オレが受けなんてありえねえ!

相沢京

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「何やってんのっ!!」


調理室のドアを開けて大声で叫んだのは拓也だ。早瀬が拉致られたかもと思い急いで親衛隊に声をかけて探しに行こうとした矢先、早瀬が調理室で弁当を作っていると連絡をもらったときは安心して肩の力が抜けてホッとしたのに、いつまでたっても戻ってこないから様子を見に来たら何と呑気にお茶をしていたのだ。


「・・・ご苦労だった」

「ご苦労だったじゃないよっ!何でみんな戻ってこないの?」

「あー、何か気が抜けて休憩していた」

「休憩って・・テントじゃ生徒会のテントに和也しかいないからざわついてるんだよっ!!早く、戻ってよっ!」


蚊帳の外にされて不機嫌な拓也はおもしろくなくてぎゃんぎゃん騒ぎたてた。


「はあ~・・わかった。みんな戻ろう」

「そうだな、職務を放棄するわけにもいかないし・・」

「すみません、私のせいで・・」


申し訳なさそうに謝る早瀬に夏樹はお前のせいじゃないと庇う。


「もう、いいだろう。さあ、戻るぞ。もうすぐ勇人が走るようだしな」

「え、うそっ!もう勇人の番なの?急がなきゃ。先に行くね」


さっきの怒りがウソのようにテントへと戻って行く拓也に高坂は苦笑した。


「拓也の奴・・」


夏樹は拓也がいくら好意を持っていても勇人との仲を認めるつもりはなかった。勇人にその気がないのはわかっていたし、好きな相手も何となくわかっていた。相手は残念ながら全くきづいていないようだけど・・・



その頃、グランドでは刻刻と勇人の出番が近づいていた。

何か、緊張するな・・

同じ列にはそれぞれ各クラスから選ばれた生徒が選手として並んでいる。その中に勇人に見惚れている生徒がいた。

目を潤ませて顔を赤くしている姿は誰が見ても勇人の親衛隊の一人だと思われた。しかし彼はそうではなくて親衛隊持ちの生徒でありながら勇人に好意を寄せていて、体育祭の最中で告白しようと思っていた。

小柄でありながらバレー部のエースの彼はクラスでも注目されている生徒で生徒会入りするのではと噂されたこともあった。

ところが、勇人が会長の弟だと公表され風紀委員から生徒会入りしたことで彼に期待していたクラスメイトはがっかりしたのが記憶にあたらしい。だが、そもそもバレー部のエースである彼が生徒会入りをするはずもなくいい迷惑だと思っていた。だから勇人が生徒会入りしてことに彼は全く妬みなども抱いていなかった。それどころか、初めて彼を見た時から好きになっていた。いわゆる一目惚れという奴だ。そんなことにも気づいていないクラスメイトたちは勇人を嫌い蹴落とそうと目論んでいた。

高坂が不穏な動きといっていたのはこのことだ。


今のところ奴らに怪しい動きはない。動くとしたら借り物競争の時かもしれない。選手が指示のあったものを探しに行く時がチャンスだ。大勢で囲んで始末してしまえばいいと安易に考えていた。返り討ちにあうなんてつゆにも思っていないだろう。バカなやつらである。


さてさて、そんなバカな奴らがいるとは知らず、勇人はスタートラインに立った。


「勇人おおおおお―――っ!!」


ただでさえ緊張している勇人に夏樹の応援の声が轟く。

「ゲッ!何やってんだよぉ」

恥ずかしくて顔を下に向けると、更にまた飛ぶ。


「「勇人さまあああ―――っ!!」」

あれは親衛隊のようだ。団結して旗を振っている。

嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちで手を振ると歓声があがる。


「「「キャアアアアア―――っ!!」」」

「勇人さまが、私に手を振ってくださった」

「何言ってるの、あれは私によ」

「違う、オレにだ」

「・・・・」


ぎゃあぎゃあと言い争いになり今にもケンカが勃発しよそうになって焦った。


「ああ――何やってんだよ」

心配になって競技に集中できなかった勇人は見事にスタートに出遅れた。

「あ、やべっ!」

慌てて走り出すもバレー部のエースには敵わずぐんぐん引き離される。それでも必死に走った結果何とか三位にまで食い込むことができた。


「ああ――勇人さまが」

「ウソ―・・」

「あれって、私たちのせい?」

誰が見てもそうだろう。
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