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北の獅子編
人事の魔術師
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砦から中央街道は間に二つ自治領主国があり、その先に中央街道、出口に森の街というどちらかというと集落に近い街がある
そこへ行くのは初めてでもあり、また、剣聖フレスロルグの生家のある場所で、一度見てみたいと思っての事でもある
実際そこに到着してみると集落と街の半々というのはたしかにその通りという街、周囲に深い綺麗な森、人口もそこそこ、森の街を言うからには発展していないのかと思いきや中々整ったきちんとした街だった
その横をかすめるように南に狭い中央街道があり、こちらは石と雑草ばかりの厳しい街道だ
「うーん、狭いね」
「横に20人並べるかという道ですね」
「たしかにこれは軍が進軍するのは無茶という感じだな」
「この先は更に高低差が激しく、天気も荒れ易いですよ‥」
「ベルフが使わない理由が分かった気がするね」
「普通、4~5人のパーティーで山登りを楽しむ感覚でしょうか」
「ええ、けど、間にも滞在施設が幾つかあるだけで、ほんとに石ばっかりです‥」
「行った事があるの?チカ」
「私は南生まれですし‥通ったことありますよ‥」
「歩き?」
「いえ、旅馬車ですね、それでも二週近く掛かります、しかも軍となれば更に‥」
「どうなのかしら、それでベルフが来ないというのは早計な気がしますけど」
「そうだね、大型の輸送、何か開発か、既存の物を改造するとか、考えられなくないね」
「そうですね‥」
「何れにしろ結構大規模になるでしょうね、場所が場所だけに、ダメだったから戻る、というのもそれこそ無茶ですし」
「とはいえ、ここは僕らの国では無いからなぁ、まとまった対策は打てないな」
「そうですわね」
「後でそこはアレクシアに相談してみよう、後は周辺への注意喚起か‥あんまりやることはないなぁ、それ自体聞き入れられるか微妙だし」
「オルレスク砦に防衛軍が最大の努力、でしょうか」
「そうだね、それ以上は内政干渉もいいとこだし‥実際戦火が及べば違うんだけど」
「難しいですわね」
「まあ、とりあえず街で二、三日泊まって情報収集してみようか」
「了解です」
ロランら何時もの五人は早速思い思いに街中を歩き、遊び半分、情報収集半分を行う
午後三時頃には一旦収集した後、せっかく来たのだから、と剣聖フレスの家に行って見る
家、というよりはそのまま道場という感じだった 既に20名からの弟子達と思われる人々が広い空き地で思い思いに鍛錬に励んでいた邪魔しても悪いので遠巻きに見学する事にしたが
「見学でしたら近くでどうぞ?」と弟子の1人と思われる女性に声をかけられ
まあいいかという感じで五人は60過ぎのおそらく彼がフレスだろう人物の近くに行って見学を続けるしかし彼はそれを察してか
「フレスロルグじゃ、宜しくな獅子の騎士様と陛下」と声を掛けられた思いっきりバレバレだった
「な、なんで」という間もなく
「ハハ‥その特殊軍服を着てる人間を見るのは久しぶりじゃ、ワシも王家に招かれた事があるでの知っておるよ」
「そうでしたか‥」
「しかもその制服は王家直属護衛官しか着れぬ物皆若いのにそうとうな腕前なんじゃな」
「いえ、それほどでも‥ロラン様は希望する仕事を優先して与えてくれますので‥」
「ほう、人の使い方をよく分かっているようじゃの」
「深く考えている訳では無く、好きな事の方が結果は自然に出る、と考えているだけですよ」
「うむ、やる気とかやりがい、というのは日常の最高の調味料じゃからの」
「恐縮です」
「で、今日はこのじじいに何の用ですかな?」
「周辺地域の散策のついで、せっかくだから剣聖の武を見学しようと思いまして」
「ほほう、では、せっかくついでに手合わせでもしてみますかの?」
「え、しかしそれは‥‥どうする?」
「ハァ、別にやってみてもいいですよ‥」と何時に無くチカが積極的だった
「え?!やってみたいの?!」
「というか、久しく苦戦する相手というのに当った事がないので‥」
「ハハハ、それは楽しみじゃ、そうじゃな、ではソフィア」
そう呼ばれた先ほど声を掛けてきた女性が木剣を拾う
「はい、では私が」
「槍、棒でいいんですけどありますか?‥」
「うむ、そうじゃの、誰か長めの棒を持ってきてくれ」
「はい」
「すまんのう、何か探してこよう、ワシの所は純剣術で槍は無いんじゃよ」
「とはいえ、わたくしはオフェンシブシールダーですし、妹も剣盾術ですし…代わりにという訳には」
「僕も長剣術だし、妹も棒術と徒手拳法なんだよなぁ‥」
「これまた、個性的な一団じゃのう‥」
「すいません‥」
3分ほどして長棒を弟子の1人が持ってくる
「すみません、手ごろなのが物干し竿しか無くて」とそれを渡した
「ええ、まあ、大丈夫ですよ」とチカはそれを振り回して了解を出した
「ソフィア=クロードです」
「チカ=サラサーテです‥」
と二人は中央の広い場所に出て構えた
「ほほう、あの子がチカ=サラサーテか」
「ご存知でしたか」
「うむ、武芸者の間では有名じゃ、しかも無敗の天才槍士、じゃからの」
