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北の獅子編
若き獅子王
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フリトフル大陸北側で最も強力な軍を持つ強国とされる「獅子の国」
豊かで広い領土を持ち、伝統的「武」の象徴たる国章引き継ぎ大陸戦争勃前から長くそれを維持した
王はヨゼフ=エドワルド 彼は50を過ぎた頃から急激に体の衰えを感じた為、大陸戦争開始5年目にして若い王子に家督を譲り自らは隠居の立場を取る
大陸戦争自体は中央から南側で行われており、また北の獅子の国には皇帝を自称するベルフから侵攻の可能性がこの時点では低い
王子は16歳、未熟であるのは誰もが周知する所であるが。この国には「知」「武」共に優れた人材がそろっていた為、周りを固め、国の維持には問題ないだろうとの事で次代に預けられた
王子 ローランス=エドワルドは国柄らしく「勇と知」の人で、庶民派、中々の好男子である為この王の交代は民衆にとって歓迎すべき人事とも言え16歳の王を不満は少なかった
政治に置いては前王からの重臣で、王子の教育官・宮廷魔術士を勤める「知識の泉」と呼ばれる天才、アレクシア=ハーデルが居り任せて問題無く、年齢も25歳で若く、長く政権が続いても支えるに十分である
軍に置いては、重装剣盾軍の長、ロルト=ブラックという25歳の若い長剣の名剣士と王国親衛隊の長、ニコライ=カールトンという40歳のベテラン騎士が居り、それぞれ優秀であるため、軍事、政治共に代替わりしても安定が壊れる懸念も少なかった
ただ、陛下に成ってもロランはあまり変わらなかったのは問題と言えば問題だったかもしれない何しろトータルすると一年の半分以上城に居ない
元々王子の頃から普通の服で妹のモニカと共に城下を歩き回って領内の近隣街や砦、隣国へ遊びに行っては見て回るという生活だったので王になればそれも止まるだろうと考えていた一同はアテが外れてしまった
王に即位した後も、領内、近隣諸国を、視察、旅まがいの事をするというのが止まらず近習の者の頭を悩ませた
しかもロランもモニカも過剰警備等いらぬ、と酷い時は本当に二人で出かけるのでかなり困る
ただ、二人共「剣武」に関しては、優秀でロルトやニコライに幼い頃から学び、そのまま城の騎士団に入れても活躍するのではないか?という程腕は確かだった為、正直警備の重要性が薄い点もある
特にモニカはアレクシアに習い、術への適正もあって、魔術も神聖術も使い様々な面で頼りになる、だが、それでも何かあったら困る為、条件付でそれを認める事になる
チカ=サラサーテ、という王国の武芸者の少女を専属護衛につける、彼女は年齢こそロランと同じだが「稀代の天才武芸者」と呼ばれる程の名士で「槍士」である
髪をいわゆるツインテールにした、背が小さく、子供ぽい外見で、どう見ても強そうに見えないのだが、どんな個人試合に出しても五合合わせず相手を素早く正確に突き倒す程強いので「スティンガーニードル=針の一刺し」等と呼ばれている
ただ、無口で協調性が無いので軍隊ではあまり使われない為、王子と姫に付けた側面もある
「まあ、あの三人なら刺客の20や30は軽く倒すでしょう‥」と教育官でもあるアレクシアも納得せざる得なかった
予想外に困った事と、利益に成った事がいくつかこの「訪問陛下」の行動で起こった
困った事の一つが、チカがロランやモニカとやたらと仲良くなってしまい、護衛で無く友人になった事、本来自重を促してロランらの行動を制限して欲しかったのだが、そうなると一緒になって行楽を楽しむ様になってしまい、なんら緩和剤の意味を成さなくなった、困った二人が三人に成っただけの事であった
二つがロランやモニカらへの各地領主や国、権力者 縁者の求婚やら城への献上が異常事態といえる程申し込みが殺到した事だ。当然ながらこの兄妹は大陸北最大の強国の最高権力者と親類である
二人共若く、どちらも端正な顔立ち。非常に人当たりがよく、全く偉ぶらない。 無論年齢が年齢故、結婚などしていないどころか、いわゆる許婚いいなづけ等も居らず、世間の覚えも良い
となれば当然身辺に置いていずれは‥と考える者が多いのは当然で必然でありそのような事態になった
意外な利益が、元々それ程交流が無くあまり仲が良いと言えなかった国家との友好
国家間であれば当然、大小いがみ合いやら牽制のし合いはある 特に前王を批判して疎遠になった国家や領主、領内の反対派等もロランと友好を誓い、近隣地との「見えない壁」が取り払われる事となった
兎角策動の結果で無く、何しろロランもモニカもあまりに真っ正直過ぎる故である。大陸最北西の小国リッカートに出向いた際、王との会談で
「当方と獅子の国、あまり良くない関係をご存知か?」と問われる
それほど前王はリッカートを好いていなかった、しかしロランは、そのやり取りの中で棘があったリッカートを懐柔してしまう
