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第57話 まさか忘れてたとかないよね?
しおりを挟む「生け捕りするならテイム出来るようにダンジョンを踏破しないと……。そのまま外に出したら大バッシングだっ――」
一ノ瀬さんに返事をしていると女王テツカミバチは指揮をするように手を動かして、全てのテツカミバチを操作し始めた。
全部のテツカミバチを攻撃要因にして、大規模な特攻作戦だ。
テツカミバチ荒家の視界にそこまで変わりはないが、女王テツカミバチからの指示あるからか、さっきよりも攻撃が当たり辛く鬱陶しい。
それに、個々で貯めていたであろう蜜を飛ばしてくるから身体がべたつくし、視界も蜜で黄色くなる。
テツカミバチの攻撃はさっきよりも当たっている。防御力が高いから何とかなっているけど、普通だったらかなりまずい状況。
小鳥遊君には絶対近づけさせたくないな。
「大丈夫ですか神様!」
「大丈夫! 巻き込まれるとまずいから距離をとって!」
小鳥遊君の姿がどこにあるのかすら分からない。
見えるのはテツカミバチと蜜、それに以外に近くで指示を出す女王テツカミバチだけ。
羽音がぶんぶんぶんぶん、蜜がベタベタベタベタ……もう滅茶苦茶だよ。
「しかも倒しても倒しても減ってる気がしない……ってあれ産んでないか?」
女王テツカミバチは通常のテツカミバチとは違って丸い尻とその先に針ではなく、スカートのような形状で針らしいものは見えない。
そのスカートの形状の尻をよく見るとこっそり卵のようなものが産み落とされているのを見つけてしまった。
もしかしてこれ、一生このままなんじゃ?
「ちいっ! あー外した!」
俺の攻撃の精度は下がり、テツカミバチ達に中途半端なダメージしか与えられない事も増えてきた。
しかも致命傷を負ったテツカミバチは女王テツカミバチの元に向かい、治療……ではなく身を捧げ食われている。
その度に卵が複数生み出され、短時間でふ化。
卵を生み出すエネルギーとして食割れる事を選ぶなんて働きバチの鏡だな。
ただ卵を産み出す事で体力は削られているのか、女王テツカミバチはその顔を歪ませる。
傍から見れば相手の攻撃の手が止まるのが先か、俺が殺されるのが先かの戦いに見えてるんだろうなこれ。
でも実はこっちにダメージが無いから、一方的な戦いなんだけど。
それにしてもこれ結構な時間かかるぞ。
頑張ってはいるけど小鳥遊君達をこのまま待たせるのは申し訳ない……。
あ、そうだじゃあこの時間で――
「一ノ瀬さん! 女王テツカミバチのテイムしたいですよね!」
「はい! もの凄くっ!」
「俺がここでこいつらの相手をしているので、小鳥遊君と踏破を目指してください! このダンジョンのモンスターはそこまで強くないから2人だけでも行けますよね?」
「えーっ!! ダンジョンの最下層に私達だけなんて危険――」
「勿論大丈夫です!! 一ノ瀬さん! 神様程ではないにしろ今までの動画撮影のお陰で僕も強くなってます。それにさっきのような一ノ瀬さんの戦闘指示があれば僕はもっと強くなれる。危ないと判断したら隠れててもいいですから一緒に最下層を目指しましょう!」
「……分かりました! 女王テツカミバチのテイム目指して頑張ります! あっ! 道中にレアなモンスターがいたら剥製にしたいので、その時は協力をお願いします!」
「勿論! では神様! 僕達は最下層に向かいます! 大丈夫だとは思いますがお気を付けて!」
「テイムしやすい状況作っておくから焦らず、安全第一で頑張ってきて! まぁなんというかこれは俺からの宿題と思ってくれると――」
「神様から直々にダンジョンでの在り方をお教え頂いた上に、クエストまで頂けるなんて……細江には悪いんですけど、あいつが彼女の所に行ってくれて良かったあ! では行って参ります!」
そういって小鳥遊君と一ノ瀬さんはその場から去っていった。
本当に真面目で勤勉な人だよなあ小鳥遊君って……戦闘狂だけど。
「じゃあ帰ってくるまでお前達の相手をしようか。まさか休日に持久戦するなんて……明日は体しんどいかも」
◇
――ブーンブーンブーン。ボト、ボト、ボト。
あれから半日。
俺は自分の身体に付いた蜜をご飯代わりにして空腹を満たしながらまだ戦闘を続けていた。
女王テツカミバチは疲れからもう普通に立っている事も出来ないみたいで地面に尻を付けて点を仰ぎながら卵を産んでいる。
テツカミバチの数は最初の3分の1。
ここまでに殺したテツカミバチの数は数百を超えた。
これでまだレベルが上がらないってどういう事よ。
っていうか小鳥遊君たちってまだなのか?
ここのダンジョンってそこまで深くなかったはずなんだけど――
「誠君、次はあのモンスターのテイムをお願いしたいんだけどぉ……」
「分かりました。雅さんの頼みなら例え火の中、水の中で――」
小鳥遊君の腕にしがみつく一ノ瀬さん。
遠くに見えたモンスターを見て男らしい顔を見せる小鳥遊君。
あれ? 君達の距離感なんかおかしくない?
というかもしかして……俺の事忘れてた?
「えっと小鳥遊君、一ノ瀬さん?」
「宮下さん! あのこれはえっと……」
「お、お待たせしました! ダンジョンの踏破完了です! そ、そそそそいつもテイムしちゃいますね!」
慌てて腕を手放す一ノ瀬さん。
動揺する小鳥遊君。
……お前ら俺が苦労してる間にロマンスしてんじゃねええええええええええええええええええ!!!
怒りを込めて振った拳はテツカミバチ達を複数爆散させ――
『レベルが11に上がりました』
頭の中に久々のアナウンスが流れたのだった。
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