[完結]世にも奇妙な少女に家も婚約者も盗られました

らいむぽとす

文字の大きさ
11 / 38

奇妙な公爵令嬢

しおりを挟む
 「それは進化ではなく退化かもね」
 
 ジエネッタは、昨日のエルノーラの行動をそう判断した。

「欲しい欲しい、ずるいずるい……確かに進化ではなく、退化かもね。幼児への」

 淑女らしくないと、世にも奇妙な女性(マナーに厳しい)に怒られそうだが、居ないのをいいことにアンバーは机に肘を乗せ頬杖をついた。
 
「元々言動が幼かったよね。会ったことないからアンバーから聞いた話での感想だけど。」
「そうかもね、ワインとか足かけたとか子供の喧嘩の世界の話で、こんな大人になってしないよね。だけどあざとさとか狡猾さとかは身につけてるよ。そこだけはジエネッタさえ上回ると思う。」
「うわー、思考が幼児で狡猾さがあるなんて、何されるか想像もできなくて怖いわ」

 ジエネッタにそう言われ、そうか今の伯爵邸の状態は幼児が巨大な力を持ってしまって、好き勝手に人様の迷惑考えずに振る舞った結果、あんな混沌とした屋敷へと変貌を遂げたのかとアンバーは納得した。

「しかし、カオスだねドゥリー伯爵家」
「自慢にならないけどカオスだよ。魅了を侮っていた。使用人が怖いわ。身の危険を感じるレベルで」

 そう、前から笑ってられなかったが更に笑えない状況に、ドゥリー伯爵邸はなっている。一部の使用人がエルノーラを崇拝しはじめたのだ。それはもう女神様を祀るように。毎朝祈りを捧げているのではと、疑えるほどの崇拝ぶりだ。その使用人達からの漏れでる殺気といったら……アンバー、殺気だけは勘弁してと、お願いして回りたいくらいだ。
 
 使用人の一人ひとりが毎日微かに態度が変化していくさまは、徐々に孤独へと追い詰められて行くような心理にさせられる。
 例えるなら明るいところから、どんどん狭く暗くなる道へ、追いやられていく感覚だ。行き止まりに着いたらどうなるのだろうかと、物事に無頓着なアンバーですら、漠然とした不安を禁じ得なかった。
 
 アンバーが普通に伯爵邸で生活できているのは、シャロームとミミルのお陰だ。二人が居なかったら、とっくに親戚の家に家出をしていたかもしれない。

「え、そんなレベルなの?」
「エルノーラお嬢様の為なら……という日がいつかくるかもと、危機感は持ってる。刺されはしなくても、遅効性の毒は盛らるんじゃないか?とか」
「そっか、おちおち家で食事もできないね」
「ミミルが毒見してくれてる」
 
 いつもの食堂のテラスで、目の前に広がる庭園までは同じだけど、王太子とジョイの姿はない。
 
 王太子は、ソコロの件で謹慎中だ。謹慎期間で考えると、王太子は卒業パーティーには出席できない計算になる。

 どうなるのだろうか

 ジョイはこのところ姿を見ない。学園に来てないようだ。もし来てたら必ず目に入るし噂も耳に入る。どちらもいい意味で、ではないけど。

「ここいいかしら」

 鈴を転がしたような声にアンバーとジエネッタが顔を上げると、ソコロがいた。

 ガタガタと、ジエネッタもアンバーも立ち上がろうとするけど、ソコロがいいからと制す。
 
「この間はありがとう。助かったわ」

 ソコロの言葉は殴打事件のときのお礼なのだろう。
 座ってお茶を飲む姿もソコロは美しい。

「まだ公式な発表はないけど、殿下とわたくしの婚約は、解消になりましたわ」
  
 ソコロは落ち着いている。

「あ……原因はあの事件でしょうか」

 アンバーはソコロに探るような目を送る。

「そうとも言えますし、違うとも言えますわ。切っ掛けでは間違いなくありましたけど」

 沈黙が落ちる。三人ともが黙り、ただそよ風が吹き抜けていく。
 
 そんな沈黙を破ったのは、ソコロだった。

「わたくし、殿下を愛してましたの。だからジョイ嬢が許せなくて。あの日この庭園で聞きましたの。ジョイ嬢かわたくしか、どちらかを選んで欲しいと。殿下はジョイ嬢を選びましたわ。ですので解消しましたの」

