[完結]世にも奇妙な少女に家も婚約者も盗られました

らいむぽとす

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奇妙な夜会

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 卒業パーティーの三日前の今、ドゥリー伯爵家の夜会は伯爵家の一番大きいバンケットホールで行われている。

 散財の甲斐がありましたね(にっこり)と嫌味の一つでも言いたくなるほど、エルノーラの装いは豪華絢爛だった。

 父よ、老後は大丈夫なのだろうか。アンバー、心配になる。

 エルノーラは元々が美少女で元傾国の美女だ。父の知り合いが連れてきた令息達の中心で、ちやほやされている姿は光り輝くように美しかった。
 
これにはアンバー逆立ちしても敵わない。あっさり白旗挙げて降参するしかない。

 今日エルノーラをエスコートしているのは、オブリンだ。
 パーティーの三日前にオブリンにエスコートを断られたアンバーだった。婚約者なのに。たぶん。
 
 そして何故かアンバーはデイブにエスコートされている。親戚でもないデイブがエスコートっていいのだろうか?とも考えたが、この夜会の趣旨からしてよく分からないものだから、なんでも有りと決め込んだ。
 
 しかしこの夜会の趣旨はなんなのかしら?

『祝!父の養女記念』とか『祝!父と娘になった記念』まさか『祝!父と養女という名の愛人になりました記念』ではないよね?とアンバーは首を傾げる。

 シャロームとミミルに魅了の力の話をし、二人が魅了に侵されないのは、二人の故郷で取れる石にあるのではないかと最終的に結論をだした。アンバーはすっかり忘れてたけど、この二人は夫婦で仕事柄指輪は付けれないからと、お揃いの石の付いたネックレスをしてるらしく、それ以外は共通で日常的に身につけているものはなかった。それに二人の故郷がモルガン公爵領にあるのも石に着目した点でもある。代々の公爵は一年に一度、二人の故郷を訪れているとか。

 それでも、えっそんなもので?アンバーこんなに苦労してるのに?、と半信半疑だったが、何もしないよりはとアンバーは急いでその石を取り寄せた。時間がないから加工はしていない。石のまま。

 試しに父のポケットに石をこっそり入れてみたら確かに効果を感じた。
 魅了の影響が完全には抜けてはいないが、以前よりはややマシな状態になった。 少なくとも三回に一回は意思疎通ができるくらいには。そのうち二回はエルノーラの言いなりだけど。

 エルノーラに会いたいと言ったジエネッタとソコロもこの会場にいる。
 ソコロなど、正式に王太子との婚約解消と同時に王太子の廃太子の発表がされ、世間の注目の的なのにどこ吹く風だ。
 
 その堂々っぷりに公爵令嬢の底力をアンバーは見る。
 公爵令嬢とはそういうもの。たぶん。

 一応エルノーラの魅了の力を警戒して、三人には石を渡してある。見た目ただの石だけど。

 しかしこの石、本当に石である。いや道端に落ちている石よりは随分と綺麗だが、とても装飾品としては使えない。流通していないのに納得だ。だけどミミルの故郷では魔除けとして、聖なる石として大切に扱われているのだとか。
 うん。この石でアンバーもネックレスを作ろう。アンバー、ちょっと楽しみになる。
 
