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14「真剣勝負」
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「今日は初日なので、みんなには簡単なテストをしてもらいます。これは学習進度を見るためだけのものだから、気負わないで気軽に受けてみてね」
そう言いながら、私は生徒に紙を配る。
難しすぎず、簡単すぎず。このひと月頭を悩ませて作ったテストのお披露目だ。みんなの役に立つだろうか、と内心かなりドキドキしていた。
「せんせー。俺たち、文字書けないぜ」
労働者層の少年がつまらなそうに声を上げる。彼だけではなく、文字をかけない子たちは羽ペンを玩具のようにつまんで遊んでいる。
身分を問わず生徒を募ったので、こういう事態も覚悟していた。
「体力・魔力のテストもこの後にするから、少しの間待っていてね。今後は得意分野を伸ばしつつ、足りないところを補っていきましょう」
私は広い分野での学習指導を考えていた。私の目指す学習は、座学だけじゃない。
得意不得意なんてみんなにあるもの。得意分野を見つけてほしいし、足りないものは学んでいってほしい。
「体力のテストもあるのかよ。ちょっと楽しみになってきたな」
「ああ、そっちなら俺たち満点取れるな」
「ふふ、楽しみにしてるわね」
体力自慢そうな労働者の子たちは、体力テストがあると知ってうきうきしている。
機嫌を直してくれたことにほっとしたのもつかの間、今度はご令嬢たちから不満の声が上がってきた。
「体力テスト!? あなた、馬鹿にしていらっしゃるの?」
「文字も書けないような人たちと学習? 意味がないですわ!」
「伯爵様はどこにいらっしゃるの!? わたくしたちは、ヴェルグ様にお会いしに来たというのに」
その言葉にカチンときたのか、労働者の男の子たちがご令嬢に向かって毒づく。
「チッ、男漁りなら他所でやれよな」
「いいよな女は。家でふんぞり返ってるだけでいいんだからよ」
「なんですって!? 貧乏人のくせに」
こ、これはよくない……。多少のトラブルがあることは覚悟していたけど、戦後の荒んだ状況がみんなを怒りっぽくさせている。
「ここは平等な学びの場よ。どちらもお互い矛を収めて頂戴」
ぎすぎすした空気を止めようと声をかけると、男の子たちは押し黙ってくれた。
「平等!? ありえない!」
「そもそも、あなたはどっち側なんですの!?」
「私はどちらでもないわ。あなたたちもどちらでもない。私の授業では、貧富の壁なんてないのよ」
だけど、ご令嬢たちは止まらない。
「わたくしになんて口の利き方をするの……そのぼさぼさの髪、短い爪! あなたみたいな貧乏人に教わることなんて何もないわ!」
最も怒っているのは薄緑色の髪の乙女――マルグリッド嬢だ。
彼女は帝王の血を引くニジエール公爵家のご令嬢で、18歳の花咲く年頃の乙女だ。
彼女の環境を思えば辺境の地で学習など必要ないはずだが、おそらくは独身のヴェルグ目当てに参加したのだろう。
そういう意味では男漁りというのは正しくもあり、彼女のコンプレックスを刺激する言葉でもある。
「こうしましょう。私はあなたに馬鹿にされるような人間ではないと証明します。それができたら、私の学習方針についてきていただくわ」
「よくってよ。その代わりあなたが無能であれば、ご指導役はヴェルグ様にお願いするわ」
「かまいません」
パン、パン。と手を叩いて私はテストを中断した。せっかく作ったテストは殆ど誰の目にも就くことなく、机の上に置かれたまま。
寂しい気持ちを抱えながら、私は離れの屋敷を出て中庭へ向かった。
「魔法の授業用の的です。魔法の当てっこをしましょう。貴族のご令嬢なら、魔法ぐらいはお使いになられるわよね?」
薔薇の花咲く中庭の中、十数メートル先に黒いバラを一輪、的として置いている。
私が勝負内容を伝えると、マルグリッド嬢は鼻で笑った。
「あなた、わたくしがマルグリッド・ニジエールと知ってそんな口をきいているの」
「もちろんよ。あなたのお家が伝統的な風魔法の使い手であることも、百発百中の技を持っていることも、聞き及んでおります」
「それを知ってまだ……」
「それでも、私のほうが優秀です」
「なんですって!!」
言うが早いが、マルグリッド嬢は無詠唱で風魔法を展開する。風の弓矢は真っすぐに放たれ、黒薔薇の中央を射抜いた。
歓声が上がる。薔薇の花が散る。
「どう、これで自分の立場が――」
マルグリッド嬢が言葉を発する前に、私も魔法を放った。
聖なる魔法は妖精となり、散った薔薇の花弁を一枚一枚つかむ。
「薔薇の舞」
そう魔法を唱えると、射抜かれた花弁は見事な白薔薇に変化する。
散った黒薔薇は白薔薇の花束に代わり、妖精が私の元に運んでくれた。
「おわかりいただけた?」
なるべくマルグリッド嬢のプライドを傷つけないように言葉を選んで、薔薇の花束を彼女に捧げる。
でも駄目みたい。マルグリッド嬢は顔を歪めて悔しがり、薔薇の花束を地面にたたきつけた。
「アンタなんて――!!」
マルグリッド嬢がなにか吠えようとしたその時だった。
「グルゥアアアア!!!」