「でもそれは、多分に魅了の力もあるかと」
  
 ジエネッタは、ソコロがとれだけ王太子が好きだったかを知っていた。それだけに婚約を解消したのが、信じられなかった。

「魅了についてはデイブ様から説明を聞いたけど、いくら魅了の力を持っていても近づけなければ、魅了などの影響は受けませんわ。ですから殿下が近づけたのは興味があったからなのでしょう。つまり魅了うんぬん前に、ジョイ嬢に好意があったということですわ」
 
「殿下を許せないのですね?」

 アンバーの質問にソコロはアンバーの目をじっと見て、そして少し目を伏せた。

「ええ、アンバー、その通りよ。わたくしは殿下が許せないの」

 王太子とソコロはジョイが現れるまで、とても仲睦まじかった。次期国王と王妃が仲睦まじいという事実は、貴族も国民もとても喜んでいたのに。それがたった一人の存在で壊されるとは。

 ふふふっと、ソコロはアンバーがこの頃よく見る笑いをした。血は争えない。

「人の心は変わるもの。だから殿下がわたくしからジョイ嬢に、心変わりされるのは責めるべきではないけど、婚約者はそれでもわたくしでしたのよ。それを婚約者への必要最低限の義務も放棄し、剰え卒業パーティーで、婚約破棄を突きつける計画をしていたなんて、呆れて物も言えません」

 婚約破棄をやっぱり計画してたのか。世にも奇妙な女性大正解。アンバーは心の中で拍手した。

「それに、わたくしは殿下を愛しておりましたから、学園内で人目も憚らずに、殿下がああもジョイ嬢と仲良くされますと……流石に心が折れましたわ」

 ですよね。そう活動範囲の広くないアンバーですら、何度も逢瀬を見ているのだから。主に食堂のテラス前の庭園でだけど。

「それに、殿下には避けられていたので、あのとき庭園で話をしたのはとても久しぶりでしたの――わたくしの知っている殿下はいくら激昂されたからと言って、手を上げるような人ではありませんでした。暫く会わないうちに変わられてしまったのかと、とてもショックでしたわ」

 ソコロは切なそうな悲しそうな顔をして少し俯いた。
 
 魅了の力の弊害だろうか。『願えば叶えなくてはいけないと思う』あのとき庭園でジョイがソコロを殴ってと、直接的に言わなくても、『ソコロと話をしないで』『ソコロにやさしくしないで』などとジョイが王太子に日頃から言っていたら、もしかしたらソコロを見ただけで、王太子は苛立つようになるかもしれない……推測でしかないけど。アンバーは伯爵邸の使用人の状態を知っているだけに、その可能性を否定できずにいた。

 ソコロ至上主義のジエネッタもソコロの表情を見て辛そうにしている。
 それに気付いたのか、ソコロはふっと笑った。

「モルガン公爵家って王家と縁がないのよ。婚約破棄ってこれがモルガン家にとって初めてではないの」

 そこ!もう少し詳しく、とアンバーは叫びそうになるのを、なんとか押さえて笑顔を貼り付けた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません

しょくぱん
恋愛
「お姉ちゃんなんだから」 ――それは私を縛る呪いの言葉だった。 家族の醜い穢れを一身に吸い込み、妹の美しさの「身代わり」として生きてきた私。 痛みで感覚を失った手も、鏡に映らない存在も、全ては家族のためだと信じていた。 そんな私、私じゃない!! ―― 私は、もう逃げない。 失われた人生を取り戻した今、偽りの愛に縋る彼らに、私は告げるだろう。 「私の人生に、おかえりなさい。」

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。

ムラサメ
恋愛
​「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」 ​婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。 泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。 ​「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」 ​汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。 「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。 ​一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。 自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。 ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。 ​「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」 ​圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

処理中です...