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色街の華・Ⅱ
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この頃の色街と言えば、後年出来る吉原とは違い別に入るのに許可も門無く誰でも入れる
こういった商売自体珍しい物でも無く、こういう大町となれば、店が集まって自然と街となるのである
ただ一般的にそれほど「売春」のイメージは無く、自由恋愛の場や金持ちの接待、見栄っ張りで豪華な酒宴の出来る場でもある
今回の募集の中身自体、あまり無骨な者が居ても困るのもその理由だ
目的の屋敷に到着後中に通され、そこでも一同はジロジロ見られるが、イチイチ気にしても仕方ないので軽くスルーして責任者と面会する
相手も女であったのは驚きである
「ふ~ん」とまたもジロジロ見られた
「どのくらいやれる?」
「1,2ヶ月くらいでしょうか」
「ふむ、まあいいか、とりあえず、で採用だ」
とあっさり決まる
「碌に調べもせずでいいのかね?」
「兎に角人が足りない、まあ、腕の方はそれほど要らないんだよ」
「と言うと」
「別に斬った張ったがある訳でもないし、精々乱暴な、あるいは酔っ払いの対処だ、それなりに出来るならそれでいいのさ」
「なるほど」
「じゃ、部屋をやるから控えて居といてくれ、と、今夜からでいいね?」
「うむ」
早速屋敷に部屋をあてがわれた
その座敷で事前調査済みの藍が彼女の情報を話した
「鳴門 朱里、この辺りの色町を仕切る人です、商人としても有名で相当な稼ぎがあります、お上にも顔の聞くお方で。奥方様と交流があるそうです、主に、櫛、簪等を納める関係からです、名は偽名とも聞きます、歳は27」
「いかにもな美女だな」
「ちょっと色気がきついですね」
そう話していると手下の者が部屋に現れ、詳細を伝えた
「皆さんにやってもらうのは、街の見回り、何か有った場合の仲裁、話が通じない者を追い出しです、昼は自由にして結構との事です」
とだけ伝えて出て行った
「なんだかてきとーな仕事だなぁ‥」
「ま、本気で人が居ない様ですから、先ほど朱里殿が言った様に大事は無いですし」
「まあいいか、昼は好きにしろってんなら好きにするさ」
「じゃ、私は寝ます、夜に備えて」と藍は隣部屋でさっさと寝た
「わたくしは剣の稽古を‥」と千鶴もさっさと出ていた
なんともまとまりの無い一団である
ただ、京も不本意な仕事でも適当に、とはいかなかった、その為朱里の部屋へ、今一度顔を出す
「ちょっと宜しいか?」と声を掛け
座敷に座った途端朱里はその座った膝の上に座って言った
「あたしに会いに来てくれたのかい?」
「あのな‥」
まるで犬か猫が匂い付けでもするかの様に顔を体に擦り付ける、まともに相手にするのも面倒なので無視して平然と話す京
「そんな事より、もう少し人数はどうにか成らんのか?」
「なんだい、つれない男だねぇ‥」と離れ、対面に座りなおす彼女
「けどまあ、合格だね」
「なにが?」
「女の色香にコロっといかない所がね」
「もしかしてあれか?この仕事で人が居ないってのは」
「そういう事‥大抵の男は街の女とどっかにふけっちまうのさ」
「成程ね‥」
「そもそも一週間持った試がない」
「しかし、私ら三人で街を全部見るのは無理だぞ」
「ま、夜はあたしも出るけどね、後はあんたらが居る、1,2ヶ月の間にどうにか募集で集まれば‥というのもある」
「そうか、まあしかたないな‥しかし「あたしも出る」とは?武芸の心得でもあるのか?」
「一応ね‥それに、顔は利くんでね」
「顔が利く、と言えばお上にも利くんだろ?その筋から当れんのか?」
「一応、岡っ引きやらは日に2度程回ってくれるんだがねぇ」
「無いよりマシ程度か‥」
「そういう事」
「私も探してみるか‥」そこで京は立ち上がった
「おや、そりゃ有り難いね」
「このままだとこっちの負担が多いからな」
「ま、あたしも手は尽くすけどね、頼むよ」
と言っても京にもアテがある訳ではないのだが
「うーん、女に靡かない奴、で、それなりに剣の出来る、という事か‥千鶴や藍の様な者がそうそう居るとも思えんが」
その日、色々聞きまわってみたがこれと言った物は得られなかった。一方、「夜の仕事」自体は其れ程問題は無かった
そもそもこの様な場所で意図して揉め事を起こす者はそれほど居ない、ただ二町(六千坪以上)もある場所を3人でカバーするのは不可能ではある
二日後 刀を頼んだ桃原の元へ受け取りに、それと同時色街での一件も聞いてみた
「‥橘にでも行ってみたらどうだ?」
「橘?」
「道場だよ、あそこは女人が多い、所謂短刀術、小太刀なんかを教えている」
「初耳だな、そんなのあったか?‥」
