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色街の華・Ⅰ
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本格的な秋の風景の中
3人旅になった京らは摂津を訪れていた
大町、その中で千鶴の身なりを普通の物に、せめて剣士か浪人か、という姿に変えさせた
あまり豪華で高級な物だと目だって仕方ないのと。言葉使いもそれに順ずる物にした
どうにか「わらわ」というのは直ったが、女史なのに「拙者は、わたくしは」と言う様になった、彼女自身が武芸の心得多いというのと、時代が数十年前なら姫武者として活躍出来たであろう心得と武的性格であった故である
元々目立つ二人だが、それに三人に成っただけだな、と京も藍も特に気にしなかった
一方名は藍の時と違いそのまま「千鶴」と名乗った、別に珍しい名と言う事でも無く、元の土地を離れれば知る人間が居ない事でもあった
「流石に良い街ですね」
一同が取った宿で夕食取りつつ藍は言った。泊まった宿もそこそこ良い宿である。何しろかなり金はある「今の所は」
「今後どうするのか?」
「うーん、道場でも回ってみるか?街の規模らしくそれだけの物も多かろう」
「いいですね、わたくしも普通の剣術を見てみたい」
千鶴は乗り気だった
「千鶴はどこの剣術を?」
「幼い頃からせがんで剣術の師をつけて貰った「一刀流」じゃ」
「ほほう」
「それは業前を私も見てみたいですね」
乗り気なのは二人もだったらしい。翌日、手近な大きな道場へ向かった
その場で千鶴は「手合わせ」として挑み試合し、いきなり勝った
その後も、1人、2人と勝ち見ていた京らも驚いた。大町の剣術道場と言えばそれだけの剣士も居る、にも関わらずそれを寄せ付けない程の強さをみせた
しかしそれに藍は不思議だった様に首を捻って京の隣で小声で言った
「あれほど強いとは思いませんでした、が、だとしたら何故‥」
「どういう事だ?」
「ええ、例の継母の一件で刺客と戦いましたよね、2回」
「うむ」
「その時はそこいらの剣士よりはマシ、という程度だったのですが、今の様に、道場だとやたら強い、おかしくありません?」
「おそらくだが実戦、所謂「真剣での斬り合い」が無い事ではないか?」
「あ‥経験値ですか」
「それにもしかしたら、藍と似た様な物があるのかも」
「成程‥たしかにありえますね」
実際、その通りである、幼い頃から多くの師に付いて正統な剣術を学んだ、才能もまず素晴らしい、この様に道場では無双する程強い、となれば。藍が抱えている「斬れない」という心の問題を抱えている可能性が高い
それに「真剣で斬る」というのは最初は誰でも難しいものである「姫」に斬り合いの機会が多くあるとも思えない
「うーむ‥当人の傷をえぐる事になるのもなぁ‥」
「しかし、もったいなくもありますし‥」
そう見学した二人も悩んだが、結果的には聞き出す事にはなる
その日の手合わせは恐ろしい事に千鶴は師範代にまで接戦で勝って、喝采される事となり、比較的和やかなまま終える事となった
夕方の飯屋での食事の場で「その事」を聞く事となった、意外な事に千鶴はそれをすんなり語った
「情けない、と、思われるかも知れぬが、真剣が怖いのです‥生き死にでは無く相手を殺してしまうという事が」
「何故ですか?」
「実は木刀剣術を習った後、真剣での立ち合いも練習したのじゃが誤って師を斬ってしまって」
「え?!」
「いや、軽く当ってしまった程度だ、大怪我では無かったのだが‥」
「いくつの頃だ?」
「13です」
「その時点でその師が受け損なうほどの力があった、という事でもあるな」
「それだけに惜しい」
千鶴が躊躇い無く話した理由、それは簡単である
「わたくしは自分でも問題は判っています、どうしたらいいでしょう?」そう聞いたのだ
