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奇妙な愚かな男
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疲れ切った体でアンバーが家に帰ると、オブリンが来ていた。
応接室にいると言うので急いで向かうと、扉の外からでも分かる楽しそうに談笑する声が聞こえた。
――一人はオブリンとして、もう一人は世にも奇妙な少女よね。
ノックをしてガチャリと扉を開ければ、オブリンとエルノーラの姿があった。
「やっやぁ」
何故か慌てるオブリン。
「あ!お姉さま。お帰りなさいませ」
にこやかに笑う世にも奇妙な少女。
この二人、いつの間に仲良くなったのだろうか。出逢ったのは数日前なのは確かだ。
それともオブリンもこの世の者でない人が見えるのだろうか
アンバーがオブリンの横に座る。
「今、エルと話していたんだが、今度一緒に王都内にあるカフェにでも行こうかって」
オブリンはさもいい案だろと言いたげな顔をしているが、アンバーは一度もカフェに行こうなどとオブリンに誘われたことはない。しかもエルとは?エルノーラのことで間違いはないだろうけど、既に愛称呼びとは。しかも婚約者の前なのに。
色々と解せないアンバーだった。
「オブリン様、嬉しいわ。ですけどわたくし体が弱くてこの屋敷から出られませんの。」
体が弱い(そもそも幽霊だし)かは定かではないが、家から出られないのはエルノーラの行動を観察する限りでは間違いない。もし家から出れるならエルノーラの性格からして、アンバーのドレスを着て伯爵家が招待された夜会の招待状を持ち、毎晩のように出かけるであろうし、毎日王都市内へ行きショッピングを楽しみそうだ。オブリンに誘われたカフェだって断らないだろう……あくまで推測だが。
「数時間程度も無理なのか?」
「ええ、お医者様からはそう言われておりますの。」
ぽろり……とエルノーラのピンクの瞳から涙が流れる。少し首を傾げた姿は窓から射す夕陽に照らされ、えも言われぬ儚さを醸し出している。……あくまで男性から見たらだが。アンバーにはあざといとしか思えなが。
「……っ……エル」
そしてここにも、このあざとさに気付かない男がいる。
オブリンは苦しそうに顔を歪め、切なそうな瞳でエルノーラを見つめている。
隣に婚約者が居るのに。
アンバーは冷めた目でオブリンを見ながら紅茶を一口飲み、医者なんていつ呼んだんだろうか?とかこれが元凶かなどと、どうでもいいことを考えていた。
言葉もなく見つめ合う二人は二人の世界へ旅立ったようで、現実に一人残されたアンバーは今日の夕食は何かしら?あの眼鏡宰相(デイブ・ルイス)は大分衝撃を受けていたけど無事に帰れたかしら?と、更にどうでもいいことを考えていると、いい具合に二人がアンバーの存在に気づいてくれたのをさいわいに、婚約者だけど先にその場を辞した。
アンバーが部屋に戻ると、侍女のミミルがやって来た。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま、ミミル。オブリン様はいつからあの調子なの?」
着替えをしながらミミルにアンバーは問いかけた。
「あの娘が来た次の日からでございます。」
「えっ!私は会ってないわよ」
「お嬢様が学校へ行っているときでございます。」
「あら、では確信犯なのね」
オブリンよ、それでなくてもあまり成績のいい方ではないのに、学園をサボって平気なのかと、アンバーは一瞬心配になったが、所詮は人ごと。一瞬でその気持ちはアンバーからはなくなっていた。
「使用人達の様子は?」
帰ってきてからの様子からも、アンバーに対する使用人達の態度の改善がされたとは思えないが。
「変わりなくと言ったところですか……残念ながら。実は多くの使用人達は、お嬢様があの娘を虐めていると思い込んでいるようなのです。」
「えっ、私助けた覚えはあっても、虐めた覚えなどないわよ」
「ええ、お嬢様はそんなひきょうな真似をするような人ではないのは、ミミルはわかっております。ですがどうしてか他の使用人達はそう思い込んでまして、お嬢様があの娘にワインを浴びせただの、足をかけただの、罵っただの言いだしまして」
ミミルは少し申し訳なさそうに肩を窄めた。
「まったく身に覚えにないわ。でも、仮に本当にしてたとして何か問題でも?」
アンバーがエルノーラをもし本当に虐めてたとしても、身分制度のあるこの社会では、伯爵令嬢が、庶民(実際は幽霊だけど、あくまで身分としては)を虐めてととしても何の罪にも問われないし、それこそ使用人達には何の関係もない。エルノーラはあくまで伯爵家のお客様に過ぎない。だからドゥリー伯爵家の使用人なのに、そこの女主人の味方ではなく、ただの客の肩を持つのは一般的に言って大変おかしいことなのだ。女主人として使用人のしつけもしてきたつもりだったアンバーは少し落ち込んだ。
「私もおかしいと思い、見たのかと聞きましたが、誰も現場を見た者はいないのです。」
「そう。では誰かが虚言を言って、使用人達はその虚言を疑いもせずに信じている……ということなのね。」
「その可能性が高いかと」
そこは疑って欲しかったとアンバーは肩を落とす。
――願えば叶えなくてはいけないと思う
世にも奇妙な女性に言われた言葉がよみがえる。
まさに今、その状況ではないか!たった数日でこれって怖すぎる。アンバーはぷるっと体を震わせるわせた。
何か対策を考えなくてはならないのに、頭がうまく回らない上に何の対策も浮かばない。唯一浮かんだ対策は、元凶を追い出すことだが、先程の応接室でのエルノーラはこの伯爵家の娘のように振る舞っていた。つまり自ら進んで出て行く気はないということだ。