「でかい道場では無いし、女が剣など‥という輩が多いからなぁ」
「だが、それは条件に合いそうだ」
「金出せばそれなりに集まるのではないか?」
「分かった、御主も一度朱里殿の所へ来るか?」
「はは、やめとくよ、女は苦手でね」
これはと思った京は刀を受け取って道場に声掛け、屋敷に戻りそれら情報を朱里に伝えた
「成程、悪くないね、金を弾めば幾人か来るかも知れぬな」
「とりあえず声を掛けてはおいた、来たら面通ししてくれ」
「分かった」
これらの事から朱里は人を出し、橘道場にも渡しを付けた。それは比較的上手く行き、5人程の女性剣士が増やされる事になる、金と時間、腕が立って、女、双方の条件が一致する為である
女人武芸者の用心棒というのは珍しくあるが場所が場所だけに上手く溶け込んだ
何より一般的に「用心棒」というと無骨で威圧感が多い、華やかな場でそう言った者はそぐわない
その為、女子が出来るというのは良い案であるし、給金も多い為、時間の経過と共に、安定して増えて行った
10日もすると8人まで増え、寧ろ京らがやる事も無くなるほどである
もう少ししたら後に任せて出られるかな?と京らが、思いかけた頃、事が起きる。京らがこの仕事を請けてから15日過ぎた日、例の3人、が朱里に呼ばれ部屋に招かれる
「何事かな?」
との京の言に、朱里は書を差し出し見せて言った
「なにやら脅迫状が来てな」
そういわれ、中身を開いて読んでみる
「色街等やっていると何れ痛い目に合う。これだけか?」
「そうじゃ、御主らの手を借りたい」
「こんなんお上に言えよ」
「別に被害も出ておらんのに動く訳なかろう」
「ま、そりゃそうか、で、心当たりは?」
「有りすぎて分からんな」
「おいおい‥」
「商売敵、春売りを良く思わない者、金貸し、まあ色々だな」
「だろうな、それで?何をしろと、探すといっても範囲が広すぎるだろ?」
「うむ、そこで逆に釣ってみようと思ってな」
「朱里自身がか?」
「そうじゃ、で、あたしは外に出る仕事を増やすので、それの護衛、何か掛かったら、相手の追跡」
「ふむ、やはり夜か?」
「の、方が相手も動き易かろう」
「分かった。なら藍の出番だな」
「お任せください」
「では今日から毎日、商売上の接待と遊女の出張の仕事を作る」
「了解です」
早速その日から、芸子の客取り、朱里のもう一つの商売でもある、物品の取引相手の接待等を自ら行う
当初はこれと言った問題も起きずだったが
五日目の終わり。取引相手との接待の帰り道、幾人かの尾行に気がつく
そこで朱里は京にもたれ掛かりながら小声で言う
「遊郭に戻らず、本家に行く、このままつけさせる」と言った
「了解」と京もそれに従った
(どうも悪戯や脅し、じゃなかったらしいね)
(その様だ、お前の家に人は?)
(居ないよ)
(成程、そこを襲わせる訳か)
(向こうも今日は様子見だろう、人数が多くない)
(だな)
つまるところ、撒き餌の後、釣り針に掛ける、つもりのようだった
そう話した通り、そのまま何事も無く朱里の自宅に一同は戻り入って終えた
「使ってない家か」
「殆どね、そもそもこっちは遠いからね。けど、こっちなら人も居ないし、向こうも攻めやすいだろ?」
「色街の方じゃ人が多すぎるからなぁ」
「面倒だが、事の起こりまでここに帰るさ」
「そうだな」
「ところでちっちゃい嬢ちゃんは?」
「逆尾行」
「大丈夫なのかい?」
「まあね「専門家」だからね」
「ふーん‥というからには隠密か何かかい?」
「忍だよ「元」だが」
日付の変わる頃に、その藍は戻り、報告した
「残念ながら、単なる雇われ人ですね。ねぐらを突き止めましたが借り住まいの様で」
「人数は?」
「4人ですね、いざ実行となるともっと増やすかも」
「しかしそうなると個人的怨恨は薄いな」
「ああ、人雇えるって事はそこそこ金もありそうだ」
「どうする朱里」
「どっちにしろ仕掛けてきたらふん捕まえて吐かせりゃいいさ大した問題じゃない」
「それはそうだな」
「あの、そいつらを今締め上げても宜しいですが?」
「いいや、人数揃えて襲って来てからのがいいね。そいつらが吐くとは限らん」
「成程、本命が来るまで、ですか」
「そういう事だ」
「ふむ‥いまひとつ餌撒きするか‥」
「ん?」
「ここはあまり広くないからのう、乱闘に成ってはやり難い、京殿と外で逢引でもしてみよう。それと藍殿と千鶴殿は明日離れて護衛してもらう」
「そこまでやるのですか‥」
「この件で何度もやりたくないのでね」
「ま、よかろう」
策としては単純、毎夜、出張、派遣、接待を繰り返す、夜半の帰りには色街の屋敷では無く本家の朱里の個人宅に帰りそこから通う
