8 / 16
1
8
しおりを挟む
「そんなんじゃない」
とっさに誤魔化してはみたものの、今の状況では言葉よりも表情の方が信じられてしまう事だろう。まあ別にいいけど。
「誤魔化さなくていいじゃない。王国の料理はどれも味付けが単調だから仕方ないわよ。まあそれも悪くはないんだけど、芳醇な香りのソースや原産の野菜を使ったウトピアの味には遠く及ばないもの」
「そんなに美味しいのか?」
思わず生唾を飲み込む。王国の料理とやらにもいまだにありつけてはいないが、それよりも遥かに美味しいものがあると言われればどんな人間でもそうする。誰もが至高の料理を前にしては平然としていられない。
僕だってそうだ。料理の味なんてたいしてわからないけど、たぶん本当に美味しいものってそういうもののはずだ。
「たぶん私の贔屓もあるとは思うけど、自身を持ってお勧めできるわよ。でも今の状況でウトピアにわたるのはおすすめしないけどね」
そう言ってシアは苦笑いを浮かべた。
今の状況というのはどういう意味なんだろうか、王国とウトピアで戦争でもしているのだろうか……でもそれならシアがこちら側へ渡って来れるはずがない。もっと何か個人的なことだなのだろう。しかし僕には何も思い当たらない。
「どうしてだ?」
「だって、あなた。お父様とあったら大変なことになるもの」
「うん? それでどうして君の父上と会ったら大変なん……あ――」
そうだ。僕は彼女の父からしてみれば、よく知りもしないのに婚約を交わした男だ。しかもある意味では僕は彼女のヒモであるととられても不思議ではない状況だ。そんな僕が、彼女の父に会うなんて絞首台に自ら上るようなもの……今は彼女の父と会うのは避けたい。おそらく父親としての経験がないであろう僕にだって、娘がこんな男と婚約したらその男を殴り飛ばしたくなるってことぐらいは分かる。
すっかり忘れていたが、僕は彼女の婚約者なんだ。それがどれだけ不本意なことであったとしても、その事実が変わる事はない。ある意味では不貞を働いたととられても仕方ない。
「私にしてみれば、それほどでもないけど。あなたにしてみればかなり状況は悪いのよ。だから一刻も早く失われた魔法を見つけなくちゃいけないわ!」
不敵な笑みを浮かべて「ふふっ」と笑うシアは、僕の目から見るとまるで悪魔のように映った。でもすべての元凶は僕であるが故に、彼女を責めることも出来ないのが口惜しい。
「不本意な婚約すらも開拓に利用するんだな。ものすごいフロンティアスピリットだ」
「不本意ってほどでもないわ。私にしてみれば、誰と結婚しても同じことだもの。それにどっちにしても、失われた魔法は探すつもりだったわ。それがちょっと早まったってだけの話よ」
「誰と結婚しても同じはちょっと言いすぎじゃないか? 結婚は本当に好きな人とするべきだ」
シアは僕が口にした言葉が予想外だったらしく、少しだけ困惑した表情を見せてからすぐに元の表情に戻り「そうね」と一言だけつぶやいた。
ほんの数時間一緒に居ただけの人間に驚かれるんだから、僕自身はそんな自分にもっと驚いている。僕にとっては結婚はおろか、『愛』だってどうでもいいものだとばかり思っていた。だからまさか自分の口から恋愛論が飛び出すだなんて思ってもいなかった。
「ともかく、君は僕との婚約を解消したいんだろう? だったら、少なからず僕との婚約は不本意なはずだ」
僕だって何の努力もしない人間と結婚させられそうになったら、きっとそうならないようにあらゆる手をつくす。今の僕にっては、逆玉の輿になりかねない状況だからそこまで必死になっていない部分もある。
それなのに、シアはそんな僕を見ても別段文句を言うわけでもなく冷静に話してくれている。それはきっと、『失われた魔法を探す』という目的があるからというのもあるだろうが、僕の罪悪感を少しでも和らげようとする意図があるのかもしれない。もしかしたら、僕の単なる妄想に過ぎないのかもしれないけど、その可能性は大きいと思う。それに――妄想は覚めなければ現実と同じだ。
「もちろん、婚約自体は不本意よ。それを否定するつもりはないけど、すでに起こってしまったことは変えることが出来ないのよ。起こしてしまったことを悔やんでも仕方がないの。それに、実のところ婚約したのがあなたでよかったと少しだけ思ってるわ! だからこの話は終わり!」
表情を全く変えることなく放ったそんなシアの言葉によって、婚約の話は打ち切られた。
愚かなことだけど、僕はほんの少しだけ自身の心音が早くなるのを感じていた。
僕でよかった――そこにどんな真意があるのかは想像するしかない。だけど、それがいい理由であれ、悪い理由であれ、彼女の様な美人にそう言われればうれしいに決まっている。それだけで僕は思わず舞い上がってしまった。
彼女が僕なんて相手にするわけないと、心のどこかで分かっていても彼女の言葉がうれしいくて仕方がなかった。
とっさに誤魔化してはみたものの、今の状況では言葉よりも表情の方が信じられてしまう事だろう。まあ別にいいけど。