「貴方が父のやり方を批判し、怒った父が貴国を冷遇した事だね、それで貿易も止まっている事」
「左様です、その私の所へ来るのはどういった意味があるかご存知か」
「父に失礼があったのならお詫びします、僕はまたここに遊びに来たい 海も近く、自然も豊かな良い国です、そこから生まれる実りも沢山受け入れたい貿易も再開しましょう」
そう言われて皮肉の一つも出なかったのだ
「しかし、勝手に決めて宜しいのですか?ロラン陛下」
「獅子の国は商業や軍備は大きいですが、食料備蓄や店頭に並ぶ産物の種類はやや不足しているように思う、ここには珍しくも美味な食べ物が多い、それを入れるとこちらの商売人や消費者も喜ぶと思う。むしろこちらからお願いしたいくらいです。ダメでしょうか?」
「わかりました、そう希望されるのなら受け入れましょう」
「うん、ありがとうリッカート王、これからもより良い関係で居て欲しい」
と握手を求め、リッカート王もそれを受け入れたのだ
「しかし、前王は私を良く思っていませんが‥大丈夫でしょうか」
「父はもう政治に関わってないから大丈夫だと思うけど心配だったら「表面上は仲が悪い」て事にでもしておく?」
「ッ‥ハハハ!、ローランス陛下にか敵いませんなぁ」
「来るのは僕だからね、まあ、父とリッカート王が顔を合わせる事も無いと思うし気にしなくていいと思うよ」
「陛下がそう仰るなら結構でございます、これからも宜しくお願いします」
「よろしく」
「せっかく来たのですから、楽しんでいってください、城に幾日か滞在しては如何ですか」
「そうだね、じゃあ一晩だけ、後は街に宿を取るよ」
「宿ですか?」
「僕が王だって普通のカッコをしてると誰も気がつかないんだ、結構面白いよ、それに皆の生活や噂なんかも何でも聞ける」
「ハハハ、まさか獅子の王がたった三人で各地を訪問しているとは誰も思いませんからな」
この様にロランは聊かお人よしな部分もありながら普段が諸国を歩き回っているだけに、自国や周辺国、領民、庶民の状況をよく知っており 多くの人と交流があった為人付き合いの対応も上手く外交上の失政や交渉事での失敗は無かった
ただここでも「これは孫のステファニーです」 「ど、どうも」と引き合わされて長い話になったが
「楽しんでいってください」の言葉通り、それも忘れない
街に宿を取り一週間ほどあちこち食べ歩きと施設視察、釣り、船遊びなどした。半分遊びであるが最終日の夜宿の夕食の場で3人は報告会をした
「軍力は比較的多いね全体で二千くらいか、けど将がいないね」
「武者なら二人程、くらいですかね‥」
「国自体は比較的豊かで治世も安定してますね、良い王様みたいです」
「すると間違いがあったのはやはり父さんの方か」
「自己への批判を気にする人ですしね」
「間違っている事を指摘されるのは寧ろ有難い事だと思うんだけどなぁ」
「そこは人それぞれですから、しかたないです」
「それはまあいいとして、何か気になる事はあった?」
「安定治世だけに人口も多いし皆楽しそうでした‥」
「食べ物が美味しい、海遊びが楽しい、かな」
「大陸情勢の不安は感じないね」
「ベルフの侵攻ルートにここと間に3国ありますし、そういうのはほぼありませんね」
「で、兄様、引き合わされた姫はどうでした?」
「ああ、可愛い子だったよ」
「気に入りましたか」
「いや、そういうんじゃなくて‥まだ、8歳なんだけど‥」
「あ、そういう可愛いでしたか」
と、言った具合に情報、情勢の確認等半々で。どこに行っても似た様な手段で人の繋がりを作った
二ヶ月程周辺国の「伺い」の後自国に戻った後、彼らの護衛官が2人増える
例によって外に出かけようと、アレクシアの報告を受けながら城の廊下を歩き城門まで来た所でチカが同じくらいの女性騎士に絡まれる場面に遭遇する
「カールトン隊長のお気に入りだからって、何で何時も何時も貴女が重要な仕事に就くのよ!」
「どっちかと言うと‥厄介払いな気がしますが‥」
「陛下の専属護衛官のどこが厄介払いですか!!」
「選ぶのは私じゃありませんけど‥」
「貴女はこの立場がどれだけ名誉な事か理解していないんですか?!」
「ハァ‥」
「この軍服が!この色が!」
とチカに往来のど真ん中で怒鳴って、彼女の色の違う軍服を掴んで引っ張っている なすがままのチカはガクガクと前後に揺さぶられていた
どっかで見たような女性騎士、金髪ロング、外に刎ねたクセっ毛の如何にも気が強そうな美女だ
「誰だい?あの子、見覚えがあるけど」
「はあ‥カトリーヌ=ライト=ベルニール、近衛騎士でチカさんの同期で年齢も同じです、代々王国の軍部に人を輩出している武門の名家のご息女ですね、因みに姉も我が国の軍部で小隊指揮官を務めております姉はジュリエッタ、18歳です」
「何で絡んでるんだ」
「自称ライバルだそうで。チカさんに対抗心を何時も燃やしております」
「何でまた‥しかも自称なのか」
