[完結]世にも奇妙な少女に家も婚約者も盗られました

らいむぽとす

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おまけ 海に捧げる 〜発 端〜 one

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 アンバーは壺を見て溜め息を吐いた。

 ――この壺の中身、どうすればいいのだろう。

 この壺の中身は何を隠そうエルノーラの残骸――もとい砂……である。

 あの日、意図のよく分からないパーティーの招待客は、誰もが信じられないものを見たと、興奮する招待客や、気分が悪そうな招待客や、衝撃のあまり今にも倒れそうな招待客を見送ったアンバーは、さてこれからどうしましょうか……と頭を抱えた。

 残されているのは、茫然自失な父と、青い顔で魂が抜けて固まる使用人たちだった。
 どう見ても役に立ちそうにもないが、どうにか役に立ってもらわないとアンバーが困る。

 魂の抜けた使用人達に心休まる飲み物を振る舞い、しばし休憩させ落ち着かせる。
 『エルノーラ様』と泣いている使用人に冷たい目線を向けつつ、会場の後片付けの段取りを考えていて、はたっとアンバーは気付いた。

 あのエルノーラの亡き骸というべきか残骸ととるべきか、ぶっちゃけると砂……はどうすればいいの?……と。

 相談すべき父は、愛するエルノーラが変貌を遂げていく姿に衝撃を受け、愛するものを助けられず、見ているしかない不甲斐ない自分に嫌気がさしたのか、あっという間に老けた。いや見た目の話だけど、中身の年齢は変わらない。たぶん。

 エルノーラすげー、愛されてたんだねとしかアンバーは思えず、昨日より十歳は歳を重ねたような父を、早々に寝室に送り込んだ。

 エルノーラの砂をゴミと一緒に捨てるのは、流石のアンバーにも躊躇われる。しかしそのままにするわけにもいかない。

 で、壺に納めた。とりあえず。

 そして今、壺を目前でアンバーは悩んでいるのだ。

 ドゥーリー伯爵家の墓に納めるのが筋なのか?でも基本はドゥーリー伯爵家とは、何の繋がりもないし、砂……なんだよね。では元々のエルノーラ・リベラが眠る墓地……何処にあるのか分からない。ステイシーさんに聞いとけばよかった。その辺に捨てる。見た目は砂だから、きっと誰も気付かないよね。――その素がエルノーラだったなんて……。ずっと伯爵家に壺のまま置いておく?……父が壺を抱えて『エルノーラ』とか言って、めそめそ泣くのが目に見えている。

 うーむとアンバー、悩む。

 壺を目前に悩むアンバーを眺めていた、壁と一体化していたミミルは、主人が何も言わなくても、何を悩んでいるのか一目瞭然だった。ミミルはデキル侍女なのだ。

「お嬢様、海に還すのは如何ですか?」

あっとアンバーは声を上げてしまう。そうか、その手があった。

 「ミミル、ありがとう。そうね、海に還すのはいい案だわ」

 アンバーは目前の壺へ視線を移し、大きな海に抱かれて眠るエルノーラ(実体化してたときの。決して砂ではない)を想像し頷く。それが一番エルノーラらしいのではないかと。

 翌日、学園の食堂のテラスにはソコロ、ジエネッタ、デイブが集まり、四人でお茶をしていた。

 デイブは何故か講師をしている。アンバーは授業での絡みはないが、まだ発表前だというのにアンバーとデイブが婚約しているのが、学園内に広まりつつある……何故?アンバー、ちょっとデイブに黒いものを感じる。

「それで一度海へ行こうと思ってます。近いうちに」

 早目にしないと、父のめそめそをうっかり目にしかねない。

「まぁ海なんて羨ましいわ。わたくしまだ海は見たことありませんの。公務であちこち行ったけど、残念ながら海辺はなかったのよね」
「海……に撒くのか……二度と海に近寄れなくなるかも……」

 うふふと海に反応して嬉しそうなソコロと、対照的に顔色を悪くするジエネッタ。

「海か。ここから一番近くて一日半――といったところか……心配だな。一人で行くのか?」
「ミミルについて来てもらう予定。あとはシャロームかしら。あの二人は夫婦だから、いつもお世話になってるお礼も兼ねて」
「二人だけが供では心配だな……よし!私も同行しよう!」

 デイブは心なしか嬉しそうに提案する。いや掛け値なしに嬉しそうだ。アンバー、ちょっと身の危険を感じつつ、レモンの味を想像する。

「ちょっとデイブ、いくら使用人が一緒でも婚約者だとはいえ、二人で旅行などいけませんわ……わたくしが同行しましてよ」

 目をキラキラさせて横目でデイブを見て、勝ち誇ったような顔をするソコロ。

 心の中でちっとデイブは舌打ちした。ソコロが正論を吐いたので、デイブには反論の余地がない。どうしたものか。アンバーをいくら使用人とソコロが一緒だとしても、自分の目の届かない範囲に行かせたくない。じりじりするデイブ。

「わぁ、ソコロ様とご一緒できるなんて、素敵だわ。――楽しみになってきました……ジエネッタは?ジエネッタも一緒に行こうよ。そして夜はパジャマパーティーをしようよ!」
「……壺が一緒なんでしょ……パジャマパーティーにはそそられるけど、壺が無理……」

 あのドゥーリー伯爵家のパーティーがジエネッタには衝撃的だったらしく、すっかりトラウマになっていた。もはやエルノーラに関する何ごとにも、関わりたくないくらいには。

「そうか……残念だけど、その顔色では確かに無理そうだね」

 ジエネッタ、倒れそうなくらい顔が蒼白になっている。話しているだけで、エルノーラ砂化現象がチラつくのだ。壺を見た瞬間に、倒れられる自信がある。

「じゃあソコロ様と二人でいきましょう。楽しみです」

 うふふ、あははとアンバーとソコロの背後に花が咲く。
 それをデイブは忌々しげに見て、提案したのはデイブなのに、何故ソコロだけが同行するのか納得いかなかった。

「ソコロが同行するなら私も同行しよう!三人なら問題ないだろ。その海はルイス侯爵領だ。宿の手配は私がしよう」

 デイブ、強引に押し切ることにした。有無は言わさない。

「では馬車はモルガン公爵家のを使いましょう。楽しみですわ」

 ソコロ、デイブに張り合ってみる。

 デイブとソコロの間で火花が散る。
 何の火花なんだか。アンバー、ちょっと引く。

あっという間に日程も決まり、あとは当日を待つばかりで、アンバーも友人や婚約者と旅行など初めての出来事に、指折り数えてその日を待ち侘びた。

 まさかそこにデイブの一つの企みがあるなど、このときは露ほどもアンバーは思っていなかったのだった。


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