剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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北の獅子編

晴れた日に雨具を用意する

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「とにかく森の出口に隣接する3地域への伝達を、僕もオルレスクへ出る」
「自ら前線に出るのは危険です陛下」とアレクシアとハンナが止めるが

「いや、軍を率いて戦う訳じゃない、あくまで、向こうの妨害と周辺地の民間人の撤退支援だ主軍全体の指揮はロルトに、補佐にハンナを、行動は委任する。首都の防衛はニコライに任せる アレクシアは首都への流民の受け入れ。共闘同盟の3国への通達と援軍の要請」
「援軍の要請とは‥」
「そう、ただし軍というより、輸送隊中心で、民間人や難民の避難優先だ現状、相手の数ならこちらの用意した軍でしばらく支えられる、いきなり戦えと言っても向こうも出しにくいだろう」
「なるほど、了解しました、当面は防御と民の避難優先という事ですね」

「そうだ、大規模に動くとなると、20日でも時間に余裕があるという訳ではない兎に角、最速で動く必要がある」
「分かりました」

殆ど会議というレベルでない、短い王の指示の後其々は準備を整える。即日ロランらは自らの護衛官らと共に最速でオルレスク砦へ出立する

馬を乗り継ぎながらロランらは最短二日で砦に到着し、即時簡易軍議を開く

「状況は確認しておりますが陛下らは中央街道に向かうのですか?」
「そのつもりだ、兎に角ここは防備と流民の受け入れ本国への移送を中心新たに創設した弓騎馬隊と剣盾兵も後発して南、領土境界線へ配置してくれ タイミングを見て南進指示を出す」
「数の上で戦うのは厳しくありますが」
「向こうの足止めが出来れば良い、別に倒す訳じゃない、輸送隊はそのまま僕らと行ってもらう」
「分かりました、無理をなさいますな陛下」
「分かっている」

と休みも取らずロランは南進出立する

更に半日後、斥候隊として街道監視についていて北に戻ってきたエリらと合流する

「陛下!」
「いいタイミングだエリ。森の街は?」
「情報は伝達しました、各地領主らも、この事態に至ってようやく動いた様です 民間人の避難指示を出した模様、何しろ相手はあのアルベルトですし」
「人と物の徴収がされる可能性があるしね…で、軍は?」
「はい、街道出口で防衛を行うつもりらしいです!」

「無謀だ‥300しか居ないのに‥」
「では、戻って引かせますか?」
「いや、エリらはこの後ろの自治区や領主に通達してくれ、その後オルレスクへ撤退してくれ 南はどの道僕らが向かう予定だ」
「ベルフ軍は5千以上ですよ!?しかも変な装備の兵も居ますし!」
「変な装備の兵?」
「こんな連中です」

とエリは得意の絵を描いた紙を渡した

「重装突破兵とは違うのかな?なんだこれ?」
「わかんないですけど、あれより軽装で両手に盾と小型剣を篭手に付けたみたいな‥」
「数は?」
「装備積載を見る限り400~500人分くらいでしょうか」

「分かった十分警戒する、情報や3地域の行動、選択等も砦の司令官のダブルAに伝えてくれ 彼なら情報があれば最善の選択が出来るハズ、行動も委任すると伝えてくれ」
「わっかりました!」

とエリらは出て行った時の様にすっ飛んで行った

更に3日後、ロランらは森の街に単身到着、領主に面会して軍を引かせて避難するよう助言したが

「馬鹿な!ここを捨てろと言うのか!」と反発される
「戦う方が愚かでしょう、相手は五千以上ですよ」
「獅子王は猫王ですか!援軍を出すなら兎も角、放棄して逃げろだと!」

これにロランは流石に呆れたがそうなってはもうしかたない

「分かりました善戦を期待します、ただ、流民の受け入れは許可して貰いたい」
「好きにしろ、戦えぬ者が居てもしかたない!」

取り付く島も無く追い出されてしまう
屋敷の外に出た一同も呆れていた

「アホですかあの領主」
「変な所で変な勇気を出されても困るんですが‥」
「これは勇気とは言わんな、ただの無謀だ」
「で、どうしますか兄様」
「とりあえず、領民や民間人は戦えぬ者が~というならさっさと逃がそう もうこうなっては戦闘回避は出来ない。精々時間稼ぎに使おう」
「ですわね‥」
「輸送隊は?」
「まだ、数日はかかるかと」