「チカさんが軍に入るまでカトリが武に置いて若手で一番でしたが、それが逆転した上試合や立場でも抜かれたのでご立腹のご様子。今では「二番手カトリ」等呼ばれる始末です しかもチカさんはああいう人なので基本興味が薄い模様ですね」
「詳しいね‥」
「城で起こる事で知らぬ事はありませんわ」
「あの子、今どういう職責なのかな」
「近衛隊の小隊長ですね、それでも年齢からすれば異例の出世ですが」
「実際強いのかい?」
「ええ、チカさんが居なければ間違いなく二番手などあだ名されないでしょうね」
「僕やモニカの護衛官がそんなに名誉なのかねぇ‥」
「というより、カトリーヌさんは代々の王家仕えの軍家ですからね、元々忠誠心が信心という程高く軍部の指揮官や高官という実質的な立場より、王家の親類の近くに居てお守り出来るという名誉の方が価値が高いのかもしれませんね。それに極少数での陛下をお守りする仕事ですから個の「武」が優れていると認められた様なものですから」
「ついでに言うと、チカさんの服をずっと引っ張っているように王家直属護衛官というのは他の軍人とは違う制服を着てますからね、まあ、特別感?みたいのはあるでしょう、しかも現状着てるのはチカさんだけですし」
「そんなに僕の護衛官が良いなら抜擢してあげようか?」
「言うと思いました」
「そういう訳で頼むよ」
「はい」と即座にアレクシアは城の廊下を戻った
さてどうしたものか、と思ったがとりあえず二人に話しかけて往来でのやり取りを止める
「あー、その辺でチカを離してくれないかカトリーヌ」
「ハッ!へ、陛下!!」
それに驚いて跳び退る勢いで離れ傅くカトリーヌ
「し、失礼しました!」
「別に構わないよ」
「助かりました陛下」
とチカはそのままの態勢で言った為
「ちょっと!チカさん!陛下の前ですよ!!礼を取りなさい!」とまたも怒鳴る
「あー、いやいいんだよカトリーヌ、護衛官がイチイチそんな事してたらここぞという時動けないからふつーでいいんだよ」
「ハ!失礼しました!」
(何だか面白い子だなぁ‥)とロランは思ったがイチイチつっこむと話が進まなそうなので用件だけ伝える事にした
「あ~、カトリーヌは王家の直属護衛官が希望なのかい?」
「は、はい!」
「分かった、じゃあ君を僕と妹の護衛官に任命する」
「!な!??本当ですか!!」
「えーと、カトリーヌは武芸者としてもトップクラスだと聞いている、そういう人物が居てくれるのは心強い、よろしく頼むよ」
「ハハ、ハイ!ありがとう御座います!」
そこへ丁度アレクシアが荷物を持って戻って
「では、御召し物をこちらへ、辞令は後日用意します」と専用制服を渡す
「あああこの制服!‥」
とそれだけでその場でぶっ倒れそうになるほど喜ぶカトリーヌ
「着替えてくるといいよ、後はアレクシアに説明を受けてね」
「ハ、ハイ!!」と受け取ってすっ飛んで行った
嵐が去った後、アレクシアとチカは立て続けに言った
「面白いほど分かり易い人ですね」
「いいんですか?めんどくさいですよアノ人‥」
「んー、まあ、いんじゃないかな?本人がやりたい仕事をさせるのが一番結果出すだろうし」
「わたくしは反対しませんけどね、陛下の護衛官が1人ってありえないですし、あの子なら死ぬ気で働くでしょう」
「ハァ‥」
「チカは反対かい?」
「いえ、ただ、近くに居るとずっと絡まれそうなんで‥」
「大丈夫じゃない?これで立場は対等だし、僕らの前で変な事はしないだろうし」
「ならいいですけど‥」
「じゃあ、後は頼むよアレクシア」
「かしこまりました」
そういった経緯で困った三人が四人に成る
ちなみに、主軍の軍服は白地赤ラインで、直属護衛官は黒地赤ライン立場によって腕章など違った種類の物が付くが、直属護衛官は胸元に銀に赤の宝石のブローチが別に与えられる
見た目自体の特別感やレア度が高く、しかも現状それを着ているのが1人だけとなればカトリーヌが卒倒しそうな程感激するのはある意味必然とも言えた
「制服の違い自体であんなの喜ぶものなのか‥」とロランは少し勉強になった
ちなみに姉のジュリッタも妹の抜擢による制服を死ぬ程羨ましがった、無論増えた護衛官の二人とはこの姉妹の事である
その経緯を報告されたロランは「じゃあ、お姉さんの方も抜擢しよう」と一言で決める 元々少なすぎる護衛官だけに近習もアレクシアも反対しなかった
性格に難有りかと思われたが実際護衛官として職務に当たるとまじめで、周囲の配慮も怠らない、常にロランに付かず離れずでチカ曰く「めんどくさい人」という側面は見せなかった
更に個人の「武」に関してもベルニール姉妹は特殊剣盾術の使い手でチカを除けば間違いなくトップ武芸者の腕前
元々獅子の国と言えば「剣盾兵」が象徴的、伝統的であるがベルニール家には独自に伝わる、伝統剣盾術を改良してあみ出された「オフェンシブシールダー」という変わった盾術があり姉妹もそれを使った
レアな技で使い手を選ぶのだが。それは護衛官としては極めて優秀で適正は高かった故「思わぬ拾い物」となった
