境界線の知識者

篠崎流

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戦姫①

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まだ、人界とその他の世界の境界が曖昧だった時期の話である

世界の西、巨大大陸の1地域

無論世界の西と言っても世界その物を知っている人間はその地に居ない、誰も世界を歩いていないし確認もしていない、だから実際世界の西かどうかも分らない

が、そこに住む者にとっては「世界」とはこの地域で完結している

この時期この地域は荒れていた。周辺多くの地域と国で戦争が続いていた

「暇な連中だな、いや俺もか‥」そう呟いて彼は住居近隣の街に入った

全身黒尽くめの長身の彼、黒い背中に掛かる長髪で20代前半か30代にも見る人によっては見える、こじきか冒険者に見えなくもないが、彼を気に留める者は居なかった、だからこその贔屓の街でもあったが

別に大した用事で来た訳でもない。自分の住処の消耗品がつきかけて森から出てきただけだ、そして長居もしない

雑貨屋で必要な物資を調達して酒場兼食い物屋で保存の利く物を少々買っただけだ、だが最初からムカツク事態に遭遇した

「おい‥前より高いんじゃないか?」

主人も分っているがどうしょうもない事情がある

「戦争中だぜ‥ダンナ‥物不足なんだよ」
「チッ‥迷惑な事だ‥」
「同感だが、ワシに当らんでくれ」
「しかたない‥豆と塩、アルコールだけでいい」
「まいど」

そこを出て金がつきかけた、いきなり物価が上がった事で、やむなく闇市の類に向う、と言ってもその手の者が大っぴらに商売している訳じゃないが、彼には慣れた物だ

北西にあるボロイ宿屋に入ってカウンターのオヤジに話した、無論宿では無い

「これはフォレストのダンナ!今日は何か?」

裏商売の人間であるが、彼は愛想が良、理由は単純である、何時もいい物を売りに来る「上客」だからだ、懐から短剣を出してオヤジの前に置いた

「いくらになる?‥」
「どれ、失礼して」と目利きする

「うーん、こいつ「も」高く売れそうだ、80でどうだい?」
「ん?随分上がってるな」
「まあ、ダンナに誤魔化しは通じないですし、率直にやらせてもらいますよ、それに今はこの手の商品は直ぐ掃けますからねぇ」

オヤジはそう言って肩で笑って見せた

「ああ、ここいらにも戦火が来てるからな」
「そうっすよ、まあ、出来れば大型のがいいんですがね?」
「そうだな、考えておこう」
「金額が金額なんで、何時も通り手形でいいですかい?」
「ああ、70は紙、10はメダルで頼む」
「へい」

そうして金10と債券70と交換して宿を出た

「イチイチどこでも戦争されるとこっちの生活にも影響が出るな、全く邪魔臭い‥」

そう言いながらも儲かったついでに市にも向う、とはいえ賑わってる訳でもなく人もまばら、要は素人のバザーに近い「世界」全体で戦争をしている為兎角失業者が多い

そこで適当に探して掘り出し物を探す、店の前に山積みな、こんなもん今の時期売れないだろうという物から2冊掘り出し物の古書を見つけ購入して戻った

「ありがとねー!」とおばさんに愛想よく礼を言われる

正直売れるとは思ってない、が、職がなければ何でも出して置いておく、そして日銭を稼ぐしかない、夕方には街を出て南東の森の棲家に戻った

家と言っても急造の木家、雨つゆを凌ぐだけの物だ、元々一つの場所に留まっている事はない彼には十分ではあった

戦争を避けて、移動を続けて生活してきたがまた移動するのはやっかいだ、だから「面倒な事だ」なのだ

今日寄った街もベリオールという国の辺境の領地である。比較的安定した良い国だったが、そうなればもう平穏な土地ではなかろう

またどこかに移動するか、そう考えて荷物の整理を始めた。とは云え、荷が多い訳でもない、背負って出られる程度だ殆ど古書の類である

ただ、戦火が及びつつある、というだけで当面先だろうとの目算もあるにはあったが

何しろ彼は世相に疎い、人と話す事も殆ど無い、それが何時なのかも具体的には分らなかった

2,3日。 本を読んで過ごし、正直面倒臭くて堪らないのだが再び森を出て街へ向った、何をするのも同じだがまず「情報」である、街へ出て何時もの「自称宿」のオヤジから情報を得る、そのまま金を払って滞在し周辺情報を探る

「ベリオールは弱国じゃねーが、周囲を敵に囲まれてるからなぁ‥」というのがオヤジの見解だった

元々豊かで実りが多い、人口も多いし、王も治世の王で評判はいい、ただ領土の広さの割り軍力はそれをカバーする程多くはない、そして問題なのが「軍」における人材だろう

「兵は居ても将が居ないの典型だな」
「ああ、今ですら王様の娘が司令官をやってるくらいだからな」
「ま、それはそれで裏切りの類は無くて楽だろうが、で?その娘とやらは?」
「武はあると聞くがねぇ‥王族上がりの姫将軍に何が出来るのやら‥」
「ふむ」
「ま、気になるなら会って見たらどうだ?」
「どういう事だ?」
「本国からその姫様が来るそうだぜ?ここでも志願兵の類を募集してる」
「ふむ、という事は戦の気運は思ったより高い、て事だな」
「なんとも云えんが、こんな辺境に直接来るんだからな、そうかもしれん」

それが滞在のきっかけだった

五日後、オヤジの云う通り街にベリオール本国からの主力軍が訪れる、およそ1万の軍勢、指揮官に王の娘でもある「エミリア=ベリオール」である、この時点でフォレストは察した

「数が多い上に、いきなり主力軍か」という事だ

ベリオールの総軍は3万、その3分の1でくれば容易に分る

軍は街の北を左右に横切る街道に陣建てを行う、街には姫が直接来訪し、志願兵の改めて告知と募集、そして同時に戦が近い事も述べた

「確かに戦は近い、が、我々は領民を守るのが義務、ここは我々が死力を尽くし守るが、不安な者もあろう、本国周辺への疎開希望者等も同時に募集する、こちらはその為の人員も既に用意してある」

云って後を部下に任せた、短いが明確な意思と領民の後を考えた宣誓ともいえる、だが、フォレストは別な感想をもった

「逆に言えばそれ程の事態とも云えるな」

が、彼にはそれは関係ない街が滅ぼうが軍が全滅しようがどうでもいいことだ

そこで彼女がどういう人物であるかを試してみる、離れて陣に戻る彼女を追って声を掛けた。咄嗟に周りに居た護衛兵が構える「止まりなさい!」と

あっと言う前に彼の行く手に4人の護衛兵が立ちはだかる、エミリアは振り返って周りの者を制した

「よい、私に何用か?」とそのまま問うた
「俺はこの近くに放浪して住んでいるモンだ、戦が近いならどこかに避難しなければ成らない、具体的な事を教えてもらえぬか?」と

彼は如何にもボロを着た旅人か冒険者、背が高く刀も挿している、明らかに怪しいし、言葉遣いも荒い、本来なら相手にされないだろう

「成る程、話は分るが具体的な事は答えられん、軍の機密に関わる」
「そうか‥」
「それに残念ながら必ず敵が来る、ともまだ言えぬ、単なる脅しの可能性もある」
「つまり宣戦布告の類は無いのか?」
「そうだ、故に具体的な事はこちらも分らぬとも言う、これで納得してもらえるか?」
「ああ、呼び止めてすまなかった」

そして一団は再び離れた

「姫、らしくはないな、見た目は美少女だが‥」

彼女はこの時15、王族の者にしては生粋の軍人らしい振る舞い、見た目の美しさは無論あるが、どちらかと言えば精悍だろう

話し方も堂々としたものだし、自分の様なものにもちゃんと対応する、少なくとも好感はもった

「ふむ、何時来るか分らんか、しかし、ここに留まるかどうかだな‥」

彼の興味は元々それしかない、軍が守れば良しそのまま留まればいい、敵が勝っても良し問題はまともな支配があるかどうかだ

「東街道から正規軍で来るならだが、相手はゼハトだったか?」
「ああ、まあ、軍力は大きいな、かなり武断的な王の国だ」
「まともなのか?」
「どういう意味だいダンナ」
「勝ち負けはどうでもいいが、向こうが勝った場合、まともな支配体制を築くのか、というとこだ」
「と、思うぜ?」
「ふむ‥なら、どうでもいいか‥」
「どうでもいいのかい?」
「ああ、俺の生活の邪魔さえされなきゃな」
「まあ、ご尤もだな、ワシらにしてもどこの領地でも関係ねぇ」

そうしてフォレストは金貨1枚置いて宿を去った

一応森の自宅でそのまま過ごした、荷物だけは用意したが暫くは静かだった

「ただの脅しの可能性」とエミリアが云った様に、それならそれでいいと思った、事が動いたのがそこから一ヶ月も後

森の北、つまり東西の街道での軍の侵攻防衛戦が始まる。ベリオールとゼハトの正統正面決戦。数の差は五分、故に防衛のベリオールは優勢だろうと思った

要は守って敵を撤退させればいいのだ、戦いは3日続いたが、思惑通りにはいかなかった

1日目の終わりから防衛側が優位に展開、単純に兵の錬度と司令官の武力の差だ

2日目に突入した所でベリオール軍はこれ幸いと前進突撃、押されてゼハトの軍は後退する

そのまま街道東の森まで押し込んだ所でゼハト軍が反転攻勢、森の左右から伏兵が同時に包囲挟撃

攻守が交代された所でベリオール軍は後退するが既に半包囲に陥りそれも成されない

そのまま包囲追撃を続けられ2日目の終わりには半ば敗走状態と成った

軍力自体は半数を維持したが戦える状態になく全軍撤退を指示した、が、それ自体遅い

相手は包囲の輪を構築して後は叩くだけだ
だがゼハトの軍司令は巧妙だった

包囲の一角を薄くして敵を適度に逃がし、ヘタに窮鼠とならない様に配慮しつつ、追撃を展開、剣兵と弓を縦列に並べて確実に小被害で叩いた

三日目の夜の日付が変わる頃にはもうベリオール側はちりじりに個別撤退を指示するしかなかった、完全な半壊敗戦と成った

撤退と言ってもろくに逃げ道が無い、司令官でもあるエミリアも周囲の補佐や護衛隊に促されて、森に逃れて逃走を図った

敵のゼハトの指揮官は特に追撃は指示しなかった、夜中の深い森に軍を入れる等無謀だと考えただけだ。それよりは街と横に建てた相手陣を確保するほうが優先だ、だから本軍はそのまま進軍して街へ入る、そしてこう指示を出した