「じゃあ、僕らは皆に告知して避難させよう」
「あの‥」
「うん?」
「剣聖様にも協力を願っては?‥物の分かった人物ですし」
「そうだな、行ってみよう、僕とチカで行く。モニカはアレクシアらに伝心で通達をカトリーヌとジュリエッタはモニカについてくれ」
「了解しました」

早速、剣聖の元へ訪れたロランらは会談、状況の説明と協力を願った

「なるほど、状況は分かりました。ワシ等も撤退に賛成です、協力致します」
「ありがとうフレスさん」
「門下生含めて100人近く居りますので、街の連中への声掛け撤退戦になった場合の護衛等できましょう。ただ、武具の類はあまり有りませんので」
「半日もすれば後発させた大規模輸送隊が到着します、武具や馬、200~の歩兵も参加できます」
「ホッホ、流石ロラン陛下、打つ手が早い」

「後精々一週間くらいしかありません、これでも時間的にはギリギリです」
「分かりました、我々も直ぐに動きましょう」

と両者席を立ちフレスは弟子達を集め、状況の説明と領民への声かけ戦いの準備を進める

会見が終わり、ロランらは再び集まり今後の行動を話し合うがチカは「その、変な謎の兵ってなんでしょう‥」と興味を示した

「確かめようとか言うんじゃないでしょうねチカさん」
「無茶はやめてくださいよ」とベルニール姉妹に釘を刺されるが

「なら、私だけ見てきます、1人ならどうとでも成りますし‥」
「うーん、ベルフ軍がどの程度か知るのも悪くないな」

とロランもチカも積極的だった

「あのですね陛下‥」
「いや、遠くから見るだけなら出来るんじゃないかな。こっちは少数だし」
「ええ、向こうも斥候に構うほど暇じゃないでしょう‥、見るのは出来ると思いますよ」
「まあ、たしかに」
「いざとなれば私が全員倒しますから‥」

チカが言うと出来そうなのが恐ろしい

「しょうがないですわね‥」

と一同も気が進まないのだが同意する

そこから予定通り二日で輸送隊が到着、民間人の避難の手伝いや、再出立の準備を四日で終え、一同は6日目には総撤退する、その同日にはベルフ、アルベルト軍が街道北出口へ到達

森の街の防衛軍と開戦となるが、結果は時間稼ぎにも成らない程早く1時間で防衛軍は敗退した

この際前線投入されたベルフの新部隊「スヴァート」は驚異的な強さで自軍死者無しで終了する

街道の出入り口は非常に狭いので兵力差は出にくいのだが重装突破兵とスヴァートの突破力のみでほぼひき殺したという感じの戦闘だった

そこを占拠したアルベルトは、既にもぬけの殻となった街を見て、嫌な思い出が蘇る

「マリアのクソガキにやられた時の様な焦土作戦でも取るつもりか?!」

が、それは杞憂である事が即座分かる施設はそのままで食料も半数は残っていた。ただ、住民が消えていたのだ

「これは、民間人の被害を避ける為に総撤退したと考えるべきか‥」
「おそらく‥」
「うむ、だが、向こうにまともな軍師が居た場合セコイ罠があるかも知れん周辺地域の情報を集めろ、捕虜から情報も引き出せ」
「はは」
「しかし、どこから我らの進発の情報が漏れたのだ‥本国でも知っている者は僅かのはずだが」

まさか、予め山道に斥候を放った等、夢にも思わないだろう

一旦街の占拠を重視しつつ、周辺の探索を指示。すると捕虜から、この街の領主の独断で防衛戦を展開、非戦闘員の被害を避ける為獅子の国が輸送隊を出して住民の大移動を行った事が容易に分かる

「では、追撃を出すか。騎馬は少ないがスヴァートと組ませて追撃させろ数は500でいい」

と二時間で準備し追撃隊を出す

ロランらは後方の高台で隠れつつ、望遠鏡でそれを確認した後、後退した

「とにかく一旦輸送隊に合流を、追撃があるならそのほうがいい」
「はい」

実際彼らは見つかることも無く、トラブルも無く逃げれたのはラッキーではある

移動の合間この戦いの感想を各々口にするが、その観戦が功を相した事が示された


「普通に、矢も剣も通らない相手、て感じでしたわね」
「あれは強敵だなあ」
「止められるとすれば剣盾兵ですかね」
「まあ、特殊重装備兵の数自体はこっちのが多いですし、なんとかなるのではないですか」