護衛自体も表面上減らし、更にそこを怪しまれない様に京を自分の恋人として裏で会う、その場所も人気の無い場所、大町東外れに設定しさも、秘密の逢引に見せかけるというものだ
本来冷静で頭のいい相手ならそれが「罠」で有る事は気がつくべき不自然さはあるが、色街の主人、これまで男の影の無かった女傑といっていい女
最近雇った美形の男と人目をはばかり外で会っているというのは尤もな理由に見えた
気がつくべき点は生活リズムが変わった点、急に外での仕事が多くなり
護衛を京1人にした事、上記の要素と絡みそれが不自然には感じなかった
という妙手ではあったが、明らかに急な為慎重な相手なら気がついただろう、それだけ相手がぬけているとも言える
そこから二日「何時もどおり」外での仕事の後、街の外れの堀を2人で歩き
これも何時もどおりに広い雑木林の空き地へ行き京と朱里は肩を寄せて
恋人らしくする。ただ、朱里は毎度のりのりだが京にしてみれば
「早く終わらないかなぁ‥」ではある
終わらないかな、はその日で終わる事となる、2人同時に気がついたのだ
(人数が多いな今日は)
(どうも当り日らしいね)
京は腰の刀に手を掛け、朱里も背中の小太刀の位置を直した。そこは障害物も少々あるとは言え、野っぱら立ち回りするには十分な広さがある
暗闇に駆ける足音、かなりの大人数だろう。2人は離れ、刀を抜きつつ振り返って迎撃体勢を取った
が、相手は10人以上、お互い対峙して構えたまま固まる
「京殿‥」
「朱里は下がって身を守れ、倒すは私がやる」
朱里もこの規模の斬り合いなど初である、流石に倒せとは言えぬが、狙いは朱里であるからにはそちらに向かう事になるだろう故に、京は無造作にそのまま前に出て身をさらした
一同に言葉は無い、聞くだけ無駄だからだ、京があまりに無造作に構えも取らずそのまま歩いた為、釣られて刺客の2人が掛け声と共に刀を振り上げた
が、そこに閃光が走り、構えた手に下から京の刀が打ち込まれ、左手小指が砕かれ武器を落とした
「あ‥」という間もなく隣に居た仲間の男の右手甲にも打ち込まれ武器を叩き落された
後から痛みが湧いて刺客2人は叫んでその場に崩れ落ちた。余りの早業に見ていた他の連中も何が起きたのか不明な程だった、しかし、腕を押さえて蹲る2人から
「篭手打ち」である事は理解出来た
「怯むな!相手は1人ぞ!」と声を挙げ
一同は回りを囲むように広がり、続けて刀を振り下ろす
中には「篭手うち」と分かっていてそれをされないように動く者も居たが、京の刀は「分かっていて守っても当る」次々腕や指を叩かれ
その場に崩れ落ちる刺客、5人倒されるともはや一歩も動けなかった、そこに一同の背後から
「なんだか1人でも余裕みたいですね」と声が掛かった
なんだ?と振り返った途端1人、やはり手の甲に刀を打ち込まれ遅れて膝をついて、武器も払い飛ばされる、相手を見上げ見た
それは凛とした女性剣士「同じ技」を使う、千鶴である。まだ、習って日の浅い籠手打ちをやってみせたのである
完全に挟み撃ちの形になった。しかも戦える者も半数まで減って戦意喪失である、残った6人もこれはたまらんと方々に逃げるが
そこに次々クナイが足に突き刺さり、走った勢いのまま転げる一同「1人も逃さなかった」
「逃がすわけ無いでしょう」暗闇の中からヌッと現れる藍
そのまま縄を出して、京らにも投げて寄越した
「お見事だったな二人共」
「分かっていれば反撃は容易いですよ」
「後を付けるのがバレバレなんで」
そう三人は交わして、倒した連中に縄を打った
京は1人引きづり出して胸倉を掴んで
「誰の差し金だ?お前らが雇われ者なのは分かってるぞ」
と聞いた、勿論返答は
「知らぬ!」だったが
その男がそう言った途端、負傷しているその男の手の甲を横に居た朱里が思いっきり蹴った
「ぎゃあ!」と情けない悲鳴を上げて転がる男
そこへ更に踏みつける様に蹴る朱里
「い い か ら さ っ さ と 言え!」とゲシゲシお構いなしに踏みつけた
しかも朱里の足は草鞋で無く、漆塗りの足の低い木下駄履きである、端から見てても痛みが伝わる程の光景だった
「そうとうお怒りの様ですね‥」
「アレは怒らさんほうが良いな」
「刀を抜いておいて命があるんだ!有り難く思いな!」
「わわわ分かった言う!言う!やめてくれ!」
と相手も泣き出して一分掛からず吐かせた、だが、「雇い主」の名を聞いて朱里は驚いた
「天元だと!?」
「誰なんだそれ?」
「城仕えの坊主で茶人でもあるじじいだよ」
「坊主が何で‥」
「いえ、想像は付きます」
「ああ、あたしが城の奥方に気に入られてるのが気に入らないんだろう、しかもこっちは色街の主でもある‥不潔な者とでも思ってるんだろ」
「しかし、どうする?」
「難しいね‥あの爺のが権力も名もある、訴え出てももみ消される可能性も」
「うーむ」