「あの姫将を生きて捕らえたら本国で恩賞が出る、森を狩りたい者は自由にしろ」

と敵味方に告知して本軍と自身は占領政策に集中した。ある意味最も効率的で非情な告知だった「生きていればいいだけだ」

誰かが捕まえれば良し、交渉の材料にも成るし、盾にも使える、敵同士で同士討ちしてくれても良い、この敗戦からそういう者も出るだろう

失敗したところで痛くもかゆくも無い、どうせ多少武力がある程度の将だ、逃れて再戦をしかけても大した相手ではない、あの程度の策に引っ掛かるような敵なのだ

そして期待通り森狩りは自主的に行われる、如何に深く広い森と云えど、数が違いすぎる、まして一度補足されれば、次々敵が集まる

強いて幸運があったとすれば、追っ手が烏合の衆に等しい事だろう、下っ端雑兵なぞそんなモノだが手柄の独占を図って行動がバラけた事だろう

が、エミリアは護衛が13人居るだけ、それも次々斬られ数を減らす

1時間逃げ、森の真っ只中まで逃れたがそこで残った彼女も矢を撃たれ被弾し雑兵の集団に捕まる

後ろ手の縄を打たれ、さるぐつわをされて、転がされた、ここまでかと覚悟した

が、単に掴まって連れて行かれるだけではない、その後の扱いは彼女の想像を絶するものだった

「条件は生きていればいい」つまりそれ以外はどうでもいいという事だ、連中はエミリアの鎧と衣装を剥ぎ取りに掛かった

「?!」と思わず塞がれた口で言って反射的に相手を退かすように蹴った、だが縛られた状態で倒せる蹴りが出る訳もない

食らった相手はニンマリ笑って倍にして彼女を平手打ちして倒し両肩を押えて地面に落とした

「クセの悪い足だなぁオイ、押えてろ」と指示を出し周囲の男が彼女の足を掴んで開き踏みつける様に固定した、指示した当人は再びエミリアの着ている物を破いて剥ぎ取る

相手は10人は居る、これから起こる事を想像して硬直した、舌を噛むにも口を塞がれている、もうどうする事も出来ない、泣くか叫ぶしか出来なかった

だが、相手の下劣な行動が行われる前に、目の前で血しぶきが上がった

おそらく一団のボスであろう「ソイツ」の首が目の前でズルリと落ちた、咄嗟に顔を背けて避けた、そむけた勢いのまま、体が横に転がる

つまり左右に居たエミリアの足を踏みつけた二人の拘束も解けたのだ「何が!?」と思わず思って見た

そこには暗闇の森の中、立ったまま首の無い人間の姿、最初の一人と同じ様に、左右二人も「何か」に首を飛ばされたのだ

残った7人の他の連中もそれを見て大混乱である、どこかから襲われた、襲撃されたには違い無い

だが、弓でも剣でもない、物質も音も無い、ただ、首を3人はねられたのだ

エミリアもそこから一歩も動けなかった、ただ、地面に尻餅をついた状態から見る

目の前の多くの男達が武器を、盾を構える先から、次、次、と切り刻まれていくその光景を

10秒掛かるか掛からないか、あっと言う間に10人からの雑兵が切り刻まれて全員絶命した、見ていた彼女にも分らない、何事なのか次は自分の番なのか、とすら思った、そして記憶があったのはそこまでだった

結局、この森狩りは夜が明けるまで続いたが、姫は見つからなかった

告知を出した敵司令官も「逃げたか、まあ、いいだろう」くらいにしか思わなかった、どうでもいい程度の事でしかない

彼女が目を覚ましたのは日が高くなった時間だった、ハッとして体を起こしたがそこはもう森の中ではない、どこかの部屋、自分はベットに寝かされていた

周囲を見回して状況を確認する、古汚い木造の部屋に乱雑に物が置かれた部屋、窓から外が僅かに見えるが木々に囲まれている、空の色から昼間だろうか

そして部屋の隅のゴミの山にどうにか無理矢理置いてあるゆり椅子に腕を組んで座る男

「な!?‥お前は!」と声に出た

それを聞いて彼も目だけ開いて視線を返した

「起きたか」
「あ、ああ‥お主は‥街で」
「ああ、フォレストだ」
「そうか、この辺りを放浪して住んでいると云ったな」
「よく覚えてるな」
「そ、そんな事より、これは?!いったいどうなってるんだ?!何で私は生きてる?!」

彼はめんどくさそうにため息をついて説明した

「俺の家の近所で夜中に騒いでる馬鹿共が居たんでね、文句を言ってやろうと外に出たら、お前さんを強姦しようとしている場面に出くわした、ムカついたついでに全員片付けた」

