王宮のキューレター〜キューレター誕生編〜

らいむぽとす

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王宮のキューレター誕生

密談

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「わたくし、そろそろ失礼しますわ。お屋敷の件は祖父と相談してお返事させていただきますわね」

 アマーリアは丁寧に挨拶をすると、侍女の案内で応接室を出ていった。

「あの令嬢はどこの令嬢?」

 ハドソンはアマーリアが出て行った扉を見つめながらローリー伯爵にそう尋ねた。

「フルール公爵のアマーリア嬢だ」

「わぁお。大物だ」

 ローリー伯爵は、机の上のシガーケースから葉巻を取り出すと、シガーカッターで上部を切り火をつけた。

 豊満な葉巻の匂いが部屋に充満する。

「どうだ?落とせない女はいないんだろ?」

 ローリー伯爵の下衆な質問にハドソンはにやりと笑って見せ、歩き出すとローリー伯爵の前にどかりと座り、葉巻きに手を伸ばした。

「まぁね。だけど流石に高位貴族の娘にちょっかいをかけたことはないや。それにまだ子供じゃないか、守備範囲じゃないな」

「フルール公爵家の総領娘だ。モノにできれば一生遊んで暮らせるぞ。しかも贅沢にだ」

 メイソンは丁寧に葉巻をカットして葉をパイプに詰め込み、懐から小瓶をだすと透明な液体を一滴垂らした。

 すうーっとパイプを吸うと

「はぁ~。生き返る」

 彼は恍惚とした表情で更にパイプを吸うのをローリー伯爵は不快な表情で見つめていたが、

「あと数日よろしく頼むよ」

 と、伯爵はそれを見なかったことにしてハドソンにそう声をかけた。

「わかってますよ。うまくやるから大丈夫ですよ。――それより、これから伯爵はどうするつもりなんです?この家がなくなってしまったらまずいんじゃないです?」

「いいんだ。こんな家なくなってしまえば」

 伯爵の表情は憎々しげに歪み、それを目の当たりにしたハドソンはこの話題はますかったのかと瞬時に判断したが、の彼からしたら――貴族であること。それだけで羨ましいのに、わざわざそれを捨てようとしている伯爵の気持ちはさっぱり理解できなかった。

 伯爵は先ほどアマーリアが座っていた場所から暖炉の上の絵を見上げた。

 本来なら自分のものだったはずの女性。自分の婚約者だった女性。

 家同士の政略での出逢いだったが、可憐な彼女に一目惚れだった。彼女に夢中だった。

 もし兄の婚約者が亡くならなければ、慎ましやかに彼女と幸せに暮らしていたのだろうか――――。

 ……本当は気づいていたのだ。彼女が兄に惹かれていることを。だけど気づかないふりをしていた。

 そして兄も…………。

 裏切られたわけではない。婚約を解消したのも彼女が兄の婚約者になったのも家の都合だ。貴族として生まれてきたからそれは理解している。理解しているが割り切れなかった。

 もがいてもがいて……どんどんと生活も荒れていった。立派な放蕩息子のできあがりだ。

 荒れた生活がさらに自分をダメにしていく。気がついたらもう這い上がれなくなっていた。

 そんな足掻いていたときに幼い息子を残して兄夫婦が亡くなった。

 やり直せるならこのときだったのかもしれない。

 だけど……彼女の死が受け入れられなかった。

 もし彼女が生きていたら、兄の忘れ形見と彼女と幸せに暮らせたのだろうか?立ち直れたのだろうか?

 ローリー伯爵は伏し目がちに頭を振ると、その考えを頭から消した。

 よそう、たらればの話をしたところで、現状は変わらない。

 残された道は多少のまとまった金を持って姿を消すこと。

 それにはどうあってもこの屋敷を売らなくてはならない。それに集中しなければ。

「さて、じゃぁ僕は行きますね。今日はレイラと約束してるんで」

「遊びもほどほどにしろよ」

 ――じゃないと私のように這い上がれなくなる。その言葉は伯爵の口からはでなかった。

「大丈夫ですよ。……まっでもレイラとはそろそろ終わりかな。新たな獲物を物色しないと。――……フルール公爵令嬢……か」

 悪くない。貴族として傅かれて贅沢三昧の生活。

 ハドソンは貴族の生活する自分を頭に描き、にまにまと笑った。

 実際にはそう甘いものではないが、貴族の実態を知らなければいい面しか目につかないのは当然なのかもしれない。

「それじゃぁ、また。――あっ今度フルール公爵令嬢が来るときは教えて欲しいな。よろしく」

 ハドソンは機嫌よく部屋を出ていった。

 残された伯爵は部屋の窓を開けて換気をすると、フルール公爵令嬢とハドソンがどうなろうが自分には関係ない。

 少しでも高値でこの屋敷を買い取ってもらえればそれでいい。

 ハドソンが彼女を籠絡して口添えしてくれるなら、それに越したことはない。

 そんなことを考えていた。

 
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