孤高の一匹狼

さな猫

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一つの影

常闇に舞う

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青い光に包まれた体が石畳の床に着地する。
【タルタロスの迷宮】第300層 通称、安らぎの夜。
この先の階層は一日中夜になっている。
ロランは右足の踵を強く床に打ち付け、耳を澄ます。
反響する音、全神経を研ぎ澄まし…
「…そこか」
何も迷うことの無く足元の石畳を踏む。
ゴゴゴ…
近くの石畳が動き、地下への階段が現れる。
ロランは静かに、コツコツと階段を下った。


扉を開けた瞬間、激しい腐臭が押し寄せる。
300層からの魔物はゾンビやスケルトンなど屍類アンデットが多く生息している。
個々の攻撃はあまり高くないが、攻撃を受ける度に呪詛カーストダメージを受けてしまう。
何よりその数の多さからパーティプレイ必須とまで言われている。
そんな死屍累々を見つめてロランは────
《常闇に彷徨う屍よ 光に導かれ 滅せよ》
巻物スクロールを広げ、そう唱えた。
対魔【サーチライト】
広範囲の屍類アンデットを強制的に消滅させる魔術。
消滅して行く魔物を横目に、ロランは刀を仕舞う。
「ふぅ…やっぱ慣れないことはするもんじゃないな」
よく見ると、ロランの額には一筋の汗が滴っていた。
「301層でこの調子とは…俺も老いたもんだ」
あー、腰いたっ…と呟きながら1人で悠然と進む。
本来、301層とは魔道士メイジ5人がかりで魔術を唱え攻略して行く階層だ。
そんな階層を1人で、しかも詠唱を3節にまで切り詰めているロランは只者では無い。
「他の冒険者は皆俺が独りパーティソロだと思ってるんだろうな」
くすりと、ロランは笑う
「まぁ…確かに独りだけど、厳密には違うんだよな」
と、腰の刀に触れながら言った。


時は流れ、319層…
ロランは刀を抜き、目の前の敵と対峙していた。
ロランを遥かに超える体格、威厳と風格が滲み出ている魔物…ドラゴン。
300層以降に出てくるドラゴンは、下級のリザードマンなどとは違う本物の竜種ドラゴン
尾を振っただけで集落を消し飛ばす程の力を持ったドラゴンに立ち向かう一つの影。
「くっ……ハァ…ハァ…」
戦闘開始から約1時間半、ロランの衣服はビリビリに破け、体の端々に血が滲んでいる。
足元には効力の切れた守りの護符アミュレットが散乱していた。
タンッ…タンッ…とドラゴンは喉を鳴らした。
ブレスを放つ際にドラゴンが喉を鳴らすタンギングと呼ばれる動作だ。
ロランは残り少ない守りの護符アミュレットを自分の周囲に投げる。
《光の障壁よ 集いて囲い 我を────》
ロランがそう唱えると小さな光が集まりだし…分散した。
「なっ……ちっ…!もう効果が切れたのか」
ロランは咄嗟に数枚の護符アミュレットと小さな小瓶を取り出し、刀で突き刺した。
小瓶に入っていた赤い液体が護符アミュレットに染み渡り、刀身に流れていく。
その瞬間、凄まじ熱量が辺りを満たした。
普通ならば1秒も持たずに骨をも溶かしてしまうブレスがロランを襲う。
もし、この光景を見た人がいたなら…間違いなく死を覚悟するだろう。

だが─────

「ケホ…ゲホ……ガハッ…」
ロランは…耐えた
血反吐を吐き捨て、改めて刀を構える。
口には見慣れない模様が描かれた護符アミュレット、手には刀身が赤黒く染まった刀。
ロランはドラゴンを見つめ─────
「…来いよ……どっちが強ぇか勝負だ…っ!」
その言葉を合図に、ドラゴンがロランに向かい突進する。
対するロランは冷静な目でそれを見つめ、咥えていた護符アミュレットを噛んだ。
その瞬間、ドラゴンの突進が止まる。
辺りに散らばっていた効力切れの守りの護符アミュレット、その護符アミュレットを口に咥えた特殊な護符アミュレットし発動させた魔術…【ブラッドホール】
赤黒い床がドラゴンを沈め─────
《万里を滅ぼせ 滅せよ 穢れた力よ》《滅せツヴァイ》《滅べドライ
ロランの刀が禍々しく揺れ、霞と消える。

刹那────
視界が赤色に変わる。
その空間に残ったのは…静寂だけだった。
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