つまるところ、京や藍にその解決方法があれば、と思っていたのだ
「うーん‥心の問題、というのはそう簡単には解決せんな‥既に何年も経っている訳だし‥」
「いっそ私と同じやり方を覚えますか?」
「どうかな、振る事自体躊躇いがあるなら、藍の様に変則するのも難しい、まして正統剣術であるしな」
「困りましたね‥」
「なら、私の業でも学んでみるか?」
「あ‥」
「え?!」
そう、京の技は変則に見えるが実際は極めて正統で非常に高度な技術である。それだけに使い手を選ぶ、そしてそれを達成出来るのではないか?という思いも今日のあの腕前を見て同時あった、だから
「やってみるか?」そう言って促した
「はい」と千鶴もそれを受けたのである
翌朝には街の外れ、空き地の雑木林に行った。人も居ないし余り問題ないだろうとの事だ、まず、京は千鶴の剣を借り、やって見せた
「秋の頃というのが丁度いい、まず、練習方法を見せる」と
真剣を抜いて右片手でだらりと持ち、目の前をヒラヒラと落ちる、枯れ始めの葉っぱを軽く三度、無造作に払って見せた
剣を納めて、その払った葉っぱを拾って見ている2人に見せた。それを見せられて藍も千鶴も仰天した
葉っぱの真ん中に通る筋を正確に半分に切って両断していたのだ
「信じられない‥」
「軽く払った様に見えないのに‥」
思わず言うしかない
「寧ろ「軽く」じゃないと早く振れないんだなこれが、それで私の技は「速さ」が最も重要でもある」
「と言うと?」
「動いてる相手、刀を振ってくる相手の速度を無しにする事が最も楽だからだ」
「うん?」
「つまりだ、相手の速さが1だとして、こちらも1であるが、それを1対2あるいは3とこちらの速度を上げて打てば向こうは相対的に遅い、という事に出来る」
「こちらが早い分、相手が遅く「感じる」という事ですか」
「止まってる者を打つのは容易い、が相手は動いている、だから速さが少しでも上回った方が良い、まして当てるのは指や甲だ」
「なるほど」
「もう一つが「真剣を使わない前提」であるからこの技のやり方は二つに分かれる、一つが「後の先」」
「先手を取らせて後から動いても勝つ事ですね」
「うむ、それに敵が攻撃に入ってからそれを変化させるのは難しい、故に「狙い」がこちらは付け易い、という事、だから向こうが動いてから打つのだ」
「もう一つが「真剣でない」ゆえに打ちズレが困るという事、何度も同じ相手に通じる技でもないし、正確に一手で決めねば成らない、真剣で無いという事は打ちミスをしたらそれで終わりな事もある」
「確かに、真剣ならどこかに当れば斬れますからね」
「故、この技は早く、正確に、手首の関節、刀を持つ利き手親指等を狙って寸分違わず「当てる」事が重要だ、そしてそれに全力斬りは必要ない、持てなくすればいいだけだ」
「成程‥」
「向こうが振ってくる手に当れば2倍の打撃になる、だから力はそれほどいらない」
「ある意味、籠手打ちの究極ですね‥しかし‥」
「かなり修練が要るだろう、とは言え千鶴ならやれるとは思うが」
「元々が正統な技ですからね」
「そういう事だ、その土台があるとも言える」
「わ、分かりました‥やってみます」
そうして京は千鶴に刀を返し、千鶴も試し試し始める事となる、無論細かい指導も入るが
「あの、片手持ちの方が良いのですか?」
「そうだな、後々の事を考えるとその方が良い」
「後々?」
「距離だよ」
「ああ‥」
京が何時もそうするのは余裕や馬鹿にしての事では無い、体を半身に向け、片手、肩幅の長さも加えて「刀の長さ」を伸ばす為でもある
「同じ長さの刀を使っても、これで寸で距離が伸びる、更に種明かしすると、柄の握る場所も状況によって変える」
「そ、そこまで」
「下の方、後ろをギリギリで持ったら更に3、4寸伸びるからな、まあ、始めはそこまでやる必要は無い、慣れたらやってみればいい」
「はい!」