「誤魔化さなくていいじゃない。王国の料理はどれも味付けが単調だから仕方ないわよ。まあそれも悪くはないんだけど、芳醇な香りのソースや原産の野菜を使ったウトピアの味には遠く及ばないもの」
「そんなに美味しいのか?」
思わず生唾を飲み込む。王国の料理とやらにもいまだにありつけてはいないが、それよりも遥かに美味しいものがあると言われればどんな人間でもそうする。誰もが至高の料理を前にしては平然としていられない。
僕だってそうだ。料理の味なんてたいしてわからないけど、たぶん本当に美味しいものってそういうもののはずだ。
「たぶん私の贔屓もあるとは思うけど、自身を持ってお勧めできるわよ。でも今の状況でウトピアにわたるのはおすすめしないけどね」
そう言ってシアは苦笑いを浮かべた。
今の状況というのはどういう意味なんだろうか、王国とウトピアで戦争でもしているのだろうか……でもそれならシアがこちら側へ渡って来れるはずがない。もっと何か個人的なことだなのだろう。しかし僕には何も思い当たらない。
「どうしてだ?」
「だって、あなた。お父様とあったら大変なことになるもの」
「うん? それでどうして君の父上と会ったら大変なん……あ――」
そうだ。僕は彼女の父からしてみれば、よく知りもしないのに婚約を交わした男だ。しかもある意味では僕は彼女のヒモであるととられても不思議ではない状況だ。そんな僕が、彼女の父に会うなんて絞首台に自ら上るようなもの……今は彼女の父と会うのは避けたい。おそらく父親としての経験がないであろう僕にだって、娘がこんな男と婚約したらその男を殴り飛ばしたくなるってことぐらいは分かる。
すっかり忘れていたが、僕は彼女の婚約者なんだ。それがどれだけ不本意なことであったとしても、その事実が変わる事はない。ある意味では不貞を働いたととられても仕方ない。
「私にしてみれば、それほどでもないけど。あなたにしてみればかなり状況は悪いのよ。だから一刻も早く失われた魔法を見つけなくちゃいけないわ!」
不敵な笑みを浮かべて「ふふっ」と笑うシアは、僕の目から見るとまるで悪魔のように映った。でもすべての元凶は僕であるが故に、彼女を責めることも出来ないのが口惜しい。
「不本意な婚約すらも開拓に利用するんだな。ものすごいフロンティアスピリットだ」
「不本意ってほどでもないわ。私にしてみれば、誰と結婚しても同じことだもの。それにどっちにしても、失われた魔法は探すつもりだったわ。それがちょっと早まったってだけの話よ」
「誰と結婚しても同じはちょっと言いすぎじゃないか? 結婚は本当に好きな人とするべきだ」
シアは僕が口にした言葉が予想外だったらしく、少しだけ困惑した表情を見せてからすぐに元の表情に戻り「そうね」と一言だけつぶやいた。
ほんの数時間一緒に居ただけの人間に驚かれるんだから、僕自身はそんな自分にもっと驚いている。僕にとっては結婚はおろか、『愛』だってどうでもいいものだとばかり思っていた。だからまさか自分の口から恋愛論が飛び出すだなんて思ってもいなかった。
「ともかく、君は僕との婚約を解消したいんだろう? だったら、少なからず僕との婚約は不本意なはずだ」
僕だって何の努力もしない人間と結婚させられそうになったら、きっとそうならないようにあらゆる手をつくす。今の僕にっては、逆玉の輿になりかねない状況だからそこまで必死になっていない部分もある。
それなのに、シアはそんな僕を見ても別段文句を言うわけでもなく冷静に話してくれている。それはきっと、『失われた魔法を探す』という目的があるからというのもあるだろうが、僕の罪悪感を少しでも和らげようとする意図があるのかもしれない。もしかしたら、僕の単なる妄想に過ぎないのかもしれないけど、その可能性は大きいと思う。それに――妄想は覚めなければ現実と同じだ。
「もちろん、婚約自体は不本意よ。それを否定するつもりはないけど、すでに起こってしまったことは変えることが出来ないのよ。起こしてしまったことを悔やんでも仕方がないの。それに、実のところ婚約したのがあなたでよかったと少しだけ思ってるわ! だからこの話は終わり!」
表情を全く変えることなく放ったそんなシアの言葉によって、婚約の話は打ち切られた。
愚かなことだけど、僕はほんの少しだけ自身の心音が早くなるのを感じていた。
僕でよかった――そこにどんな真意があるのかは想像するしかない。だけど、それがいい理由であれ、悪い理由であれ、彼女の様な美人にそう言われればうれしいに決まっている。それだけで僕は思わず舞い上がってしまった。
彼女が僕なんて相手にするわけないと、心のどこかで分かっていても彼女の言葉がうれしいくて仕方がなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
※他サイトでも掲載しています
※ちょいちょい手直ししていってます
2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる