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第6話 昼飯まで仕事すっか
しおりを挟むあー。
昨日の肉旨かったなぁ。
コボルトって猪とか鹿とかジビエ系特有の獣臭さがあったはずなんだけど大した味付け無しでもそんな臭いはなかったし、それにあの溶ける脂。
溶けてスープのように広がるあの脂が忘れられねぇよ。
赤身のヒレもパサッとしてなくてジューシー、更に噛む度に旨味が吹き出して旨かった……。
でもやっぱり俺はあの綺麗なサシの入ったリブロースが――
「宮下君、おはよう」
「あ、おはようございます」
肉の事を考えながらぼんやりと店の裏口の扉を開けると、店の支度をする為既にエプロンを着た景さんの姿があった。
いつもは退勤が遅い分、俺よりも遅めの出勤時間のはずなのに……仕込みが間に合ってないのかな?
「今日は早いですね。もしかして店長がするはずの仕込みが間に合いそうにないとかですか?」
「そうじゃない。でもそんなところ。これ見て」
景さんはポケットからスマホを取り出すと画面を軽く操作して俺にそれを見せてきた。
「これ、昨日言ってたこの店のチャンネルですか?へぇーちゃんと字幕も入ってて思ったより本格的ですね」
再生されている映像は昨日撮影していた試食会の動画で、店長の手元と焼肉の網、綺麗に皿に盛られた肉、そして心地よい音を立てながら焼き目が付いていく肉が収まっていた。
ヤバい。
映像を見てただけで唾液が溢れてきた。
関連動画の『探索者がモンスター被害』っていうタイトルも気になったけど、そんなものより圧倒的にこの動画は目を惹く。
「編集結構頑張ったから。それより再生数見て」
景さんが指を差したのは動画の再生された回数。
最近は4桁って言ってたけど、えー、1、10、100、1000……。
「25000再生。……えっこれ凄くないですか?」
「うん。コメントもこんなにもらって……だから今日のランチからコボルトの肉を出そうと思う」
「なるほど、いつもと違う準備があるから早めに来てたんですね」
「新しいメニューの案内、家で書ききれなかったから」
景さんは持っていたバックからクリアファイルを取り出してそれを手渡して来た。
可愛らしいコボルトのイラストと丸い字が景さんのいつものイメージと違う。
これがギャップ萌えってやつか。
「ランチか……じゃあ俺もこっちで昼食います。一番いいところとって置いてください」
「うん分かった。私は仕事に戻るから、宮下君も頑張って」
「ありがとうございます、頑張ります」
俺は親指をぐっと突き出して、とびきりの笑顔を送るとタイムカード切ったのだった。
◇
「取りあえずノルマのコボルトって、今日は何だか混んでるな」
いつもの様にこの複数のダンジョンの入り口が点在する通称『ダンジョンモール』に到着すると、俺は通い慣れた『NO2』の立て札がある入り口へ向かおうとした。
するとその立て札の周りには屈強な男達が身を寄せあって誰かを待っているような雰囲気を醸し出していた。
これ無視して先行っていいのかな?
「あ、あのー、行かれないのでしたら先に失礼してもいいですか?」
「構いませんが今日わざわざここに入ろうなんて……もしかしてあなたニュースを見ていないんじゃないですか?」
「ニュース?」
流石に無視して横入りみたいな事をするのは気が引けたから、一応リーダーっぽい人に話し掛けてみたが……。
ニュースってもしかして昨日のあれか?
「はい。このダンジョンの1階層で2人の探索者が意識不明に。たまたま他の探索者が救急車を近くまで呼んでくれたお陰で助かったみたいですが、今このダンジョンの1階層は得たいの知れないモンスターがいると噂になっているんですよ」
「へ、へぇ……」
「それでSNS上である探索者が『あそこは行くな、レベル50以上はないと一方的に殺されるぞ』なんて呟いたものだからこの入り口は封鎖しようっていう声も上がって」
「そ、それは困りますね」
「はい。それで僕達の雇い主がそれを阻止する為にこうやって探索者を派遣させたんです。はぁ。正直僕達はレベル50から80の集団。噂が本当だった場合そのモンスターを倒せるかどうか……」
「た、大変ですね。でも何でここで立ち往生を?」
「まだ仲間が集まりきっていないので待機中なんですよ。悪い事は言わないのでここはやめた方が――」
「コボルト数匹狩るだけなので大丈夫です。万が一の場合は頼らせてもらうかもしれませんが……」
「その時は出来る限り、出来る限りの範囲でお助けしますね」
「は、はは。それじゃあお先に」
珍しく感じもいいし悪い人達ではなさそうだ。
いやぁまさかこんなニュースにまでなるなんてなぁ。
今更その原因を『あれ俺が殺っときました!』って名乗り出るのも疑われそうだなぁ。
でも封鎖はちょっとヤバいし……。
あの人達が来る前に安全アピールしとくか。
コボルトを皆殺しにして、あの道は無理矢理閉じる。
なんならあの道の奥の奴らも……。
こりゃあ昼飯時までに相当腹が減りそうな仕事だ。
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