「でだ、後の先であるからにはかわしてから打つという意味でもそれは有効だ、向こうが振っても届かない距離から打てるからな」
「だから京さんの刀は長柄の長刀なんですね」
「そうだ」
「よく考えられてますね‥」
「斬らぬ、事を追求した場合、真剣を使わない事を決めた時から、まあ、相当色々試行錯誤したものさ‥」
「うーん、これは凄い、が難しい‥」
葉っぱを払いながら、千鶴もそう言った。そもそもヒラヒラ落ちてくる葉っぱを普通に斬るのもなかなか難しかった。動きが不規則な上、片手斬りは刀が重い
ハッキリ言って千鶴の振る動きもヘロヘロだったりする
「ま、時間はある、無理しない程度にやっていけばいいさ。それに、防御してから隙に返す、という「普通の剣術の技」で普段は使えば良い、いきなりは出来んからな」
「は、はい!」
と、応え、千鶴か練習を続けた
だがこの練習は理に適っていた。そもそも動く人間に当てる為の物であるし、止まっている的を当ててもそれだけになる、更に力任せに振っても切れないし、動きも遅くなる
「軽く、早く、正確に」がこの技の肝である
何しろ、相手が振ってくる剣の持ち手、しかも指や甲に正確に、小手うちを返す技である
「狙って当てる、のでは無く、ある程度動きを予測して「置いておく」という気持ちでやってみろ、狙い始めた時にはもう相手は居ないぞ、ほうきでゴミを払うくらいの軽い気持ちでいいんだ」
「な、成程」
そのアドバイスが利いたのか、千鶴は5回に一回は葉っぱを斬り始める
「おお‥」と一同も驚きだった、ただ、思っている事は全員別だったが
「やはり向いているな」と京は思い
「なんと的確な助言」と千鶴は思った
やはり向いている、と思った通り。元は正統剣術の「受け」とかわした後の「落とし」である
それの亜種であるからにはきちんとした技術の持ち手である千鶴には、それほど無謀な技で無く、上手く嵌る
無論、京の技はこれだけで無く、多種多様な技があるが基礎はこれである
そう、出来る様になると、千鶴も面白くて仕方なく集中して続ける様になる。その練習を一心に続ける千鶴をそこに任せ、自分らは別に動く事にした
「千鶴、私達は街に戻る、練習は程ほどにな」
「後で宿で会いましょう」
「はい」
と一時離れ街まで戻って、京と藍も別れた
「暫く自由にしよう、私は武器を探す」
「武器?」
「うむ、あの技には私と同じ得物が必要だ」
「成程、では、私も夕刻まで遊ばせて貰いましょう」
「ああ、ではな」
京は言った通り、武器屋を回った、形は珍しい ではあるが似た物、それが有ればよい。真剣である必要もなく、それは容易に見つかる
「これでいい、貰おう」
「へい」
と二両払ってそれを購入、決して中古の悪いものでは無く古いが品はそこそこ良いものだ
「どこか鍛冶が出来る所はないか?」
「へい、鍛えなおすので?」
「それもある」
「うーむ」
「そうだな、改造、改良の類が出来そうな奴だ」
「ああ、それなら、南の長屋に行ってみな。桃原 智、て奴、若いが腕はいいし変わった物を作る面白い奴だ」
「分かった有り難う」
そう言われた通り、京は桃原なる男を訪ね依頼した
「これと同じ物を長さは両端一寸ほど短く、先も潰してくれて良い」
桃原は京の刀を見て面白そうに笑ってそれを二つ返事で受けた
「へぇ、あえて真剣で無く、打撃刀にするのか‥こんな依頼は初めてだ」
「ああ、だが実際の打ち合いで使う、頑丈であればあるほど良い持ち手の後ろに指の掛かり、間は滑りよく、だ」
「ほう、柄の持ち手を滑らせて使うのか?」
「そうだ」
「成程ねぇ‥斬りながら打ちの距離を伸ばすって訳か」
「分かるのか」
「おっと、怖い顔するなよ、俺も元剣士ってだけさ」
「そうか」
「そうだな2,3日貰っていいか?」
「ああ、任せるよ」
「では、三日後に」
両者そのまま別れた
三者、京、藍、千鶴は夕刻、宿に戻って食事の場で顔を合わせ、それぞれ報告した
