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05「素敵な街ね」
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「素敵な街ね」
ベルモンド王国から馬車を走らせること数日、私たちはアシュフォード帝国辺境の、ヴェルグ領地へたどり着いた。
山と森に囲まれた隠れ里のような盆地地帯は、かつて魔王が占領していた区画のひとつだ。
街には痛々しい戦争のあとが残るが、人々は活気に満ちている。復興のために走り回る彼らを見ると、心が熱くなった。
「それに、みんな元気そう」
「……そんなことより、はやく屋敷に行こうよ」
民を眺めていると、その視線をさえぎる様にヴェルグが割り込んでくる。
長身長髪の青年が視界に入ると、もう彼しか見えなくなってしまう。ヴェルグはどういうわけか、周りの男性に睨みを利かせていた。
「領民になんて態度をとるの、あなたは」
「だって、みんな君と話したがってるんだ。君は僕の物なのに」
あきれた。かつて魔王への叛逆組織を束ねていた男ともあろうものが、今は些細な嫉妬で領民に喧嘩を売っている。
「領主様の聖女様狂いは十分存じております」
「手なんか出しやしませんよ」
だが、こんな態度にも領民は慣れたものなのか、笑顔でヴェルグに手を振っていた。
そんな些細なやり取りだけで、ヴェルグはこの地でとても愛されているのだろうな、と感じることができる。
「ここは魔王軍が一番最初に制圧した街だったんだ。だから長いこと圧政に苦しめられていた。そして当時嫡男だった僕は、魔王からここの統治を任されて、表向き統治をしながらレジスタンスを結成したってわけ」
「あなたの始まりの街というわけね」
そう思うと、民との距離の近さにも納得がいく。彼らはヴェルグの領民でありながら、戦友でもあるのだ。
道を歩けば様々な人が声をかけてくれて、ヴェルグはぶっきらぼうながらもそれに応えている。
ベルモンド王国では考えられなかった距離の近さだが、不思議とその関係が心地よかった。
「みんな気のいいやつだけど、当然悪い奴だっている。僕がいないときは街に出たりしないでね」
「あなたに軟禁される筋合いなんてないわ」
「軟禁じゃないよ、かんき――」
「100年早い」
ぺちん。不穏なことを言うヴェルグのおでこを軽く叩いて、石畳を進む。
街を抜けた先にある漆黒の石造りの建物が見えた。そこがヴェルグの屋敷なのだろう。
「ようこそ、僕たちの愛の巣へ」
そう笑みを浮かべて案内するヴェルグに、もう、訂正する気も起きなかった。
「ここが君と僕の部屋。何か欲しいものがあったらメイドか僕に伝えてね。男には話しかけないこと」
「……できれば、個室が欲しいのだけれど」
漆黒と深紅で彩られた重厚なクラシック調の部屋の中は、綺麗に整えられていた。
まず、部屋が広い。
オルフィー殿下の部屋と比べても遜色ないほど広い室内には、とてつもなく広いベッドがど真ん中にしつらえてある。
たくさんあるドアはそれぞれ書斎・バスルーム・ドレッサーにつながっているという。書斎には仲良く並んだ椅子が二つ、バスルームにはかわいいスリッパが二組……この人、本当に同じ部屋で暮らす気らしい。
「服も仕立てておいたよ。好きな服を好きなように着てね……たまに、僕に選ばせてくれると嬉しいけど」
「なんであなたが私のサイズを知っているのよ……!」
ドレッサーには、数えきれないほどのドレスが収まっている。クラシックなロングドレスから、市井で流行りのショート丈、ご丁寧に代えの聖女のローブまで、私のサイズで用意しているらしい。
それだけでも驚きだが、何よりも驚いたのは壁中に飾ってある肖像画だった。
「……これは」
「聖女アルティアの肖像画! 君と初めて会った時から、世界中の画家に描かせてきたんだ」
壁には美化されすぎた私の肖像画が所狭しと飾られている。
美しく整えられた部屋の壁を埋め尽くすほどの肖像画。正直、怖すぎる。
「これは……寝てる私?」
「えへへ、これは僕が描いたんだ。君と初めて出会った日の夜。そばでずっと描いてた」
「初めて会った日から……だと……」
はじめは祝賀会でパニックになっている私を憐れんでくれているのだと思っていたけれど、この男、どうやらかなり前々から私を屋敷に連れ込む算段をしていたらしい。
「私が、オルフィー殿下と結ばれていたらどうする気だったのよ」
壁中に飾られた自分の肖像画と目を合わせないようにしながら、ヴェルグに尋ねる。
自分で言ってて情けないが、ここまで準備しておいて、私が何事もなくオルフィーと結婚していたらどうする気だったのだろう。無駄遣いなんてレベルじゃない散財。民は許してくれるのだろうか。
「来るよ」
だが、ヴェルグはすました顔で答えた。
「そんなの分からないじゃない」
「来るよ。どこでどう暮らしていようが、迎えに行くつもりだったもの」
当たり前でしょ? と言わんばかりの口調に頭が痛くなる。
「でも、私、人妻かもしれないのよ」
何事もなければオルフィーと結ばれていたはず、そう答えるとヴェルグはにやりと笑った。
「そんなの関係ないよ。僕は君を必ず手に入れる……どんな手を使っても」