「では、好きなタイミングで始めじゃ」
ソフィアとチカの試合は、間違いなく達人同士の試合となった
が、面白い勝負では無かった 問題は武器の差とチカの隙の無さ、双方神速の速さ且つ正確さがあり一見すると素晴らしい試合なのだが
チカは長槍を正確無比に隙や急所に差込
ソフィアは基本的に防御主体で距離を詰める隙を探す
しかしチカは相手がそのタイミングと隙を見つけ、そこに一歩踏み出そうとするとその踏み込むポイントに槍を先読みして突き出し一切相手に前に出るポイントを突かせない いわば完全なる詰めの技だけに、面白みは無いのだが絶対負けないやり口なのだ
更に言えば、ソフィアは殊更隙をわざと作ってチカにそこを突かせ誘いを掛けた後仕掛けるという手段も打ったがそれすら、先読みして移動ポイントに槍を置き撃ちする為、それ以上の物を見せない限り
チカが突き、ソフィアが守備するという展開が延々と続くことになる
本来普通の勝負師であれば、そこを打開する為にそれ以上の何かを仕掛ける事もあるのだがチカもソフィアも似た様な武質らしく、無理仕掛けを一切行わず打ち合いが5分続いた後
「そこまでじゃ」とフレスに止められる
両者「ふー」と溜息をついて礼をして離れた
「こりゃ、あれじゃな、相性が悪いのう」
「お互い、無理無駄ムラをしない、3無原則な武芸者ですわね‥不毛ですわ」
「だがまあ「強さ」という意味ではどっちも極まってるね」
「ふーむ、チカ殿はいくつじゃね?」
「17です」
「‥恐ろしい才能じゃ‥その歳でほぼ頂点に達しておる‥これほどの名士はめったにお目にかかれん」
「いえ、ソフィアさんも同じくらいだと思いますよ」
「うむ、しかし、ソフィアはうちの弟子の中ではワシの後継者に、と考える1,2の使い手じゃそれとここまで力を競っておる相手というのは、まあ、まず見た事が無い」
「恐縮です‥、互角の相手というのも久しく会えていませんでしたので良い試合をさせて貰いました」
「いえ、私こそ、これほど隙の無い「完璧」という言葉が合う名士と会えて光栄でした」
そうチカとソフィアは互いを賞賛した
「うーむ、しかし「スティンガーニードル」針の一刺しとはよく言ったもんじゃこれほど異名が当人を現す言葉も珍しいのう」
「ええ、正確無比、一糸の乱れも無いとはこの事ですわ」
「あの~‥」
「うん?」
「ところで「1,2の使い手」て事はソフィアさんのレベルの剣士が他にいるんですか?‥」
「ええ、私の幼馴染で兄の様な人、ウィグハルトて兄弟子が居るわ」
「へぇー‥」
「ただ、タイミングが悪かったのう、ワシの代理で他国に指導派遣されておるんじゃ」
「そうでしたか」
「二、三ヶ月は戻らんと思う、すまぬね」
「いえ」
「ところで、皆さんはこちらに滞在されるのですかな」
「2,3日は、あちこち見て回るつもりです。それと」
「うん?」
「森の集落は責任者は居られるのでしょうか」
「責任者か、一応自治区ではあるからのう、領主は居るのだが、まあ、会ってもあまり意味は無いじゃろう」
「というと?」
「‥あれじゃろ、若い陛下はベルフの事を考えておるのじゃろう」
「それもご存知でしたか‥」
「陛下は物の分かった人物だから下見に来たのじゃろう?」
「その通りです」
「が、ここの領主は人の意見を好む人間では無いし、都合の悪い事は見え無い、というそこいらによく居る人物何か言った所で怒りを買うだけじゃろう、そもそも街に殆ど居らんからの」
「そうでしたか」
「それに一ヶ月前から家族で休暇に行ってますが」
「なんとまあ‥」
「話なら、まあ、ワシが聞こう、権力者ではないが、それなりの発言権はあるでの」
「分かりました、では‥」
「ああ、いや、中に入ろう、外ではなんだ」
「はい」
と、一同は剣聖の屋敷に招かれ、応接間に通される。そこでロランは、自分が今考えている事、今後の大陸情勢に関して包み隠さず見解を披露した
「成程、中央街道から北進の可能性か」
「軍を預かる者として見ると無謀な進軍ルートですが、だからと言ってここを使わないという考えは極端に思いこうして見に来た訳です」
「思い込みや決め付けはよくないからの」
「はい」
「ただ、気持ちは分かるのだが、陛下はここの領主では無いからの、余りやる事もなかろう、そもそも内政干渉じゃからの、ま、危機に備えるのはよい事じゃが」
「ここの軍はどのくらいありましょう」
「治安維持軍じゃからの、残念ながら300しか居らん、相手の規模にもよるがまあ、妨害にも成らんじゃろうな」
「うーん‥」
「かと言って、さっきも言った通り、増強を図れ等言っても無駄じゃろうし」
「やはり、避難して頂くのが最善でしょうか」
「かも知れんな、無駄な人死にを出す事に意味は無いからの、しかし‥だとしてもどうするべきか‥」
「ええ、その事なんですが」
「うん?」
「実は今北のオルレスク砦に、新将を充てて、重装剣盾兵500と兵2000の準備を始めて居ます、有事の際にはここに避難して頂くというのはどうでしょう」
「なるほど、あそこなら陛下の領地であるし、強固な砦、滞在出来る人間も多い妥当な手段ではありますな」
「はい、現状、情勢から見ても「敵」と言えるのはベルフだけですし、備えと言ってもそれに対するのが先ず優先順位として上と思いますので」
「そういう事なら話は早い、相手を「ベルフ」とせず、緊急避難施設として受け入れを表明すればどこに対しても刺にはならぬし、いざと言う時にはオルレスク砦に自発的に下がる可能性が上がるの」
「そうですね、対象を確定させると、無駄に不安を煽りますし、それなら皆受け入れるかもしれませんね」
「うむ、それだと我々も無理せずに済む」
「では、そういった方向で進めて行きます」
「こちらも了解した何かの際は頼らせてもらうおう」
ここで一同の会談は終了となり席を立った。この決定は御意として即日、モニカが伝心術を通して首都のアレクシアに伝え、アレクシアも同意それら準備が整えられる
会談の後残った剣聖フレスとソフィアはこう感想を残す
「事の起こりの前に起こった時の事を考える、中々の名君ですね」
「ああいう君主というのも中々出ないからのう。しかもまだ17歳、大した物じゃ」
「ええ、ですが狡猾な者ではありません」
「うむ、正直、ああいう青年はワシも好きじゃな、ああいう者が王として人の上に居る国民は幸せな事じゃ」
「故に優れた人材も集まる、ですね」
「そうじゃのう、ま、人材というのはどこにでも居るのじゃがな」
「そういうものでしょうか」
「AとBの集団で双方100の人間が居たとする、ではAとBに人の差があるか?というとそのような事もない、見出す者の才が集団の強さを決めるのだよ。つまり使われなければ存在しないと同じ。という事だ」
「なるほど‥ご尤もで」
「そういう意味で言えば、獅子の国は安泰だろうな」
その意味に置いて新王はほぼ完璧だったと言える。自身が未熟である事を自覚しており、他者の意見をよく聞き誤りがあれば自ら正す そしてその意見を言う者を貴重な者として生涯大事にした、それが彼の最大の長所とも言えた
森の街滞在後も東回りで周辺国を回り、上から下まで隅々見て周り、これという人材にも声を掛けどんどん「人」を増やしていった
特に特徴的だったのが、年齢、性別、経歴、立場に一切拘らない人事選抜である
実際森の街でも、アラン アレンという、17歳の狩人の兄弟を誘って軍部に入れたり
東の山岳国では、エリという独り身の少女を連れて帰って側に置いたり
本国ではアレクシアの負担の軽減に教師をしていた30歳の主婦、ハンナを登用して補佐に充てたり
情報通達が早いという事で伝心が使える術士等高給を持って迎える
「ちょっと極端ではないか?」と言われる人事も行い、当初訝しむ者も出たが
ロランの人事の選抜眼がどれほど優れていたか、それが後、実績として現れ批判から尊敬に変わるのにそう時間は掛からなかった 後年「人事の魔術士」という評価を得る事になる
一通りの外遊が終わって本国に戻ったがベルフの大陸侵攻に陰りが出る 東西の侵攻作戦で敗退し、南への侵攻に積極的になる
元々兵力が多いだけに「蓋」をされた方面から逃れる様に兵力移動が始まり動き出す
それらは軍議の議題にも上り出席した、一同は別の不安を覚えた
「止まっていた南進行が再開となると、こちらにも来ますかな?」まず軍長でもあるロルトが発言
「とは言え、陛下は出来る範囲最大限の十分な用意や備えもして居ります、こちらから更に何かをするというのは難しくありますね」
「うーん、そうだね、考えられる事は大体やったし、これ以上何か、周辺国と何かするというのは難しいかな‥注意喚起と言っても、実際起こるまで皆動かないだろうし」
ここで、登用したばかりの補佐官ハンナが思ったままの言をはさむ
「ならば聞き入れそうな所と連携しては如何でしょう、特に陛下に対して友好的である方ならそうした事も出来るのでは」
「たとえば?」
「南でやっている兵力や将等の融通のし合い、でしょうか、全方位から攻めてくる訳ではありませんし、余る所から、そうした融通があれば効率的かと思います」
「うーん、いっそ国家間条約でも結んでみてもいいかもしれないね」
「はい」「ご尤もですな」「悪くない」
と一同の同意が得られる
「特に東、南、西、から攻めてくるとしても、我が国から後方に位置する国では兵力が余るでしょうし」
「そうだなぁ、とりあえず周辺国に使者を出してみようか」
「ダメ元ですね」
「うん、それはそれで決定という事で。他に何かあるかな?」
「そうですなぁ、兵力の即増強は難しいですが。武装はもう少し増強出来るのではないでしょうか」
「同感ですね。それに我が国が派兵の中心に成るでしょうし、大規模な輸送への工夫でしょうか」
「具体的にどのような物がありますか?」
「クロスボウや長距離弓、輸送には旅馬車の大きな物、或いは銀の国の様な高速騎馬ですかな」
「そうだね、そんな感じだろうね、で、アレクシア、予算は組めるのかな」
「規模によりますが、大体予備費で、弓なら数百は、大型機械弓となりますと30くらいでしょうか?馬は余っているくらいですから新たな予算はいらないでしょう」
「うむ、我が国は騎馬隊はそれほど組織しておりませんからな」
「輸送というのは?」
「うーん難しいですね、いっそ連組でもしてみましょうか?」
「それは?」
「馬車やカートのような物を繋ぐんです、かなり大規模に装備や兵糧なんかを運べますね」