「そうさね‥」と朱里はしばらく考えた後
「うん、いい手がある」と笑った
翌朝、街のど真ん中の大木に朱里らを襲った連中全員が縛られたまま括り付けられていた
立て札と紙に
「この者ら天元の命により鳴門朱里を暗殺しようとした者なり撃退され、証言し、ここに晒される」と掲げられていた
街のど真ん中、人だかりになっていた。それを遠くから笑ってみていた朱里に京も呆れ顔だ
「悪趣味だなぁ‥殺されたほうがマシだろ」
「だが番所や藩所に捕まる前に皆の噂になっては揉み消せまい」
とくくくと笑った
「ま、たしかにここまで大事になりゃそうだろうな‥しかし‥」
「?」
「いらぬ敵を増やすだけじゃないか?」
「いいのさ、どうせそういう商売、なら、やったら倍にして返される、て見せた方が効果がある」
「でも、気分はいいですね」と藍が同意した
「だろう?」と朱里も調子に乗る
岡っ引きが現れ、刺客連中をひっ捕らえた?のを確認した後、京らも戻った
その後の展開は速かった
立て札の内容は真か?と問われ刺客らは素直に証言、雇い主である天元は噂を聞き「これはたまらん」と街を出ようとしたが街を出る前に捕縛、彼も素直に証言して認める
何しろ12人もの「生きた証人」が居て全員「天元殿に金で雇われた」と言った為である、否定しようが何しようがどうしょうもないのである、暗殺を企てた理由も、朱里らが話した通りである
「売春婦如きが城に上がって奥方様らと交流があるのは許せなかった」
と証言、宗教家でもある彼には不快極まったのであろう「未遂」とは言え殺人である「死には死を持って当る」がこの頃の法であり天元は死罪、雇われ人も牢にぶち込まれた
一方朱里は事実確認で呼ばれ証言、戻ってから「何故か奥方様にも謝られたよ?」と言った
どうやら城仕えの天元がこの様な事しでかした事を詫びたらしい
京らはそろそろ‥と思ったがまだいいだろう?と散々朱里に引き止められ、一月警備と護衛の仕事を続けた
その後、キリの良い所でまた旅に戻ろうと朱里に挨拶する、そもそも既に色街には女性剣士の見回りが10人まで増えていた、自分らが居なくても安心である
「うーん、残念だがしかたない」
朱里も諦めて認めた
「で、どこに行くんだ?」
「とりあえず東だな、これと言って目的がある訳ではないが」
そこで朱里は何時かの様に京の膝に座って抱きついた
「おしいのう‥あたしと釣り合う男なんかもう何度も会えないだろうに」
と頬を撫でた、が、京は彼女を抱きかかえたまま横に荷物でも下ろすように置いて
「拙者にも貴女の相手は荷が重いですよ」返して離した
「ならしかたないね」しかたなく朱里も離れて対座して整えた
「せっかくだ何か入り用な物があれば融通するぞ、商人でもあるからな」
「そうだなぁ、ここにあって東に無い珍しい物は無いか?」
「うん?どうするんじゃ」
「どうせ旅人だからな、行商の真似事もしている」
「ほう‥そうじゃな‥」
朱里は立って奥の大箱から子供のこぶし大の紙箱を抱えて持ってきた。それをバラバラと置いて言った
「薬じゃ、これなら軽いし、腐らん、しかもかなり高く売れるぞ?」
「見た事無い物だな、なんだこれ?」
「甘露の秘薬じゃ」
首を捻った京に続けて
「まあ、精力剤じゃな、これを飲ませれば喧嘩後の夫婦も、お堅いあの子とも親密に‥」
「そんな怪しげな物売れるか」
「何を言うか、うちじゃ反物の次に売れる主力商品じゃぞ」
「ホントかよ‥からかってるのかと思った‥」
「恩人にそんな事せんよ、ちゃんと効果もある、しかも一箱20粒入りで1両出す!て奴も居る程じゃ」
「マジデ」
「正し、金持ちに売る事じゃ、原価も高いからの」
2人のやり取りを聞いていた藍も千鶴もジト目だった
「京さん‥」
「え、でもコレ一個壱両だぞ?凄くないか?持ち運び楽だし」
「御主らも世話になったし一箱づつやるぞ?、これという男に飲ませるのに成功すれば‥」
「いりません!」
結局断って、というより藍と千鶴に止められて、代わりに、装飾品を格安で売って貰った。ついでに給金もかなり弾んで貰った
「まあ、なんだ、ほんとに世話になった、また会いたいものじゃな」
「そうだな」
「旅が終わったらまた寄ってくれ」
「ああ」
「こちらこそお世話になりました」と藍と千鶴も頭を下げ
部屋を出て、当日には街を出た
「でも、いい人でしたね」
「敵に回すと恐ろしいがな」
「フ‥そうですね」
三人は同じ見解だったようだ
実際この「晒し」の一件で「鳴門朱里」に敵する者は居なくなった、死ぬより恐ろしい「十倍返し」の相手である。敵に回そうという者が居るはずもないのである
「しかし路銀がドンドン増えて行くんですが‥」
「なんだか給金もずいぶん弾んで貰ったしな」
「旅って楽なもんだったんだな」
