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苦悩
しおりを挟む震える手で受け取ったアランは執務室でそれを開封する。
『アラン様、お話したいことがありますのでお茶会でお待ちしております』
たった数行の文字からその意志が窺われる。そんなに男の王妃がが気に入らないんだろうか?
「アラン様。やはりこれは陛下にお話すべきです。体調だって・・」
ランスが心配してくれるのは嬉しいがオレは自分のことは自分でしたい性分なのだ。それにこれからもレイルに言い寄る令嬢は現れるだろう。その度にレイルに迷惑をかけたくない。
「わかっている。だけどこれはオレの問題だ」
手紙をくしゃくしゃにするとゴミ箱に投げ入れる。
何があっても誰が何をいおうと王妃はレイルの伴侶はこのオレだけだ。
息を整え王女のお茶会に挑む決意をした。
そして意を決したお茶会なのだが―――出されたお茶に戸惑っていた。
出されたお茶はどす黒くて香りも不自然だ。しかも招待者が最初に毒は入っていないことを証明するために同じポットから入れたお茶を飲むのが貴族の礼儀だ。
しかしそんな素振りもなく自分は違うお茶を飲んでいる。
この王女、躾がなっていないのか?
思えば国王であるレイルに対する礼儀もなっていなかった。
エスコートで腕を掴んではいけないのに堂々と掴んで胸を押し付けていた。あれは娼婦のすることだ。
それに、侍女も護衛の態度もおかしかった。
いくら王女の配下だといっても世話になっている国の王妃を蔑ろにするなんてあり得ない。それにあの態度は下手をすれば戦争になってもおかしくないほどの不敬だった。
まさか―――偽物?
そんな考えが浮かぶが親書を持ってきたのだからそれはないか。
そんな余計な詮索をしていると王女が不機嫌そうにオレを睨んでいた。
「アラン様。私があなたを呼んだわけがわかりますか?」
「・・・いえ。」
「まあ、おわかりになりませんの?」
「ええ、あなたと話すのはこれが初めてですから・・」
「そうでしたわね。でははっきり申しあげますわ。レイル様と別れてください」
「―――はっ」
「私、レイル様と結婚することにいたしましたの・・」
「結婚・・レイルと?」
「ええ・・」
「あなた、が・・?」
「ええ・・」
「・・・そんな話、聞いていません」
「そうでしょうね。でもいずれレイル様から話があると思いますよ」
自身に満ちた王女の顔にアランの心が揺れ動く。
本当に?本当にオレと別れて王女と結婚するつもりなのか?
「・・・・・」
オレが黙り込んだことで優位に立ったと思ったのかあの不気味なお茶を勧めてくる。
「お茶飲まないんですか?」
早く飲め!と言わんばかりに執拗に勧められ、イヤな気がして口をつけるのを躊躇した。
銀のスプーンもないし、これは怪しい。もしかしたら本当に毒が入っているのかもしれない。
「別の物を・・」
「まあ、王女様のお茶が飲めないというのですかっ!」
オレの声を遮ったのは手紙をよこした侍女だ。
この態度からしてやっぱり何か入れてあるのだと判断した。
「そういうわけではないが・・貴様、侍女のくせに王妃であるオレに何たる口にきき方だ!」
強気にでるとは思わなかったようで侍女は唇を噛みオレを睨んだ。
こいつ、ムカつく女だな!
そんなオレの態度に反応したのは王女だ。
「私の侍女を虐めないでください!」
いや、むしろ虐められたのはオレのほうだから・・
「そんな態度だからレイル様に捨てられるのよっ!」
興奮してそう叫んだ王女の言葉にズキッとした。
捨てられる?オレが?
まさか、そんなはずはない!
でも、本当だったら・・?
急に深い不安に襲われる。
「レイル様だって男の王妃より女の私みたいなキレイな王妃がいいに決まっているわ」
「あなたは無用なのよ!」
「レイル様を解放しなさいよっ!!」
「好きって言ってくれたんだからっ!レイル様は私の物よっ!!」
最後の言葉はアランの胸をうち抜いた。
「レイルが・・そう言ったのか?」
「ええそうよ。私とレイル様は相思相愛なのよ・・」
誇らしげにそう言う王女にアランの胸が苦しくなるのを感じた。
その時、何というタイミングの悪さか急にレイルが現れたのだ。
嬉しいはずなのに、王女といたことを咎めるような視線と表情にアランはレイルの顔を見たくなくて目を逸らした。
「なぜ、王女といるんだ?」
何で怒る。そんなに王女のことがのこといいのか?
オレを望んでくれたんじゃなかったのか?
そっか・・そうなんだ
オレは、レイルの本当の気持ちも知らないで・・
その声も怒りを含んでいると感じたアランは何もかも諦めた。
「もう、いい・・」
小さな声でレイルに言うとそのままそこから逃げ出した。
「アランっ!!」
レイルの呼ぶ声が聞こえたが耳を塞いで泣きながら走って行った。
そしてその日、アランは王宮から姿を消した―――・・
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