ここタマ! ~ここは府立珠河高等学校~

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~新入部員さん いらっしゃい♪~

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 ここ例年、春の訪れが早いせいか、入学式が執り行われる頃にはすっかり校門そばに立つ桜の木は葉桜となっていた。
 新年度の始業式の後、二年生に進級した渉の生物部部長見習いとしての初仕事は、新入生歓迎説明会の時のクラブ紹介の企画とクラブ勧誘チラシの作成であった。
「生物部の活動内容かぁ…」
 白紙のルーズリーフのページを前にそう呟いて渉は考え込む。
「生物室でお茶会はデフォなんだけど、クラブ紹介で正直にそれを話したら、何のクラブか訳が分からないしなぁ…」
「緑の怪獣とでっかいカエル、頭がいっぱいある生き物を飼育してますってのは?」
 スナック菓子をつまみながらあおいが紹介内容の提案をする。
「緑の怪獣ってラッキーの事?」
 渉の問いにあおいが頷く。
「ラッキーはグリーンイグアナっていう立派な爬虫類だから…って――まさかとは思うけど、あおいちゃんって、恐竜と怪獣の事一緒だと思ってる?」
「違うの?」
 嫌な予感を覚えて質問した渉に対して、あおいの返答は予想通りのものだった。
「あ~、やっぱり――恐竜ってのは古代に地球で繁栄した爬虫類の仲間で、怪獣ってのは元々は未確認生物や妖怪の事なんかで、特撮映画なんかに出てくる空想上の巨大な生き物の事だから全然違うんだけど…」
「へ? そうなの?」
「うぁ…マジかよ」
 頭を抱える渉にあおいは「どっちも似た様なものなんだから、どっちでもいいじゃない」とケラケラと笑う。細かい事は気にしないのはあおいの長所であるが、生物部部員としてはかなり問題といえた。
「どうしたの? 楽しそうじゃない」
 生物室にやって来た優子がそう言いながら椅子に腰かける。
「先輩聞いてください~、あおいちゃん、恐竜と怪獣が一緒だって思ってたんすよ」
 それを聞いた瞬間、優子は爆笑した。
「一般人の認識なんてそんなモノかもね~」
「あおいちゃんは一般人じゃなく、生物部の部員じゃないですか~」
「いや、まあ、そうなんだけどね」
 訴える渉に優子は宥める仕草をするが、まだ笑っている。
「あおいちゃんが、緑の怪獣とでっかいカエル、頭がいっぱいある生き物を飼育していますってクラブ紹介で話せばって言うんですけど、それこそ何のクラブか訳が分かんないですし」
「ああ、クラブ紹介の相談をしてたんだ」
 ようやく話の流れが見えてきたらしく、優子が納得顔になる。
「だって本当の事じゃないですかぁ」
 あおいが渉に口を尖らせて抗議の声を上げた。
「緑の怪獣がラッキーで、でっかいカエルはアフリカツメガエル、頭がいっぱいある生き物ってプラナリアの事よね…やっぱ」
 優子の問いにあおいが大きく頷く。
「嘘ではないけど、正しくもないわね――でも、面白いじゃない」
「は?」
 優子の言葉を聞いて渉は思わず耳を疑う。
「面白いって言ったの――チラシのイラストとキャッチコピーそれにしない?」
 楽しそうな優子の言葉を聞いて、渉は無言で自分の額に手をやる仕草をして「…そういや、先輩って面白かったらそれでいいタイプでしたね」と呟きを漏らす。
「そうよ、ウケてなんぼ。面白ければそれでいいじゃない」
 他人に迷惑をかけなければ、何でもアリという優子のモットーを久しぶりに聞いて、優子やあおいの発想は自由過ぎて自分には出来ない発想だと思う渉であった。

「…で、ラッキーは晴れて緑の怪獣って事になったんかいな」
 ラッキーの世話をしていた古谷は、渉から出来上がったばかりのクラブ紹介のチラシを見せられ、呆れながらも半分笑っていた。
「ラッキーの事を怪獣だなんて…すみません」
 爬虫類好きの古谷の事だから、可愛がっているラッキーを緑の怪獣扱いされて不快な思いをするのではないかと思って渉は頭を下げる。
「いや、自分が謝る事やないし…」
 苦笑いを浮かべながら古谷はそう言うと、チラシを見ながら「この絵、上手い事描いてるなぁ」と感心する。