ちなみにどの様な物かというと。通常の盾では無く、縦に長目の先が尖った巨大盾。あるいは円形でトゲ付きの盾を「持つ」のでなく「腕全体に付ける」形で相手の攻撃を防ぐ役割でありながら盾自体を打撃武器や突き武器として使う
盾を構えて身を隠しつつそのまま相手に盾ごと前進突撃してぶつかり、吹き飛ばしたり盾の大きさを利用して、足を払って転ばせる等かなりの強力且つ、豪快な技が多く珍しい
しかも体格か腕力に恵まれていないとまず扱えないのでそもそも使い手がベルニール家以外、弟子数名しか居ないというモノだ
どのくらいの強さなのか、が把握しにくかったのだがこの技は「攻撃型防御戦法」で守勢に強い上、攻撃力が高いという技で近衛隊長ニコライも
「アレは厄介な技です、ワシでも勝つのに苦労しますぞ」と言わしめるほど、らしい
ただ「陛下の護衛官」としてはやたらと個性的な一団になってしまった為目立ってしょうがないのはあった
何しろ姉は縦長の巨大盾。妹はスパイク付きの円形盾を担いでいるのだ
もう一つが姉妹は過剰な程「陛下ラブ」なのがうっとおしいと言えばうっとおしい、その分チカが絡まれる事は無くなったが、抜擢したのがロラン自身だけに文句の言い様がなかった
「まあ、自分で選んだのだから我慢しよう」となった
新王ロランはこの様に、王らしい王では無かったがバランスに優れ、自ら歩き回って人事の抜擢や外交に当り、寛容で質素であったため評判は良く
政治、武に置いての補佐が充実していた事もあり安定治世を確立して不満や批判もほぼ出ない王と成った
大陸戦争5年目即位から1年に成ろうかという頃、今だ北側には戦争の危機感は薄かったのだが大陸東西南では戦火が及び北側も不安を覚える者も少なくなかった
それを敏感に感じ取ったロラン王は軍官を集め意見を募った。この頃の獅子の国の軍は総軍5500と大陸条約の制限された軍国の中、十分強大で強力だったがロラン自身は「事」が起こった場合この兵力では近隣国への派兵でやや不足するのではという思いがありまずその事を告げた。
集まった軍官もそれには同意であり、増強を進める事になる既に大陸戦争も6年に成っており、最早大陸条約を守る意味も薄いのだ
ただ、将も武芸者も多く居る国である為、相手がベルフであろうと相手に自由にさせる弱さは無いという認識も同時にあったが
「有事に備える事は悪い事ではありません、また、兵力を増やしても我が国家は財政を逼迫するという事も略無く、なさっても宜しいでしょう」との意見が大勢で希望優先の志願兵や、獅子の国の象徴でもある、重装剣盾兵等の増強等も図った
元々重装剣盾兵は500居たが倍の千名に増やし、又、剣盾術も完全マニュアル化されおり増強に金は掛かるが、あまり手間が掛からなかった
ただし「移動の足が極端に遅い」という欠点もあった為南方のオルレスク砦で初めから置き増強分と新たに見出した将と共に配置準備させた 更に、内政官や軍師、剣の師等も積極登用して「備え」を怠らなかった
そのオルレスク砦への訪問と首尾の視察にロランらは一ヵ月後向かう
既に人員も装備も3割は揃っており、順調であり問題らしい問題は無く感心した
早速新将として抜擢した司令官のアダム=アルシェ、通称ダブルAに面会し労を労った
彼はロランが自ら抜擢した将で27歳、黒髪のいかにも凡人な雰囲気と見た目で軍では鳴かず飛ばずという立場で、軍人らしくない軍人である
「武」に置いても中と言う感じで、主軍では評価が高くなくロランが抜擢した際も驚きだった
彼は元は国の若手研究者でそれでは食えず、軍に席を置いた その前歴のお陰で、戦術面と政治力、知識が優れて実に良い判断と指揮をする為こういった「統率」の立場で力を発揮すると考えこの立場を与えた
いわゆる器用貧乏なタイプで自己主張が激しく無い為、貧乏くじを引く事が多いのだが 公正で当たりが柔らかく、一歩引いて全体を良く見るので判断と行動に信頼性があった
そこにもう1人ラウトス流剣盾術の指導員で下士官であったバート=ボンズという中年の軍人を武芸者兼、補佐として付けた
彼は36まで一指導員として過ごしていたが、兄貴肌で面倒見が良く個の武も頼りになった、しかも彼の場合、剣盾兵でありながら斧を使うほど頑強、力持ちで別名「岩男」等呼ばれる
普段は温厚で優しく、前線では誰よりも前に出る人でいきなり曹長から大尉という地位に抜擢しても不興や嫉妬を買う事が無い人物であった為このような人事になった
当然の事ながら「陛下の視察」の際二人は土下座する勢いでロランに礼を取り
「いきなりこの様な立場を与えて頂き感謝にたえません」と言った
まあ、当然だろう特にバートはいきなり五階級昇格なのだから、しかしロランは
「適材適所を行っただけだよ、感謝する必要はない、立場に相応しい仕事が出来ると思ったから選抜しただけ」
そう返して頭を下げるのをやめさせた
一日滞在のあと、出立
「陛下はこの後のご予定は」
「中央街道の方へ行って見ようかと」
「では、護兵を出しましょう、一応ベルフとの隣接地ではあります」