「うちらは特殊な例だと思いますが‥」
こうして、三人は次の土地へ歩き出していった。本格的な秋の風がもう直ぐ吹く頃である
こういった商売自体珍しい物でも無く、こういう大町となれば、店が集まって自然と街となるのである
ただ一般的にそれほど「売春」のイメージは無く、自由恋愛の場や金持ちの接待、見栄っ張りで豪華な酒宴の出来る場でもある
今回の募集の中身自体、あまり無骨な者が居ても困るのもその理由だ
目的の屋敷に到着後中に通され、そこでも一同はジロジロ見られるが、イチイチ気にしても仕方ないので軽くスルーして責任者と面会する
相手も女であったのは驚きである
「ふ~ん」とまたもジロジロ見られた
「どのくらいやれる?」
「1,2ヶ月くらいでしょうか」
「ふむ、まあいいか、とりあえず、で採用だ」
とあっさり決まる
「碌に調べもせずでいいのかね?」
「兎に角人が足りない、まあ、腕の方はそれほど要らないんだよ」
「と言うと」
「別に斬った張ったがある訳でもないし、精々乱暴な、あるいは酔っ払いの対処だ、それなりに出来るならそれでいいのさ」
「なるほど」
「じゃ、部屋をやるから控えて居といてくれ、と、今夜からでいいね?」
「うむ」
早速屋敷に部屋をあてがわれた
その座敷で事前調査済みの藍が彼女の情報を話した
「鳴門 朱里、この辺りの色町を仕切る人です、商人としても有名で相当な稼ぎがあります、お上にも顔の聞くお方で。奥方様と交流があるそうです、主に、櫛、簪等を納める関係からです、名は偽名とも聞きます、歳は27」
「いかにもな美女だな」
「ちょっと色気がきついですね」
そう話していると手下の者が部屋に現れ、詳細を伝えた
「皆さんにやってもらうのは、街の見回り、何か有った場合の仲裁、話が通じない者を追い出しです、昼は自由にして結構との事です」
とだけ伝えて出て行った
「なんだかてきとーな仕事だなぁ‥」
「ま、本気で人が居ない様ですから、先ほど朱里殿が言った様に大事は無いですし」
「まあいいか、昼は好きにしろってんなら好きにするさ」
「じゃ、私は寝ます、夜に備えて」と藍は隣部屋でさっさと寝た
「わたくしは剣の稽古を‥」と千鶴もさっさと出ていた
なんともまとまりの無い一団である
ただ、京も不本意な仕事でも適当に、とはいかなかった、その為朱里の部屋へ、今一度顔を出す
「ちょっと宜しいか?」と声を掛け
座敷に座った途端朱里はその座った膝の上に座って言った
「あたしに会いに来てくれたのかい?」
「あのな‥」
まるで犬か猫が匂い付けでもするかの様に顔を体に擦り付ける、まともに相手にするのも面倒なので無視して平然と話す京
「そんな事より、もう少し人数はどうにか成らんのか?」
「なんだい、つれない男だねぇ‥」と離れ、対面に座りなおす彼女
「けどまあ、合格だね」
「なにが?」
「女の色香にコロっといかない所がね」
「もしかしてあれか?この仕事で人が居ないってのは」
「そういう事‥大抵の男は街の女とどっかにふけっちまうのさ」
「成程ね‥」
「そもそも一週間持った試がない」
「しかし、私ら三人で街を全部見るのは無理だぞ」
「ま、夜はあたしも出るけどね、後はあんたらが居る、1,2ヶ月の間にどうにか募集で集まれば‥というのもある」
「そうか、まあしかたないな‥しかし「あたしも出る」とは?武芸の心得でもあるのか?」
「一応ね‥それに、顔は利くんでね」
「顔が利く、と言えばお上にも利くんだろ?その筋から当れんのか?」
「一応、岡っ引きやらは日に2度程回ってくれるんだがねぇ」
「無いよりマシ程度か‥」
「そういう事」
「私も探してみるか‥」そこで京は立ち上がった
「おや、そりゃ有り難いね」
「このままだとこっちの負担が多いからな」
「ま、あたしも手は尽くすけどね、頼むよ」
と言っても京にもアテがある訳ではないのだが
「うーん、女に靡かない奴、で、それなりに剣の出来る、という事か‥千鶴や藍の様な者がそうそう居るとも思えんが」
その日、色々聞きまわってみたがこれと言った物は得られなかった。一方、「夜の仕事」自体は其れ程問題は無かった
そもそもこの様な場所で意図して揉め事を起こす者はそれほど居ない、ただ二町(六千坪以上)もある場所を3人でカバーするのは不可能ではある
二日後 刀を頼んだ桃原の元へ受け取りに、それと同時色街での一件も聞いてみた
「‥橘にでも行ってみたらどうだ?」
「橘?」
「道場だよ、あそこは女人が多い、所謂短刀術、小太刀なんかを教えている」
「初耳だな、そんなのあったか?‥」
「でかい道場では無いし、女が剣など‥という輩が多いからなぁ」
「だが、それは条件に合いそうだ」
「金出せばそれなりに集まるのではないか?」
「分かった、御主も一度朱里殿の所へ来るか?」
