるという希望的観測があっていいるということなのかもしれないが、その確率もほぼ0というしかない状況である。確かに失われたき記憶からどうでも良いこと思い出すということはそれほど不自然でもないが、それゆえに、思い出した記憶はもっと正確なものでなければならない。

 正確でない記憶では思い出したとはいえないからだ。そのためか、僕は早々に甘えた考えを捨て去ることにした。

「つまり、お前がこの街に来るまでに会ったことがあったってことじゃないのか?」

 僕の早計ともとれる答えに、妹は少し納得できないように頭を抱えていたが、最終的には「そうなのかなぁ……」という言葉とともに黙り込んだ。そんな妹に僕は早く寝るように促した。

 結局、今日も記憶を取り戻すための話し合いは出来なかった。

 別段いやらしい話と言うわけではないが、長年父と二人で暮らしてきた家に妹の部屋などあるわけもなく、妹には僕の部屋を使わせている。寝床と呼べる場所は僕の部屋と父の部屋の2つしか無いから仕方の無いことだろう。

 まさか父の部屋で寝かせることなど出来るはずもない。ただでさえ父に無断で妹を家に住まわせているわけだ。だったら出来るだけ父には迷惑を掛けないようにするべきであるという僕の持論のもとにそうしている。何よりも、妹は父を極度に嫌っているということもある。

 最初に言ったとおり、いやらしい話など無いわけで僕はリビングで寝る。妹とラッキースケベなどあってはならないし、普段の様子から勘違いされがちだが、僕は妹を異性としてみていない。――当たり前だ。妹はただの妹、大切な家族でしか無い。もちろんただ単に家族だったから仕方なく妹に良くしているというわけではない。

 言うなれば妹は僕にとって唯一といっていいほど家族なのだ。

 なんてことを考えてしまうのは、少しだけでも心に余裕が生まれている証拠だろうか?

 僕は冷蔵庫から取り出した缶コーヒーを口に含みながらくだらないことを考えていた。いや、今一番重要なことなのかもしれない。

「なんて、夜更かししてパソコンなんていじっている奴が何を言ったところで説得力がかけるだろうな……」

 僕はリビングのはしにおかれているパソコンデスクにへばりつきながらキーボードを叩く。魔法少女団体と入力し、誰もが知り得る情報を頭に叩き込んだ。

「なるほど、魔法少女団体ってのはやっぱり胡散臭いな……」

 総資産、従業員数、社長の名前と様々なことが書かれているが、会社概要からはまるで資金繰りが全くわからない。何よりも、ほとんどの活動がボランティアとして行われており、賃金等が発生しているとはまるで思えない。それなのに総資産は1兆ほどとまるで一流の会社のようだ。よくわからない会社でありながらどうしてだか全てを公にしているところが怪しい。

 まるで何かを隠すためのカムフラージュであるかのようだ。

「僕の考え過ぎだといいけど」

 怪しい団体であるからこそ、ネット上で情報を集めるのは危険かもしれない。どこに監視の目があるかわからないからだ。しかし、簡単なことぐらいだったら誰でも調べているだろう。

「社長の名前は不和合 舌(ふわごう ぜつ)……全く信用にかける名前だな。ますます怪しいが」

 社長の経歴も調べてみるべきか……いや、調べるべきじゃない気がして仕方がない。どうしてだか不安感が心を襲う。

 とにかくこの人物のことは置いておき、魔法少女について調べるべきだろう。それが一番だと思いたいが、出来るだけ慎重に行動するべきだろう。調べるにしてもここじゃまずい、明日にでもちょっと遠くのネットカフェで調べることにしよう。それで完全に安全だとは言えないが、ここで調べるよりは幾分かマシだろう。

 僕はソファの方へ向かい静かに眠りについた。
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