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一つの影
過去の夢
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暗く湿った空気が漂う空間。全世界最大規模の迷宮…通称【タルタロスの迷宮】
その迷宮の地下324層。
数多の魔物達の咆哮が響き渡る中、それと引けを取らない叫びをあげる者がいた。
「あぁぁぁぁぁぁ…っ!!!」
彼の者は何かを抱き抱え、ただひたすらに叫んだ。
その者の両手は赤く染まり、それを中和するかのように半透明の雫が手を濡らしていた。
「イレーネぇぇぇ!俺は…俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
抱き抱えた者の名と自己嫌悪を混ぜて叫ぶ。
完全に自我が崩壊した彼の者の視界に、不意に指が映った。
白く、ところどころが血で汚れた細長い手。
その手が首を伝い頬を撫で─────
「ねぇ……ロラン…」
今にも消えそうな声で…彼女は言った。
「あなたの居場所はきっとある…だから…」
混濁した意識を律し、言葉を紡ぐ─────
「…自分を……恨まない…で──────」
ね…と言いかけたその言葉は、紡がれる事はなかった。
ふっ…と彼女の肺の空気が全て吐き出される。
口元から出た白い煙はまるで…彼女の魂のようだった…
ふと、頬を何かが流れる感覚に目を覚ます。
「またこの夢か…」
寝ぼけ眼の目を擦りながらロランは体を起こす。
あの出来事から3年たった今も、まだ昨日の事のように記憶に張り付いている。
少し思い出しただけで激しい喪失感が湧き上がり、吐き気が込み上げてきた。
ロランはその吐き気を飲み込み、身支度を整える。
「よし…行くか」
自分が使えるありとあらゆる魔道具や巻物、赤い小瓶を装備し黒いコートを身に纏う。
行先は彼の地、【タルタロスの迷宮】
ロランはコートを翻し、1歩踏み出した。
全世界最大規模迷宮 【タルタロス】
様々な地から腕利きの冒険者が集まる場所。
現在の最高突破階層は324層、つまり3年前のあの出来事からなんの進展もないのだ。
「…おい、見ろよあれ」
小規模パーティのリーダーらしき青年がロランを指さし囁いた。
「黒コートに一振の刀…間違いねぇ…ロランだ」
「ロラン?ロランってあのロランか?」
「あぁ…現在最高突破階層保持者だ」
大柄な男が大声で言った。
「そいつはすげぇ!やっぱりなんか特殊な個人特性でも持ってるのかな?」
「噂だと…現聖騎士長の持つ『万里の保護、再生』よりかも強い個人特性を持ってるらしいぞ…」
人目を気にせず大声で話し合うパーティを横目に、ロランはフードを深く被る。
『個人特性』それは冒険者になる時に与えられる特性。
個人特性は人それぞれ異なり、自身の成長に大きな影響を及ぼす。
ロランが持っている個人特性は『変化の停滞、停止』これと言った特別な力もなく、平凡な個人特性だ。
だが、ロランの個人特性は─────
ふと、青白い光を感じロランは思考をやめた。
転移結晶だ。
これは自身が1度踏破した区切りの良い階層、10、50、100、200層など節目の階層に転移出来るクリスタルだ。
節目の階層はセーフティエリアとなっており、転移した、瞬間に魔物に襲われることも無い。
ロランは転移結晶に触れ、叫んだ。
「転移!300層!!」
その迷宮の地下324層。
数多の魔物達の咆哮が響き渡る中、それと引けを取らない叫びをあげる者がいた。
「あぁぁぁぁぁぁ…っ!!!」
彼の者は何かを抱き抱え、ただひたすらに叫んだ。
その者の両手は赤く染まり、それを中和するかのように半透明の雫が手を濡らしていた。
「イレーネぇぇぇ!俺は…俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
抱き抱えた者の名と自己嫌悪を混ぜて叫ぶ。
完全に自我が崩壊した彼の者の視界に、不意に指が映った。
白く、ところどころが血で汚れた細長い手。
その手が首を伝い頬を撫で─────
「ねぇ……ロラン…」
今にも消えそうな声で…彼女は言った。
「あなたの居場所はきっとある…だから…」
混濁した意識を律し、言葉を紡ぐ─────
「…自分を……恨まない…で──────」
ね…と言いかけたその言葉は、紡がれる事はなかった。
ふっ…と彼女の肺の空気が全て吐き出される。
口元から出た白い煙はまるで…彼女の魂のようだった…
ふと、頬を何かが流れる感覚に目を覚ます。
「またこの夢か…」
寝ぼけ眼の目を擦りながらロランは体を起こす。
あの出来事から3年たった今も、まだ昨日の事のように記憶に張り付いている。
少し思い出しただけで激しい喪失感が湧き上がり、吐き気が込み上げてきた。
ロランはその吐き気を飲み込み、身支度を整える。
「よし…行くか」
自分が使えるありとあらゆる魔道具や巻物、赤い小瓶を装備し黒いコートを身に纏う。
行先は彼の地、【タルタロスの迷宮】
ロランはコートを翻し、1歩踏み出した。
全世界最大規模迷宮 【タルタロス】
様々な地から腕利きの冒険者が集まる場所。
現在の最高突破階層は324層、つまり3年前のあの出来事からなんの進展もないのだ。
「…おい、見ろよあれ」
小規模パーティのリーダーらしき青年がロランを指さし囁いた。
「黒コートに一振の刀…間違いねぇ…ロランだ」
「ロラン?ロランってあのロランか?」
「あぁ…現在最高突破階層保持者だ」
大柄な男が大声で言った。
「そいつはすげぇ!やっぱりなんか特殊な個人特性でも持ってるのかな?」
「噂だと…現聖騎士長の持つ『万里の保護、再生』よりかも強い個人特性を持ってるらしいぞ…」
人目を気にせず大声で話し合うパーティを横目に、ロランはフードを深く被る。
『個人特性』それは冒険者になる時に与えられる特性。
個人特性は人それぞれ異なり、自身の成長に大きな影響を及ぼす。
ロランが持っている個人特性は『変化の停滞、停止』これと言った特別な力もなく、平凡な個人特性だ。
だが、ロランの個人特性は─────
ふと、青白い光を感じロランは思考をやめた。
転移結晶だ。
これは自身が1度踏破した区切りの良い階層、10、50、100、200層など節目の階層に転移出来るクリスタルだ。
節目の階層はセーフティエリアとなっており、転移した、瞬間に魔物に襲われることも無い。
ロランは転移結晶に触れ、叫んだ。
「転移!300層!!」
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