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中編2
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『失われた古の遺産』と、この国では魔法はそう呼ばれている。便利だとされる魔法が何故失われたのかは学者の興味をこと更惹くらしく何人もの学者が研究をしているが真相解明にはまだ至っていない。
有力かつ一番説得力のある説は『魔女狩り』による、だ。人は未知なものや異分子を畏怖するもの。魔法に脅威を覚えた人々はごく少数、それでも現代より大多数いた魔女と呼れる魔法を使えた者を排除した、『魔女狩り』によって。魔女と称してはいるがあくまで総称で魔法が使える者は男女関係なく狩られた。その結果、魔法は『古の遺産』になった。
しかし大多数の国で魔法は『失われた古の遺産』になってはいるが、魔法を保護し発展させている国がないわけではない。つまり魔法はまったく存在しないのではなく、この国で失われただけなのだ。
幼馴染のデイブが発した『魅了の力』と『アレは私の知るストゥーではない。別人だ』の言葉に、ソコロは一筋の光を見いだす。
禁忌とされる魅了の力は失われた古の遺産の一つで、その術にかかると術者に対しての好意が増幅され、他者へいだく好意は悪意に変換され増幅されると、ソコロが手にしている本には書かれている。
まさにスチュアートの状態ではないか。
ソコロはページを捲る手を早めた。魅了には何種類かあるらしく、王家の者しか伝えられない王家の醜聞、礼儀知らずで無知、その上享楽的だったと言われる王太子妃は魅了の力を使え、その力で当時の王太子を魅了し王太子の王命の婚約者から奪い王太子妃になったが、公務はからきしできず、ではその愛らしい容姿を生かして外交を――とさせてみれば、マナー知らずの彼女は他国との摩擦を増やすばかりだったとか。国庫でドレスや装飾品を買い集め、学生時代からの彼女を崇拝する男達と閨を共にし、夜会では乱痴気騒ぎを繰り返していたが、王太子からも当時の国王陛下からも苦言を呈することはなかったという。結果彼女は断頭台で露と消えたが、その彼女の魅了の力は結界型で、結界内にいる人間に少なからず影響を及ばすものだったと、伝えられている。
この王太子妃とモルガン公爵家には因縁があった。追い落とされた婚約者はモルガン公爵家の者だし、彼女を断頭台に送ったのもまたモルガン公爵家だった。もしかしたらソコロの家の図書室にも魅了の力に関する資料が残っているかもしれない。
ジョイが魅了の力を使っているかは、実際には分からない。この国では魔法は『失われた古の遺産』だから、軽侮していて対策はまったくなされていなかった。故にジョイが仮に魅了の力を使用していても、それを判断する術がない。
だけどソコロにはジョイが魅了の力を使っている確信があった。もう人目を憚かることなくスチュアートとジョイは堂々と二人でいる。婚約者のソコロですら恋人同士だと認められるほどなのだから、他者にもそう映るはずだ。なのに、王太子の側近候補達も変わらずにジョイを取り巻いている。これは恥知らずな王太子妃と同じ状況ではないのか。彼らの婚約者にも話を聞いたが、ソコロと状況が似ていた。――好意を悪意に変換する、近づけば顔を歪められ睨まれると。
スチュアートと話をするのを諦めたソコロは王妃に時間をもらい、側近候補達の婚約者の現状を説明し、王妃と対策を練った。対策を練るといっても王妃もこの間の舞踏会で、側近候補達の婚約者に対しての態度を直接見ていたので、家同士の話し合いと、令嬢に咎がつかない処置に新しい婚約者の選定などで、とてもではないが現状の回復とはいえない有り様にソコロは唇を噛み締めたが、対策を講じないよりはましと自分に言い聞かせた。
パタンと本を閉じるとソコロは立ち上がり本を片付けに歩き出した。
王都内の中心にある国立図書館でソコロは一般人の立ち入りを禁止している部屋の扉を開けると中に入る。
ソコロが知りたいのはもし魅了の力に支配されているのなら、どう解除したらいいか……だ。その方法が記された本は案の定というべきかなかった。
丁寧に本棚へ一冊一冊戻していると、アンバー伯爵令嬢の言った言葉が頭に浮かんだ『願えば叶えなくてはならない』
ジョイの魅了の力に侵蝕されると、魅了された側はそのような思考をするのだとか。
ジョイはなにを願うのだろうか。最終的にはなにが望みなのだろうか。スチュアートの妻になることなのだろうか。それならば何故、彼の側近候補達とも頻繁に閨を共にするのだろうか。
ソコロには何度考えても、ジョイの考えていることは分からなかった。
それにスチュアート。彼は魅了されているからジョイが好きなのだろうか。魅了されていなくてもジョイが好きなのだとしたら、もしそうならスチュアートは今が一番幸せなのかもしれない。
ならばソコロが魅了を解除しようと躍起になっているのは、スチュアートからしたらただの迷惑になる。
例えそうだとしても、ソコロは以前のスチュアートに戻って欲しい。そこにスチュアートからの女としての愛がソコロになくても。ジョイを愛していたとしても。