闇が、吠える。
黒薔薇のあった場所に瘴気が集まり、魔物を呼び寄せてしまったらしい。
猪の姿をした魔物が、私たちめがけて走り寄ってきた――
そう言いながら、私は生徒に紙を配る。
難しすぎず、簡単すぎず。このひと月頭を悩ませて作ったテストのお披露目だ。みんなの役に立つだろうか、と内心かなりドキドキしていた。
「せんせー。俺たち、文字書けないぜ」
労働者層の少年がつまらなそうに声を上げる。彼だけではなく、文字をかけない子たちは羽ペンを玩具のようにつまんで遊んでいる。
身分を問わず生徒を募ったので、こういう事態も覚悟していた。
「体力・魔力のテストもこの後にするから、少しの間待っていてね。今後は得意分野を伸ばしつつ、足りないところを補っていきましょう」
私は広い分野での学習指導を考えていた。私の目指す学習は、座学だけじゃない。
得意不得意なんてみんなにあるもの。得意分野を見つけてほしいし、足りないものは学んでいってほしい。
「体力のテストもあるのかよ。ちょっと楽しみになってきたな」
「ああ、そっちなら俺たち満点取れるな」
「ふふ、楽しみにしてるわね」
体力自慢そうな労働者の子たちは、体力テストがあると知ってうきうきしている。
機嫌を直してくれたことにほっとしたのもつかの間、今度はご令嬢たちから不満の声が上がってきた。
「体力テスト!? あなた、馬鹿にしていらっしゃるの?」
「文字も書けないような人たちと学習? 意味がないですわ!」
「伯爵様はどこにいらっしゃるの!? わたくしたちは、ヴェルグ様にお会いしに来たというのに」
その言葉にカチンときたのか、労働者の男の子たちがご令嬢に向かって毒づく。
「チッ、男漁りなら他所でやれよな」
「いいよな女は。家でふんぞり返ってるだけでいいんだからよ」
「なんですって!? 貧乏人のくせに」
こ、これはよくない……。多少のトラブルがあることは覚悟していたけど、戦後の荒んだ状況がみんなを怒りっぽくさせている。
「ここは平等な学びの場よ。どちらもお互い矛を収めて頂戴」
ぎすぎすした空気を止めようと声をかけると、男の子たちは押し黙ってくれた。
「平等!? ありえない!」
「そもそも、あなたはどっち側なんですの!?」
「私はどちらでもないわ。あなたたちもどちらでもない。私の授業では、貧富の壁なんてないのよ」
だけど、ご令嬢たちは止まらない。
「わたくしになんて口の利き方をするの……そのぼさぼさの髪、短い爪! あなたみたいな貧乏人に教わることなんて何もないわ!」
最も怒っているのは薄緑色の髪の乙女――マルグリッド嬢だ。
彼女は帝王の血を引くニジエール公爵家のご令嬢で、18歳の花咲く年頃の乙女だ。
彼女の環境を思えば辺境の地で学習など必要ないはずだが、おそらくは独身のヴェルグ目当てに参加したのだろう。
そういう意味では男漁りというのは正しくもあり、彼女のコンプレックスを刺激する言葉でもある。
「こうしましょう。私はあなたに馬鹿にされるような人間ではないと証明します。それができたら、私の学習方針についてきていただくわ」
「よくってよ。その代わりあなたが無能であれば、ご指導役はヴェルグ様にお願いするわ」
「かまいません」
パン、パン。と手を叩いて私はテストを中断した。せっかく作ったテストは殆ど誰の目にも就くことなく、机の上に置かれたまま。
寂しい気持ちを抱えながら、私は離れの屋敷を出て中庭へ向かった。
「魔法の授業用の的です。魔法の当てっこをしましょう。貴族のご令嬢なら、魔法ぐらいはお使いになられるわよね?」
薔薇の花咲く中庭の中、十数メートル先に黒いバラを一輪、的として置いている。
私が勝負内容を伝えると、マルグリッド嬢は鼻で笑った。
「あなた、わたくしがマルグリッド・ニジエールと知ってそんな口をきいているの」
「もちろんよ。あなたのお家が伝統的な風魔法の使い手であることも、百発百中の技を持っていることも、聞き及んでおります」
「それを知ってまだ……」
「それでも、私のほうが優秀です」
「なんですって!!」
言うが早いが、マルグリッド嬢は無詠唱で風魔法を展開する。風の弓矢は真っすぐに放たれ、黒薔薇の中央を射抜いた。
歓声が上がる。薔薇の花が散る。
「どう、これで自分の立場が――」
マルグリッド嬢が言葉を発する前に、私も魔法を放った。
聖なる魔法は妖精となり、散った薔薇の花弁を一枚一枚つかむ。
「薔薇の舞」
そう魔法を唱えると、射抜かれた花弁は見事な白薔薇に変化する。
散った黒薔薇は白薔薇の花束に代わり、妖精が私の元に運んでくれた。
「おわかりいただけた?」
なるべくマルグリッド嬢のプライドを傷つけないように言葉を選んで、薔薇の花束を彼女に捧げる。
でも駄目みたい。マルグリッド嬢は顔を歪めて悔しがり、薔薇の花束を地面にたたきつけた。
「アンタなんて――!!」
マルグリッド嬢がなにか吠えようとしたその時だった。
「グルゥアアアア!!!」
闇が、吠える。
黒薔薇のあった場所に瘴気が集まり、魔物を呼び寄せてしまったらしい。
猪の姿をした魔物が、私たちめがけて走り寄ってきた――
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