「ただ、馬と人力の半々に成りますし、移動速度は徒歩とさほど変わらなくなりますけど」
「うーん、時間はあると思うから実験的にやってみよう、それを見てからでも遅くない」
「了解しました」
ロランは会議後部屋に戻り、まず周辺国への通達の用意 次に連れ帰ったエリを呼ぶ。まず、エリは山岳地で生活して居て、配送の等の仕事をしてその日の糧を得て居た少女で13歳赤髪短髪で日焼けした健康的な少女。
彼女はそういった仕事をしていた為非常に地理に詳しく、健脚で足が速い無論、親なしに同情した点もあるのだが、斥候の類に力を発揮すると考え中央街道の警戒に当らせた
馬を与えられ「中央街道で何か不穏な気配があれば知らせてくれ、中央街道の警戒を、やり方は任せる万が一の為北側出口の森の街に伝心の使える術士も送る」とし金を50与えた
「まかせてください!」と受け取ってすっ飛んでいった
彼女はその行動任務に自分なりに考えて工夫をして当った まず、馬を別に二頭買い、王都から中央街道の二箇所の街に預け
自身は食料や「旅人らしい」服を購入して単身で中央街道を南進、自分の足と目で街道の地理調査をし正確無比な地図を二ヶ月掛け作成
そこから、細かいポイント身を隠せる場所、遠くを見渡せる高台、ちょっとした脇道等あらゆる物を書き込む
うねった一本道山道と言えど、草も木も天然の脇道やちょっとした流水もあり小さいながら無人の滞在施設もある
想像した以上に自然があり、街道という感じは薄かった為 そのような、近道、隠れ場所、寝るのに最適等の箇所がかなりあった故単身なら誰にも見つからず移動出来る事を確かめる
そこまで来て自作地図を複数枚写し書きして中央街道地図を3枚作成、それらを纏めて本国に送りロランが受け取り
「よし、これがあれば」と即、別働隊の斥候を10人程組織して森の街に送り数人編成でエリと交代監視を続けた
その間の二ヶ月に、機械弓や騎馬隊も作成、組織、機械弓は兎に角射程が長い為オルレスク砦等に集中的に送り、騎馬隊は作成したクロスボウと合わせて弓騎馬を600程組織した
この二個中隊をそれぞれ乗馬と弓の上手い、軍部から全体指揮にベテランの隊長を充てその下にアランとアレンを着けた
大規模輸送隊も実験の結果、屋根なしの馬車や手押し車の様な物を複数繋ぎ馬と人が移動しながら交代で休みと移動を繰り返すという形が取られ
また、全体移動である為其々の負担が少なく、休みながら移動出来る為実際使ってみるとかなり有効だったのでそのまま採用された
同時に近隣諸国への訪問と手紙による共同戦線への働きかけは北西地域を中心に同意が得られ3カ国が参加、相互派兵の約束を取り付ける ただし、南3地域の自治区と東地域は良い返事が無くそのままとなった
「東は兎も角、南は目前の危機なのになぁ‥」と
「剣聖のおじいさんの言った通りですね、しかたないです」とモニカは分かっていた事と示し慰めた
「ええ、そうなる事を想定しての準備です、ここは諦めましょう‥」
「南砦からの即応の準備も早期発見の為の斥候も陛下は出されております」
「そうです、これ以上陛下が出来る事はありません」と
「うーん‥しかし、領主は自己判断の結果だからいいとしても、民間人、領民が巻き込まれるのは問題だなぁ‥」
「しかし、それらを助ける手段があるんでしょうか?」
「難しいですわね、3地域合わせると民は10万人は軽く居るでしょうし」
「例の「オルレスク砦を緊急避難場とする」告知は受け入れたのでしょう?」
「うん、そこは「そういう事なら」と殆どの領主が受け入れたね」
「では、自発的に逃れてくる民を受け入れるしかないでしょう」
「私らが最初から南に行ってもいいですけどね‥剣聖やソフィアさんを失いたくないですし‥」
「私ら‥て言っても陛下はそうはいかないでしょう、危険ですし」
「うーん、僕らが行くかどうかは兎も角、初めから領民の避難援助の「何か」を出すのはありかな」
「と言うと?」
「例の大規模輸送隊を初めから置いておくという手もあるよ」
「なるほど、いいかもしれませんね」
「オルレスク砦に足の速い騎馬隊も配置したし、連携して行動すれば結構効率的にやれるかもしれない とりあえず、この件も指示しておこう、それと皆も即応の準備を」
「わかりました」
それらの意思を即日指示し、アレクシアらにも相談し意見を求める
「自国領土なら民や物資の引き上げによる防衛焦土作戦も出来ますが、そうではないですからね‥」としばし思考した後
「わかりました、兎に角、輸送隊の編成と連組の増産を急がせます、地域条件がある為これもオルレスク砦でへの配属で宜しいですね」
「そうだね、あそこにあったほうが都合がいいだろう」と同意
だが実際「事」が起こったのはそこから更に半年後であった
ベルフが軍備の再編と将を八将に増やし 失敗した東西への防備から南方への攻撃の連続と南の対ベルフへの連合の強化等の情報が遅れて届く
兎角、北と南の遠さもあるが、北側地域とそれ以外の国の接点の無さ等の理由がある
その情報が届いたのは5日後、中央街道に置いた斥候隊から伝心を使って情報が獅子の国本土に送られてくる「ベルフ軍北伐」の報である
数は5千以上、司令官に八将の1人アルベルト、構成は歩兵、重装備兵、大規模な輸送隊等内容が明らかになる
