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ただ茫然と街を歩いている。
レンガで舗装された道は日本の田舎の道よりも遥かに歩きやすく、清掃が行き届いていて都会の道路よりも歩いていて清々しい気持ちにさせてくれる。とはいっても、僕はこの街をそれほど散策したことはないから、街全体がこうなのかはよくしらない。
どっちにしても、僕に向けられる街の住人達からの奇異の目は気分がよくない。
「それにしても……よかったのか? 家を空けて来て」
僕は居心地の悪さを感じて、一緒に買い物へと出てきたシアに話を振る。
シアは「大丈夫よ」と一言だけ返すとそのまま黙り込む。
浮浪者として1人でいた時はそれほど気にならなかったが、住人たちの目が気になってしまうのはシア程の美人と一緒に歩いているからだろう。この国の大体の人間が美男美女とはいっても、僕と同じように浮浪者をしていた人たちは身なりを整えていない分、清潔さはなかったから自分の容姿なんて気にもならなかったが、今ではそんな自身の容姿が気になって仕方がない。
そんなくだらないことを考えていると、向かいから明らかに他の住人たちと毛色の違う恰幅が良い初老の男が歩いてくるのが見えた。素人の僕でもわかるほどに質のいい衣類を身にまとっていることから、彼がかなりの金持ちであることはたやすくわかる。
自分と同じでどこかしらに欠陥を持つ人間を見ると気分が落ち着くのは僕の性格が悪いせいだろうか。
なんてことを考えていると、初老の男がどんどんこちらに近づいてくる。
シアの知り合いだろうかと彼女の方に顔を向けてみるが、彼女の表情にも動作も特に変化はない。
「これは、これは……」
初老の男が話しかけて来たのは、予想外にも僕の方だった。
だけど、僕にはそんな高貴そうな人間の知り合いはいない。いいや、悲しいことだがこの街におおよそ知り合いと呼べる人間は存在しないはずだ。誰か別人と簡易害されているらしい。もし仮に、僕の記憶にないだけでどこかで知り合っているのだとしたら失礼かもしれないが、それでも記憶にない人間のことを知っている風を装って話すのは苦手だ。
「どちら様でしょうか?」
僕がそう訊ねると、男は意外そうな表情でニヤリと口角を吊り上げる。
「失礼しました。あなたの顔があまりにも私の知り合いに似ていたもので。しかし、近くで見るとまるで違う。あの御方ほどの畏れを感じない。それにこの街には来たばかりのようだ」
「僕の質問には答えていただけないのですか?」
「おっと失礼。私はアドマゲン・ミラルと申します」
アドマゲン・ミラル……聞いたことない名前だし、特にピンと来るものもない。ちらりとシアの方を見ると、ほんの少しだが驚いたような表情をしている気がする。もしかすると有名な名前なのかもしれない。
おっと、名乗ってもらった以上は僕も名乗らなければ。
「僕はユージンです。そしてこちらが――」
「セアラー・カルブンクルスです。ミラル殿のご活躍は嫌でも耳に入ってきますわ」
シアが自己紹介すると、アドマゲンと名乗った男が不気味に笑みを浮かべた。
「なるほど、あなたがあの……私程度の存在を気にかけて頂けているとは光栄です」
「『北海の覇者』を知らずに冒険者を名乗るのは、王の名を知らずに貴族として過ごしているのと同じですよ」
「懐かしいなです。私の故郷でその名を口にする者はいなくなりました。今の私は一介の商人でしかありませんからね」
「騎士の称号を持つあなたが……」
そんな風に2人が話している間、この世界の事情に疎い僕は置いてけぼりをくらった気分だ。『北海の覇者』とか言われても、それが何なのか全くわからないし、そもそもそれほど興味もない。自分から名を聞いておいてなんだが目の前に立つ男が何者かなんて、記憶が混濁している僕からしたらかなりどうでもいいことだ。名前を聞けば何かピンとくるものがあるかもしれないと思ったが、今は早く話を切り上げてほしいという気持ちでいっぱいだ。
だがそんな僕をよそに、2人は何かよくわからないことをべらべらと話している。彼らの話は僕にはよくわからないし、それから何かしらの記憶が思い出されるわけでもない。ただ、シアがこれほどまでに話し込むには何かしらのわけがあるのだろう。それもシアがこの男に興味を持ったのは名前を聞いてからだ。その名前がよっぽど有名な名前だったのだろう。長話ししなければいけないほどに。
