剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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北の獅子編

前哨戦

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ロランらもオルレスク砦に民衆と共に到達、一同も胸を撫で下ろした

オルレスク砦は砦を中央にして左右を境涯な天然の壁に囲まれ前後になだらかな平地を置く場所である

その砦の周囲に歴史上初と言える大軍団が既に到達しまるで巨大な集落のようになっていた

集まった民衆10万、獅子の国本国からの兵と合わせて砦に四千、ロランの求めに応じて集まった各国から集まった大規模輸送軍三千、更に各国、本国から兵糧、荷馬車等数えられない数である

流石に司令官のダブルAも驚いていた

「これは‥何から手をつけていいのやら‥」

そこに砦に戻ったロランらが面会、顔を合わせる早々ダブルAは

「陛下!」と喜びと戸惑いの声を挙げた
「戻ったよ」
「見てください陛下、とんでもない事に成っています」

砦の高台から見下ろすそのとんでもない光景、ロランらも言葉が無い程だ

「私の手に余ります‥どうしますか?」とダブルAは聞いた
「あー‥とりあえず各国の軍の指揮官を‥軍議が必要だな‥」
「は、はい」とそこでようやくどうしていいか分からないダブルAは指示を受け動いた

「凄まじい事に成ってますわね‥」
「まるでお祭りね‥」
「首都でもこんなに一度に集まらないわよ‥」
「とりあえず、会議で決めないとな‥正直僕でもどうしたらいいか悩む」
「ですよねー‥」

と言ったが、実際簡易軍議を開き周辺国から集まった軍官や司令官は特に混乱も無く、自分らがすべき事を自ら提示して話しは直ぐに纏まる

「アレクシア殿から事情を聴き、我らがすべき事は既に了承して居ります、戦い自体への参加は避け、民間人の避難と移送との事ですが」
「ああ、話が早くて助かる。ベルフの侵攻に対する防衛は当面僕らがやる、準備は事前にしてあるからね」
「はい、そこで移送の件ですが、獅子の国本国へは、何れ元の土地に戻る事を希望するものを。そうでない者は希望者優先で各国へ、となって居りますが宜しいでしょうか」
「問題ない、宜しく頼む」
「はい、では早速始めます」

と一同は席を立ち、その準備を各々始める事と成る

「アレクシアが話しを通しておいてくれて助かったなぁ」

ロランはそう言ったが、各国の将が会議室を出て入れ替わりに

「その」アレクシアが入ってきた。これには驚きだった。本国にあって任せたのだから当然だ

「アレクシア?!なぜここに!」
「勝手に来てすみません。火急の報がありましたので「飛んで」来ました、陛下へ直接お会いしたく‥」
「分かった‥兎に角聞こう」と答え

一同も会議室のテーブルを囲んだ

「先ずはこれを‥」そう言ってアレクシアは筒に入った書をロランに渡す、アレクシア程の者が何をそんなに慌てて、とも思ったがそれほど重要な物なのだろうと、即時開け、中の書を読んだ

そしてロランもアレクシアが真剣になる理由を理解した、一同も何事か?という顔を見せていた、故にロランは書の内容を説明しつつ読んだ

「銀の国からの書状だ。 南方フラウベルトと周辺地域の「南方連合」は知ってるな?」問われて一同も頷く

「ええ、フラウベルトと周辺小国との共闘同盟ですね」
「これに南西地域も 「クリシュナ」を筆頭に連合に加わり、西の「銀の国」も加わったそうだ。ベルフに対するに、大陸全体で連合を組み、一つの集団としてベルフに対するべきとある」

「つまり‥」
「ああ‥つまり「大陸連合」とするという告知、並びに全国、国家への参加の呼びかけだ」
「なんと‥」 「これは大事ですね‥」

「盟主にそのまま「聖女エルメイア」副盟主に銀の国「女王マリア」、北全部にも参加の要請だ。また、北への銀の国からの援護派兵の準備もあるとの事だ」
「驚きましたね‥これ程急激に事が起こるとは‥」
「何か条件はあるのでしょうか?」
「いや、僕らがやった相互協力同盟と同じだ。兵、将、物資、資金の不足するところへの融通のし合い。ベルフに攻められた場合への援軍派兵、参加全国家への統一した作戦への行動。それだけだ」