また斥候隊は中央街道中ほどまで網を広げて居た為、実際にベルフ軍が北側に出るのは20日程かかると見解を示した
そこへ行くのは初めてでもあり、また、剣聖フレスロルグの生家のある場所で、一度見てみたいと思っての事でもある
実際そこに到着してみると集落と街の半々というのはたしかにその通りという街、周囲に深い綺麗な森、人口もそこそこ、森の街を言うからには発展していないのかと思いきや中々整ったきちんとした街だった
その横をかすめるように南に狭い中央街道があり、こちらは石と雑草ばかりの厳しい街道だ
「うーん、狭いね」
「横に20人並べるかという道ですね」
「たしかにこれは軍が進軍するのは無茶という感じだな」
「この先は更に高低差が激しく、天気も荒れ易いですよ‥」
「ベルフが使わない理由が分かった気がするね」
「普通、4~5人のパーティーで山登りを楽しむ感覚でしょうか」
「ええ、けど、間にも滞在施設が幾つかあるだけで、ほんとに石ばっかりです‥」
「行った事があるの?チカ」
「私は南生まれですし‥通ったことありますよ‥」
「歩き?」
「いえ、旅馬車ですね、それでも二週近く掛かります、しかも軍となれば更に‥」
「どうなのかしら、それでベルフが来ないというのは早計な気がしますけど」
「そうだね、大型の輸送、何か開発か、既存の物を改造するとか、考えられなくないね」
「そうですね‥」
「何れにしろ結構大規模になるでしょうね、場所が場所だけに、ダメだったから戻る、というのもそれこそ無茶ですし」
「とはいえ、ここは僕らの国では無いからなぁ、まとまった対策は打てないな」
「そうですわね」
「後でそこはアレクシアに相談してみよう、後は周辺への注意喚起か‥あんまりやることはないなぁ、それ自体聞き入れられるか微妙だし」
「オルレスク砦に防衛軍が最大の努力、でしょうか」
「そうだね、それ以上は内政干渉もいいとこだし‥実際戦火が及べば違うんだけど」
「難しいですわね」
「まあ、とりあえず街で二、三日泊まって情報収集してみようか」
「了解です」
ロランら何時もの五人は早速思い思いに街中を歩き、遊び半分、情報収集半分を行う
午後三時頃には一旦収集した後、せっかく来たのだから、と剣聖フレスの家に行って見る
家、というよりはそのまま道場という感じだった 既に20名からの弟子達と思われる人々が広い空き地で思い思いに鍛錬に励んでいた邪魔しても悪いので遠巻きに見学する事にしたが
「見学でしたら近くでどうぞ?」と弟子の1人と思われる女性に声をかけられ
まあいいかという感じで五人は60過ぎのおそらく彼がフレスだろう人物の近くに行って見学を続けるしかし彼はそれを察してか
「フレスロルグじゃ、宜しくな獅子の騎士様と陛下」と声を掛けられた思いっきりバレバレだった
「な、なんで」という間もなく
「ハハ‥その特殊軍服を着てる人間を見るのは久しぶりじゃ、ワシも王家に招かれた事があるでの知っておるよ」
「そうでしたか‥」
「しかもその制服は王家直属護衛官しか着れぬ物皆若いのにそうとうな腕前なんじゃな」
「いえ、それほどでも‥ロラン様は希望する仕事を優先して与えてくれますので‥」
「ほう、人の使い方をよく分かっているようじゃの」
「深く考えている訳では無く、好きな事の方が結果は自然に出る、と考えているだけですよ」
「うむ、やる気とかやりがい、というのは日常の最高の調味料じゃからの」
「恐縮です」
「で、今日はこのじじいに何の用ですかな?」
「周辺地域の散策のついで、せっかくだから剣聖の武を見学しようと思いまして」
「ほほう、では、せっかくついでに手合わせでもしてみますかの?」
「え、しかしそれは‥‥どうする?」
「ハァ、別にやってみてもいいですよ‥」と何時に無くチカが積極的だった
「え?!やってみたいの?!」
「というか、久しく苦戦する相手というのに当った事がないので‥」
「ハハハ、それは楽しみじゃ、そうじゃな、ではソフィア」
そう呼ばれた先ほど声を掛けてきた女性が木剣を拾う
「はい、では私が」
「槍、棒でいいんですけどありますか?‥」
「うむ、そうじゃの、誰か長めの棒を持ってきてくれ」
「はい」
「すまんのう、何か探してこよう、ワシの所は純剣術で槍は無いんじゃよ」
「とはいえ、わたくしはオフェンシブシールダーですし、妹も剣盾術ですし…代わりにという訳には」
「僕も長剣術だし、妹も棒術と徒手拳法なんだよなぁ‥」
「これまた、個性的な一団じゃのう‥」
「すいません‥」
3分ほどして長棒を弟子の1人が持ってくる
「すみません、手ごろなのが物干し竿しか無くて」とそれを渡した
「ええ、まあ、大丈夫ですよ」とチカはそれを振り回して了解を出した
「ソフィア=クロードです」
「チカ=サラサーテです‥」
と二人は中央の広い場所に出て構えた
「ほほう、あの子がチカ=サラサーテか」
「ご存知でしたか」
「うむ、武芸者の間では有名じゃ、しかも無敗の天才槍士、じゃからの」
「では、好きなタイミングで始めじゃ」
ソフィアとチカの試合は、間違いなく達人同士の試合となった
が、面白い勝負では無かった 問題は武器の差とチカの隙の無さ、双方神速の速さ且つ正確さがあり一見すると素晴らしい試合なのだが