「刀が出来るまで待った方が良いでしょうか?」と藍は言った
「そんな事も無いが‥何かあったか?」
「はあ、実は街で楽で面白い仕事が」
「どんな?」
「護衛です」
「それのどこが面白いのだ」
「女の護衛です」
「なんだそれは??」
「色街の」
それを聞いて思わず京は茶でむせた、千鶴は意味不明だったらしく
「なんだ色街とは?」
「所謂遊郭の類の警備です」
「んな?!そんな仕事があるのか!?」
「はぁ、しかも条件が腕に覚えありで見た目がゴツク無い奴だそうで」
たしかにその条件ならこの三人にはうってつけだろう、が
「もう少しまともな仕事は無いのか‥」
「そうなんですが金は良いし、条件が条件だけに全く人が集まらないらしいので、面白そうじゃないですか?」
「あのな‥」
「うーん、たしかに面白そうだ」
何故か千鶴が乗り気である
「意味分かってるのか千鶴‥」
「知らない事をするというのは面白いかと」
「だめだこりゃ‥」
「何を言う、仕事なら選り好みするべきではないだろう、それに守りの仕事というのは人の役に立つはずです」
「‥」
京も藍も何も言えなかった、やっぱり「姫」なんだなぁという呆れと、正論には違い無いという両方である
正直全く気乗りしない京だが一方で、最初の実戦のありそうな仕事としては悪くなかろうという事
揉め事に成っても大した相手が出る事は無いという思い、千鶴にはちょうどいい難易度だろうとも思った
更に言えば住み込み、金も良い、と成れば生活費が掛からんのである、京が全く気乗りしない理由は直ぐ分かる
翌日さっそく募集の紙をもってその色街に行って入ると、入り口から目的の屋敷まで20人くらいの女に京が絡まれた事である
「まぁ、良い男」
「どうだいうちの函に‥」と引っ切り無しになったのである
(だから嫌なんだ‥)と呟いた
3人旅になった京らは摂津を訪れていた
大町、その中で千鶴の身なりを普通の物に、せめて剣士か浪人か、という姿に変えさせた
あまり豪華で高級な物だと目だって仕方ないのと。言葉使いもそれに順ずる物にした
どうにか「わらわ」というのは直ったが、女史なのに「拙者は、わたくしは」と言う様になった、彼女自身が武芸の心得多いというのと、時代が数十年前なら姫武者として活躍出来たであろう心得と武的性格であった故である
元々目立つ二人だが、それに三人に成っただけだな、と京も藍も特に気にしなかった
一方名は藍の時と違いそのまま「千鶴」と名乗った、別に珍しい名と言う事でも無く、元の土地を離れれば知る人間が居ない事でもあった
「流石に良い街ですね」
一同が取った宿で夕食取りつつ藍は言った。泊まった宿もそこそこ良い宿である。何しろかなり金はある「今の所は」
「今後どうするのか?」
「うーん、道場でも回ってみるか?街の規模らしくそれだけの物も多かろう」
「いいですね、わたくしも普通の剣術を見てみたい」
千鶴は乗り気だった
「千鶴はどこの剣術を?」
「幼い頃からせがんで剣術の師をつけて貰った「一刀流」じゃ」
「ほほう」
「それは業前を私も見てみたいですね」
乗り気なのは二人もだったらしい。翌日、手近な大きな道場へ向かった
その場で千鶴は「手合わせ」として挑み試合し、いきなり勝った
その後も、1人、2人と勝ち見ていた京らも驚いた。大町の剣術道場と言えばそれだけの剣士も居る、にも関わらずそれを寄せ付けない程の強さをみせた
しかしそれに藍は不思議だった様に首を捻って京の隣で小声で言った
「あれほど強いとは思いませんでした、が、だとしたら何故‥」
「どういう事だ?」
「ええ、例の継母の一件で刺客と戦いましたよね、2回」
「うむ」
「その時はそこいらの剣士よりはマシ、という程度だったのですが、今の様に、道場だとやたら強い、おかしくありません?」
「おそらくだが実戦、所謂「真剣での斬り合い」が無い事ではないか?」
「あ‥経験値ですか」