 チラシのイラストはデフォルメしたラッキーとアフリカツメガエル、プラナリアが並んで描かれていたのだが、コミカルタッチのゴジラ風のイグアナと怪獣風のカエル、キングギドラ風プラナリアの可愛らしい絵柄であった。
「イラストは香奈子先輩が描いてくれたんです」
 渉の説明に古谷は「香奈子ちゃん、元漫研やったもんなぁ」と納得した様に頷いた。
「そうだったんですか?」
 香奈子が元漫研の部員だったという事を初めて知った渉は驚く。
「料理だけじゃなく絵も上手って、香奈子先輩って多彩だなぁ…」
「クリエーターは料理上手って話は聞いた事あるから、逆もあるんとちゃうかな」
「漫画も料理も創作物って意味では、クリエイトな仕事だから、共通性みたいなのがあるのかもしれませんね」
 妙に説得力がある通説に、渉は納得顔になる。
「配布チラシはいいとして、クラブ紹介のトークどないするん?」
 新入生歓迎説明会の後のクラブ紹介の事を聞かれて渉はため息を吐く。
「それなんですよね。メジャーなクラブなら名前を聞いただけでどんな活動をしているクラブなのかすぐにイメージ出来るんですけど、生物部って言われても、どんな事をしているかだなんて想像できませんもん」
 そう言う渉自身も生物部のクラブ活動の内容を想像できなかった一人であった。
「それはしゃあないわな…生物室って聞くだけで不気味で怪しげなイメージを持ってる人間が多いのも事実やし」
「皆の記憶に、小中学校の実験室に並んでるホルマリン漬けの標本棚とか、独特な薬品臭の印象の影響もかなりあるから、どうしてもそういうイメージになってしまうんだろうな」
 テレビや映画、漫画や小説に出てくる生物室の描写も薄暗くて怪しげといった印象を与えるものが多いせいもあると思われる。
「他の学校の生物部はどんなんかわからんけど、うちの生物部は明るく楽しくがモットーなんやけどな」と言って古谷は笑う。
「まさか生物部名物がお茶会だなんて思わないですしね」
「優子ちゃんのおかげで、在校生の間では生物部の怪しいお茶会ってのは有名やけどな」
 古谷の言葉に、ビーカーやシャーレなどの実験器具を使ってのお茶会に初参加した時の衝撃を思い出して渉は苦笑する。
「さすがに生物部名物のお茶会の紹介を歓迎説明会でしても、新入生にしたら意味不明じゃないですか」
「そらそうや」
 そう言って古谷がゲラゲラ声を立てて笑った。
「配布チラシがこんな感じだから、ちょっと変わった生物の飼育観察研究をやっていますって方向になるとは思うんですけど、それだけじゃインパクト無いしなぁ…」
「なんやかんや言って、渉君も優子ちゃんみたいな事考える様になってるやん」
 茶化す古谷に「マイナーなクラブが注目を集めたいならインパクトが大事ってのは、この一年でよく分かりましたから」と渉は肩を竦めてみせる。
 前回の文化祭ではエンターテーメントを前面に押し出して大成功となったが、その前の文化祭で真面目な展示では閑古鳥が鳴いていたという話も散々聞かされてきている。
「クラスメートや親しい人に部活は生物部って言っても、何それって言われるのがお約束だし…」
 府立珠河高等学校生物部は、全国的な高等学校生物研究発表会などでの活動実績がある訳でもない弱小クラブでもあるので、新入生にクラブ勧誘をするにしても知恵を絞らないと入部してもらうのはかなり難しいと思われた。
「去年、僕は優子先輩に一本釣りをされる形で入部だったし、あおいちゃんは優子先輩を追いかけて入部したから新入部員が二人って形になりましたけど、あおいちゃんダブったから、来年の三年生は俺だけになるし、あおいちゃんだけが二年の部員ってのもかなり不安だから、今年の新入部員はちょっと多めに欲しいんですよね」
 真面目に将来の事を考えている渉の話を聞いて、古谷が「確かに来年の生物部部長があおいちゃんってのは、確かに不安やわな」と苦笑した。
「いい子なんですけど、恐竜と怪獣は似たようなものって言う人物が生物部部長ってのはやっぱりマズいと…」
「それやったらある程度、入部勧誘対象を絞った方が良さそうやけど、あくまで入部希望者を待つ立場やからなぁ」
