混血の守護神

篠崎流

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死なずの先

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何日か何時間か分らないが、ずっとそのままだった「もう直ぐ死ぬぞ」「何日持つか判らない」と変な子供にも医者にも云われたが中々終りは来ないもんだ

また、眼を覚ましたのは深夜だろう
円は仰向けのまま、月を見た

ここまで来ると「まだ、死んでない」としか考えられないし眼が覚めてどうせ体調不良だと思った。これも、もう習慣化するほど毎度の繰り返しだ

が、その時は違っていた
「あれ?」と自分でも思った

呼吸も普通だし、別にだるくもない、頭もはっきりしている。変な幻覚も無い

確認する為に右手から動かした「え!?動く」なのだ

そのまま上半身を動かす事に挑戦するが、それも動いて座り体勢に。何が何だか分らない、もう「死」しか待ってないハズだったのに回復しているのだ

そこでようやく「アレ夢じゃないんだ!」と分った

同時に兎に角、頭をフル回転させる、記憶があいまいだが、子供との遣り取りを思い出しながら自己診断と、周りの状況の確認、だが周りと言っても、死体しかないし夜中でよく見えない

体を指先から動かしどこまで動くか確かめる、上半身は問題ないが、足がしびれの様な物が多少あるが歩けるだろう

「と、兎に角、逃げなきゃ‥」そのまま這う様に「捨て場」から登って出る

この捨て場自体、山の下腹だったので一時上に向かって歩く山林に紛れれば何かしら食えるし、バレない、潜伏しやすいという事だ

今までが今までだけに、これは尤もな警戒ではあるが同時、無用な警戒でもあった。ここに「捨てられた」時点で終っているのだ「向こう」からすれば。

態々死んだかどうか確認する事も無いし兵らだって嫌だろう、死んだと思っているし皇帝も興味関心が無い

まして、統計や戸籍が正確にある訳でもない、ゆえに、個人の範囲で逃げた場合、大抵誰にも分りはしないのである

朝に円は水源、川周りで活動する、服と体を洗い、碌に食事もしてないので食料の確保で実、草など集める

拘束中は一応最低限の食事は出たが「死なない程度」というレベルだった、今は秋口で実りはある為後に備えてそうした

そこで潜伏して時間を過ごす、まだ体が完全じゃないので適当なほら穴の類という程でもないが、岩、崖の隙間に雨露を凌げる場所を探して見つけここを中心に動く

そうして体の回復を待って、なるべくじっとして過ごす同時「回復」した理由

例の子供との会話も曖昧な記憶の中、引っ張り出して繰り返し復唱し考えた

「あの時のは、本当に「薬」だったのか?」
「でなければ、生きているハズも無い、確実に自分でも死ぬと分った」
「でも、精精壊れるなて何??部下って‥」

何度も何度も考えたがやはり意味が分らなかった。そして、まだ円の中では「事実」かも決定はしなかった

「けど、一方で「また会いに来る」とも云ってた」

そこで彼女も、区切った「なら、兎に角、また会ってからでいい」と

今はまず、自身の事が先である、特に、今後どうするかだが、それを考えるとまた陰鬱に成る。同時に耀の事も思い出すから

「耀の言う通り北に逃れた方がいいのかなぁ‥」
「耀‥」と

夜、横になって考えると一層そこの事、場面を思い出す
同時に「自分はなんて役立たずなんだろう」とも

そして「何であいつ等、皇帝は、あんなに酷い事が出来るだろう」も

だが、それはずっと歴史上繰り返して来た事だ、別に今の皇帝が特別酷いという訳でもない

古代の多くの為政者は同じ様に、民や国民を弾圧し、反撃を食らって滅びる、別に中国史に限った話じゃないし、10政権があったら名君と呼ばれる治世は1くらいだろう

円はそのまま、次の方針も決まらず、半分世捨て人の様なまま、更に冬前まで過ごした、体調、足の痺れも無くなって居たがどうしていいのか全く分らなかったというだけだ

自身が受けた迫害以上に耀を失った事、自分が何も出来なかった事、一緒に死ぬ事すら出来なかった事、その方が寧ろ彼女には堪えた

だが、人間はどういう生き方にしろ、社会から離れる事は出来ない、冬の前の事もあり円も「そろそろいいかな」と周辺、身の回りを整え再び街へ向かった

中央側、南には向かわず、そのまま北東に逃れた
今で言う北京方面から東

ほとぼりが冷めたとも云えないだろうし、中央に近くない方がいい、金も無いし、道具も無いし冬に山野で過ごすのは無理がある、出来なくは無いだろうがそうしなかったのも一つ考えがある