「何時もこんな感じだから大丈夫だよ、王だって気づかれる事も稀だし」
と言ってそれは拒んで出立した
豊かで広い領土を持ち、伝統的「武」の象徴たる国章引き継ぎ大陸戦争勃前から長くそれを維持した
王はヨゼフ=エドワルド 彼は50を過ぎた頃から急激に体の衰えを感じた為、大陸戦争開始5年目にして若い王子に家督を譲り自らは隠居の立場を取る
大陸戦争自体は中央から南側で行われており、また北の獅子の国には皇帝を自称するベルフから侵攻の可能性がこの時点では低い
王子は16歳、未熟であるのは誰もが周知する所であるが。この国には「知」「武」共に優れた人材がそろっていた為、周りを固め、国の維持には問題ないだろうとの事で次代に預けられた
王子 ローランス=エドワルドは国柄らしく「勇と知」の人で、庶民派、中々の好男子である為この王の交代は民衆にとって歓迎すべき人事とも言え16歳の王を不満は少なかった
政治に置いては前王からの重臣で、王子の教育官・宮廷魔術士を勤める「知識の泉」と呼ばれる天才、アレクシア=ハーデルが居り任せて問題無く、年齢も25歳で若く、長く政権が続いても支えるに十分である
軍に置いては、重装剣盾軍の長、ロルト=ブラックという25歳の若い長剣の名剣士と王国親衛隊の長、ニコライ=カールトンという40歳のベテラン騎士が居り、それぞれ優秀であるため、軍事、政治共に代替わりしても安定が壊れる懸念も少なかった
ただ、陛下に成ってもロランはあまり変わらなかったのは問題と言えば問題だったかもしれない何しろトータルすると一年の半分以上城に居ない
元々王子の頃から普通の服で妹のモニカと共に城下を歩き回って領内の近隣街や砦、隣国へ遊びに行っては見て回るという生活だったので王になればそれも止まるだろうと考えていた一同はアテが外れてしまった
王に即位した後も、領内、近隣諸国を、視察、旅まがいの事をするというのが止まらず近習の者の頭を悩ませた
しかもロランもモニカも過剰警備等いらぬ、と酷い時は本当に二人で出かけるのでかなり困る
ただ、二人共「剣武」に関しては、優秀でロルトやニコライに幼い頃から学び、そのまま城の騎士団に入れても活躍するのではないか?という程腕は確かだった為、正直警備の重要性が薄い点もある
特にモニカはアレクシアに習い、術への適正もあって、魔術も神聖術も使い様々な面で頼りになる、だが、それでも何かあったら困る為、条件付でそれを認める事になる
チカ=サラサーテ、という王国の武芸者の少女を専属護衛につける、彼女は年齢こそロランと同じだが「稀代の天才武芸者」と呼ばれる程の名士で「槍士」である
髪をいわゆるツインテールにした、背が小さく、子供ぽい外見で、どう見ても強そうに見えないのだが、どんな個人試合に出しても五合合わせず相手を素早く正確に突き倒す程強いので「スティンガーニードル=針の一刺し」等と呼ばれている
ただ、無口で協調性が無いので軍隊ではあまり使われない為、王子と姫に付けた側面もある
「まあ、あの三人なら刺客の20や30は軽く倒すでしょう‥」と教育官でもあるアレクシアも納得せざる得なかった
予想外に困った事と、利益に成った事がいくつかこの「訪問陛下」の行動で起こった
困った事の一つが、チカがロランやモニカとやたらと仲良くなってしまい、護衛で無く友人になった事、本来自重を促してロランらの行動を制限して欲しかったのだが、そうなると一緒になって行楽を楽しむ様になってしまい、なんら緩和剤の意味を成さなくなった、困った二人が三人に成っただけの事であった
二つがロランやモニカらへの各地領主や国、権力者 縁者の求婚やら城への献上が異常事態といえる程申し込みが殺到した事だ。当然ながらこの兄妹は大陸北最大の強国の最高権力者と親類である
二人共若く、どちらも端正な顔立ち。非常に人当たりがよく、全く偉ぶらない。 無論年齢が年齢故、結婚などしていないどころか、いわゆる許婚いいなづけ等も居らず、世間の覚えも良い
となれば当然身辺に置いていずれは‥と考える者が多いのは当然で必然でありそのような事態になった
意外な利益が、元々それ程交流が無くあまり仲が良いと言えなかった国家との友好
国家間であれば当然、大小いがみ合いやら牽制のし合いはある 特に前王を批判して疎遠になった国家や領主、領内の反対派等もロランと友好を誓い、近隣地との「見えない壁」が取り払われる事となった
兎角策動の結果で無く、何しろロランもモニカもあまりに真っ正直過ぎる故である。大陸最北西の小国リッカートに出向いた際、王との会談で
「当方と獅子の国、あまり良くない関係をご存知か?」と問われる
それほど前王はリッカートを好いていなかった、しかしロランは、そのやり取りの中で棘があったリッカートを懐柔してしまう
「貴方が父のやり方を批判し、怒った父が貴国を冷遇した事だね、それで貿易も止まっている事」
「左様です、その私の所へ来るのはどういった意味があるかご存知か」