「はは、やめとくよ、女は苦手でね」
これはと思った京は刀を受け取って道場に声掛け、屋敷に戻りそれら情報を朱里に伝えた
「成程、悪くないね、金を弾めば幾人か来るかも知れぬな」
「とりあえず声を掛けてはおいた、来たら面通ししてくれ」
「分かった」
これらの事から朱里は人を出し、橘道場にも渡しを付けた。それは比較的上手く行き、5人程の女性剣士が増やされる事になる、金と時間、腕が立って、女、双方の条件が一致する為である
女人武芸者の用心棒というのは珍しくあるが場所が場所だけに上手く溶け込んだ
何より一般的に「用心棒」というと無骨で威圧感が多い、華やかな場でそう言った者はそぐわない
その為、女子が出来るというのは良い案であるし、給金も多い為、時間の経過と共に、安定して増えて行った
10日もすると8人まで増え、寧ろ京らがやる事も無くなるほどである
もう少ししたら後に任せて出られるかな?と京らが、思いかけた頃、事が起きる。京らがこの仕事を請けてから15日過ぎた日、例の3人、が朱里に呼ばれ部屋に招かれる
「何事かな?」
との京の言に、朱里は書を差し出し見せて言った
「なにやら脅迫状が来てな」
そういわれ、中身を開いて読んでみる
「色街等やっていると何れ痛い目に合う。これだけか?」
「そうじゃ、御主らの手を借りたい」
「こんなんお上に言えよ」
「別に被害も出ておらんのに動く訳なかろう」
「ま、そりゃそうか、で、心当たりは?」
「有りすぎて分からんな」
「おいおい‥」
「商売敵、春売りを良く思わない者、金貸し、まあ色々だな」
「だろうな、それで?何をしろと、探すといっても範囲が広すぎるだろ?」
「うむ、そこで逆に釣ってみようと思ってな」
「朱里自身がか?」
「そうじゃ、で、あたしは外に出る仕事を増やすので、それの護衛、何か掛かったら、相手の追跡」
「ふむ、やはり夜か?」
「の、方が相手も動き易かろう」
「分かった。なら藍の出番だな」
「お任せください」
「では今日から毎日、商売上の接待と遊女の出張の仕事を作る」
「了解です」
早速その日から、芸子の客取り、朱里のもう一つの商売でもある、物品の取引相手の接待等を自ら行う
当初はこれと言った問題も起きずだったが
五日目の終わり。取引相手との接待の帰り道、幾人かの尾行に気がつく
そこで朱里は京にもたれ掛かりながら小声で言う
「遊郭に戻らず、本家に行く、このままつけさせる」と言った
「了解」と京もそれに従った
(どうも悪戯や脅し、じゃなかったらしいね)
(その様だ、お前の家に人は?)
(居ないよ)
(成程、そこを襲わせる訳か)
(向こうも今日は様子見だろう、人数が多くない)
(だな)
つまるところ、撒き餌の後、釣り針に掛ける、つもりのようだった
そう話した通り、そのまま何事も無く朱里の自宅に一同は戻り入って終えた
「使ってない家か」
「殆どね、そもそもこっちは遠いからね。けど、こっちなら人も居ないし、向こうも攻めやすいだろ?」
「色街の方じゃ人が多すぎるからなぁ」
「面倒だが、事の起こりまでここに帰るさ」
「そうだな」
「ところでちっちゃい嬢ちゃんは?」
「逆尾行」
「大丈夫なのかい?」
「まあね「専門家」だからね」
「ふーん‥というからには隠密か何かかい?」
「忍だよ「元」だが」
日付の変わる頃に、その藍は戻り、報告した
「残念ながら、単なる雇われ人ですね。ねぐらを突き止めましたが借り住まいの様で」
「人数は?」
「4人ですね、いざ実行となるともっと増やすかも」
「しかしそうなると個人的怨恨は薄いな」
「ああ、人雇えるって事はそこそこ金もありそうだ」
「どうする朱里」
「どっちにしろ仕掛けてきたらふん捕まえて吐かせりゃいいさ大した問題じゃない」
「それはそうだな」
「あの、そいつらを今締め上げても宜しいですが?」
「いいや、人数揃えて襲って来てからのがいいね。そいつらが吐くとは限らん」
「成程、本命が来るまで、ですか」
「そういう事だ」
「ふむ‥いまひとつ餌撒きするか‥」
「ん?」
「ここはあまり広くないからのう、乱闘に成ってはやり難い、京殿と外で逢引でもしてみよう。それと藍殿と千鶴殿は明日離れて護衛してもらう」
「そこまでやるのですか‥」
「この件で何度もやりたくないのでね」
「ま、よかろう」
策としては単純、毎夜、出張、派遣、接待を繰り返す、夜半の帰りには色街の屋敷では無く本家の朱里の個人宅に帰りそこから通う
護衛自体も表面上減らし、更にそこを怪しまれない様に京を自分の恋人として裏で会う、その場所も人気の無い場所、大町東外れに設定しさも、秘密の逢引に見せかけるというものだ
本来冷静で頭のいい相手ならそれが「罠」で有る事は気がつくべき不自然さはあるが、色街の主人、これまで男の影の無かった女傑といっていい女