気付けばエルノーラに侵食されている事実に、アンバーはこれから先どうしたらいいのか、頭を悩ませるのだった。
応接室にいると言うので急いで向かうと、扉の外からでも分かる楽しそうに談笑する声が聞こえた。
――一人はオブリンとして、もう一人は世にも奇妙な少女よね。
ノックをしてガチャリと扉を開ければ、オブリンとエルノーラの姿があった。
「やっやぁ」
何故か慌てるオブリン。
「あ!お姉さま。お帰りなさいませ」
にこやかに笑う世にも奇妙な少女。
この二人、いつの間に仲良くなったのだろうか。出逢ったのは数日前なのは確かだ。
それともオブリンもこの世の者でない人が見えるのだろうか
アンバーがオブリンの横に座る。
「今、エルと話していたんだが、今度一緒に王都内にあるカフェにでも行こうかって」
オブリンはさもいい案だろと言いたげな顔をしているが、アンバーは一度もカフェに行こうなどとオブリンに誘われたことはない。しかもエルとは?エルノーラのことで間違いはないだろうけど、既に愛称呼びとは。しかも婚約者の前なのに。
色々と解せないアンバーだった。
「オブリン様、嬉しいわ。ですけどわたくし体が弱くてこの屋敷から出られませんの。」
体が弱い(そもそも幽霊だし)かは定かではないが、家から出られないのはエルノーラの行動を観察する限りでは間違いない。もし家から出れるならエルノーラの性格からして、アンバーのドレスを着て伯爵家が招待された夜会の招待状を持ち、毎晩のように出かけるであろうし、毎日王都市内へ行きショッピングを楽しみそうだ。オブリンに誘われたカフェだって断らないだろう……あくまで推測だが。
「数時間程度も無理なのか?」
「ええ、お医者様からはそう言われておりますの。」
ぽろり……とエルノーラのピンクの瞳から涙が流れる。少し首を傾げた姿は窓から射す夕陽に照らされ、えも言われぬ儚さを醸し出している。……あくまで男性から見たらだが。アンバーにはあざといとしか思えなが。
「……っ……エル」
そしてここにも、このあざとさに気付かない男がいる。
オブリンは苦しそうに顔を歪め、切なそうな瞳でエルノーラを見つめている。
隣に婚約者が居るのに。
アンバーは冷めた目でオブリンを見ながら紅茶を一口飲み、医者なんていつ呼んだんだろうか?とかこれが元凶かなどと、どうでもいいことを考えていた。
言葉もなく見つめ合う二人は二人の世界へ旅立ったようで、現実に一人残されたアンバーは今日の夕食は何かしら?あの眼鏡宰相(デイブ・ルイス)は大分衝撃を受けていたけど無事に帰れたかしら?と、更にどうでもいいことを考えていると、いい具合に二人がアンバーの存在に気づいてくれたのをさいわいに、婚約者だけど先にその場を辞した。
アンバーが部屋に戻ると、侍女のミミルがやって来た。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま、ミミル。オブリン様はいつからあの調子なの?」
着替えをしながらミミルにアンバーは問いかけた。
「あの娘が来た次の日からでございます。」
「えっ!私は会ってないわよ」
「お嬢様が学校へ行っているときでございます。」
「あら、では確信犯なのね」
オブリンよ、それでなくてもあまり成績のいい方ではないのに、学園をサボって平気なのかと、アンバーは一瞬心配になったが、所詮は人ごと。一瞬でその気持ちはアンバーからはなくなっていた。
「使用人達の様子は?」
帰ってきてからの様子からも、アンバーに対する使用人達の態度の改善がされたとは思えないが。
「変わりなくと言ったところですか……残念ながら。実は多くの使用人達は、お嬢様があの娘を虐めていると思い込んでいるようなのです。」
「えっ、私助けた覚えはあっても、虐めた覚えなどないわよ」
「ええ、お嬢様はそんなひきょうな真似をするような人ではないのは、ミミルはわかっております。ですがどうしてか他の使用人達はそう思い込んでまして、お嬢様があの娘にワインを浴びせただの、足をかけただの、罵っただの言いだしまして」
ミミルは少し申し訳なさそうに肩を窄めた。
「まったく身に覚えにないわ。でも、仮に本当にしてたとして何か問題でも?」
アンバーがエルノーラをもし本当に虐めてたとしても、身分制度のあるこの社会では、伯爵令嬢が、庶民(実際は幽霊だけど、あくまで身分としては)を虐めてととしても何の罪にも問われないし、それこそ使用人達には何の関係もない。エルノーラはあくまで伯爵家のお客様に過ぎない。だからドゥリー伯爵家の使用人なのに、そこの女主人の味方ではなく、ただの客の肩を持つのは一般的に言って大変おかしいことなのだ。女主人として使用人のしつけもしてきたつもりだったアンバーは少し落ち込んだ。
「私もおかしいと思い、見たのかと聞きましたが、誰も現場を見た者はいないのです。」
「そう。では誰かが虚言を言って、使用人達はその虚言を疑いもせずに信じている……ということなのね。」
「その可能性が高いかと」
そこは疑って欲しかったとアンバーは肩を落とす。
――願えば叶えなくてはいけないと思う
世にも奇妙な女性に言われた言葉がよみがえる。
まさに今、その状況ではないか!たった数日でこれって怖すぎる。アンバーはぷるっと体を震わせるわせた。
何か対策を考えなくてはならないのに、頭がうまく回らない上に何の対策も浮かばない。唯一浮かんだ対策は、元凶を追い出すことだが、先程の応接室でのエルノーラはこの伯爵家の娘のように振る舞っていた。つまり自ら進んで出て行く気はないということだ。
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