「それにもしかしたら、藍と似た様な物があるのかも」
「成程‥たしかにありえますね」
実際、その通りである、幼い頃から多くの師に付いて正統な剣術を学んだ、才能もまず素晴らしい、この様に道場では無双する程強い、となれば。藍が抱えている「斬れない」という心の問題を抱えている可能性が高い
それに「真剣で斬る」というのは最初は誰でも難しいものである「姫」に斬り合いの機会が多くあるとも思えない
「うーむ‥当人の傷をえぐる事になるのもなぁ‥」
「しかし、もったいなくもありますし‥」
そう見学した二人も悩んだが、結果的には聞き出す事にはなる
その日の手合わせは恐ろしい事に千鶴は師範代にまで接戦で勝って、喝采される事となり、比較的和やかなまま終える事となった
夕方の飯屋での食事の場で「その事」を聞く事となった、意外な事に千鶴はそれをすんなり語った
「情けない、と、思われるかも知れぬが、真剣が怖いのです‥生き死にでは無く相手を殺してしまうという事が」
「何故ですか?」
「実は木刀剣術を習った後、真剣での立ち合いも練習したのじゃが誤って師を斬ってしまって」
「え?!」
「いや、軽く当ってしまった程度だ、大怪我では無かったのだが‥」
「いくつの頃だ?」
「13です」
「その時点でその師が受け損なうほどの力があった、という事でもあるな」
「それだけに惜しい」
千鶴が躊躇い無く話した理由、それは簡単である
「わたくしは自分でも問題は判っています、どうしたらいいでしょう?」そう聞いたのだ
つまるところ、京や藍にその解決方法があれば、と思っていたのだ
「うーん‥心の問題、というのはそう簡単には解決せんな‥既に何年も経っている訳だし‥」
「いっそ私と同じやり方を覚えますか?」
「どうかな、振る事自体躊躇いがあるなら、藍の様に変則するのも難しい、まして正統剣術であるしな」
「困りましたね‥」
「なら、私の業でも学んでみるか?」
「あ‥」
「え?!」
そう、京の技は変則に見えるが実際は極めて正統で非常に高度な技術である。それだけに使い手を選ぶ、そしてそれを達成出来るのではないか?という思いも今日のあの腕前を見て同時あった、だから
「やってみるか?」そう言って促した
「はい」と千鶴もそれを受けたのである
翌朝には街の外れ、空き地の雑木林に行った。人も居ないし余り問題ないだろうとの事だ、まず、京は千鶴の剣を借り、やって見せた
「秋の頃というのが丁度いい、まず、練習方法を見せる」と
真剣を抜いて右片手でだらりと持ち、目の前をヒラヒラと落ちる、枯れ始めの葉っぱを軽く三度、無造作に払って見せた
剣を納めて、その払った葉っぱを拾って見ている2人に見せた。それを見せられて藍も千鶴も仰天した
葉っぱの真ん中に通る筋を正確に半分に切って両断していたのだ
「信じられない‥」
「軽く払った様に見えないのに‥」
思わず言うしかない
「寧ろ「軽く」じゃないと早く振れないんだなこれが、それで私の技は「速さ」が最も重要でもある」
「と言うと?」
「動いてる相手、刀を振ってくる相手の速度を無しにする事が最も楽だからだ」
「うん?」
「つまりだ、相手の速さが1だとして、こちらも1であるが、それを1対2あるいは3とこちらの速度を上げて打てば向こうは相対的に遅い、という事に出来る」
「こちらが早い分、相手が遅く「感じる」という事ですか」
「止まってる者を打つのは容易い、が相手は動いている、だから速さが少しでも上回った方が良い、まして当てるのは指や甲だ」
「なるほど」
「もう一つが「真剣を使わない前提」であるからこの技のやり方は二つに分かれる、一つが「後の先」」
「先手を取らせて後から動いても勝つ事ですね」
「うむ、それに敵が攻撃に入ってからそれを変化させるのは難しい、故に「狙い」がこちらは付け易い、という事、だから向こうが動いてから打つのだ」