「父に失礼があったのならお詫びします、僕はまたここに遊びに来たい 海も近く、自然も豊かな良い国です、そこから生まれる実りも沢山受け入れたい貿易も再開しましょう」
そう言われて皮肉の一つも出なかったのだ
「しかし、勝手に決めて宜しいのですか?ロラン陛下」
「獅子の国は商業や軍備は大きいですが、食料備蓄や店頭に並ぶ産物の種類はやや不足しているように思う、ここには珍しくも美味な食べ物が多い、それを入れるとこちらの商売人や消費者も喜ぶと思う。むしろこちらからお願いしたいくらいです。ダメでしょうか?」
「わかりました、そう希望されるのなら受け入れましょう」
「うん、ありがとうリッカート王、これからもより良い関係で居て欲しい」
と握手を求め、リッカート王もそれを受け入れたのだ
「しかし、前王は私を良く思っていませんが‥大丈夫でしょうか」
「父はもう政治に関わってないから大丈夫だと思うけど心配だったら「表面上は仲が悪い」て事にでもしておく?」
「ッ‥ハハハ!、ローランス陛下にか敵いませんなぁ」
「来るのは僕だからね、まあ、父とリッカート王が顔を合わせる事も無いと思うし気にしなくていいと思うよ」
「陛下がそう仰るなら結構でございます、これからも宜しくお願いします」
「よろしく」
「せっかく来たのですから、楽しんでいってください、城に幾日か滞在しては如何ですか」
「そうだね、じゃあ一晩だけ、後は街に宿を取るよ」
「宿ですか?」
「僕が王だって普通のカッコをしてると誰も気がつかないんだ、結構面白いよ、それに皆の生活や噂なんかも何でも聞ける」
「ハハハ、まさか獅子の王がたった三人で各地を訪問しているとは誰も思いませんからな」
この様にロランは聊かお人よしな部分もありながら普段が諸国を歩き回っているだけに、自国や周辺国、領民、庶民の状況をよく知っており 多くの人と交流があった為人付き合いの対応も上手く外交上の失政や交渉事での失敗は無かった
ただここでも「これは孫のステファニーです」 「ど、どうも」と引き合わされて長い話になったが
「楽しんでいってください」の言葉通り、それも忘れない
街に宿を取り一週間ほどあちこち食べ歩きと施設視察、釣り、船遊びなどした。半分遊びであるが最終日の夜宿の夕食の場で3人は報告会をした
「軍力は比較的多いね全体で二千くらいか、けど将がいないね」
「武者なら二人程、くらいですかね‥」
「国自体は比較的豊かで治世も安定してますね、良い王様みたいです」
「すると間違いがあったのはやはり父さんの方か」
「自己への批判を気にする人ですしね」
「間違っている事を指摘されるのは寧ろ有難い事だと思うんだけどなぁ」
「そこは人それぞれですから、しかたないです」
「それはまあいいとして、何か気になる事はあった?」
「安定治世だけに人口も多いし皆楽しそうでした‥」
「食べ物が美味しい、海遊びが楽しい、かな」
「大陸情勢の不安は感じないね」
「ベルフの侵攻ルートにここと間に3国ありますし、そういうのはほぼありませんね」
「で、兄様、引き合わされた姫はどうでした?」
「ああ、可愛い子だったよ」
「気に入りましたか」
「いや、そういうんじゃなくて‥まだ、8歳なんだけど‥」
「あ、そういう可愛いでしたか」
と、言った具合に情報、情勢の確認等半々で。どこに行っても似た様な手段で人の繋がりを作った
二ヶ月程周辺国の「伺い」の後自国に戻った後、彼らの護衛官が2人増える
例によって外に出かけようと、アレクシアの報告を受けながら城の廊下を歩き城門まで来た所でチカが同じくらいの女性騎士に絡まれる場面に遭遇する
「カールトン隊長のお気に入りだからって、何で何時も何時も貴女が重要な仕事に就くのよ!」
「どっちかと言うと‥厄介払いな気がしますが‥」
「陛下の専属護衛官のどこが厄介払いですか!!」
「選ぶのは私じゃありませんけど‥」
「貴女はこの立場がどれだけ名誉な事か理解していないんですか?!」
「ハァ‥」
「この軍服が!この色が!」
とチカに往来のど真ん中で怒鳴って、彼女の色の違う軍服を掴んで引っ張っている なすがままのチカはガクガクと前後に揺さぶられていた
どっかで見たような女性騎士、金髪ロング、外に刎ねたクセっ毛の如何にも気が強そうな美女だ
「誰だい?あの子、見覚えがあるけど」
「はあ‥カトリーヌ=ライト=ベルニール、近衛騎士でチカさんの同期で年齢も同じです、代々王国の軍部に人を輩出している武門の名家のご息女ですね、因みに姉も我が国の軍部で小隊指揮官を務めております姉はジュリエッタ、18歳です」
「何で絡んでるんだ」
「自称ライバルだそうで。チカさんに対抗心を何時も燃やしております」
「何でまた‥しかも自称なのか」
「チカさんが軍に入るまでカトリが武に置いて若手で一番でしたが、それが逆転した上試合や立場でも抜かれたのでご立腹のご様子。今では「二番手カトリ」等呼ばれる始末です しかもチカさんはああいう人なので基本興味が薄い模様ですね」
「詳しいね‥」
「城で起こる事で知らぬ事はありませんわ」