「チカはどう思う?」
「はぁ‥まあ、それでも隙間が無いわけではありませんし、単身でもどうにか出来ますよ」
「そうかしら‥」
「後は陛下ならやれると思いますけど‥」
「ええ!?」

「陛下の武器は長剣ですし、エンチャント武器です、たぶん抜けるかと‥別に向こうの兵が強いって訳じゃなく「硬い」てだけですし貫通力か打撃力が高ければたぶんいけます‥後は機械弓を直接打ち込むとか」
「なるほど、装備ごと貫くか、叩き潰せば良い訳か」
「はい‥、要は装備差ですから、こちらもそれ相応の物を用意すれば良い訳です‥それに鎧の中身は別に普通の人間ですから、外の殻さえどうにかすればいいです」

「ふむ‥」とロランは暫く考えていた、そして
「良いことを思いついた、アレクシアとダブルAに連絡を」
「え?は、はい」

ロランの通達と情報を受け取った砦のダブルAと首都のアレクシアは「なるほど」と頷いた

「事前に兵装が分かったのは大きいですね、しかも、これなら直ぐに用意出来ます」と

全軍司令官に抜擢されたロルトに伝え、準備をさせる

同時、砦のダブルAも兵装倉庫に向かい「本来余り用の無い武器」の在庫を確認それが十分にある事を確認して武器の運び出しとメンテナンスを指示

「他に‥そうですね、砦の周りから石と木材を、急造ですが対歩兵用小型投石器を作ります」
「しかし‥マニュアル無しでは‥」とバートは言ったが

「安心してください、伊達に元学者じゃありませんよ」
「ハッ、そうでしたな!」
「それにこの砦は様々な準備をかなり前から整えていたおかげで、人手も道具も多い流民の受け入れ保護と同時に他の準備も整えられます」
「分かりました、兵共を集めます」

その二日後には残り二国への撤退の告知と、受け入れをオルレスク砦で行う通達を行い砦まで戻ったエリが南方三自治区の情勢をダブルAに伝えた

「では、森の街以外の自治区やらは総撤退に同意したんですか?」
「はい!目前に迫った危機でようやく目が覚めたみたいです 即日準備を始めて治安維持軍も領民を護衛して下がるみたいです両国合わせると兵1000、住民10万くらいです」
「これは時間が掛かりますね‥輸送隊もかなり用意しましたが‥」
「うーん、距離がそこまで遠くないですから、五日もあればここに来れるかと、それより危ないのは陛下と森街の住民の方です、かなり距離がありますから」

「同感ですね、しかし、両自治区が土地を放棄したのなら、こっちから軍も出せますね領土がどうこうの規制も無くなったという事ですし」
「どうされますか?」
「こっちから弓騎馬も出し陛下への援軍に向かわせます、それと指示のあった装備も持たせればおそらく、その妙な敵兵も撃退できるでしょう」
「あのー私も行ったほうがいいですか?」

「エリさんは行ってもやる事は無いかと‥戦闘ですよ?」
「ですよねー‥」
「ハハ、心配しなくても大丈夫ですよ。後はこちらの仕事です、休んでいてください、ずっと斥候任務に当っていたんですし、疲れてるでしょう」
「はい、陛下の事頼みましたよ!」
「私にとっても恩人と言っていい方です、絶対死なせませんよ、任せてください」
「はい!」

ダブルAはその情報交換の後、新設の高速騎馬隊隊長のゴラートを呼び、状況の説明、装備の換装を行わせる と言っても大した準備が必要な物でもなく重武装になる訳でもないので用意自体は2時間で終わり騎馬隊600を率いて南進した

同日時、本国、獅子の国へ近隣国から輸送を中心とした部隊や兵、馬車等が大量に来援 本国の政治面を任されたアレクシアは各国の司令官に謝意と現在の状況を伝える

各国の司令官、または王らも、ロラン王の判断と行動を支持して居り、いち早く駆けつけ完全に獅子の国への指示に従うとの見解を先ず示した

「なるほど、戦闘自体は当面獅子の国の軍で行うわけですね」
「はい、皆さんには逃れてくる非戦闘員の移送をお願いしたい」
「かしこまりました、向かいます」
「とりあえず、本国でも受け入れ準備や、一時施設も用意してありますので本国へ移送を中心に」
「了解しました」