チカは長槍を正確無比に隙や急所に差込
ソフィアは基本的に防御主体で距離を詰める隙を探す
しかしチカは相手がそのタイミングと隙を見つけ、そこに一歩踏み出そうとするとその踏み込むポイントに槍を先読みして突き出し一切相手に前に出るポイントを突かせない いわば完全なる詰めの技だけに、面白みは無いのだが絶対負けないやり口なのだ
更に言えば、ソフィアは殊更隙をわざと作ってチカにそこを突かせ誘いを掛けた後仕掛けるという手段も打ったがそれすら、先読みして移動ポイントに槍を置き撃ちする為、それ以上の物を見せない限り
チカが突き、ソフィアが守備するという展開が延々と続くことになる
本来普通の勝負師であれば、そこを打開する為にそれ以上の何かを仕掛ける事もあるのだがチカもソフィアも似た様な武質らしく、無理仕掛けを一切行わず打ち合いが5分続いた後
「そこまでじゃ」とフレスに止められる
両者「ふー」と溜息をついて礼をして離れた
「こりゃ、あれじゃな、相性が悪いのう」
「お互い、無理無駄ムラをしない、3無原則な武芸者ですわね‥不毛ですわ」
「だがまあ「強さ」という意味ではどっちも極まってるね」
「ふーむ、チカ殿はいくつじゃね?」
「17です」
「‥恐ろしい才能じゃ‥その歳でほぼ頂点に達しておる‥これほどの名士はめったにお目にかかれん」
「いえ、ソフィアさんも同じくらいだと思いますよ」
「うむ、しかし、ソフィアはうちの弟子の中ではワシの後継者に、と考える1,2の使い手じゃそれとここまで力を競っておる相手というのは、まあ、まず見た事が無い」
「恐縮です‥、互角の相手というのも久しく会えていませんでしたので良い試合をさせて貰いました」
「いえ、私こそ、これほど隙の無い「完璧」という言葉が合う名士と会えて光栄でした」
そうチカとソフィアは互いを賞賛した
「うーむ、しかし「スティンガーニードル」針の一刺しとはよく言ったもんじゃこれほど異名が当人を現す言葉も珍しいのう」
「ええ、正確無比、一糸の乱れも無いとはこの事ですわ」
「あの~‥」
「うん?」
「ところで「1,2の使い手」て事はソフィアさんのレベルの剣士が他にいるんですか?‥」
「ええ、私の幼馴染で兄の様な人、ウィグハルトて兄弟子が居るわ」
「へぇー‥」
「ただ、タイミングが悪かったのう、ワシの代理で他国に指導派遣されておるんじゃ」
「そうでしたか」
「二、三ヶ月は戻らんと思う、すまぬね」
「いえ」
「ところで、皆さんはこちらに滞在されるのですかな」
「2,3日は、あちこち見て回るつもりです。それと」
「うん?」
「森の集落は責任者は居られるのでしょうか」
「責任者か、一応自治区ではあるからのう、領主は居るのだが、まあ、会ってもあまり意味は無いじゃろう」
「というと?」
「‥あれじゃろ、若い陛下はベルフの事を考えておるのじゃろう」
「それもご存知でしたか‥」
「陛下は物の分かった人物だから下見に来たのじゃろう?」
「その通りです」
「が、ここの領主は人の意見を好む人間では無いし、都合の悪い事は見え無い、というそこいらによく居る人物何か言った所で怒りを買うだけじゃろう、そもそも街に殆ど居らんからの」
「そうでしたか」
「それに一ヶ月前から家族で休暇に行ってますが」
「なんとまあ‥」
「話なら、まあ、ワシが聞こう、権力者ではないが、それなりの発言権はあるでの」
「分かりました、では‥」
「ああ、いや、中に入ろう、外ではなんだ」
「はい」
と、一同は剣聖の屋敷に招かれ、応接間に通される。そこでロランは、自分が今考えている事、今後の大陸情勢に関して包み隠さず見解を披露した
「成程、中央街道から北進の可能性か」
「軍を預かる者として見ると無謀な進軍ルートですが、だからと言ってここを使わないという考えは極端に思いこうして見に来た訳です」
「思い込みや決め付けはよくないからの」
「はい」
「ただ、気持ちは分かるのだが、陛下はここの領主では無いからの、余りやる事もなかろう、そもそも内政干渉じゃからの、ま、危機に備えるのはよい事じゃが」
「ここの軍はどのくらいありましょう」
「治安維持軍じゃからの、残念ながら300しか居らん、相手の規模にもよるがまあ、妨害にも成らんじゃろうな」
「うーん‥」
「かと言って、さっきも言った通り、増強を図れ等言っても無駄じゃろうし」
「やはり、避難して頂くのが最善でしょうか」
「かも知れんな、無駄な人死にを出す事に意味は無いからの、しかし‥だとしてもどうするべきか‥」
「ええ、その事なんですが」
「うん?」
「実は今北のオルレスク砦に、新将を充てて、重装剣盾兵500と兵2000の準備を始めて居ます、有事の際にはここに避難して頂くというのはどうでしょう」
「なるほど、あそこなら陛下の領地であるし、強固な砦、滞在出来る人間も多い妥当な手段ではありますな」
「はい、現状、情勢から見ても「敵」と言えるのはベルフだけですし、備えと言ってもそれに対するのが先ず優先順位として上と思いますので」
「そういう事なら話は早い、相手を「ベルフ」とせず、緊急避難施設として受け入れを表明すればどこに対しても刺にはならぬし、いざと言う時にはオルレスク砦に自発的に下がる可能性が上がるの」