「もう一つが「真剣でない」ゆえに打ちズレが困るという事、何度も同じ相手に通じる技でもないし、正確に一手で決めねば成らない、真剣で無いという事は打ちミスをしたらそれで終わりな事もある」
「確かに、真剣ならどこかに当れば斬れますからね」
「故、この技は早く、正確に、手首の関節、刀を持つ利き手親指等を狙って寸分違わず「当てる」事が重要だ、そしてそれに全力斬りは必要ない、持てなくすればいいだけだ」
「成程‥」
「向こうが振ってくる手に当れば2倍の打撃になる、だから力はそれほどいらない」
「ある意味、籠手打ちの究極ですね‥しかし‥」
「かなり修練が要るだろう、とは言え千鶴ならやれるとは思うが」
「元々が正統な技ですからね」
「そういう事だ、その土台があるとも言える」
「わ、分かりました‥やってみます」
そうして京は千鶴に刀を返し、千鶴も試し試し始める事となる、無論細かい指導も入るが
「あの、片手持ちの方が良いのですか?」
「そうだな、後々の事を考えるとその方が良い」
「後々?」
「距離だよ」
「ああ‥」
京が何時もそうするのは余裕や馬鹿にしての事では無い、体を半身に向け、片手、肩幅の長さも加えて「刀の長さ」を伸ばす為でもある
「同じ長さの刀を使っても、これで寸で距離が伸びる、更に種明かしすると、柄の握る場所も状況によって変える」
「そ、そこまで」
「下の方、後ろをギリギリで持ったら更に3、4寸伸びるからな、まあ、始めはそこまでやる必要は無い、慣れたらやってみればいい」
「はい!」
「でだ、後の先であるからにはかわしてから打つという意味でもそれは有効だ、向こうが振っても届かない距離から打てるからな」
「だから京さんの刀は長柄の長刀なんですね」
「そうだ」
「よく考えられてますね‥」
「斬らぬ、事を追求した場合、真剣を使わない事を決めた時から、まあ、相当色々試行錯誤したものさ‥」
「うーん、これは凄い、が難しい‥」
葉っぱを払いながら、千鶴もそう言った。そもそもヒラヒラ落ちてくる葉っぱを普通に斬るのもなかなか難しかった。動きが不規則な上、片手斬りは刀が重い
ハッキリ言って千鶴の振る動きもヘロヘロだったりする
「ま、時間はある、無理しない程度にやっていけばいいさ。それに、防御してから隙に返す、という「普通の剣術の技」で普段は使えば良い、いきなりは出来んからな」
「は、はい!」
と、応え、千鶴か練習を続けた
だがこの練習は理に適っていた。そもそも動く人間に当てる為の物であるし、止まっている的を当ててもそれだけになる、更に力任せに振っても切れないし、動きも遅くなる
「軽く、早く、正確に」がこの技の肝である
何しろ、相手が振ってくる剣の持ち手、しかも指や甲に正確に、小手うちを返す技である
「狙って当てる、のでは無く、ある程度動きを予測して「置いておく」という気持ちでやってみろ、狙い始めた時にはもう相手は居ないぞ、ほうきでゴミを払うくらいの軽い気持ちでいいんだ」
「な、成程」
そのアドバイスが利いたのか、千鶴は5回に一回は葉っぱを斬り始める
「おお‥」と一同も驚きだった、ただ、思っている事は全員別だったが
「やはり向いているな」と京は思い
「なんと的確な助言」と千鶴は思った
やはり向いている、と思った通り。元は正統剣術の「受け」とかわした後の「落とし」である
それの亜種であるからにはきちんとした技術の持ち手である千鶴には、それほど無謀な技で無く、上手く嵌る
無論、京の技はこれだけで無く、多種多様な技があるが基礎はこれである
そう、出来る様になると、千鶴も面白くて仕方なく集中して続ける様になる。その練習を一心に続ける千鶴をそこに任せ、自分らは別に動く事にした
「千鶴、私達は街に戻る、練習は程ほどにな」
「後で宿で会いましょう」
「はい」
と一時離れ街まで戻って、京と藍も別れた
「暫く自由にしよう、私は武器を探す」
「武器?」
「うむ、あの技には私と同じ得物が必要だ」