 そう言って考え込む古谷に「だからインパクトのあるアピールが必要なんです。興味を持ってくれる入部希望者が多ければ、いい人材と出会えるチャンスもありそうじゃないですか」と渉が力説する。
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たるって戦法やな」
 渉の意見に古谷は笑う。
「生徒会への部費の交渉も部員数が重要って優子先輩が言ってましたし、ちょっと知恵を絞って頑張らないと…」
「よっ、次期部長。頼りにしてるで」
 古谷の応援に渉は小さく頷いて応えた。

 新入生歓迎説明会は完成したばかりの体育館で行われる事となっていた。
 本校舎の建て替え工事と同時に老朽化していた体育館も建て替えとなっていたのであるが、本校舎に比べて小さくシンプルな構造のせいか体育館の建て替えは、新年度に入る前に終わっていた。
 まだ新建材のにおいがする体育館に集められた新入生たちは、生徒会執行部主催のクラブ紹介を真剣な様子で吟味していた。
 運動部などは揃いのユニフォームに身を包んで新入生に一緒にプレイしようと呼びかけたり、応援部ではチアの華やかなパフォーマンスが披露され体育館の中の雰囲気が一気に盛り上がりをみせた。
「次のクラブ紹介は柔道部です」
 そんな紹介アナウンスの後、柔道着に身を包んだ部員たちが壇上に並び「押忍」という声と共に新入生たちに一礼して、模擬演技が始まった。
 柔道部の模擬演技は身長150㎝ぐらいの小柄な女子生徒が、2m近い大柄な男子生徒を一本背負いするというもので、技が決まった瞬間、新入生からどよめきと同時に拍手が巻き起こった。
「柔道部、やるなぁ…」
 舞台袖で柔道部のパフォーマンスを見ていた渉が小さく感嘆の声を上げる。
 クラブの名前を連呼するだけの部もあったが、やはりインパクトのあるパフォーマンスを披露するクラブの方が新入生の反応も良いは明らかであった。
 地味な印象がある文化部の方も新入生から興味を持ってもらう為、さまざまな趣向を凝らしてクラブ紹介に臨んでいた。
 茶道部は部長が着物で壇上からクラブ紹介をしたり、漫研は大きなイラストパネルを数枚持って並んでいた。
「次は生物部です」
 放送部のアナウンスと同時に白衣を纏った渉は大きく深呼吸すると、舞台の中央に進み出る。スタンドマイクの前に立つと「初めまして、生物部です」と口を開いた。
 シン…と静まった新入生を前に「生物部って謎のクラブだと思いますので、どんな活動をしているかこれからお見せいたしましょう!」と芝居がかった口調で言うと同時に、体育館後ろを指さした。それを合図に緑の怪獣、でかいカエル、頭が三つあるプラナリアの被り物を被った白衣の三人が新入生の背後から壇上に駆け上がった。
「この緑の怪獣はグリーンイグアナではないか! おおっ、こちらはアフリカツメガエル!」
 渉はそんなセリフを叫びながらスケッチブックに何やら書きつける仕草をした。
「この三つの頭を持つ生き物は怪獣か! 否! 理科の教科書にも載っている有名なプラナリア!」
 そう叫ぶのと同時に白衣を着たあおいが上手から登場して「こおんなのを生物部で飼っていまぁす 見学無料なので遊びにきてね」と茶目っ気たっぷりにアピールする。
 生物部のクラブ紹介はそれで終わりだったのか、何だこの茶番は? といった新入生の冷たい視線に耐えられなかったのか、最後にあおいが「珠高名物の怪しいお茶会もやってるよ~!」と叫んだ。
 台本に無いあおいの叫びに驚いた渉が、慌ててあおいの首根っこを捕まえて強引に舞台袖に引きずっていく。渉の慌てっぷりがおかしかったのか、新入生から笑いが起きた。
「…勘弁してよ」
 舞台袖に引っ込んだ渉が疲れ切った様子であおいを見る。
「ちょっとウケたね」
 あおいの方は渉の想いなど気にする様子もなく、新入生たちから笑いの反応があった事を無邪気に喜んでいた。
「あおいちゃん困るよ、台本通りにやってくれないと」と、お小言を言い始めた渉に「新入生から反応があったんだからいいんじゃない?」と、カエルの被り物を脱ぎながら優子が笑う。
「持ち時間内で収まったんやし、そう怒りなや」