「アレがエルノーラ?傾国の美女……個人的にはソコロ様のが好みだわ」

 ソコロ至上主義のジエネッタらしいお言葉。

「ジョイ嬢と雰囲気が似てますわ、一見儚げなところとか」

 実は儚げとは対極にいるのにね。アンバーうっかりソコロの『一見』に反応する。

 デイブの反応も気になったが、エルノーラにはいささかも興味がなさそうで、ウェルカムドリンクを手に立っている。

「お姉さまぁ~」

 エルノーラは大声でアンバーを呼ぶと、小走りに駆け寄りアンバーの腕に絡み付いた。

 エルノーラよ。以前は王太子妃だったのですよね?会場では大声ださないとか、走らないとか言われませんでしたか?アンバー、五歳のときの注意を思い出す。

 ソコロもジエネッタもエルノーラの態度に眉を顰める。デイブは興味がなさそうだ。

 不穏な空気なのに、エルノーラは気に留める様子もなく、ソコロ、ジエネッタ、デイブを見ると、アンバーに向き直る。

「お姉さまのお友達の方?エルは体が弱くて学園には通えないから羨ましいわ。紹介してくれますよね」

 うるっとしたエルノーラの瞳がアンバーから離れデイブに向く。

 ……分かりやすい、分かりやすいぞエルノーラ。今、標準をデイブに定めましたね?ソコロもジエネッタも気付いているようですよ。アンバーは注意深くエルノーラを見守る。

「デイブ様と仰るのね。アンバーお姉さまの妹のエルノーラです」

 するっとアンバーの腕から手を離すと、エルノーラはデイブの腕に絡みついた。

 エルノーラよ、いきなりデイブ様呼びはどうかと。それにいきなり絡みつくのもどうなの?現にデイブ、目を白黒させて驚いている。エスコート役のオブリンはと会場を見渡せば、離れた所でエルノーラを見てイライラしてる。オブリンよ、お願いだからエルノーラを引き取ってくれたまえ。悲壮感漂う顔でアンバーはオブリンを見たが、オブリンはエルノーラが、更にデイブへベタベタするのを見て嫉妬に燃えアンバーには気付かない。
 
 ソコロもジエネッタも、エルノーラの貴族令嬢らしからぬ、おかしな距離の行動に不快感を隠さず、場の雰囲気はどんどんと悪化していく。

「まぁ侯爵令息ですのね」

 エルノーラは瞳を輝かせてデイブを見つめる。デイブの腕には胸がぐいぐいだ。

「まあ爵位は侯爵ですね」

 冷めた目と冷めた声でエルノーラにそうデイブは答えると、スマートにエルノーラの腕を自分から離す。デイブのそのスマートさがエルノーラを拒否しているかのようで、アンバーはちょっと怖かった。

 エルノーラは何故?と不思議そうな顔をしてデイブを見るが、デイブはもうエルノーラを気にする様子もなくドリンクに口をつけている。

 ソコロとジエネッタは目が笑ってる。デイブの行動を拍手喝采していますと、目が物語っている。

 こっこの空間、怖い。アンバー、一歩後退する。

 その後もエルノーラはデイブに絡もうとしたが、スマートにデイブは拒否していて、ちょっと実物だった。
 エルノーラは最後まで場の空気を読むことなく、この場を後にして父と合流。

父の挨拶が始まるようだ。父は何と言うのかアンバーは気になるところ。
 
「今日はお忙しい中、新しく娘になりましたエルノーラの為にお越しくださりありがとうございます」

 父が一礼する。エルノーラもカーテシーを披露するが……あまり綺麗ではない。

「これから一緒に暮らしていきます娘でございますので、皆さまよろしくお願いいたします」

 父からの挨拶は終わり、拍手が起きると、オブリンがエルノーラの隣に立った。

 ちらっとオブリンの家族へ目を向けると、パーカー子爵の顔は固まっていた。
 
 ――ですよねー、エルノーラが幽霊ではなかったとしても……

 アンバーはちょっと子爵に同情する。

 オブリンとエルノーラは目と目を合わせて語り合うと、前を向いた。

「アンバー・ドゥリー伯爵令嬢、今日をもって婚約を破棄し、改めてエルノーラ・ドゥリー伯爵令嬢と婚約する。また結婚と同時にこのオブリン・パーカーがドゥリー伯爵を継ぐことをここに宣言する!」

 突然、オブリンはそう叫び、宣言した。

 ドヤ顔で。

 エルノーラはオブリンに腰を抱かれ、勝ち誇った顔でアンバーを見ている。

 会場はざわざわと大騒ぎだ。

 当の本人のアンバーは、はて?この人達何言ってるのかしらと首を傾げる。
 
 その口元は微笑みを浮かべていたが、アンバーのその目は冷酷なまでに冷え切っていて、まったく笑っていなかったのだった。


 
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