最近雇った美形の男と人目をはばかり外で会っているというのは尤もな理由に見えた
気がつくべき点は生活リズムが変わった点、急に外での仕事が多くなり
護衛を京1人にした事、上記の要素と絡みそれが不自然には感じなかった
という妙手ではあったが、明らかに急な為慎重な相手なら気がついただろう、それだけ相手がぬけているとも言える
そこから二日「何時もどおり」外での仕事の後、街の外れの堀を2人で歩き
これも何時もどおりに広い雑木林の空き地へ行き京と朱里は肩を寄せて
恋人らしくする。ただ、朱里は毎度のりのりだが京にしてみれば
「早く終わらないかなぁ‥」ではある
終わらないかな、はその日で終わる事となる、2人同時に気がついたのだ
(人数が多いな今日は)
(どうも当り日らしいね)
京は腰の刀に手を掛け、朱里も背中の小太刀の位置を直した。そこは障害物も少々あるとは言え、野っぱら立ち回りするには十分な広さがある
暗闇に駆ける足音、かなりの大人数だろう。2人は離れ、刀を抜きつつ振り返って迎撃体勢を取った
が、相手は10人以上、お互い対峙して構えたまま固まる
「京殿‥」
「朱里は下がって身を守れ、倒すは私がやる」
朱里もこの規模の斬り合いなど初である、流石に倒せとは言えぬが、狙いは朱里であるからにはそちらに向かう事になるだろう故に、京は無造作にそのまま前に出て身をさらした
一同に言葉は無い、聞くだけ無駄だからだ、京があまりに無造作に構えも取らずそのまま歩いた為、釣られて刺客の2人が掛け声と共に刀を振り上げた
が、そこに閃光が走り、構えた手に下から京の刀が打ち込まれ、左手小指が砕かれ武器を落とした
「あ‥」という間もなく隣に居た仲間の男の右手甲にも打ち込まれ武器を叩き落された
後から痛みが湧いて刺客2人は叫んでその場に崩れ落ちた。余りの早業に見ていた他の連中も何が起きたのか不明な程だった、しかし、腕を押さえて蹲る2人から
「篭手打ち」である事は理解出来た
「怯むな!相手は1人ぞ!」と声を挙げ
一同は回りを囲むように広がり、続けて刀を振り下ろす
中には「篭手うち」と分かっていてそれをされないように動く者も居たが、京の刀は「分かっていて守っても当る」次々腕や指を叩かれ
その場に崩れ落ちる刺客、5人倒されるともはや一歩も動けなかった、そこに一同の背後から
「なんだか1人でも余裕みたいですね」と声が掛かった
なんだ?と振り返った途端1人、やはり手の甲に刀を打ち込まれ遅れて膝をついて、武器も払い飛ばされる、相手を見上げ見た
それは凛とした女性剣士「同じ技」を使う、千鶴である。まだ、習って日の浅い籠手打ちをやってみせたのである
完全に挟み撃ちの形になった。しかも戦える者も半数まで減って戦意喪失である、残った6人もこれはたまらんと方々に逃げるが
そこに次々クナイが足に突き刺さり、走った勢いのまま転げる一同「1人も逃さなかった」
「逃がすわけ無いでしょう」暗闇の中からヌッと現れる藍
そのまま縄を出して、京らにも投げて寄越した
「お見事だったな二人共」
「分かっていれば反撃は容易いですよ」
「後を付けるのがバレバレなんで」
そう三人は交わして、倒した連中に縄を打った
京は1人引きづり出して胸倉を掴んで
「誰の差し金だ?お前らが雇われ者なのは分かってるぞ」
と聞いた、勿論返答は
「知らぬ!」だったが
その男がそう言った途端、負傷しているその男の手の甲を横に居た朱里が思いっきり蹴った
「ぎゃあ!」と情けない悲鳴を上げて転がる男
そこへ更に踏みつける様に蹴る朱里
「い い か ら さ っ さ と 言え!」とゲシゲシお構いなしに踏みつけた
しかも朱里の足は草鞋で無く、漆塗りの足の低い木下駄履きである、端から見てても痛みが伝わる程の光景だった
「そうとうお怒りの様ですね‥」
「アレは怒らさんほうが良いな」
「刀を抜いておいて命があるんだ!有り難く思いな!」
「わわわ分かった言う!言う!やめてくれ!」
と相手も泣き出して一分掛からず吐かせた、だが、「雇い主」の名を聞いて朱里は驚いた
「天元だと!?」
「誰なんだそれ?」
「城仕えの坊主で茶人でもあるじじいだよ」
「坊主が何で‥」
「いえ、想像は付きます」
「ああ、あたしが城の奥方に気に入られてるのが気に入らないんだろう、しかもこっちは色街の主でもある‥不潔な者とでも思ってるんだろ」
「しかし、どうする?」
「難しいね‥あの爺のが権力も名もある、訴え出てももみ消される可能性も」
「うーむ」
「そうさね‥」と朱里はしばらく考えた後
「うん、いい手がある」と笑った
翌朝、街のど真ん中の大木に朱里らを襲った連中全員が縛られたまま括り付けられていた
立て札と紙に
