ソコロと王太子の婚約解消事情

らいむぽとす

文字の大きさ
3 / 14

中編2

しおりを挟む
『失われた古の遺産』と、この国では魔法はそう呼ばれている。便利だとされる魔法が何故失われたのかは学者の興味をこと更惹くらしく何人もの学者が研究をしているが真相解明にはまだ至っていない。

 有力かつ一番説得力のある説は『魔女狩り』による、だ。人は未知なものや異分子を畏怖するもの。魔法に脅威を覚えた人々はごく少数、それでも現代より大多数いた魔女と呼れる魔法を使えた者を排除した、『魔女狩り』によって。魔女と称してはいるがあくまで総称で魔法が使える者は男女関係なく狩られた。その結果、魔法は『古の遺産』になった。

 しかし大多数の国で魔法は『失われた古の遺産』になってはいるが、魔法を保護し発展させている国がないわけではない。つまり魔法はまったく存在しないのではなく、この国で失われただけなのだ。

 幼馴染のデイブが発した『魅了の力』と『アレは私の知るストゥーではない。別人だ』の言葉に、ソコロは一筋の光を見いだす。

 禁忌とされる魅了の力は失われた古の遺産の一つで、その術にかかると術者に対しての好意が増幅され、他者へいだく好意は悪意に変換され増幅されると、ソコロが手にしている本には書かれている。

 まさにスチュアートの状態ではないか。

 ソコロはページを捲る手を早めた。魅了には何種類かあるらしく、王家の者しか伝えられない王家の醜聞、礼儀知らずで無知、その上享楽的だったと言われる王太子妃は魅了の力を使え、その力で当時の王太子を魅了し王太子の王命の婚約者から奪い王太子妃になったが、公務はからきしできず、ではその愛らしい容姿を生かして外交を――とさせてみれば、マナー知らずの彼女は他国との摩擦を増やすばかりだったとか。国庫でドレスや装飾品を買い集め、学生時代からの彼女を崇拝する男達と閨を共にし、夜会では乱痴気騒ぎを繰り返していたが、王太子からも当時の国王陛下からも苦言を呈することはなかったという。結果彼女は断頭台で露と消えたが、その彼女の魅了の力は結界型で、結界内にいる人間に少なからず影響を及ばすものだったと、伝えられている。

 この王太子妃とモルガン公爵家には因縁があった。追い落とされた婚約者はモルガン公爵家の者だし、彼女を断頭台に送ったのもまたモルガン公爵家だった。もしかしたらソコロの家の図書室にも魅了の力に関する資料が残っているかもしれない。

 ジョイが魅了の力を使っているかは、実際には分からない。この国では魔法は『失われた古の遺産』だから、軽侮していて対策はまったくなされていなかった。故にジョイが仮に魅了の力を使用していても、それを判断する術がない。

 だけどソコロにはジョイが魅了の力を使っている確信があった。もう人目を憚かることなくスチュアートとジョイは堂々と二人でいる。婚約者のソコロですら恋人同士だと認められるほどなのだから、他者にもそう映るはずだ。なのに、王太子の側近候補達も変わらずにジョイを取り巻いている。これは恥知らずな王太子妃と同じ状況ではないのか。彼らの婚約者にも話を聞いたが、ソコロと状況が似ていた。――好意を悪意に変換する、近づけば顔を歪められ睨まれると。

 スチュアートと話をするのを諦めたソコロは王妃に時間をもらい、側近候補達の婚約者の現状を説明し、王妃と対策を練った。対策を練るといっても王妃もこの間の舞踏会で、側近候補達の婚約者に対しての態度を直接見ていたので、家同士の話し合いと、令嬢に咎がつかない処置に新しい婚約者の選定などで、とてもではないが現状の回復とはいえない有り様にソコロは唇を噛み締めたが、対策を講じないよりはましと自分に言い聞かせた。

 パタンと本を閉じるとソコロは立ち上がり本を片付けに歩き出した。
 
 王都内の中心にある国立図書館でソコロは一般人の立ち入りを禁止している部屋の扉を開けると中に入る。

 ソコロが知りたいのはもし魅了の力に支配されているのなら、どう解除したらいいか……だ。その方法が記された本は案の定というべきかなかった。

 丁寧に本棚へ一冊一冊戻していると、アンバー伯爵令嬢の言った言葉が頭に浮かんだ『願えば叶えなくてはならない』

 ジョイの魅了の力に侵蝕されると、魅了された側はそのような思考をするのだとか。

 ジョイはなにを願うのだろうか。最終的にはなにが望みなのだろうか。スチュアートの妻になることなのだろうか。それならば何故、彼の側近候補達とも頻繁に閨を共にするのだろうか。

 ソコロには何度考えても、ジョイの考えていることは分からなかった。

 それにスチュアート。彼は魅了されているからジョイが好きなのだろうか。魅了されていなくてもジョイが好きなのだとしたら、もしそうならスチュアートは今が一番幸せなのかもしれない。

 ならばソコロが魅了を解除しようと躍起になっているのは、スチュアートからしたらただの迷惑になる。

 例えそうだとしても、ソコロは以前のスチュアートに戻って欲しい。そこにスチュアートからの女としての愛がソコロになくても。ジョイを愛していたとしても。

 それでもソコロはスチュアートを愛している。

 だってソコロは王太子の為に生きて、王太子の為に存在するのだから。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

【完結】大好きなあなたのために…?

月樹《つき》
恋愛
私には子供の頃から仲の良い大好きな幼馴染がいた。 2人でよく読んだ冒険のお話の中では、最後に魔物を倒し立派な騎士となった男の子と、それを支えてきた聖女の女の子が結ばれる。 『俺もこの物語の主人公みたいに立派な騎士になるから』と言って、真っ赤な顔で花畑で摘んだ花束をくれた彼。あの時から彼を信じて支えてきたのに… いつの間にか彼の隣には、お姫様のように可憐な女の子がいた…。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません

しょくぱん
恋愛
「お姉ちゃんなんだから」 ――それは私を縛る呪いの言葉だった。 家族の醜い穢れを一身に吸い込み、妹の美しさの「身代わり」として生きてきた私。 痛みで感覚を失った手も、鏡に映らない存在も、全ては家族のためだと信じていた。 そんな私、私じゃない!! ―― 私は、もう逃げない。 失われた人生を取り戻した今、偽りの愛に縋る彼らに、私は告げるだろう。 「私の人生に、おかえりなさい。」

側妃の愛

まるねこ
恋愛
ここは女神を信仰する国。極まれに女神が祝福を与え、癒しの力が使える者が現れるからだ。 王太子妃となる予定の令嬢は力が弱いが癒しの力が使えた。突然強い癒しの力を持つ女性が異世界より現れた。 力が強い女性は聖女と呼ばれ、王太子妃になり、彼女を支えるために令嬢は側妃となった。 Copyright©︎2025-まるねこ

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...