「そうですね、対象を確定させると、無駄に不安を煽りますし、それなら皆受け入れるかもしれませんね」
「うむ、それだと我々も無理せずに済む」
「では、そういった方向で進めて行きます」
「こちらも了解した何かの際は頼らせてもらうおう」
ここで一同の会談は終了となり席を立った。この決定は御意として即日、モニカが伝心術を通して首都のアレクシアに伝え、アレクシアも同意それら準備が整えられる
会談の後残った剣聖フレスとソフィアはこう感想を残す
「事の起こりの前に起こった時の事を考える、中々の名君ですね」
「ああいう君主というのも中々出ないからのう。しかもまだ17歳、大した物じゃ」
「ええ、ですが狡猾な者ではありません」
「うむ、正直、ああいう青年はワシも好きじゃな、ああいう者が王として人の上に居る国民は幸せな事じゃ」
「故に優れた人材も集まる、ですね」
「そうじゃのう、ま、人材というのはどこにでも居るのじゃがな」
「そういうものでしょうか」
「AとBの集団で双方100の人間が居たとする、ではAとBに人の差があるか?というとそのような事もない、見出す者の才が集団の強さを決めるのだよ。つまり使われなければ存在しないと同じ。という事だ」
「なるほど‥ご尤もで」
「そういう意味で言えば、獅子の国は安泰だろうな」
その意味に置いて新王はほぼ完璧だったと言える。自身が未熟である事を自覚しており、他者の意見をよく聞き誤りがあれば自ら正す そしてその意見を言う者を貴重な者として生涯大事にした、それが彼の最大の長所とも言えた
森の街滞在後も東回りで周辺国を回り、上から下まで隅々見て周り、これという人材にも声を掛けどんどん「人」を増やしていった
特に特徴的だったのが、年齢、性別、経歴、立場に一切拘らない人事選抜である
実際森の街でも、アラン アレンという、17歳の狩人の兄弟を誘って軍部に入れたり
東の山岳国では、エリという独り身の少女を連れて帰って側に置いたり
本国ではアレクシアの負担の軽減に教師をしていた30歳の主婦、ハンナを登用して補佐に充てたり
情報通達が早いという事で伝心が使える術士等高給を持って迎える
「ちょっと極端ではないか?」と言われる人事も行い、当初訝しむ者も出たが
ロランの人事の選抜眼がどれほど優れていたか、それが後、実績として現れ批判から尊敬に変わるのにそう時間は掛からなかった 後年「人事の魔術士」という評価を得る事になる
一通りの外遊が終わって本国に戻ったがベルフの大陸侵攻に陰りが出る 東西の侵攻作戦で敗退し、南への侵攻に積極的になる
元々兵力が多いだけに「蓋」をされた方面から逃れる様に兵力移動が始まり動き出す
それらは軍議の議題にも上り出席した、一同は別の不安を覚えた
「止まっていた南進行が再開となると、こちらにも来ますかな?」まず軍長でもあるロルトが発言
「とは言え、陛下は出来る範囲最大限の十分な用意や備えもして居ります、こちらから更に何かをするというのは難しくありますね」
「うーん、そうだね、考えられる事は大体やったし、これ以上何か、周辺国と何かするというのは難しいかな‥注意喚起と言っても、実際起こるまで皆動かないだろうし」
ここで、登用したばかりの補佐官ハンナが思ったままの言をはさむ
「ならば聞き入れそうな所と連携しては如何でしょう、特に陛下に対して友好的である方ならそうした事も出来るのでは」
「たとえば?」
「南でやっている兵力や将等の融通のし合い、でしょうか、全方位から攻めてくる訳ではありませんし、余る所から、そうした融通があれば効率的かと思います」
「うーん、いっそ国家間条約でも結んでみてもいいかもしれないね」
「はい」「ご尤もですな」「悪くない」
と一同の同意が得られる
「特に東、南、西、から攻めてくるとしても、我が国から後方に位置する国では兵力が余るでしょうし」
「そうだなぁ、とりあえず周辺国に使者を出してみようか」
「ダメ元ですね」
「うん、それはそれで決定という事で。他に何かあるかな?」
「そうですなぁ、兵力の即増強は難しいですが。武装はもう少し増強出来るのではないでしょうか」
「同感ですね。それに我が国が派兵の中心に成るでしょうし、大規模な輸送への工夫でしょうか」
「具体的にどのような物がありますか?」
「クロスボウや長距離弓、輸送には旅馬車の大きな物、或いは銀の国の様な高速騎馬ですかな」
「そうだね、そんな感じだろうね、で、アレクシア、予算は組めるのかな」
「規模によりますが、大体予備費で、弓なら数百は、大型機械弓となりますと30くらいでしょうか?馬は余っているくらいですから新たな予算はいらないでしょう」
「うむ、我が国は騎馬隊はそれほど組織しておりませんからな」
「輸送というのは?」
「うーん難しいですね、いっそ連組でもしてみましょうか?」
「それは?」
「馬車やカートのような物を繋ぐんです、かなり大規模に装備や兵糧なんかを運べますね」
「ただ、馬と人力の半々に成りますし、移動速度は徒歩とさほど変わらなくなりますけど」
「うーん、時間はあると思うから実験的にやってみよう、それを見てからでも遅くない」
「了解しました」