と集まった周辺国の兵や輸送隊3000が混成軍のまま休む間も無くオルレスク砦へ出立する

戦闘では無く「民衆を救う」という任務だけにかなり張り切っていた側面もあった

また、流民の受け入れ自体は獅子の国がやるというのは後々の事を考えずともよくその辺りの配慮の完璧さもハリキリの原因である

ただ、相互協力を受け入れたこの3国の王は
希望者を自国への移住を2割づつ受け入れる事になる

また、獅子の国だけ負担する事も無かろう、と自国の予備費や備蓄食料から獅子の国への援助等も行われる

本来なら「恩を売る」という意味合いになるが。この時の各国の王は、そういった思考は無くロラン王自身の裏の無い考えや若くしてここまで他者の為に尽くす彼の姿に感服しての無条件の援護であった

たった17歳の王が年長である自分らの誰も出来なかった事を魅せられたのだ。助けたくもなるのだろう

一方

森の街から領民を抱えて撤退したロランの一団は。開戦から二日後の午後3時、領土外に逃げる前にアルベルトの出した500の追撃隊に発見され、追いつかれる

輸送に工夫を凝らした部隊とは言え 何しろ、1万の一般住人を抱えての移動であり、とかく足が遅い

この時点でのロランら5人と自国兵200数十、フレスの弟子ら100と戦力的にかなり劣勢であったがそうなると迎撃するしかなく自らも前線に立って後退戦を展開する

まず、ベルフの追撃隊は速度の関係から騎馬隊が突撃してくるが

「しかたない、迎撃する!」とロランも馬を返し護兵と共に反撃体勢でぶつかり合う

が、ロランとその護衛官3人、妹モニカらの強さは尋常ではなかった

カトリーヌとジュリエッタの盾騎士としての防御の隙の無さで相手を平然と防ぎ止め反撃して次々相手を落馬させ倒し、ロランに接近すらさせない

特に特筆して強いのがチカだ。まず相手の槍も剣も打ち合わない 一方的に一撃で敵兵を突き倒していき防御も回避すらもさせない

「何だこいつら!」と敵兵が思わず叫ぶ。そういわざる得ない程この相手は強い

たった5分でベルフの騎馬兵は足が止まり、ロランらが押し返す程の逆撃を加えた

やむなくベルフ側の騎馬隊は後退するが入れ替わりに押してくるのが例の「スヴァート」である これはまともな兵では相手に成らない

何しろ剣を叩きつけても向こうは涼しい顔で短剣で返してくる

「こいつらと無駄に戦うな!被害だけ出る!防御主体でいけ!」とロランは指示しつつ馬を下りて地で相手する

移動中チカらと話合った通り、重装備の相手だと「普通」の武器や装備では「倒す」には難しい、ゆえにロランとチカとベルニール姉妹が倒す役割を主に受け通常の味方兵には防御主体の戦いを指示し、剣聖の弟子達も前線に出る

実際それは当たりだった、まともに相手にしなければ一般兵でも防ぐ事は出来る

特に獅子の軍は「重装剣盾兵」に代表されるように堅守反撃の軍として大陸全土でも有名である。元々一般歩兵も鎧が強固なモノであり、盾を皆持っていて防御力に秀でている

特にその時の「スヴァート」は100名。自分らだけで2、30倒せば向こうは引く

そして「倒す」役割を受けたロランらはそれを達成できる強さがあった

ロランの長剣は「堅牢」「切断」「軽さ」の3エンチャ剣「ハードヘッツタラング」という歴代王に即位の証として伝わる名剣であり相手が重装備兵であろうと、容易に鎧を切断して相手を倒した

チカの武器は通常の長槍だが、チカの余りにも正確無比過ぎる一撃はほんの小さな鎧の隙間やフェイスの視界穴に次々槍を差込難なく相手を倒していく、伊達に「針の一刺し」等と呼ばれていなかった

姉妹の姉ジュリエッタのオフェンシブシールダーの技も極めて有効だった

巨大盾を鈍器の様に扱い相手を跳ね返しては殴り倒し

体ごと盾を構えて突進して相手を吹き飛ばしつつ突進力を剣に乗せて鎧を突き通し相手を刺し殺す如何に防御力が高いと言っても中身は人間ジュリエッタの盾の打撃技は確実に相手の「中身」に打撃を通した