「陛下と同じ事を考えている者が居たのですね」
「そうでもないさ、僕のやった事は元々あった南方、フラウベルトと聖女の連合と変わらない、一方的な庇護かそうでないかの違いだ。僕はそれに習ったに過ぎない」
「‥どうされますか、陛下」
「うーん‥正直断る理由が無いな。それに、今まで消極的だった北側の地域、国、領主も動くかもしれない、寧ろこの要請と宣言はありがたい程だ」
「私も同感です。有効な戦略でもありますし」

「うん、とりあえず、先にやっていた北側連合3国への通達、獅子の国もこの大陸連合への参加すると、その上で改めて独自の判断をするように伝えよう」
「了解しました」
「とにかくまず、参加宣誓書が要るな直ぐ書こう」

「既に書面は用意してあります、後は陛下が署名するだけです」
「流石アレクシア‥」
「陛下がこれを断るとは思ってませんしね」

宣誓書をテーブルにサッと置いた

「あー‥もしかして自ら持ってきたのは、この後の事も読んでた?」
「はい、私が一番移動の足が速いですから」
「やれやれ‥アレクシアには敵わないなぁ‥」

そう言いつつロランはその場で宣誓書に署名と印を押し、アレクシアに渡しつつ

「じゃ、届けてくれ。銀の国へ、かな?」
「問題ないと思います、早速」
「それと、向こうと何らかの「渡し」を付けたい、連携した、と言っても、ここと西、南では距離がありすぎる」
「ご尤もですが‥そうですね、ならば「伝心術」でやり取りできる相手を置いてきましょう」
「頼む」
「分かりました」

アレクシアは受け取って素早く部屋を出た

無論アレクシアが「飛べる」と言った通り飛行術が使える故、自ら出向き届けるのが一番早いのが理由の一つ

二つに「渡し」と言ったように、アレクシアにはその手段、遠隔伝心があるからである

三つに、政治的立場、才覚に置いても他国の王と対しても劣らず、ロランの代理を努めて不足無く、また、臨機応変な対応が出来る点である

即日宣誓書と荷物を携え、昼前にオルレスク砦を出たアレクシアは同日夕方には銀の国に辿り着き女王マリアと面会。

まずは挨拶と共に宣誓書を渡した

「アレクシアで御座います、獅子の国は連合への参加を致します」
「遠路ご苦労じゃった、たしかに受け取った。大陸連合への参加を歓迎する」
「いえ、この連合は我々にとっても渡りに船です」
「じゃろうな、が、我々にとってもそれは同じ事」
「相互に協力体制が築ければと思います」
「うむ、獅子の国の軍力は如何程かの?」
「ベルフの北伐一年程前から増強を進めておりまして現在、兵6200 重装備兵1千 様々な兵装、輸送軍なども現在進行形で増やし続けております」

「成程、獅子の王は、事の起こりの前に準備をする賢明な者であったか」
「は、前王からの代替わりから日が浅く有りますが、名君であらせられます」
「最終的にどの当たりまで増強する事になろうか」
「ベルフの北伐により、自国から志願兵の類もかなり出ております故しかとは‥ですが、二千は上積みされる可能性もあります」
「うむ、実に頼りになる事だ」

「で、マリア様。 連携策と言っても双方距離が遠く、連動した作戦にこの連合は即応の面で不自由と思われます。そこでわたくし「渡し」をつける者を連れてきております。そちらでお預かり願えますか」

アレクシアはそこまで言って横に置いた荷物から箱を出し。その中から毛の長い白い猫を出した

む?とマリアも驚いたようだ。「渡しをつける者」というからには誰か紹介されるかと思ったからだ

「まさか?その猫が?」
「私の使い魔です。私と繋がっておりますので離れていても、会話等可能です」
「これが‥始めてみる‥魔術士は使い魔を持っていると聞いたことがあるが‥そなた一体何者じゃ‥」
「お察しの通り、獅子の国お抱えの魔術士で御座います」

マリアは王座を降りてその猫を抱きかかえた

「うーーむ、普通の猫にしか見えん‥なんと珍しい‥」
「実際普通の猫ですよ。ただ意識を共有出来るだけです」
「つまり、猫に向かって話す事になるのか、なんとも奇妙な光景じゃの」
「若く美しいマリア様が猫を抱える姿はお似合いですよ。誰も変には思いますまい、それに普段は普通の猫ですから」

