最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職

文字の大きさ
25 / 79

第25話 コボルトにじゅるり

しおりを挟む


「「「……」」」

「えっと、それじゃあ早速今後についてお話をさせてもらってもいいでしょうか? まずはこれからコボルトの素材とゴブリンの目を販売していこうと考えている企業のリストなんですが」


 なんでこの人この空気感で平然としてんの?


 コボはこっそり部屋に戻ったし、小鳥遊君もここにいるのがしんどそうで失せに戻ったてのに。


 ほら店長ですら景さんの様子をちらちら窺って……反抗期の娘にビビる父親みたいになってるんだけど。


 折角カスタムしたこの部屋には触れるどころじゃなくなってるな。


「お、俺は夕方もダンジョンに行こうと思うから、話はもう店長に――」


 ――ぎゅっ。


 俺が席を立とうとすると、服の裾を景さんが掴んだ。


 顔を俺に向ける事はないけど、絶対にここから逃がさないっていう強い意志を感じる。


 店長も俺が逃げようとしたのを見抜いてとんでもない形相で睨んでくるし……


「宮下さんの言っていたコボルトとゴブリンの生産状況と効率、それに集まっている素材の数を見たいので、ダンジョンに行くのはもう少し後にしてもらってもいいですか?」

「一ノ瀬さんの言う事もそうだけど、『一番』の知り合いがこの場を離れるのは良くないと思うよ」

「……はい」


 景さんと一ノ瀬さんの言葉で俺は逃げる事が不可能になった。


 女性のとんでもない連携プレー……そんなつもりがあったわけじゃないのは分かるけど、こいつは強烈だ。


「それで、もし肉が過剰にとれるようであれば企業への販売以外にも肉を通販や店頭で――」

「あの、提案は有難いんですけど、そこまで店の人間ではない方が口を出すというのはどうなんでしょう? 一ノ瀬さんにはお勤め先があるんですよね?」

「辞めてきました」

「「「えっ?」」」


 あまりにもあっさりとした声と内容が合わな過ぎて、俺達はつい驚きの声を漏らした。


「辞めたって……大丈夫なんですか? ここでこんな事をするよりも次の就職先を――」

「私は今日、この時を『面接』だと思っています。だからこの資料も私が勤める事になった後の計画です」


 景さんが問いかけると、すんとした表情で一ノ瀬さんは答えた。


 なんというか俺が初めて会ったときの雰囲気とは違って、キャリアウーマンって感じだ。


「いや、まぁこんな店の為にこんな事をしてくれようっていうんだから、そういった事もあるのかなとは思っていたが……会社の方は本当に良かったのかい?」

「心配には及びません店長さん。あそこは私のしたい事はさせてもらえない上にダンジョンに行けの命令ばっかり。自分の目的と合わな過ぎていて、焼肉森本の話を、宮下さんと出会っていなくても結局は辞めていたと思います」

「そういった心配もそうだけど、生活費の方は?」

「私、これでも節約は得意です」


 探索者だから蓄えはありますじゃないところが、上手いな。


 自分の娘より歳下の女性がこんな事言ってたら店長が断る訳ないじゃん。


「そ、そうなのかい?」

「雇っていただければ、今の何倍も資本を増やせる自信があります。店長の懐に入るお金も、他の方々、自分の給料だって今まで以上に……お願いします! 私の心配をして下さるのなら、利益を上げたいのなら、どうか一ノ瀬雅を雇ってください」


 一ノ瀬さんは手に持っていた資料を一旦手放すと、頭を下げてお願いしてみせた。


 変わった人だけど、自分の目的の為なら手段を問わないという姿勢が見られる。


 こういうハングリー精神は今の焼肉森本に足りていない所かも。

 俺も今より店を繁盛させて成り上がらせたいとは思ってるけど、今の現状に若干満足感を覚えてきてたから、一ノ瀬さんのような人は良いカンフル剤になるかもしれない。


 ……。考えればそれって店長や景さんにとってもそれは言える事か。


 一時のお客さんがほぼ0みたいな状況からお客さんが絶えない状況に急になればしょうがない事かもだけど。


「分かった。というよりそうなったら迷わず雇おうと思っていた。正直君みたいな仕事が出来る人間はここにいないからな」

「うん。よろしく、一ノ瀬さん」

「ありがとうございます! ちなみになんですけど、このリストとか今後の計画を書いた紙は雇ってもらう為に適当に書いたものじゃなくて、本当に実現させる予定なので、安心してください」


 温かい空気が流れ始めた。


 景さんも一ノ瀬さんが仲間となる事を受け入れて、表情が若干緩んでいるように見える。


 はぁ、一時はどうなるかと思ったよ。


「じゃあこのアプリとか、配送も可能なの?」

「はい! アプリはちょっと時間が掛かるかもですけど、配送なんて在庫があれば直ぐですよ」

「在庫……宮下君、ちょっと素材とお肉の在庫を一ノ瀬さんに見せてあげれる?」

「勿論です」

「じゃ、じゃあお願いなんですけど、コボルトとゴブリンの素材を手に入れる様子も……」

「大丈夫ですよ。じゃあ先にそっちからお見せしましょうか。おーいコボっ! 今肉の収穫行けるか?」


 俺が大声を奥の部屋まで響かせるとコボが慌てて駆け寄ってきた。

 こういう姿は犬に見えるんだけどなあ。


「準備出来てます!」

「よし! じゃあ早速養殖場へ……って一ノ瀬さん?」

「しゃ、しゃべるコボルト……はぁはぁはぁ、中、中身はどうなってるの? ど、どんな素材が取れて、その毛皮の質は――」


 じゅるりと涎を垂らす一ノ瀬さん。


 この人もしかして……。


「す、すいません! 私、モンスターの素材や剥製、後は解体とかにつよぉおい興味があって……今までも結構な数を開いてきたんです。昔から人の体を見て自分の体と比較、時には他人に比較の手伝いをしてもらって研究したり……いやぁ生物の体は最高の研究素材なんですよね」


 比較の手伝いについては怖くて聞けないけど、つまりはあれだ、見られ慣れてて、他人やモンスター身体、素材を見るのが好きなただの生物オタク。


「それにしてもここちょっと暑いですね。よいしょっ――」

「あ! 一ノ瀬さん下着がっ!」

「温度下げるからちょっと待ってて!!」


 急に脱ぎだそうとする一ノ瀬さんを景さんが止めて、俺が急いで温度を下げる。


 そして、店長は……


「そういや、冷暖房機なんていつ……うわっ! これコンロ付のテーブル? それに奥のは厨房か!? 席もかなりあるぞ、おいっ!!」


 今更カスタムされた部屋に驚いて見せるのだった。 
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

処理中です...