ぞっとした。
私は、とんでもない男に攫われてしまったのかもしれない。
ベルモンド王国から馬車を走らせること数日、私たちはアシュフォード帝国辺境の、ヴェルグ領地へたどり着いた。
山と森に囲まれた隠れ里のような盆地地帯は、かつて魔王が占領していた区画のひとつだ。
街には痛々しい戦争のあとが残るが、人々は活気に満ちている。復興のために走り回る彼らを見ると、心が熱くなった。
「それに、みんな元気そう」
「……そんなことより、はやく屋敷に行こうよ」
民を眺めていると、その視線をさえぎる様にヴェルグが割り込んでくる。
長身長髪の青年が視界に入ると、もう彼しか見えなくなってしまう。ヴェルグはどういうわけか、周りの男性に睨みを利かせていた。
「領民になんて態度をとるの、あなたは」
「だって、みんな君と話したがってるんだ。君は僕の物なのに」
あきれた。かつて魔王への叛逆組織を束ねていた男ともあろうものが、今は些細な嫉妬で領民に喧嘩を売っている。
「領主様の聖女様狂いは十分存じております」
「手なんか出しやしませんよ」
だが、こんな態度にも領民は慣れたものなのか、笑顔でヴェルグに手を振っていた。
そんな些細なやり取りだけで、ヴェルグはこの地でとても愛されているのだろうな、と感じることができる。
「ここは魔王軍が一番最初に制圧した街だったんだ。だから長いこと圧政に苦しめられていた。そして当時嫡男だった僕は、魔王からここの統治を任されて、表向き統治をしながらレジスタンスを結成したってわけ」
「あなたの始まりの街というわけね」
そう思うと、民との距離の近さにも納得がいく。彼らはヴェルグの領民でありながら、戦友でもあるのだ。
道を歩けば様々な人が声をかけてくれて、ヴェルグはぶっきらぼうながらもそれに応えている。
ベルモンド王国では考えられなかった距離の近さだが、不思議とその関係が心地よかった。
「みんな気のいいやつだけど、当然悪い奴だっている。僕がいないときは街に出たりしないでね」
「あなたに軟禁される筋合いなんてないわ」
「軟禁じゃないよ、かんき――」
「100年早い」
ぺちん。不穏なことを言うヴェルグのおでこを軽く叩いて、石畳を進む。
街を抜けた先にある漆黒の石造りの建物が見えた。そこがヴェルグの屋敷なのだろう。
「ようこそ、僕たちの愛の巣へ」
そう笑みを浮かべて案内するヴェルグに、もう、訂正する気も起きなかった。
「ここが君と僕の部屋。何か欲しいものがあったらメイドか僕に伝えてね。男には話しかけないこと」
「……できれば、個室が欲しいのだけれど」
漆黒と深紅で彩られた重厚なクラシック調の部屋の中は、綺麗に整えられていた。
まず、部屋が広い。
オルフィー殿下の部屋と比べても遜色ないほど広い室内には、とてつもなく広いベッドがど真ん中にしつらえてある。
たくさんあるドアはそれぞれ書斎・バスルーム・ドレッサーにつながっているという。書斎には仲良く並んだ椅子が二つ、バスルームにはかわいいスリッパが二組……この人、本当に同じ部屋で暮らす気らしい。
「服も仕立てておいたよ。好きな服を好きなように着てね……たまに、僕に選ばせてくれると嬉しいけど」
「なんであなたが私のサイズを知っているのよ……!」
ドレッサーには、数えきれないほどのドレスが収まっている。クラシックなロングドレスから、市井で流行りのショート丈、ご丁寧に代えの聖女のローブまで、私のサイズで用意しているらしい。
それだけでも驚きだが、何よりも驚いたのは壁中に飾ってある肖像画だった。
「……これは」
「聖女アルティアの肖像画! 君と初めて会った時から、世界中の画家に描かせてきたんだ」
壁には美化されすぎた私の肖像画が所狭しと飾られている。
美しく整えられた部屋の壁を埋め尽くすほどの肖像画。正直、怖すぎる。
「これは……寝てる私?」
「えへへ、これは僕が描いたんだ。君と初めて出会った日の夜。そばでずっと描いてた」
「初めて会った日から……だと……」
はじめは祝賀会でパニックになっている私を憐れんでくれているのだと思っていたけれど、この男、どうやらかなり前々から私を屋敷に連れ込む算段をしていたらしい。
「私が、オルフィー殿下と結ばれていたらどうする気だったのよ」
壁中に飾られた自分の肖像画と目を合わせないようにしながら、ヴェルグに尋ねる。
自分で言ってて情けないが、ここまで準備しておいて、私が何事もなくオルフィーと結婚していたらどうする気だったのだろう。無駄遣いなんてレベルじゃない散財。民は許してくれるのだろうか。
「来るよ」
だが、ヴェルグはすました顔で答えた。
「そんなの分からないじゃない」
「来るよ。どこでどう暮らしていようが、迎えに行くつもりだったもの」
当たり前でしょ? と言わんばかりの口調に頭が痛くなる。
「でも、私、人妻かもしれないのよ」
何事もなければオルフィーと結ばれていたはず、そう答えるとヴェルグはにやりと笑った。
「そんなの関係ないよ。僕は君を必ず手に入れる……どんな手を使っても」
ぞっとした。
私は、とんでもない男に攫われてしまったのかもしれない。
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