「呼びかければよいのか?」
「左様です「アレクシア」と呼びかければ繋がります それが切り替えのキーワードです」
「う~~ん、珍しい、そして面白い!」

相変わらず「珍しい、面白い、有能」が大好きなマリアはその猫をいたく気に入ったようで抱いて頬ずりしていた

「とは言え、連合の強化はまだこれからの事。実際に策をうちベルフへの大規模反撃はこれから、先の話じゃ」
「状況が整ってから、でしょうね」
「うむ、それで、獅子の国はベルフの北伐軍に対してどうか?何か不足する部分はあるか?我が国、金も兵も余裕がある、要望があれば融通も可能じゃが」

「はい、軍力に置いては周辺国と「相互支援」がありますので左程、ですが、ベルフの北伐、中央街道出口3地域を押さえられ、我が王はそれら地域の住民を全て保護しました故に、強いてあげれば「食料の不足」でしょうか」
「成程、では、軍を輸送隊中心に送ろう金は10万もあれば十分かの?」
「はい、しかし宜しいのですか?」

「なに、構わぬよ。どうせ余るくらいじゃし。ま、余裕が出来たら返せばよい」
「分かりました」
「が、ベルフの北伐はアルベルトの他に後続にロベールやアリオスも出ている、何れ戦う事になるだろうがその点は問題ないか?」

「我が陛下はあらゆる準備を整えておりますが、こればかりは実際当ってみないと分かりません」
「そうじゃな‥ま、兵が必要な時は要請すれば良い。二千や三千は出せる」
「有り難う御座いますマリア様」

そうしてこの会談は終わるが。実際の所、獅子の国は単身で戦えるだけの物が全て揃っていたのも事実である。兵の数、兵装の豊富さ、将や武芸者のレベルの高さ

特に大陸で、この時点、これ程の人材を一国で揃えた国は獅子の国だけだろう。その意味に置いて現時点での頂上人材強国と言えるかもしれない

まず、保護した南地域の住民から志願兵が相次ぎ、その数は1500に及び元々の治安維持軍の1000も加わる

更に、オルレスク砦に滞在した「剣聖」の弟子の内半数の50も志願、特に心強いのが剣聖の後継者たる二人。ウィグハルトとソフィアの両名が師の勧めもあってロランに預けられた事だろう

二人の武は強力であるし、既にロランらもその実力は眼にしており折り紙つきである

が、同じ剣法を学んだがソフィアは隙の無い硬い武
ウィグハルトはスヴァートの防御力を意に介さない強力な攻撃力があり

立ち合いでの手合わせを見ても少なくともチカと同レベルの武芸者だ、これほど頼りになる事は無い。ただ、それだけに処遇に困る

「うーん、僕の護衛官より軍の中に有った方が有効かなぁ‥」

ロランは同時志願した剣聖の弟子達50が居た為。それらと合わせて「自由遊撃」の立場を与え、50人部隊として地位と職責を与え。軍での行動は委任して自由に

更に、責任は王に対してのみ負うという実質直属隊という比較的高い立場になる。この時点でオルレスク砦だけで4500もの単身兵力になった

南三地域の占領を終え。アルベルト軍がオルレスク砦に姿を見せたのは10日後である

3地域に其々維持兵を500づつ置き自ら残り全軍を率いての北進、数は4300である。砦攻めをするには数で劣る為

そのまま街道に陣立てを行い、睨みあいの形を取る、それ以上の攻めは無謀であり、アルベルトも承知の上であった為、双方動かなかった

この間。北側国家や地域のほぼ全てが「大陸同盟」の参加を承認。同時、銀の国からの兵糧、金、物資が北側に送られる

こうなると獅子の国も周辺国家と同盟と同じ効果が出る、ゆえに本国の守りを気にする状況に無く、王都の主軍を半数に割って予備兵と主軍2500もオルレスクへ進発する

それらあわせた兵力が7000に成り防いで止める以上の戦力になった

五日後に、主軍の大将、ロルト、補佐官につけたハンナらが砦へ来援したのに合わせて軍議が開かれる

「ここの戦力がベルフ側の北伐軍を上回ったが。今後の戦略の意見を聞きたい」

まずロランが議題と意見を求めた

「こちらから逆南進しても構いませんが、正直あまり効率的とは言えませんね」
「ええ、ここは境涯な砦、寧ろ、敵の攻めを待って迎撃して向こうを削り、侵攻不可能にして撤退させる方が効率的です、何しろこっちだけ盾があるようなものですから」
「まあ、野戦を挑んでも我々が劣るとは思えませんが」

