約束のまもり方

かつお

文字の大きさ
3 / 7

第3話

しおりを挟む
 りさの後を追って、工場の目の前まで来たところで、初めて気付いた。シャッターを左に曲がると、"従業員用扉"と書かれた、プレートと扉を見つけたのだ。従業員用の出入り口からはスタッフのロッカールームや事務所などに行けるのだろう。

 もしかしたら、そこに母親がいるかもしれない。そう思った僕は、出入り口の方を確かめたかったけれど、りさは真っ直ぐ工場内に走って行ってしまったので、後で確認する事にした。

 工場のど真ん中には大きなベルトコンベアがあり、奥には何に使うかわからない細々とした機械が並んでいる。

「りさ!戻っておいで!」

 少し大きな声でりさに呼びかける。が返事はない。当たり前だが、工場内は真っ暗で、中に入ると足元も見えない。それに加えて、中には危険な機械もたくさんある事だろう。

 それに恥ずかしながら、中学生の僕でも、若干の怖さに足が震えそうになるのだから、小学生のりさはもっと怖い思いをしているかもしれない。そう思い、早くりさを外に連れて行かないと、と少し焦りながら、僕はスマホのライトで辺りを照らしつつ、りさの姿を探す。

「りさ!1人になるのは危ないよ!」

 ふと、工場の右奥の方をライトで照らすと、先程まで隣にいた少女の後ろ姿が見えた。

「りさ!やっといた…。」

 僕は彼女に駆け寄る。

「りさ、あっちにもう1つ扉があるんだ。ママはそっちの方にいるかしれないよ。」

 僕は彼女の手を取り、声を掛けた。が、彼女はその場から動かないどころか、一言も話さない。

「りさ?どうしたの?」

 僕の中に、言いようのない恐怖心が芽生えた。

「もういいでしょ?ほら、行くよ。」

 そう言い、強引に彼女の手を引いて外に向かう。先程は、微塵も動かなかった彼女だが、意外にも大人しく着いてきた。

 工場の真ん中辺り、ちょうどベルトコンベアの横を通り過ぎようとした瞬間、りさがポツリと呟いた。

「ママ、いた。」

 え?僕は外に目をやるが人影らしきものは1つもない。何故かはわからないが、僕は一刻も早く、ここを立ち去らなければいけない気がした。

 正直りさが居なければ、今すぐにも全速力で走って、家に帰りたいくらいだった。

「行くよ!」

 そう言って強くりさの手をひいたとき、りさがある方向を指差して言った。

「ママ…。」

 どっと冷や汗が吹き出した。心臓が今までにないくらい暴れているのがわかる。ゆっくりと、彼女の指差す方に視線を向けた……。

「なにも…いないじゃん…。」

 そう、彼女の指差す場所には誰も、"何も"居なかったのだ。僕は良かった~と、安堵の息を吐きながら、先程までの自分がとても滑稽に思えてきて、思わず笑ってしまった。

 そのまま歩きだそうとする僕に反して、りさは依然一点を見つめている。

「ほら!いつまでそうしてるの?」

 いい加減ここから出たかった僕は、少し強めの口調になってしまった。

「ママ。」

「わかったから!従業員用扉の方も確認してあげるから!」

「ママいたよ。ちゃんと見て…。」

 しつこいりさに根負けした僕は、もう一度りさの指差す方に目を向ける。やはり、何度見ても一緒だ。

「何回見たって一緒……」

 そう言いかけた時、初めてりさが何を指差しているのか、僕は気が付いた。
彼女がママと言っていたものは、地面に落ちている小さな石ころのようなものだった。

「なに?これ…」

 よく見ようと僕はしゃがんで、ライトの光をあてた。見た目は、昔アスファルトに落書きをするのに良く使った、チョーク石に若干似ているような気がする。が、手に取ると全くの別物だとわかった。

 今まで触った事がないような手触りだ。触った事がない?一度も?いや、僕はこれに見覚えがあった。厳密に言えば、別の種類の、だが。

「まさか…骨…?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...