公爵令嬢の選択

つきほ。

文字の大きさ
36 / 57
第3章 陰謀と裏切り

第34話 疑惑の渦

しおりを挟む

 書記官が立ち去った後、マリアンヌはしばらくその場に佇んでいた。

(正体を知れば危険に巻き込まれる……あの言葉の意味は何?)

彼女の中に、書記官への疑念と信頼が交錯する。だが、目の前に広がる闇を明らかにするには、この局内でさらなる手掛かりを掴むしかないと決意した。




 翌日、財務局内では小さな騒ぎが起きていた。カルトン卿が厳しい表情で部下たちに指示を出している。

「昨夜の出来事に関して、調査を進める。誰も見逃すな。」

その言葉に、局員たちは緊張した様子で動き始めた。マリアンヌはその光景を静かに観察していたが、カルトン卿の視線が一瞬彼女に向けられた。

「公爵令嬢、ご滞在中は十分に楽しんでください。」

その言葉にはどこか棘が含まれていた。




 廊下を歩いていると、書記官がマリアンヌの後ろから声をかけてきた。

「昨夜のことは無事だったようですね。」

彼の声は穏やかだったが、どこか不安げでもあった。

「あなたの正体を教えてくれる気はないの?」

マリアンヌが問い詰めると、彼は少し微笑みながら答えた。

「私はただ、この王国が正しい道を歩むことを願っている一市民です。それ以上でも、それ以下でもありません。」

 彼の曖昧な言葉に不満を感じつつも、マリアンヌはさらに問いかけた。

「それなら、なぜ私を助けるの?」

彼は静かに言った。

「あなたが影の組織の本当の姿を暴ける唯一の存在だからです。」

その言葉が意味する重みを感じたマリアンヌは、彼を凝視しながら言った。

「あなたを信じてもいいの?」

彼は微笑みながら静かに頷いた。

「それはあなた次第です。」




 その日の午後、マリアンヌは再び帳簿に目を通していた。だが、どの記録も組織とのつながりを確証づけるものではない。

「何か見逃しているはず……。」

そう呟いた瞬間、隣にいた書記官が小さなメモを差し出した。

「これが役に立つかもしれません。」

マリアンヌが受け取ると、それは隠し資産のリストを示すものであった。

「このリスト……これが組織の資金の流れ?」

書記官は頷き付け加えた。

「だが、これだけでは不十分です。このリストに記された場所を調べる必要があります。」

マリアンヌはメモを握りしめ問いかけた。

「場所を調べる手段は?」

書記官はため息をつきながら答えた。

「それを見つけるのは、あなた自身の仕事です。」




 夜、マリアンヌが宿泊している部屋に戻ると、窓辺に一枚の紙が置かれていた。

「ここから手を引け。」

その短い警告文を見て、彼女は剣を握りしめた。

(影の組織は、私の動きを完全に把握しているのか……?)

その不安の中で、彼女の決意はさらに固まった。

「どんなに危険でも、この真実を暴いてみせる。」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...