実にシンプル且つ分り易い皮肉の利いたセリフだ「な!?近所!?」とエミリアも驚いて立ち上がったがそこで気がついた

自分が「全裸」である事に、思わず叫んでしゃがみこむが、そこでジェスチャーされて「ハッ」として口を結んだ

「大声出すな、敵が来るぞ?」
「ムグ‥す、すまん」

そのまま静かにベットのシーツを掴み持ってきて隠してもう一度ベットに戻った

「俺は代えの服なんざ大して無いんでね、そもそもサイズが違い過ぎる」
「う、うむ」
「一応そこにお前の鎧やら武器は回収して置いてあるが、破られた服はどうしょうもない」

とゴミの山の一部と成っていた王家の鎧と剣を指し示された

「し、しかし、どうして?、私をどうするつもりなんだ?!」
「どうする??」
「そ、その、捕らえて引き渡すのか、あるいは、夜の連中みたいに‥」
「アホか、そのつもりなら縄を解かんし、手当てもせんわ」

そう言われて初めて気がついた、ケガも無いし、汚れても無い、少なくともかなりの返り血があったハズ、一度ならず矢を受けた、その傷すらなかった

「ついでに言うと、ガキに興味は無ぇよ。」
「じゃあ、何で助けた、それに近所、なのに何故悠長にここに居る、片付けたとはなんだ?!」
「めんどくせぇ奴だなぁ‥俺は魔術士だよ」

それで全て理解した、ようやく

「ここは偽装した家だ、一定範囲は普通の人間には見つからない、片付けたのも「風の斬撃」だ」

魔術士と云えば確かにこの様な所に住んでいても不思議はない、現代で云えば仙人の様な者も多い

そもそも変人が多いし、一般人の価値観と違っていても可笑しくはない、自分を襲った連中から助けて横取りした訳でも体目当てでも無い、まして報酬の類をアテにしてでもないのだろうと分った

「まあ、いい、とりあえず大声だすな、昨日の一件から半日しか経ってない、まだ追っ手が居るかもしれん。それから偽装魔法の範囲はこの家から精精5,6メートルだ、家からも出るなよ」
「わ、わかった、そ、その‥」
「なんだよ」
「ありがとう‥」

彼は無表情のまま、軽く頷いて立って部屋を出る

「お前の服を調達してくる、大人しくしてろよ」

彼が戻ったのは3時間後、エミリアの蹲るベットに服を投げて寄こした、調達してきた、のはいいが、どう見ても中古だ、エミリアの表情を察して先に返した

「俺が新しい女物を買ったら怪しいからな、盗んできた」

呆れて物も言えないが、いう事も尤もである。当然街には敵軍が留まっているし店で買うと足が付く、それを感受して着替えた

「それと、連中の警戒が解けるまで何日かは必要だろう、それまで動くな」
「う、うむ」
「ま、食い物だけはあるからな」
「だが、その後は?」
「知らん、好きにしろ、帰りたければそうしろ、どこかに逃げたきゃそうしろ」
「そうか‥」
「ま、本国に帰るなら一応送り届けてやる、この森から街方面に行くにはリスクが大きい」
「そうだな‥」

フォレスト、と名乗った彼は自身が言ったとおりの魔術師、俗世を避けて人と接せず、戦を避けてこの地に流れてきた、どこへ行ってもこの様な生活らしい

実際部屋や家の持ち物を見ると、おそらくそうだろうという古書や道具、よく分らない薬や宝石が複数置いてある

魔術士はこの時代でも貴重且つ、多く存在しない稀有な人間である。系統ごとに難しい学と適正、常人には達成できない程の努力と知識

才能、資質に依存する要素の多い職業と言える、まして「治した」という様に、彼はなんらかの治癒術すら使うのだろう、200年程後の時代でも両方の系統の術を使う術士は稀だ