これは超個人的な視点と拘りであった、つまり「秦国はどうなるんだろう」という所とやはり「皇帝は許せない」という部分、だから再び街に出て、暫く大陸を見ておこうと思った

二ヶ月掛けて、中央から抜けて、また何処ぞかの街から街を移動した、決して安全な旅でもないが、天下が定まった事で以前よりはマシではあったろう。その意味では安定していたと云える

これは厳しすぎる「法」の効果で、ヘタな事をすると、即、軍や兵、治安維持兵が出て来る、めったな事が出来ないという事、まして内容の云々に関わらず拷問や処刑が普通だ

ただ、獣の類に追い掛け回される事はあった、どうにか最初の街に辿り着いて兎に角、小さい、目立たない様に活動、生活した

ここで役に立ったのは楽士を捨てて有る物、学士の方である、金のある家の子供の家庭教師の類の仕事を格安で受けて住み込み中心で路銀を稼ぐ

音、唄は確かに優位だし、儲かるし色々配慮も得られる、これは経験則で理解しているが、反面目立ちすぎるだからこういう地味でも、堅実な形に変えた

服装も髪も変える、兎に角地味に纏めあえて小奇麗さも排除した

ここで旅の間で一つ決めた、というか、これも経験則だが護身用に槍、棒を、それなりに良い物を入手する、耀の様に、棒術系なら剣より優位だし、殺傷を避ける事も出来ると思った

大体旅するのに自分も守れないでは話に成らない
今までは幸運だったが、今後もそうなるとは限らないのだ

これは師に付いて居た時に自身でも分っていた事だが「剣武の才能の無さ」だろう。それでも、自分を守れるくらいにはしたかった

そうすれば、耀におんぶ抱っこで終らず
逃亡劇も成功したかもしれない、という事だ

だが彼女の場合、剣の基礎というか突き、斬りは最初に教わったが、棒術は初めてだ、ましてこれまで「武」の練習は一切やってこなかった、それだけに独学は無理だろう、才能があるなら兎も角

ここで、ある程度整えた後、更に北東に向かう、名前も字はそのまま「円」で読みだけ「えん」に変えて兎に角、自身の身分とこれまでを捨てる事を徹底した

こういうのはやりすぎる、という事は無い、注意、準備はどれだけやっても構わないのだ

17の頃にはとりあえずの目的、北京東辺りに辿り着いた、そこそこ大きな街だし、政府側に近づかなければいい

安い家を借りて、教師を続け、社会情勢だけ見ながら生活した、そして次に始めたのが「師」探しである

別に円のレベルからすれば、それ程名士は必要ない
基礎すら出来ないのだから

大町ならそれなりに出来る人は居るだろうと人伝いに聞いて回るがここでまた、うってつけな師が見つかる

これは自身で「選んだ」結果の好転だった

地元の拳法の師に、武を教えて貰えないかと頼み込み一人の若者を紹介される徒手と棒術、両方を学ぶ機会を得る

この人物に交換条件で武を習い始める、出張教師と言った所だろうか、つまり円が文を教え、彼に武を習うという事で落ち着く

が、やはりそれも、自身で分っていた通り才能は無い、そのまま地元の士として、文を教えながら武を習う

これはまあ、ある意味上手く行った、円の最初の思い立った方針には合致する

「殺傷をしない事」である

棒と徒手術の基礎を習い、それを空いた時間、必死で練習した、若い教えを施した拳士も呆れる程の熱心さだった

だがそこまでしても、やはり才能が無い事には違い無く劇的な進歩は見られなかった

それでもこの時代は雑兵くらいは相手できるくらいには成ったろうか

これは耀の戦いと同じ事情でそもそも兵の殆どはマトモに訓練とか武とか無い民兵だし、十分この時代では、現時点の円も戦える所にはあった

基礎教育がゼロなので、武芸者の類に当らなければ、特に問題は無いその為、円は決めた事もあり基礎を徹底して繰り返す。

突き、払い、薙ぎ、叩き、受け、逸らし等ホントの基礎だけ徹底して

この地での生活の快適さもあってそのまま一年は居た。その頃には、並みの武芸者くらいには成っていただろう

見た目も既に「女流拳士」だったし、皆「文武の円師」と呼んだくらいだ。何しろ衣装は男性に近い物だし、棒を担いで、小手や具足もつけているそう呼ばれても不思議の無い外見だった