そして、100名居る「剣聖」の弟子達も並大抵の剣士で無く敵の攻勢を防ぎ確実に反撃して敵を倒す

たった15分の戦闘でスヴァートの特殊兵をロラン達は半数も倒し追撃隊を撤退させた

ハッキリ言ってここまで自分らの技が通用するとは思っても見なかった 撤退する敵兵を見送りながらロランは

「チカの言う通りだったな、分かっていれば十分通じる」
「ええ‥そんな大した相手じゃないです、この場合むしろ重装突破兵のが強いです」
「そうなのか」
「はい、あの変な部隊は「硬い」と言っても板金鎧、抜くのはそう難しくない‥」
「なるほど、フルプレート程分厚くないからな」

「それに手持ち武器も短い、短剣ですから、踏み込ませなければ武器の長さで通常剣や槍のが有利です私達は「踏み込ませない」だけの技量がありますし、そんなに苦労する相手じゃないです」
「残って見ておいて良かったなぁ‥」
「初見だったらもう少し混乱があったかもしれませんね‥」

「兎に角、別働隊が出て来る前に下がろう」
「はい」
「負傷、装備の破損が出た者は車に、再編、手当て等もしつつ後退移動を続ける」
「ハ!」

この輸送隊の長所が指示したとおり、連結した馬車に人も装備も歩く者と乗る者が交代移動しながら再編出来るのが最大の利点である

特に大型装備、「獅子の軍」独自の「移動式バリスタ」「小型投石器」等本来の物より小型である為に連結し運ぶ事すらできる

移動しつつ、参加した剣聖の弟子達にも礼を言った

「協力感謝します、貴方達は頼りになる」
「なんの、こういった時の為の普段の修練です。どうぞ頼ってください」

剣聖の弟子達もそう返した

今の状況にあってはお互いがお互いを頼りにするのは自然な事だ まして多くの民間人を抱えての撤退戦、自然と意気も上がるというものだ


ベルフのアルベルトはこの報を受け、怒りと驚きを同時に抱いた

「しかたない、ならここの占領政策は誰かに任せて残りで追撃を掛ける」

そう指示して準備もそこそこに北伐を半数の3000の兵を持って自ら開始する

森の街は中央街道北側出口で北伐の橋頭保であり、それを押さえた今となってはそのまま北へ進軍しても問題は無かった

本来なら、後続で北伐をしてくる味方を待つべきではある、そのほうが確実性が高い

が、アルベルトは先年の銀の国での失敗があり功をあせった側面があり、単独進軍を決めた

別にそれが間違いという訳でも無い行動は早ければ早い方が良い。それが相手に準備をさせる余裕を奪い常に自分が物事の主導的立場を獲得する機会でもある

アルベルトが3千の兵を率いて北伐を開始してから三日後

民間人を連れたロランの一団に追いつくのは、森の街の北自治区「ラドル」の街の手前である

すでに街の住民は撤退しておりもぬけの殻であったがこの街と街道交差点で遭遇戦となる

「まさか主軍で追撃戦を掛けてくるとはね‥」
「如何します陛下」
「ここは逃げの一手だな、数が10倍では話にならない。が、僕らは王国の者。殿を務める」
「でしょうね」

ロランは指示を出し、獅子の軍と剣聖らの300名と共に長蛇の最後尾に軍を置き彼の護衛官達と追撃してくるベルフ軍へ対峙する

「目的は味方を逃がす事、無意味に打ち合うな防衛しつつ下がれば良い!」

そう味方に声を掛け敵と刀を合わせた

3千対3百である、勝負になる訳が無いが。ロランら5人の個々の武力の高さ、兵の精強さは並ぶ者の無い強さでもあった

また、そもそも勝つ必要が全く無いだけに下がり迎撃により、守勢を徹底した故撤退軍は崩れず一時間近くベルフ軍の進撃を阻んだ

「あれは獅子の国の軍ですね」
「名前通りの硬い精兵だな。劣勢戦力にも関わらずまるで崩れる気配が無い」
「如何しますアルベルト様、奴等民間人の護兵の様ですが」

「うむ‥あれを倒した所で大して意味も無いが、捕虜に出来れば金には成る、とは言え、あの一団を狩るのは骨が折れるが‥」
「スヴァートを出しましょうか?」
「いや、既に一度撃退させている弓を使って遠距離から叩け近接が強いなら無理に剣兵で接近戦をやる必要も無い」
「了解しました」