この時代、人魔天の境界のまだ、曖昧な時代で更に多くの系統の魔術が存在するが、それを使う者はそれこそ天魔ですら中々居ない

特にこの時代は魔術の「指導者」というのも略居ない、まだ人界で教えが確立されていないのだ、それだけ見ても彼は尋常で無いレベルで貴重な存在の人間である事が判る

「まだ若く見えるがどこでそのような知識を?」
「さてね‥師と呼べる者が居ないのでね」
「何?」
「強いて言えば古文書の類や道具、物、という事になる」
「独学なのか?!」
「そういう事になるか、俺もどう説明していいのか」
「そうか‥まあ、私が聞いても理解出来るハズもないか」
「あまり頭が良さそうではないからな」
「な!?失礼な‥」

「何日か大人しく」と云われた為彼と過ごす、話す時間は沢山あった、見た目はこじきか冒険者にしか見えないが、彼は術士らしく知識に溢れ不愉快な人物ではない確かに変人だろうが

三日過ごした後、彼が一旦家を離れ戻った後告げた

「どうも宜しくない状況だな」
「何かあったのか?」
「ゼハトの連中はマジらしい、本国から続々軍が来ている」
「街は?」
「一応ふざけた統治はされてないな、前とさほど変わってない、向こうの兵が多くてうっとおしいが、物や情報収集に苦労するというのも無い」
「本国はどうなっているのだろう‥」
「まだ4,5日しか経ってないからな、そう大きな動きは起こるまい、だが」
「なんだ?」

「おそらくこのまま終わりだろうな」
「どういう意味だ!?」
「イチイチ怒鳴るな‥お前の戦闘の初手でもう後の結果も見えるんだよ、どれだけ兵を失った?王国の全体兵力はいくらだ?今からかき集めてどこまで増強できる?」
「うぐ!?‥」
「まあ、お前の国の状況は知らんが、お前の他に軍を指揮できる人材がどれだけ居る?」
「‥そう、だな、居ない事もないだろうが‥」

云ってエミリアも立ち上がった
「戻らなければ」と、が返ってきた言葉は「死にに行く様なものだな」だった

分ってはいる、だが、自分の国の危機とあってはそうするしかない、ましてベリオールに戦上手の将などいくらもいないだろう

「まあ、そうだろうな」と彼も云ったそして彼女の決定を止めなかった、そもそも彼にとっては「知ったこっちゃない」他人の命だ

その日の夕には装備を整えエミリアは家を出ようとした。止めても無駄か、と一つだけ手助けすることにした

家の外の少しだけ平地のある場所にフォレストはブツブツ言いながら魔法陣を書く、周囲に何か光る砂の様な物をパッと撒いてエミリアの手を取って陣の中央に立った

何かが光った、そう思って瞬きをした瞬間、そこはもう別の場所だった

「て、転移魔法!?」と口をついて出るが、彼はそれには答えなかった

「王都二つ前の砦街だ、一度だけ来た事がある、後は味方に拾ってもらえ」

それだけ云って背を向けて歩いて行く

「ま、まて!?」
「ん?」
「こ、ここでお別れなのか?‥それだけなのか?」
「‥やるだけの事はやった、俺に出来るのはここいらが精精さ」
「そうか」
「お前は戻る事を選んだのだ、それは正しい、結果どうあれ、自分で選択した事が正しいんだ、人間はそれが全てだ」
「かもしれんが‥」
「お前はお前に出来る事をしろ、結果なんてのは自分の思い通りに成る事は稀だ、だから選択だけはキッチリ自分でしろ、死ぬときに後悔しないようにな」
「ああ、そうだな‥分ったよ」
「じゃあな」

それだけ告げて彼は夕闇の中に消えていった

引きとめようかとも思った、だが、彼は俗世から離れた人間、それは実生活にも言動にも表れていた。それが迷惑にしか成らない事も分っていた

そして彼をつれて帰った所で何かが変わる訳ではない「死にに行くだけだ」そう言ったとおり既にこちら側に勝算などありはしかった

「有難う」と小さく呟いて彼を見送り、エミリアも戻ったのである

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