 緑の被り物を抱えて古谷も渉をなだめる。
「でも、ここでお茶会の話をするのはどうかと…」
 苦い表情を浮かべる渉にプラナリアの被り物を取った香奈子がクスクス笑いを漏らす。
「本当の事なんだからいいじゃない――今回のお茶会、お客さんが多かったらいいなぁ」
 生物部のお茶会の主人でもある香奈子が目を輝かせ始めたのを見て、渉はあきらめの表情を浮かべた。
「先輩たちがいいなら、別にいいですけど…」
 かなり悩んで考えた自分の台本より、あおいのアドリブが結果的にウケたのが納得いかない様子で渉が口を尖らせた。そんな渉に優子が「この被り物まで作った渉君もよくやってくれたわ」と褒める。
「そや、今後もこれ、生物部のキャラクターとしてイベントなんかで使えそうやん」
「キャラクターショーなんかで使われてる奴みたいだけど、こんなのを作れるなんて渉君すごいじゃない」
 気分を害していた渉であったが、先輩三人に褒められて悪い気がしなかったのか、渉は「クラスメイトの特撮部の奴に手伝ってもらったんですけどね」と少し照れくさそうな表情を浮かべた。
 珠高特撮部ではオリジナルのヒーローや悪役なんかがいて、定期的にヒーローショーをやったり特撮自主映画を製作していたりするので、制作予算が限られているのもあるので着ぐるみなど製作は部員たちによって行わている。
「本体は100均で売ってるウレタンのバスマットを加工したものなんで、製作費はそんなにかかってないんですけど、成型とか塗装がちょっとめんどくさかったです」
 工作の応用の様なものであったが、接着剤や塗料といったものの扱いに慣れていない渉にとっては、協力者がいたとはいえ、被り物の制作作業は悪戦苦闘となった。
「ウレタンは接着剤や塗料の種類を間違ったら溶けちゃうから確かに加工は難しわね」
「…優子先輩も、作った事があるんですか?」
 作り方の指導をしてくれた特撮部の友達と同じことを言う優子に驚いて渉が訊く。
「ん? 無いよ。化(バケ・化学の事)の知識があれば、常識的な事だし」
 さらっと言う優子の言葉に渉の目が点になる。
「そういうものなんですか?」という渉に優子は笑って頷くが、そのやり取りを聞いていた古谷が複雑な表情を浮かべた。
「有機溶剤の化学構成とかは複雑すぎるから、公立高校の授業では教えへんはずなんやけどなぁ…優子ちゃんって、結構変な知識を持ってるのがようわからん」
「なんか、優子先輩の事をハカセっていうあだ名でみんなが呼んでる理由がわかってきたような気が…」
 渉が入学当初に耳にした優子のあだ名を思い出して呟きを漏らす。
「やめてよね…そのあだ名、私は嫌いなんだから」
 不愉快そうに優子が渉に抗議した。
――博識だから付けられたあだ名なのに、何で嫌なんだろう?
 優子の考える事は本当によく分からないと思う渉であった。

 放課後、クラブ棟での新入部員募集のチラシ配りをやったりと、クラブの部員勧誘に力を入れたせいか、生物部の見学に数人が訪れていた。
「グリーンイグアナって初めて見ました――思っていたよりも小さくてかわいいですね」
 ラッキーのケージを覗き込みながら丸刈り頭の新一年生が案内説明担当の古谷に感想を口にした。
「ラッキーはまだ子供やから体長は尻尾を合わせても1mぐらいやけど、環境を整えて元気に成長したらこの倍近いサイズにはなるよ」
「へぇ…」
 古谷の説明を聞きながら興味深そうに丸刈り男子がラッキーを観察している近くで、プラナリアの水槽を覗いていた女子が「ホントに頭がみっつある~。超キモカワ~」と声を上げていた。
 こちらの一年女子は金髪ギャルといた格好しており、ギャルとは無縁そうな生物部に何故見学に来ようと思ったのか動機がまったくわからず謎ある。
 そしてもう一人の見学者は柔道部や相撲部に勧誘されそうな巨漢で、初めて目にするアフリカツメガエルを興味深そうに見ていた。
――また癖が強そうな見学者達だなぁ…
 香奈子と一緒にお茶会の準備をしていた渉が、見学者たちを見ながら心の中でそんな感想を抱いていると、ギャルが「この頭がいっぱいある生き物の名前って?」という質問が聞こえてきた。
「その子たちはプラナリアちゃんですぅ」