ロランは会議後部屋に戻り、まず周辺国への通達の用意 次に連れ帰ったエリを呼ぶ。まず、エリは山岳地で生活して居て、配送の等の仕事をしてその日の糧を得て居た少女で13歳赤髪短髪で日焼けした健康的な少女。
彼女はそういった仕事をしていた為非常に地理に詳しく、健脚で足が速い無論、親なしに同情した点もあるのだが、斥候の類に力を発揮すると考え中央街道の警戒に当らせた
馬を与えられ「中央街道で何か不穏な気配があれば知らせてくれ、中央街道の警戒を、やり方は任せる万が一の為北側出口の森の街に伝心の使える術士も送る」とし金を50与えた
「まかせてください!」と受け取ってすっ飛んでいった
彼女はその行動任務に自分なりに考えて工夫をして当った まず、馬を別に二頭買い、王都から中央街道の二箇所の街に預け
自身は食料や「旅人らしい」服を購入して単身で中央街道を南進、自分の足と目で街道の地理調査をし正確無比な地図を二ヶ月掛け作成
そこから、細かいポイント身を隠せる場所、遠くを見渡せる高台、ちょっとした脇道等あらゆる物を書き込む
うねった一本道山道と言えど、草も木も天然の脇道やちょっとした流水もあり小さいながら無人の滞在施設もある
想像した以上に自然があり、街道という感じは薄かった為 そのような、近道、隠れ場所、寝るのに最適等の箇所がかなりあった故単身なら誰にも見つからず移動出来る事を確かめる
そこまで来て自作地図を複数枚写し書きして中央街道地図を3枚作成、それらを纏めて本国に送りロランが受け取り
「よし、これがあれば」と即、別働隊の斥候を10人程組織して森の街に送り数人編成でエリと交代監視を続けた
その間の二ヶ月に、機械弓や騎馬隊も作成、組織、機械弓は兎に角射程が長い為オルレスク砦等に集中的に送り、騎馬隊は作成したクロスボウと合わせて弓騎馬を600程組織した
この二個中隊をそれぞれ乗馬と弓の上手い、軍部から全体指揮にベテランの隊長を充てその下にアランとアレンを着けた
大規模輸送隊も実験の結果、屋根なしの馬車や手押し車の様な物を複数繋ぎ馬と人が移動しながら交代で休みと移動を繰り返すという形が取られ
また、全体移動である為其々の負担が少なく、休みながら移動出来る為実際使ってみるとかなり有効だったのでそのまま採用された
同時に近隣諸国への訪問と手紙による共同戦線への働きかけは北西地域を中心に同意が得られ3カ国が参加、相互派兵の約束を取り付ける ただし、南3地域の自治区と東地域は良い返事が無くそのままとなった
「東は兎も角、南は目前の危機なのになぁ‥」と
「剣聖のおじいさんの言った通りですね、しかたないです」とモニカは分かっていた事と示し慰めた
「ええ、そうなる事を想定しての準備です、ここは諦めましょう‥」
「南砦からの即応の準備も早期発見の為の斥候も陛下は出されております」
「そうです、これ以上陛下が出来る事はありません」と
「うーん‥しかし、領主は自己判断の結果だからいいとしても、民間人、領民が巻き込まれるのは問題だなぁ‥」
「しかし、それらを助ける手段があるんでしょうか?」
「難しいですわね、3地域合わせると民は10万人は軽く居るでしょうし」
「例の「オルレスク砦を緊急避難場とする」告知は受け入れたのでしょう?」
「うん、そこは「そういう事なら」と殆どの領主が受け入れたね」
「では、自発的に逃れてくる民を受け入れるしかないでしょう」
「私らが最初から南に行ってもいいですけどね‥剣聖やソフィアさんを失いたくないですし‥」
「私ら‥て言っても陛下はそうはいかないでしょう、危険ですし」
「うーん、僕らが行くかどうかは兎も角、初めから領民の避難援助の「何か」を出すのはありかな」
「と言うと?」
「例の大規模輸送隊を初めから置いておくという手もあるよ」
「なるほど、いいかもしれませんね」
「オルレスク砦に足の速い騎馬隊も配置したし、連携して行動すれば結構効率的にやれるかもしれない とりあえず、この件も指示しておこう、それと皆も即応の準備を」
「わかりました」
それらの意思を即日指示し、アレクシアらにも相談し意見を求める
「自国領土なら民や物資の引き上げによる防衛焦土作戦も出来ますが、そうではないですからね‥」としばし思考した後
「わかりました、兎に角、輸送隊の編成と連組の増産を急がせます、地域条件がある為これもオルレスク砦でへの配属で宜しいですね」
「そうだね、あそこにあったほうが都合がいいだろう」と同意
だが実際「事」が起こったのはそこから更に半年後であった
ベルフが軍備の再編と将を八将に増やし 失敗した東西への防備から南方への攻撃の連続と南の対ベルフへの連合の強化等の情報が遅れて届く
兎角、北と南の遠さもあるが、北側地域とそれ以外の国の接点の無さ等の理由がある
その情報が届いたのは5日後、中央街道に置いた斥候隊から伝心を使って情報が獅子の国本土に送られてくる「ベルフ軍北伐」の報である
数は5千以上、司令官に八将の1人アルベルト、構成は歩兵、重装備兵、大規模な輸送隊等内容が明らかになる
また斥候隊は中央街道中ほどまで網を広げて居た為、実際にベルフ軍が北側に出るのは20日程かかると見解を示した
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