「砦から最初の街までなだらかな小さい丘、坂や平地ですし、特に罠を警戒する必要もないですし、打って出ても特に問題ないでしょうが」

と、こういった知略面で頼りなるダブルA、ハンナがまず言った

「とは言え、大兵力の展開が出来る野戦を持って撃滅しても問題ありません、尤も、向こうの援軍が到達する前までが出来る期間という事になりますが。向こうが受けてくれれば、ですが」

主軍大将ロルトはそう言って、野戦を挑んでも問題ない事も示す

「うーん‥どちらの意見ももっともだね。どうしたものか‥」

一応、決を取ってみたがこれも票が分かれる

「ふむ‥どっちでもいいってのが一番困るよね‥」
「ならいっそ半々にしてみます?」
「と言うと?」
「防御軍を砦に残し、無理しない程度に、所謂「手を合わせてみる」という事です」
「なるほど」
「賛成です、まず、戦ってみない事には始まりませんし、上手くすれば敵を大きく削れるかもしれません」

ロルトはそう言って積極姿勢を見せた、主軍大将としては野戦迎撃の方がやり易いという点。また、自身が戦いたいという勇の表れでもある

「分かった、では向こうと同数辺りを揃えて、まず一戦当ってみよう、これにはロルトに任せる。補佐にそのままハンナ」

「ハ!お任せ下さい!」とロルトが立った
「えーと他に何かあるかな」
「あの~」
「何?チカ」
「留守番は暇なんで私も出ていいですか?‥」
「ちょっと待った!~それならわたくしも出ます!」

とチカが言ったとほぼ同時にカトリーヌが志願する。
「お前らな‥」とロルトは呆れ顔だ

「護衛官が前線に出たいって微妙な話だなぁ‥まあ、二人の武力なら分からない話じゃないけど」
「しょうがない、僕らも出ようか」とロランが言う
「陛下‥」軍官一同から言われた

「あ、うん、大丈夫だよ、たぶん、最前線には行かないから‥」
「御意とあらばしかたありませんが‥」
「まあ、無理する決戦でも無いのは確かですが‥」

と一同から消極的同意を得る、が、そこでダブルAは「一つ宜しいですか?」と自分の考えを披露して王の同意を得た

翌日、戦闘準備を整え、獅子の軍はオルレスク砦と出る。対面で陣を構えたアルベルトも軍を展開、意外ではあったがアルベルトも「手合わせの戦」である事を読んでおり、それを受けた

双方、獅子の軍が4千出してきた為、アルベルト側もあえて同数を展開し、余り三百は後方予備兵に、後方陣に待機させた

なだからかな平地での戦いである為、双方、基本的な中央左右へ分ける陣形での正統的な戦いとなった

王子らも参戦しているが、メインはロルトに任せ、自身は後方からの観戦の立場に近い体制を取る

双軍のぶつかり合いが開始され三陣共にまずは様子見の接戦だったが一時間程すると「よし、そろそろ進むか」とロルトが中央前線側に出て直接指揮と前線の戦いに出る

そうなるとアルベルト軍はそれに押されてジリジリ下がる

ロルトは個々の武、所謂武芸者としても、獅子の国ではトップクラスであり、剣盾兵の長でもあり、前線で剣を振るうと味方の意気は上がり

単身でも次々敵を打ち倒していくだけに「前に出る効果」が非常に高く、このような事態になった

「むう‥、やはり獅子の軍、武勇の者が多いか‥しかたない、重装突破兵を前に出し防御、その後ろから弓を当てつつ中央は下がる」

アルベルトはそう指示を出して押してくる中央陣のロルトの足止めをしつつ、左右翼からくの字に半包囲の形で矢を撃ち、足止めと前進行動の規制を掛けた

中々巧妙な戦術だ

「ム‥」とロルトも前進を止め、陣形の維持を図って、左右の味方との並行ラインを合わせて動いた

「伊達に大軍将の1人では無いな、ただ力で崩せば良いと言う訳ではないか」

と再び接戦の展開に成り更に1時間打ち合った


アルベルトは他の勇名を馳せたベルフの将とは違い。個人の武は前線に出て活躍出来るほどの物は無い。また、配下に武芸が秀でた者を飼っている訳でもない

主に数と重武装兵、戦術面に置ける防御の巧みさと粘りの強さで凌ぐ将である。こうした前に出て来る相手に対してのやり方と対応は狡猾である。がアルベルト軍には欠点もある。この戦いではそこをハンナに見抜かれ、突かれる事になる