「成程、では、私も夕刻まで遊ばせて貰いましょう」
「ああ、ではな」
京は言った通り、武器屋を回った、形は珍しい ではあるが似た物、それが有ればよい。真剣である必要もなく、それは容易に見つかる
「これでいい、貰おう」
「へい」
と二両払ってそれを購入、決して中古の悪いものでは無く古いが品はそこそこ良いものだ
「どこか鍛冶が出来る所はないか?」
「へい、鍛えなおすので?」
「それもある」
「うーむ」
「そうだな、改造、改良の類が出来そうな奴だ」
「ああ、それなら、南の長屋に行ってみな。桃原 智、て奴、若いが腕はいいし変わった物を作る面白い奴だ」
「分かった有り難う」
そう言われた通り、京は桃原なる男を訪ね依頼した
「これと同じ物を長さは両端一寸ほど短く、先も潰してくれて良い」
桃原は京の刀を見て面白そうに笑ってそれを二つ返事で受けた
「へぇ、あえて真剣で無く、打撃刀にするのか‥こんな依頼は初めてだ」
「ああ、だが実際の打ち合いで使う、頑丈であればあるほど良い持ち手の後ろに指の掛かり、間は滑りよく、だ」
「ほう、柄の持ち手を滑らせて使うのか?」
「そうだ」
「成程ねぇ‥斬りながら打ちの距離を伸ばすって訳か」
「分かるのか」
「おっと、怖い顔するなよ、俺も元剣士ってだけさ」
「そうか」
「そうだな2,3日貰っていいか?」
「ああ、任せるよ」
「では、三日後に」
両者そのまま別れた
三者、京、藍、千鶴は夕刻、宿に戻って食事の場で顔を合わせ、それぞれ報告した
「刀が出来るまで待った方が良いでしょうか?」と藍は言った
「そんな事も無いが‥何かあったか?」
「はあ、実は街で楽で面白い仕事が」
「どんな?」
「護衛です」
「それのどこが面白いのだ」
「女の護衛です」
「なんだそれは??」
「色街の」
それを聞いて思わず京は茶でむせた、千鶴は意味不明だったらしく
「なんだ色街とは?」
「所謂遊郭の類の警備です」
「んな?!そんな仕事があるのか!?」
「はぁ、しかも条件が腕に覚えありで見た目がゴツク無い奴だそうで」
たしかにその条件ならこの三人にはうってつけだろう、が
「もう少しまともな仕事は無いのか‥」
「そうなんですが金は良いし、条件が条件だけに全く人が集まらないらしいので、面白そうじゃないですか?」
「あのな‥」
「うーん、たしかに面白そうだ」
何故か千鶴が乗り気である
「意味分かってるのか千鶴‥」
「知らない事をするというのは面白いかと」
「だめだこりゃ‥」
「何を言う、仕事なら選り好みするべきではないだろう、それに守りの仕事というのは人の役に立つはずです」
「‥」
京も藍も何も言えなかった、やっぱり「姫」なんだなぁという呆れと、正論には違い無いという両方である
正直全く気乗りしない京だが一方で、最初の実戦のありそうな仕事としては悪くなかろうという事
揉め事に成っても大した相手が出る事は無いという思い、千鶴にはちょうどいい難易度だろうとも思った
更に言えば住み込み、金も良い、と成れば生活費が掛からんのである、京が全く気乗りしない理由は直ぐ分かる
翌日さっそく募集の紙をもってその色街に行って入ると、入り口から目的の屋敷まで20人くらいの女に京が絡まれた事である
「まぁ、良い男」
「どうだいうちの函に‥」と引っ切り無しになったのである
(だから嫌なんだ‥)と呟いた
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※アルファポリス限定投稿
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蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
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