 プラナリア推しのあおいが嬉しそうにギャルに返答する。
「プラ…ナリア? 外国の生き物みたいな名前ですけど、どこの国から?」
「え…」
 想定外の質問にあおいは困惑の表情を浮かべ、古谷に助けを求めた。
「先輩~、プラナリアちゃんてどこの国出身なんですか?」
 その質問を聞いた瞬間古谷の目が点になり、その後「あおいちゃんもそいつらの採取に行ったやん」と苦笑いを浮かべる。
「外国からきて、日本に住み着いた生き物じゃないんですか?」
「外来種やないよ…和名もあったはずやけど、なんやったかな?」
 さすがに古谷もそこまでは記憶していないらしく首をひねる。その会話を聞いていた優子が「プラナリアは寄生虫のサナダムシなんかと同じ扁形動物門に属するから、おそらく世界中に生息してるんじゃないかしら?——日本でプラナリアってのはサンカクアタマウズムシ科ナミウズムシの事が多いわね…漢字では『三岐腸目』って書くの」と言って黒板に文字を書きつけて説明をした。
「どうして、この漢字なんですか?」
「それはね…」
 ギャルの続けざまの質問に優子はひるむことなく、プラナリアの身体構造の絵を黒板に書いて説明を始めた。
「プラナリアの腹部に腸主管っていうのが通ってるんだけど、一つは咽頭前方に延びていて、二本はそれを挟む形で後方に伸びているから三岐…この「岐」っていう漢字は枝分かれって意味よ」
「あ、なるほど、そういう理由なんですね」
 優子の説明にギャルは理解したのか納得顔になる。
――優子先輩の知識もすごいけど、このギャルって…。
 ギャルの飲み込みの速さに渉と古谷は驚いて顔を見合わせる。
 会話が途切れたタイミングで、今度は巨漢の方が「このカエルって食えるんですか?」と訊いてきた。
「食用にはならんと思うけど…なんでそう思ったん?」
 こちらも予想外の質問だったので戸惑いながら古谷が訊ね返す。
「こいつら、ウシガエルと同じぐらいの大きさだからてっきり食用かと…」
「ああ、田んぼなんかにいるウシガエルは、最初は食用として養殖されていたのが逃げ出して野生化したやつやからなぁ…」
「え⁈ カエルを食べるんですか⁈」
 古谷と巨漢の会話を聞いていた丸刈りが驚いた様子で声を上げた。そのタイミングで香奈子が実験室から顔を出しお茶会の用意が出来たと優子や渉たちに告げた。
 それを聞いた優子が渉に頷きかけたので、渉が「話の続きはお茶会でしましょう」といって、見学者達を実験室の方に移動するように促す。
 生物部員たちに誘われ実験室に移動した見学者たちは、実験台の上に用意された数々の実験用具を目にして案の定、驚きと戸惑いの表情を浮かべた。
「お茶会専用の道具を使っているんで、残留薬物なんかはついていないから心配しなくて大丈夫」
 笑いながら渉は、去年、優子から聞かされた言葉を見学者達に告げる。
「ビーカーで飲むの? 面白~い」
 ギャルが実験台の上に並べられたコーヒーや紅茶が入ったフラスコ、お茶菓子が入ったシャーレを見回してキャッキャと笑う。
「改めまして、生物部にようこそ。今から生物部名物お茶会を始めたいと思います」
 そんな渉の言葉から、見学者を交えたお茶会が始まった。
 各自好みの飲み物がビーカーに注がれた後、生物部自己紹介が行われて、見学者たちの自己紹介になる。
 丸刈り君は高橋和樹(たかはし・かずき)、ギャルは川田順子(かわた・じゅんこ)、巨漢君は丸山和馬(まるやま・かずま)という名前で、全員一年生であった。
 彼らの見学理由は、クラブ紹介の時のキャラクターたちが気になったので、実物を見てみたいというものであった。それを聞いたあおいが得意げな表情を浮かべる。
「あの…さっきのカエルが食用って話を聞きたいんですけど」
 遠慮がちに丸刈り君が口を開いたのをきっかけに、お茶会は生物部らしい話題で盛り上がる事となった。
 小一時間ほどのお茶会を終え、無記名の入部届を手に見学者達が階段を下りていく後輩たちの後ろ姿を見送りながら、渉はそっと手を合わせる。
――また彼らとお茶会が出来ますように…。
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