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route T
93. 打破
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前半真都視点、後半は真緒視点です。
あの弟が、あれほどひどい扱いを受けていながら一向に息子の愚行を諫めなかった瀬尾を切り捨てる覚悟を持ったということを人づてに聞いて、俺はようやくかと内心で喜びの声を上げた。
瀬尾家が裏で何をしているのか耳にしたことはあったものの、今まで制裁めいたことをしなかったのは、当の弟がそれを望んでいなかったからだ。
何だかんだ言って、弟は婚約者である瀬尾家の次男を好きだというのはわかっている。当人たちがお互いをどう思っているのかなんて、傍から見れば一目瞭然なんだが、いかんせん瀬尾の事情が悪すぎた。
せめて次男が弟に抱えている事情を打ち明けることができていたら、きっと弟は次男を見限ることはなかった。きっと、それこそ運命的に乗り越えることができただろうに……と、二人にあるはずだった、けれど訪れなかった未来に俺は嘆息して、そして笑った。
(まぁ何はともあれ、これは真緒がくれた、瀬尾をようやく潰せるいい機会だ。瀬尾を潰したら、……あとは婚約を解消させて、真緒は俺のもとに戻せばいい。)
俺が計画していることを知れば、瀬尾と懇意にしている実家の父も母も反対するだろうが、そんなことはどうでも良かった。あの二人は弟が何度、瀬尾の次男との婚約解消を希望しても「親友同士の子供で結ばれてほしい」と、わけのわからないことを繰り返してまともに取り合おうとはしなかった。
瀬尾斎樹は、元々は最上位アルファとして生まれてしまった俺と、自分の子供とを番わせたいと思っていたようだけど、瀬尾斎樹の子供は男型のアルファしか生まれなかった。諦めかけた時に、母が弟を出産した。実家の玄関に飾ってある女性オメガの肖像画を、いつも欲を孕んだ目で食い入るように眺めていたのを俺は知っている。あの女性オメガと同じ顔に成長していく弟を、歓喜の目で見ていたことも。俺は、弟に対する瀬尾斎樹の執着はそこから始まったのだと確信している。
弟にはきれいなものだけを見ていてほしい。
これからの弟の人生が少しでもきれいなもので満たされたらいいのに、と俺は苦笑した。
◆ ◆ ◆
それは突然だった。
俺と宏樹、泰樹くんの三人で久しぶりに夕食を摂っている時だった。
この日はめずらしく宏樹が残業もなく帰宅して、めずらしく宏樹と泰樹くんが「今日は俺たちが夕飯を作るよ」とか言って、めずらしくケンカもせずに穏やかな時間を過ごせていた時だった。
軽快なメロディが流れると同時にニュース速報のテロップが出て、何となく三人ともがテレビ画面を見た。びっくりしすぎて正確な文面を覚えてはいないけれど、とにかく俺たちの今後を変える――贈収賄の疑いで瀬尾のおじさんと、そして秘書が逮捕された、という内容だった。
俺はもちろんだけど、俺の正面に座っている宏樹は、それこそ目がこぼれ落ちるんじゃないかっていうくらい大きく目を見開いて固まっている。その隣の泰樹くんは特に驚いた様子もなく、普段と変わらない落ち着いた顔つきだ。
「さすが真都さんだなぁ。本当に行動が早いですね」
顔つきと同じように、本当にいつもと変わらない落ち着いた声音で、泰樹くんが笑いながらそう言った。
あの弟が、あれほどひどい扱いを受けていながら一向に息子の愚行を諫めなかった瀬尾を切り捨てる覚悟を持ったということを人づてに聞いて、俺はようやくかと内心で喜びの声を上げた。
瀬尾家が裏で何をしているのか耳にしたことはあったものの、今まで制裁めいたことをしなかったのは、当の弟がそれを望んでいなかったからだ。
何だかんだ言って、弟は婚約者である瀬尾家の次男を好きだというのはわかっている。当人たちがお互いをどう思っているのかなんて、傍から見れば一目瞭然なんだが、いかんせん瀬尾の事情が悪すぎた。
せめて次男が弟に抱えている事情を打ち明けることができていたら、きっと弟は次男を見限ることはなかった。きっと、それこそ運命的に乗り越えることができただろうに……と、二人にあるはずだった、けれど訪れなかった未来に俺は嘆息して、そして笑った。
(まぁ何はともあれ、これは真緒がくれた、瀬尾をようやく潰せるいい機会だ。瀬尾を潰したら、……あとは婚約を解消させて、真緒は俺のもとに戻せばいい。)
俺が計画していることを知れば、瀬尾と懇意にしている実家の父も母も反対するだろうが、そんなことはどうでも良かった。あの二人は弟が何度、瀬尾の次男との婚約解消を希望しても「親友同士の子供で結ばれてほしい」と、わけのわからないことを繰り返してまともに取り合おうとはしなかった。
瀬尾斎樹は、元々は最上位アルファとして生まれてしまった俺と、自分の子供とを番わせたいと思っていたようだけど、瀬尾斎樹の子供は男型のアルファしか生まれなかった。諦めかけた時に、母が弟を出産した。実家の玄関に飾ってある女性オメガの肖像画を、いつも欲を孕んだ目で食い入るように眺めていたのを俺は知っている。あの女性オメガと同じ顔に成長していく弟を、歓喜の目で見ていたことも。俺は、弟に対する瀬尾斎樹の執着はそこから始まったのだと確信している。
弟にはきれいなものだけを見ていてほしい。
これからの弟の人生が少しでもきれいなもので満たされたらいいのに、と俺は苦笑した。
◆ ◆ ◆
それは突然だった。
俺と宏樹、泰樹くんの三人で久しぶりに夕食を摂っている時だった。
この日はめずらしく宏樹が残業もなく帰宅して、めずらしく宏樹と泰樹くんが「今日は俺たちが夕飯を作るよ」とか言って、めずらしくケンカもせずに穏やかな時間を過ごせていた時だった。
軽快なメロディが流れると同時にニュース速報のテロップが出て、何となく三人ともがテレビ画面を見た。びっくりしすぎて正確な文面を覚えてはいないけれど、とにかく俺たちの今後を変える――贈収賄の疑いで瀬尾のおじさんと、そして秘書が逮捕された、という内容だった。
俺はもちろんだけど、俺の正面に座っている宏樹は、それこそ目がこぼれ落ちるんじゃないかっていうくらい大きく目を見開いて固まっている。その隣の泰樹くんは特に驚いた様子もなく、普段と変わらない落ち着いた顔つきだ。
「さすが真都さんだなぁ。本当に行動が早いですね」
顔つきと同じように、本当にいつもと変わらない落ち着いた声音で、泰樹くんが笑いながらそう言った。
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