「あの子、今どういう職責なのかな」
「近衛隊の小隊長ですね、それでも年齢からすれば異例の出世ですが」
「実際強いのかい?」
「ええ、チカさんが居なければ間違いなく二番手などあだ名されないでしょうね」
「僕やモニカの護衛官がそんなに名誉なのかねぇ‥」
「というより、カトリーヌさんは代々の王家仕えの軍家ですからね、元々忠誠心が信心という程高く軍部の指揮官や高官という実質的な立場より、王家の親類の近くに居てお守り出来るという名誉の方が価値が高いのかもしれませんね。それに極少数での陛下をお守りする仕事ですから個の「武」が優れていると認められた様なものですから」
「ついでに言うと、チカさんの服をずっと引っ張っているように王家直属護衛官というのは他の軍人とは違う制服を着てますからね、まあ、特別感?みたいのはあるでしょう、しかも現状着てるのはチカさんだけですし」
「そんなに僕の護衛官が良いなら抜擢してあげようか?」
「言うと思いました」
「そういう訳で頼むよ」
「はい」と即座にアレクシアは城の廊下を戻った
さてどうしたものか、と思ったがとりあえず二人に話しかけて往来でのやり取りを止める
「あー、その辺でチカを離してくれないかカトリーヌ」
「ハッ!へ、陛下!!」
それに驚いて跳び退る勢いで離れ傅くカトリーヌ
「し、失礼しました!」
「別に構わないよ」
「助かりました陛下」
とチカはそのままの態勢で言った為
「ちょっと!チカさん!陛下の前ですよ!!礼を取りなさい!」とまたも怒鳴る
「あー、いやいいんだよカトリーヌ、護衛官がイチイチそんな事してたらここぞという時動けないからふつーでいいんだよ」
「ハ!失礼しました!」
(何だか面白い子だなぁ‥)とロランは思ったがイチイチつっこむと話が進まなそうなので用件だけ伝える事にした
「あ~、カトリーヌは王家の直属護衛官が希望なのかい?」
「は、はい!」
「分かった、じゃあ君を僕と妹の護衛官に任命する」
「!な!??本当ですか!!」
「えーと、カトリーヌは武芸者としてもトップクラスだと聞いている、そういう人物が居てくれるのは心強い、よろしく頼むよ」
「ハハ、ハイ!ありがとう御座います!」
そこへ丁度アレクシアが荷物を持って戻って
「では、御召し物をこちらへ、辞令は後日用意します」と専用制服を渡す
「あああこの制服!‥」
とそれだけでその場でぶっ倒れそうになるほど喜ぶカトリーヌ
「着替えてくるといいよ、後はアレクシアに説明を受けてね」
「ハ、ハイ!!」と受け取ってすっ飛んで行った
嵐が去った後、アレクシアとチカは立て続けに言った
「面白いほど分かり易い人ですね」
「いいんですか?めんどくさいですよアノ人‥」
「んー、まあ、いんじゃないかな?本人がやりたい仕事をさせるのが一番結果出すだろうし」
「わたくしは反対しませんけどね、陛下の護衛官が1人ってありえないですし、あの子なら死ぬ気で働くでしょう」
「ハァ‥」
「チカは反対かい?」
「いえ、ただ、近くに居るとずっと絡まれそうなんで‥」
「大丈夫じゃない?これで立場は対等だし、僕らの前で変な事はしないだろうし」
「ならいいですけど‥」
「じゃあ、後は頼むよアレクシア」
「かしこまりました」
そういった経緯で困った三人が四人に成る
ちなみに、主軍の軍服は白地赤ラインで、直属護衛官は黒地赤ライン立場によって腕章など違った種類の物が付くが、直属護衛官は胸元に銀に赤の宝石のブローチが別に与えられる
見た目自体の特別感やレア度が高く、しかも現状それを着ているのが1人だけとなればカトリーヌが卒倒しそうな程感激するのはある意味必然とも言えた
「制服の違い自体であんなの喜ぶものなのか‥」とロランは少し勉強になった
ちなみに姉のジュリッタも妹の抜擢による制服を死ぬ程羨ましがった、無論増えた護衛官の二人とはこの姉妹の事である
その経緯を報告されたロランは「じゃあ、お姉さんの方も抜擢しよう」と一言で決める 元々少なすぎる護衛官だけに近習もアレクシアも反対しなかった
性格に難有りかと思われたが実際護衛官として職務に当たるとまじめで、周囲の配慮も怠らない、常にロランに付かず離れずでチカ曰く「めんどくさい人」という側面は見せなかった
更に個人の「武」に関してもベルニール姉妹は特殊剣盾術の使い手でチカを除けば間違いなくトップ武芸者の腕前
元々獅子の国と言えば「剣盾兵」が象徴的、伝統的であるがベルニール家には独自に伝わる、伝統剣盾術を改良してあみ出された「オフェンシブシールダー」という変わった盾術があり姉妹もそれを使った
レアな技で使い手を選ぶのだが。それは護衛官としては極めて優秀で適正は高かった故「思わぬ拾い物」となった
ちなみにどの様な物かというと。通常の盾では無く、縦に長目の先が尖った巨大盾。あるいは円形でトゲ付きの盾を「持つ」のでなく「腕全体に付ける」形で相手の攻撃を防ぐ役割でありながら盾自体を打撃武器や突き武器として使う