「敵は騎馬が少のう御座います。機動力を活かした展開を図りましょう」

元々獅子の軍も「剣盾兵」に代表されるように、盾や重装備兵の守りの国で歩兵中心の軍である

だが、ロランらの「有事に備えた軍備」のおかげで獅子の軍にも大幅な騎馬隊の増強が図られ備されていた。この時はそれが役に立った

展開していた左右翼が更に横に展開して扇形陣に、その左右から銀の国に習って組織した「高速騎馬槍隊」所謂ランサーの騎馬隊が両側側面から回って斜め横に突撃と後退。これを突き下がり、突き下がりを高回転で行った

この装備はロランらが「重装備兵通し」として南森の街での戦いを観戦した後「これなら相手の防御を打ちぬけるのでは?」と通達して用意させた物である

実際それは功を相して、防御に回ったベルフの重装突破兵も打ち抜く。何しろ長い槍に馬の突進力を合わせて突撃するものだ、盾で受け損なうとフルプレートも打ち抜く。また、なだらかな平地であればこその展開である

「ぬ!‥まさかランサーとは‥」 アルベルトもこれには驚く

アルベルト軍の欠点は歩兵中心である事、マリア軍との戦いでもそうだったが。高速弓騎馬に対して反撃が難しく、対応速度が遅い

本来弓等の遠距離反撃で対応は可能だが、突撃と後退を交互に高回転で行われるとどうしても対応が遅れる。 弓兵といってもそれほど数が多い訳ではない

ただ、過去の反省から自軍にも馬兵は組織したのだが後方に置いた300だけであり、しかも剣兵である

「とは言え、出さぬ訳にはいかんか‥」アルベルトはやむなく後方予備に置いた騎馬兵も出し対応に充てたが数は倍

速度も錬度も段違いで、一応の対応で相手の行動の足「鈍らせた」が精々だった

そこにロルトとチカ、カトリーヌの三者参加の中央軍が突撃してくる

実際本来の目的はこれである、左右から高機動の攻めを行い防御と対応を拡散させ中央が薄くなる所で突破を掛ける

そもそも「武」に置いて初めから差がある故防御陣を拡散させ、その「武」を活かせば圧倒的有利である

特に三者の個人武力が強力でまともな兵では案山子を切るのと同じレベルで斬り捨てられる。こうなるとアルベルトも根本的な解決方法が無く苦慮した

「しかたない、陣後方、左右翼から圧縮し密集隊形中央を厚くして数で壁を作る。その後、敵の前進に合わせて後退、突撃の威力を防ぎつつ威力を拡散。向こうの攻めの力が衰えるまで防御に徹しろ、弓もフル稼働して前線の後ろを突いて敵の突撃前線の連携を崩せ」

と指示を出し、そのまま前衛は徹底防御、反撃は全て弓で行い街道を打ち合いつつ後退した

実際、打ち合っている最前線兵の直ぐ後ろに弓を撃ち掛けられ、前線とその後ろの部隊の足が止まると軍としての突撃が鈍る

「中々巧妙だな。まあいい、突撃を停止して再編する、深追いするな。一旦剣盾兵を前に出し維持、その後方で陣を整えよ」

ロルトは指示してそれ以上の強撃は避けて戦闘を継続しながら維持中心に切り替える


その後3時間双方防御主体の戦いになり。この時点でベルフ側の被害の方が大きく成ってきた為、守勢に徹したままアルベルトらは街道を南進して大きく下がった為、獅子の軍も一旦砦側に引いて戦闘中止された

その後更に半日睨みあいの後、アルベルトは領土境界線の街まで下がった為。全軍、両軍撤収と成った

戦闘不能はアルベルト軍は300ほど、獅子の軍は160打つ手や手持ちのカードに差があった割りに、接戦で留めたと言えるだろう

この一戦の感想を獅子の軍一同は

「武の者が向こうには居ない様だが「戦術面」に置いては巧妙で粘り強いな」
「伊達に八将に並べられていませんね、こちらの策への対処も素早いです崩せそうで崩せない、そんな感じでしょうか」