「この者ら天元の命により鳴門朱里を暗殺しようとした者なり撃退され、証言し、ここに晒される」と掲げられていた
街のど真ん中、人だかりになっていた。それを遠くから笑ってみていた朱里に京も呆れ顔だ
「悪趣味だなぁ‥殺されたほうがマシだろ」
「だが番所や藩所に捕まる前に皆の噂になっては揉み消せまい」
とくくくと笑った
「ま、たしかにここまで大事になりゃそうだろうな‥しかし‥」
「?」
「いらぬ敵を増やすだけじゃないか?」
「いいのさ、どうせそういう商売、なら、やったら倍にして返される、て見せた方が効果がある」
「でも、気分はいいですね」と藍が同意した
「だろう?」と朱里も調子に乗る
岡っ引きが現れ、刺客連中をひっ捕らえた?のを確認した後、京らも戻った
その後の展開は速かった
立て札の内容は真か?と問われ刺客らは素直に証言、雇い主である天元は噂を聞き「これはたまらん」と街を出ようとしたが街を出る前に捕縛、彼も素直に証言して認める
何しろ12人もの「生きた証人」が居て全員「天元殿に金で雇われた」と言った為である、否定しようが何しようがどうしょうもないのである、暗殺を企てた理由も、朱里らが話した通りである
「売春婦如きが城に上がって奥方様らと交流があるのは許せなかった」
と証言、宗教家でもある彼には不快極まったのであろう「未遂」とは言え殺人である「死には死を持って当る」がこの頃の法であり天元は死罪、雇われ人も牢にぶち込まれた
一方朱里は事実確認で呼ばれ証言、戻ってから「何故か奥方様にも謝られたよ?」と言った
どうやら城仕えの天元がこの様な事しでかした事を詫びたらしい
京らはそろそろ‥と思ったがまだいいだろう?と散々朱里に引き止められ、一月警備と護衛の仕事を続けた
その後、キリの良い所でまた旅に戻ろうと朱里に挨拶する、そもそも既に色街には女性剣士の見回りが10人まで増えていた、自分らが居なくても安心である
「うーん、残念だがしかたない」
朱里も諦めて認めた
「で、どこに行くんだ?」
「とりあえず東だな、これと言って目的がある訳ではないが」
そこで朱里は何時かの様に京の膝に座って抱きついた
「おしいのう‥あたしと釣り合う男なんかもう何度も会えないだろうに」
と頬を撫でた、が、京は彼女を抱きかかえたまま横に荷物でも下ろすように置いて
「拙者にも貴女の相手は荷が重いですよ」返して離した
「ならしかたないね」しかたなく朱里も離れて対座して整えた
「せっかくだ何か入り用な物があれば融通するぞ、商人でもあるからな」
「そうだなぁ、ここにあって東に無い珍しい物は無いか?」
「うん?どうするんじゃ」
「どうせ旅人だからな、行商の真似事もしている」
「ほう‥そうじゃな‥」
朱里は立って奥の大箱から子供のこぶし大の紙箱を抱えて持ってきた。それをバラバラと置いて言った
「薬じゃ、これなら軽いし、腐らん、しかもかなり高く売れるぞ?」
「見た事無い物だな、なんだこれ?」
「甘露の秘薬じゃ」
首を捻った京に続けて
「まあ、精力剤じゃな、これを飲ませれば喧嘩後の夫婦も、お堅いあの子とも親密に‥」
「そんな怪しげな物売れるか」
「何を言うか、うちじゃ反物の次に売れる主力商品じゃぞ」
「ホントかよ‥からかってるのかと思った‥」
「恩人にそんな事せんよ、ちゃんと効果もある、しかも一箱20粒入りで1両出す!て奴も居る程じゃ」
「マジデ」
「正し、金持ちに売る事じゃ、原価も高いからの」
2人のやり取りを聞いていた藍も千鶴もジト目だった
「京さん‥」
「え、でもコレ一個壱両だぞ?凄くないか?持ち運び楽だし」
「御主らも世話になったし一箱づつやるぞ?、これという男に飲ませるのに成功すれば‥」
「いりません!」
結局断って、というより藍と千鶴に止められて、代わりに、装飾品を格安で売って貰った。ついでに給金もかなり弾んで貰った
「まあ、なんだ、ほんとに世話になった、また会いたいものじゃな」
「そうだな」
「旅が終わったらまた寄ってくれ」
「ああ」
「こちらこそお世話になりました」と藍と千鶴も頭を下げ
部屋を出て、当日には街を出た
「でも、いい人でしたね」
「敵に回すと恐ろしいがな」
「フ‥そうですね」
三人は同じ見解だったようだ
実際この「晒し」の一件で「鳴門朱里」に敵する者は居なくなった、死ぬより恐ろしい「十倍返し」の相手である。敵に回そうという者が居るはずもないのである
「しかし路銀がドンドン増えて行くんですが‥」
「なんだか給金もずいぶん弾んで貰ったしな」
「旅って楽なもんだったんだな」
「うちらは特殊な例だと思いますが‥」
こうして、三人は次の土地へ歩き出していった。本格的な秋の風がもう直ぐ吹く頃である
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