ただ、円が特別優れて居る事ではない。それは全体的な平均が極端に低い事がある。読み書き等出来る者も居ないし、教師も碌に居ない

武も習う奴はあんまり居ないし、軍ですらアノ形だ、円はどちらかと云えば、あらゆる面から云えば才能は中だろう、必要にあって、率先して先に覚えて習得したというだけの話だ

そもそも、この時代は「学だの武だの習い事」に時間と金を使うアホは居ない、生活、生きるが優先である、拳法の類はそれなりに数もあるが、それほど習う事もない

円の優れた部分を敢えて言えば、外見上の美しさと背の高さ、要は肉体的スペックの高さと、精神的強さくらいなもんだったろうか

海の漂流でも薬の検体でも、体調の崩れが一般的な人間より少ない事実を見ても明白である、要は「頑健」なのだ

楽芸から武芸へ、兎に角彼女はあっさり自分を変えられる。これは敢えて、小奇麗さを消し、麗しさを排除した事にあるそもそも、それを残す必要は無い

楽士では見た目や雰囲気も需要だし、商売の稼ぎに直結するがもう、そんな必要は無い

これも、円の最大の特徴「物事への拘りの無さ」である、其れが必要だと思えば、ドンドン得てマイナスだと思えばあっさり捨てられる事

これは得がたい資質でもある

大抵の人間は自分のそれまでの積み重ねがある、だから、ハイそうですか、と簡単には捨てられない

それに深く関われば関わる程そうだろう、だから、物事の変化に対応出来ず進歩も少ないし間違いから戻る事も出来ない

追手の部分も、この時代であれば、一般人として街に紛れて名を姿を変えれば。まず「元宮廷の楽士」だとは誰も気がつかない

そもそも個人記録も無ければ、手配書も無い、似顔絵すら描ける者が居ないし知った人間以外、分りはしない。そしてもう「死んだ」と思われている

それらあって円は誰にも過去を知られず、安定して過ごせていた、円も「ここの生活も悪くないなぁ」としか思わなかった

肝心の「皇帝」の事だが更に翌年、嘗て耀も云った通り「また崩れる」の通りになっていく

各地で巨大公共事業の着手の拡大から民を集め強制労働も拡大していく、別にそれが悪いという訳ではないが、やってるのは都を中心とした「皇帝のお膝元」ばかりである

国内も段々不安定が加速していき離脱して逃げる民も出る、円も口に出す事は無かったが

「馬鹿な政治だ」としか思わず、寧ろ哀れみすら覚えた

それも当然だ、過去の事例や、書を読んで、良識があれば誰でも分る、自分の墓穴を掘ってるのと何も代わらない

国と社会を構成する「民」大多数を切ってまともな社会を構成出来る訳がない、税を納めているのも、生産をするのも民である、これを迫害するのは自分の手足を切り取っているのと変わらない、何れ倒れる、足を食う蛸と違いはないのだ

円もこの辺りで見るまでもなく、終わりだろうなと思った、が、それで直ぐ瓦解には成らない、更に暴走していくのである

これも皇や政治の大抵のパターン、改善する事はマズ無い、殆どの物事はそうだが、後々に伸ばして結果が良くなった試しは無い

間違いを改善するとは、ミスの一手目で修正すれば早いし被害は少ない、それが遅ければ遅い程、事態は悪化するものだ

そして、歴史上の人間の判断は殆ど取り返しのつかない所まで隠してから発覚し、その頃にはどうする事も出来ない場所に居るのである

これは病も同じだ、早い程改善するが手の施し様の無いまで進んで治療した所でまず助からない同質のものだ

もう、円も興味が薄くなっていた。自分が何かするまでも無く滅びるだろうとしか思わなかったし、そう見えた、だから自分の生活だけそのまま続けた

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