盾を構えて身を隠しつつそのまま相手に盾ごと前進突撃してぶつかり、吹き飛ばしたり盾の大きさを利用して、足を払って転ばせる等かなりの強力且つ、豪快な技が多く珍しい
しかも体格か腕力に恵まれていないとまず扱えないのでそもそも使い手がベルニール家以外、弟子数名しか居ないというモノだ
どのくらいの強さなのか、が把握しにくかったのだがこの技は「攻撃型防御戦法」で守勢に強い上、攻撃力が高いという技で近衛隊長ニコライも
「アレは厄介な技です、ワシでも勝つのに苦労しますぞ」と言わしめるほど、らしい
ただ「陛下の護衛官」としてはやたらと個性的な一団になってしまった為目立ってしょうがないのはあった
何しろ姉は縦長の巨大盾。妹はスパイク付きの円形盾を担いでいるのだ
もう一つが姉妹は過剰な程「陛下ラブ」なのがうっとおしいと言えばうっとおしい、その分チカが絡まれる事は無くなったが、抜擢したのがロラン自身だけに文句の言い様がなかった
「まあ、自分で選んだのだから我慢しよう」となった
新王ロランはこの様に、王らしい王では無かったがバランスに優れ、自ら歩き回って人事の抜擢や外交に当り、寛容で質素であったため評判は良く
政治、武に置いての補佐が充実していた事もあり安定治世を確立して不満や批判もほぼ出ない王と成った
大陸戦争5年目即位から1年に成ろうかという頃、今だ北側には戦争の危機感は薄かったのだが大陸東西南では戦火が及び北側も不安を覚える者も少なくなかった
それを敏感に感じ取ったロラン王は軍官を集め意見を募った。この頃の獅子の国の軍は総軍5500と大陸条約の制限された軍国の中、十分強大で強力だったがロラン自身は「事」が起こった場合この兵力では近隣国への派兵でやや不足するのではという思いがありまずその事を告げた。
集まった軍官もそれには同意であり、増強を進める事になる既に大陸戦争も6年に成っており、最早大陸条約を守る意味も薄いのだ
ただ、将も武芸者も多く居る国である為、相手がベルフであろうと相手に自由にさせる弱さは無いという認識も同時にあったが
「有事に備える事は悪い事ではありません、また、兵力を増やしても我が国家は財政を逼迫するという事も略無く、なさっても宜しいでしょう」との意見が大勢で希望優先の志願兵や、獅子の国の象徴でもある、重装剣盾兵等の増強等も図った
元々重装剣盾兵は500居たが倍の千名に増やし、又、剣盾術も完全マニュアル化されおり増強に金は掛かるが、あまり手間が掛からなかった
ただし「移動の足が極端に遅い」という欠点もあった為南方のオルレスク砦で初めから置き増強分と新たに見出した将と共に配置準備させた 更に、内政官や軍師、剣の師等も積極登用して「備え」を怠らなかった
そのオルレスク砦への訪問と首尾の視察にロランらは一ヵ月後向かう
既に人員も装備も3割は揃っており、順調であり問題らしい問題は無く感心した
早速新将として抜擢した司令官のアダム=アルシェ、通称ダブルAに面会し労を労った
彼はロランが自ら抜擢した将で27歳、黒髪のいかにも凡人な雰囲気と見た目で軍では鳴かず飛ばずという立場で、軍人らしくない軍人である
「武」に置いても中と言う感じで、主軍では評価が高くなくロランが抜擢した際も驚きだった
彼は元は国の若手研究者でそれでは食えず、軍に席を置いた その前歴のお陰で、戦術面と政治力、知識が優れて実に良い判断と指揮をする為こういった「統率」の立場で力を発揮すると考えこの立場を与えた
いわゆる器用貧乏なタイプで自己主張が激しく無い為、貧乏くじを引く事が多いのだが 公正で当たりが柔らかく、一歩引いて全体を良く見るので判断と行動に信頼性があった
そこにもう1人ラウトス流剣盾術の指導員で下士官であったバート=ボンズという中年の軍人を武芸者兼、補佐として付けた
彼は36まで一指導員として過ごしていたが、兄貴肌で面倒見が良く個の武も頼りになった、しかも彼の場合、剣盾兵でありながら斧を使うほど頑強、力持ちで別名「岩男」等呼ばれる
普段は温厚で優しく、前線では誰よりも前に出る人でいきなり曹長から大尉という地位に抜擢しても不興や嫉妬を買う事が無い人物であった為このような人事になった
当然の事ながら「陛下の視察」の際二人は土下座する勢いでロランに礼を取り
「いきなりこの様な立場を与えて頂き感謝にたえません」と言った
まあ、当然だろう特にバートはいきなり五階級昇格なのだから、しかしロランは
「適材適所を行っただけだよ、感謝する必要はない、立場に相応しい仕事が出来ると思ったから選抜しただけ」
そう返して頭を下げるのをやめさせた
一日滞在のあと、出立
「陛下はこの後のご予定は」
「中央街道の方へ行って見ようかと」
「では、護兵を出しましょう、一応ベルフとの隣接地ではあります」
「何時もこんな感じだから大丈夫だよ、王だって気づかれる事も稀だし」
と言ってそれは拒んで出立した
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