それでもソコロはスチュアートを愛している。
だってソコロは王太子の為に生きて、王太子の為に存在するのだから。
有力かつ一番説得力のある説は『魔女狩り』による、だ。人は未知なものや異分子を畏怖するもの。魔法に脅威を覚えた人々はごく少数、それでも現代より大多数いた魔女と呼れる魔法を使えた者を排除した、『魔女狩り』によって。魔女と称してはいるがあくまで総称で魔法が使える者は男女関係なく狩られた。その結果、魔法は『古の遺産』になった。
しかし大多数の国で魔法は『失われた古の遺産』になってはいるが、魔法を保護し発展させている国がないわけではない。つまり魔法はまったく存在しないのではなく、この国で失われただけなのだ。
幼馴染のデイブが発した『魅了の力』と『アレは私の知るストゥーではない。別人だ』の言葉に、ソコロは一筋の光を見いだす。
禁忌とされる魅了の力は失われた古の遺産の一つで、その術にかかると術者に対しての好意が増幅され、他者へいだく好意は悪意に変換され増幅されると、ソコロが手にしている本には書かれている。
まさにスチュアートの状態ではないか。
ソコロはページを捲る手を早めた。魅了には何種類かあるらしく、王家の者しか伝えられない王家の醜聞、礼儀知らずで無知、その上享楽的だったと言われる王太子妃は魅了の力を使え、その力で当時の王太子を魅了し王太子の王命の婚約者から奪い王太子妃になったが、公務はからきしできず、ではその愛らしい容姿を生かして外交を――とさせてみれば、マナー知らずの彼女は他国との摩擦を増やすばかりだったとか。国庫でドレスや装飾品を買い集め、学生時代からの彼女を崇拝する男達と閨を共にし、夜会では乱痴気騒ぎを繰り返していたが、王太子からも当時の国王陛下からも苦言を呈することはなかったという。結果彼女は断頭台で露と消えたが、その彼女の魅了の力は結界型で、結界内にいる人間に少なからず影響を及ばすものだったと、伝えられている。
この王太子妃とモルガン公爵家には因縁があった。追い落とされた婚約者はモルガン公爵家の者だし、彼女を断頭台に送ったのもまたモルガン公爵家だった。もしかしたらソコロの家の図書室にも魅了の力に関する資料が残っているかもしれない。
ジョイが魅了の力を使っているかは、実際には分からない。この国では魔法は『失われた古の遺産』だから、軽侮していて対策はまったくなされていなかった。故にジョイが仮に魅了の力を使用していても、それを判断する術がない。
だけどソコロにはジョイが魅了の力を使っている確信があった。もう人目を憚かることなくスチュアートとジョイは堂々と二人でいる。婚約者のソコロですら恋人同士だと認められるほどなのだから、他者にもそう映るはずだ。なのに、王太子の側近候補達も変わらずにジョイを取り巻いている。これは恥知らずな王太子妃と同じ状況ではないのか。彼らの婚約者にも話を聞いたが、ソコロと状況が似ていた。――好意を悪意に変換する、近づけば顔を歪められ睨まれると。
スチュアートと話をするのを諦めたソコロは王妃に時間をもらい、側近候補達の婚約者の現状を説明し、王妃と対策を練った。対策を練るといっても王妃もこの間の舞踏会で、側近候補達の婚約者に対しての態度を直接見ていたので、家同士の話し合いと、令嬢に咎がつかない処置に新しい婚約者の選定などで、とてもではないが現状の回復とはいえない有り様にソコロは唇を噛み締めたが、対策を講じないよりはましと自分に言い聞かせた。
パタンと本を閉じるとソコロは立ち上がり本を片付けに歩き出した。
王都内の中心にある国立図書館でソコロは一般人の立ち入りを禁止している部屋の扉を開けると中に入る。
ソコロが知りたいのはもし魅了の力に支配されているのなら、どう解除したらいいか……だ。その方法が記された本は案の定というべきかなかった。
丁寧に本棚へ一冊一冊戻していると、アンバー伯爵令嬢の言った言葉が頭に浮かんだ『願えば叶えなくてはならない』
ジョイの魅了の力に侵蝕されると、魅了された側はそのような思考をするのだとか。
ジョイはなにを願うのだろうか。最終的にはなにが望みなのだろうか。スチュアートの妻になることなのだろうか。それならば何故、彼の側近候補達とも頻繁に閨を共にするのだろうか。
ソコロには何度考えても、ジョイの考えていることは分からなかった。
それにスチュアート。彼は魅了されているからジョイが好きなのだろうか。魅了されていなくてもジョイが好きなのだとしたら、もしそうならスチュアートは今が一番幸せなのかもしれない。
ならばソコロが魅了を解除しようと躍起になっているのは、スチュアートからしたらただの迷惑になる。
例えそうだとしても、ソコロは以前のスチュアートに戻って欲しい。そこにスチュアートからの女としての愛がソコロになくても。ジョイを愛していたとしても。
それでもソコロはスチュアートを愛している。
だってソコロは王太子の為に生きて、王太子の為に存在するのだから。
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