レンガで舗装された道は日本の田舎の道よりも遥かに歩きやすく、清掃が行き届いていて都会の道路よりも歩いていて清々しい気持ちにさせてくれる。とはいっても、僕はこの街をそれほど散策したことはないから、街全体がこうなのかはよくしらない。
どっちにしても、僕に向けられる街の住人達からの奇異の目は気分がよくない。
「それにしても……よかったのか? 家を空けて来て」
僕は居心地の悪さを感じて、一緒に買い物へと出てきたシアに話を振る。
シアは「大丈夫よ」と一言だけ返すとそのまま黙り込む。
浮浪者として1人でいた時はそれほど気にならなかったが、住人たちの目が気になってしまうのはシア程の美人と一緒に歩いているからだろう。この国の大体の人間が美男美女とはいっても、僕と同じように浮浪者をしていた人たちは身なりを整えていない分、清潔さはなかったから自分の容姿なんて気にもならなかったが、今ではそんな自身の容姿が気になって仕方がない。
そんなくだらないことを考えていると、向かいから明らかに他の住人たちと毛色の違う恰幅が良い初老の男が歩いてくるのが見えた。素人の僕でもわかるほどに質のいい衣類を身にまとっていることから、彼がかなりの金持ちであることはたやすくわかる。
自分と同じでどこかしらに欠陥を持つ人間を見ると気分が落ち着くのは僕の性格が悪いせいだろうか。
なんてことを考えていると、初老の男がどんどんこちらに近づいてくる。
シアの知り合いだろうかと彼女の方に顔を向けてみるが、彼女の表情にも動作も特に変化はない。
「これは、これは……」
初老の男が話しかけて来たのは、予想外にも僕の方だった。
だけど、僕にはそんな高貴そうな人間の知り合いはいない。いいや、悲しいことだがこの街におおよそ知り合いと呼べる人間は存在しないはずだ。誰か別人と簡易害されているらしい。もし仮に、僕の記憶にないだけでどこかで知り合っているのだとしたら失礼かもしれないが、それでも記憶にない人間のことを知っている風を装って話すのは苦手だ。
「どちら様でしょうか?」
僕がそう訊ねると、男は意外そうな表情でニヤリと口角を吊り上げる。
「失礼しました。あなたの顔があまりにも私の知り合いに似ていたもので。しかし、近くで見るとまるで違う。あの御方ほどの畏れを感じない。それにこの街には来たばかりのようだ」
「僕の質問には答えていただけないのですか?」
「おっと失礼。私はアドマゲン・ミラルと申します」
アドマゲン・ミラル……聞いたことない名前だし、特にピンと来るものもない。ちらりとシアの方を見ると、ほんの少しだが驚いたような表情をしている気がする。もしかすると有名な名前なのかもしれない。
おっと、名乗ってもらった以上は僕も名乗らなければ。
「僕はユージンです。そしてこちらが――」
「セアラー・カルブンクルスです。ミラル殿のご活躍は嫌でも耳に入ってきますわ」
シアが自己紹介すると、アドマゲンと名乗った男が不気味に笑みを浮かべた。
「なるほど、あなたがあの……私程度の存在を気にかけて頂けているとは光栄です」
「『北海の覇者』を知らずに冒険者を名乗るのは、王の名を知らずに貴族として過ごしているのと同じですよ」
「懐かしいなです。私の故郷でその名を口にする者はいなくなりました。今の私は一介の商人でしかありませんからね」
「騎士の称号を持つあなたが……」
そんな風に2人が話している間、この世界の事情に疎い僕は置いてけぼりをくらった気分だ。『北海の覇者』とか言われても、それが何なのか全くわからないし、そもそもそれほど興味もない。自分から名を聞いておいてなんだが目の前に立つ男が何者かなんて、記憶が混濁している僕からしたらかなりどうでもいいことだ。名前を聞けば何かピンとくるものがあるかもしれないと思ったが、今は早く話を切り上げてほしいという気持ちでいっぱいだ。
だがそんな僕をよそに、2人は何かよくわからないことをべらべらと話している。彼らの話は僕にはよくわからないし、それから何かしらの記憶が思い出されるわけでもない。ただ、シアがこれほどまでに話し込むには何かしらのわけがあるのだろう。それもシアがこの男に興味を持ったのは名前を聞いてからだ。その名前がよっぽど有名な名前だったのだろう。長話ししなければいけないほどに。
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