ロルトもハンナもそう言って「上手い」という印象を持った

「チカとカトリーヌはどう?」
「ロルト大将と同意見です、兵が強いという事はありませんが全体の集団としての行動の面から強軍と言っていいでしょうか」
「ええ、こちらの策が嵌った時点でそのまま行けるかな?と思いましたが崩れませんでしたね。将の命令を冷静にきっちり守る集団ですね」
「上回っている部分はこっちが多いかなぁ、将としてはどうだろうか」
「もう少し当ってみないとなんとも言えませんがロルト大将のが総合では上でしょう、向こうには足りない部分が多すぎますね」
「足りない部分が多いだけに、逐次対応が上手くなった、のかも知れませんね」
「とは言え、銀の国から齎された情報ではアルベルトは先発隊の意味合いが強く。本隊は後ろから来るアリオス、ロベールでしょう。油断は禁物です」
「同感だね、皆、次に備えて英気を養って置いてくれ」

とロランはそこで解散させた

一同の評価はもっともで「足りない部分」が多いのは当然だアルベルトはこの時41歳

元々は傭兵や賊の長で裏社会の人間である。それがベルフに乞われ将となったが、当人は武芸に秀でている訳でも、知略を学んだ訳でもない

故に、「イナゴ軍」物資の現地調達を得意にした点から「草刈り隊」等あだ名される

ただ、騙しあいの世の中を生きて来ただけに、注意深く、裏社会で長を務た故、金の扱いが上手く。人を集める事に長け、部下のコントロールが上手く占領作戦等には八将で一番長けている

また、皇帝に取り立てられた事による忠誠心の高さ、本国から人や物資の要求をせずとも、自前である程度用意する便利さもあって重宝されていた

逆に元が元だけに一般的に世間評価が良くないので配下に名士が集まらない。ただ、世間の評判と逆に部下の信望は厚く、統一した軍としての行動、粘り強さは高いという効果があるのでマイナスというわけでもない

部下に武芸の者が居ない訳では無いのだが、国家の軍の武芸者としては殆ど我流の喧嘩剣士ばかりであり、正統な相手にぶつけるには心許ない

それがアルベルト軍の「知」と「武」の対応の貧弱さである

「逐次対応」が上手いのも「無いが故」の経験値の差である、何しろ「一番頼れるが自分」だからだ、どちらも無いからそこを攻められる事が多く自然と様々な状況に対応出来る様になっていただけの事である

その経験値の高さは群を抜いて高く結果も出してきた。
実際、西でマリア軍に敗退するまで 軍歴の中での失敗は少ない、功績のが遙かに多い

マリア軍に敗退したのも「本格的な戦略」に対しての経験の無さでの対応し難い点、前歴に相応しく「挑発に乗りやすい」面の災いである

無論、大軍将であるから、「戦略、戦術」も独学で学びはしたがマリアの様な抜きん出たあるいは正統な、相手には付け焼刃でしか無かった

余談だが。「武芸者」に関してはアルベルトの下にも自身が裏社会の長を勤めた時代から着いて来ている

「アグニ」本名はアグリニッピア、という30歳の女性武芸者で用心棒が1人だけ居る

ただ、これも我流喧嘩戦法の武芸者ではあるが前に出しても相当強いのだが兎に角性格に難があり、アルベルトのお気に入りに成っていた事もあり傲慢で基本的に言う事を聞かない

アルベルトが一方的に惚れているのだが、それほど彼女は妖艶でグラマーな美女で恐ろしく、更に喧嘩に強い為、周囲にも味方が多い

アルベルトとの関係もあってか「姉御」と呼ばれて自分独自の隊を持っているのだが

ただ、何をするのも気分次第でイチイチ金銭を要求される為非常に使い難く、これぞという時以外使えないというそうとう厄介な人物である。故にどの戦場でもほぼ出番が無いのである

この時も撤退し、街まで下がって再編した時も
「最近負けてばっかだねアル」と盛大に皮肉られたが
「貴様も少しは役立ったらどうだ、遊んでる奴が多いから負けると考えられんか」と返したが

「あたし1人で戦局がどうこうって話でもないだろう、弱いから負けるんだ」
「ふん、碌に参戦しないで良く言う。そのくせ給料だけは要求する、飲み食いだけしてると鈍るぞ行き遅れ」
「あーあ、これなら他の将の所に居た方が良かったな~」
「お前みたいな奴を他の大軍将の誰が使うか!」
「分かった分かった、次は出てやるよ、気分が良ければ」

と、何時も二人はこんな感じである。別に仲が悪くてこのようなやり取りなのでは無く、腐れ縁のお互い言いたい事を言うのでこの様なやり取りになる

「次は出てやるよ」と言うがまず次に出る事は無いのだが。この時の次にでてやる、は実現される
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クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

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