ベルフ軍のアルベルトはそう指示を出し弓隊を用意、騎馬や剣兵を下がらせ遠距離から突く戦法に切り替える

それを見ていち早くロランは前に出てモニカとベルニール姉妹に指示

「モニカ魔法防御を、カトリーヌ、ジュリエッタも防御を空気の盾から抜けてくる矢を防げ一同盾を構えよ!」
「はい!」

一斉に射掛けられる矢を指示通り、モニカは魔法の盾で叩き落し、撃ち洩らした矢を姉妹が盾で味方兵団も巨大盾を天に構えて防ぐ

チカは指示を受ける前に騎馬で単騎、敵の前線弓隊に駆け敵陣に単身突撃、瞬く間に敵弓兵を10人突き倒した

「な!」とアルベルトも驚いた
「術士が居るのか!しかも武芸者も」

「陛下!チカさんに続きましょう、混戦を作って弓を使えなくするつもりです!」
「応!皆行くぞ!」

と咄嗟にチカの機転を利かせた反撃に乗り、軍全体で即座反撃突撃を敢行、アルベルトの軍の前線を突き崩し敵軍を後退させた

「信じられん‥あの寡兵を持って‥止むを得ない重装兵を出し防御!」

アルベルトも敵の威勢を削ぐ為防御力の高い重装兵を並べて防御体勢を取りロランらの反撃を一時防ぎ止める

「向こうは少数 攻勢も長く続かん、落ち着いて対応せよ!」と指示を出したが

チカは単騎でその防御兵すら平然と突き崩した

何しろ、鎧があろうと盾があろうとまるで意に介さない、僅かな防御、鎧や盾の隙間を的確に槍で突き一撃で全て倒すのだ

だが、ロランはそれには便乗しない、チカが崩す逆から突撃を打ち、正面と横から呼応して敵を叩く、敵が勢いに押されて下がった瞬間の間に

「よし!今だ全員後退せよ!」

と指示を出し敵が引いた瞬間自分らも下がり距離を稼いだ


当初の目的を見失う事無く、被害を避ける手段を先ず打った、目的は「勝つ」では無く「守る」事である そのままロランらは北へ撤退を図る

が、アルベルトは軍の立て直しを図り、即座追撃戦を再開

そこでオルレスク砦から援軍。南進して来た獅子の軍の騎馬隊がゴラート指揮の下600が来援と共に逆反撃の姿勢を見せた為、追撃進軍を停止、そうなると流石にアルベルトも諦めた

数の上では獅子の軍の三倍だが、この時点で無理攻めをして痛い目に合うのも馬鹿馬鹿しい しかも一度ならずロランらに反撃被弾を負わされている

また、アルベルト自身が敗退しては北伐ルートの守りも出来なくなる為、この時は自重した。周辺地域を押さえて維持、後続のアリオスやロベールを待つ方が効率的である

「やむを得ない、一旦後退し、再編、周辺地域の確保を優先する」

そう指示を出し全軍停止させた、この時のこの判断は正しかった、それは後分かる事である

味方援軍と合流したロランはそのままゴラートを輸送隊守備に加え、同時、礼を言った

「助かったよゴラート、良いタイミングだった」
「陛下と民衆を守るのは当然の事です、間に合って良かった」
「いや、それでも有り難う。委任判断も正確だったよ」
「いえ、ダブルA殿の指示です褒めるなら彼を褒めてやってください」
「分かった、そうしよう」

「それと、我々が先行して参りましたが、後続にもボンズが1千と各国から輸送軍が三千程こちらに向かっております、今はそれと合流し、撤退を」
「民間人の保護は?」
「既に始まっております、皆想像以上に早い動きです」
「兎に角、敵もまた追撃を掛けてこないとは言えない下がろう」

合流した部隊と共に森の民衆を率いて北へ進軍を開始する

もし、このタイミングでアルベルトが追撃をしつこく続けていたら各地から集まった北軍と遭遇戦になっていただろう、これが偶然の幸運の一つである

もう一つが、追撃を停止し、周辺無人地域の街等の占拠に切り替えた事である

残された金品や物資の調達を無被害で行えた事にある、特に中央街道からの北伐であるだけに、後続、本国から物資や補給の要請など出した所で来るのは何ヶ月の後の話。現状徴収出来る物資があるのは何より助かる事である

アルベルトは森街に残した三千の兵のうち2千をそのまま維持に回し残り千を二分して残り二国への占領政策に充て自らの主軍は北と南を繋ぐ中央街道へ配置して維持に努めた

特にアルベルトにとって驚きであったのが、これまでどの戦場でも圧倒的であったはずの「スヴァート」も重装兵も獅子の国の軍に対しては圧倒的では無かった、という事である

故に、警戒をして動かなかった

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