ここタマ! ~ここは府立珠河高等学校~

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~危ない⁈ ダイエットと寄生虫~

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「う~ん…」
 生物準備室の入り口に立つ人体模型のトオル君の前で静香は頭を悩ませていた。
 季節ごとに衣装替えをするトオル君は生物部のお遊びの名物の一つであったが、今回のトオル君の衣装は腹掛け一枚だったので、そのコンセプトが判らなかったのである。
「腹掛けを着ているキャラっていたかしら…」
 そうブツブツ言いながら頭を捻っていると、その背後で「おはようございます」という元気に声掛けをする者がいた。静香が振り返ると金髪ギャルの順子であった。
「あ、お疲れ」
 あいさつを返した静香は記憶をたどる様な様子を見せた後、先日新入部員となった順子を見る。
「川田さんだっけ?」
 問いかけに頷く順子に、静香はトオル君を指さしながら「この衣装のコンセプト何か聞いてる?」と尋ねた。
「さあ?」
 首を振る順子に静香は肩を竦める。
「恒温室にもう少しマシな衣装があるかもしれないから、探すの手伝ってくれる?」
「はぁい」
 静香に伴われて恒温室に入った順子が驚きの声を上げた。
「こんな所に部屋があったなんてびっくり」
「あ、知らなかったんだ」
 そう言って静香は恒温室の本来の使い方を説明した後、現在は生物部部員の私物置き場になっているという説明をする。
「私も使っていいですか? 教室にロッカーが無いから困ってるんで」
「もう生物部の一員だから、使ってもいいと思うわ――みんなと共有って事だけは忘れないでね」
 静香の言葉に順子は小さく頷く。
「さてと…」
 トオル君の衣装が入った段ボールの箱を一瞥した後、静香は次々に衣装箱を持ち上げてから中身を床にぶちまけた。
「古着屋さんみたい~」
「歴代の先輩たちが持ち込んだものなんだけど、何があるのか把握できてないのよ」
 説明しながら目に付いた衣装を手に取った。
「これ…河童かな?」
 静香が手にした衣装は黄緑色の着ぐるみパジャマのような作りで、背中には甲羅のようなデザインのプリントがされていた。
「人体模型に衣装を着させている理由って何なんですか?」
「私も理由はよくわからないの。昔からトオル君を着せ替えるのがお約束って事だけ」
 そう言って静香は笑う。
「ふぅん…。まあ、普通じゃない方が面白いけど」
「優子みたいな事言わないでよ」
 苦笑いを浮かべる静香に順子が「あの先輩とは意見があいそう」と小さく呟いた。
「普通じゃない方が面白いからギャルメイクやってるの?」
「これですか? ギャルって可愛いじゃないですか」
「あ…そっちが理由ね」
 ギャルにもいろいろいるらしく、友達がみんなギャルだから仲間外れになりたくないからという者、可愛いからギャルファションをするという者、異性からモテそうだからギャルらしい言動をする…といった若干動機不順な者もいるが、順子はファションとしてのギャルメイクが好きといった理由のタイプらしい。
「メイクも金髪も自体校則違反だと思うんだけど…」
「うちのクラスっていうか、学年でも半分以上ギャルだからか今のところ問題ないです」
「今年の生徒指導部…方針変えたのかしら?」
 首を傾げる静香に順子が「毎朝、校門で立ってるけど、特には注意されませんよ」と笑う。
「いいわねぇ。私が入学した時なんてノーメイクなのに顔の作りが濃いせいか、毎朝メイクを取れってお説教されていたのに」
「確かに先輩ってちょっとエキゾチックな顔立ちですもんね」
「今、流行のギャルファションが羨ましい事もあったけど、似合わないから諦めたわ」
 それを聞いた順子が少し驚いた表情を浮かべる。
「先輩って大人っぽいから、ギャルファションに興味が無いと思ってました」
「そりゃ女子だから、おしゃれにはいろいろ興味はあるわよ」
 そんなファション談議で会話が弾み始めた二人の声が聞こえたのか、恒温室に渉が顔をのぞかせた。
「二人とも何やってるんですか?」
「渉君の衣装の整理を兼ねた、衣装選び」
「衣装選びって――もうすぐGWでこどもの日もあるから、トオル君は金太郎のコスプレにさせてますけど…」
 それを聞いた静香が「金太郎⁈」と声を上げる。
「まさかり担いだ金太郎~のあれです。五月人形って金太郎だから」
「ああ、それで腹掛けなのね…丸に「金」って文字が入った赤い奴じゃなきゃ、何が何だかわかんないわよ」
「…やっぱり、判らなかったですか」
 苦笑いを浮かべる渉に順子も頷く。
「渉先輩。ファションってコーディネートも大切だと思いますよ」
「コスプレもファションの一種になるの?」
「コスプレって、衣装とか小物使いが大切だから、そうなるんじゃないかな?」
 小首を傾げる順子の横で「金太郎コスなら、赤い腹掛けに丸に金の文字で、まさかりを持たせて傍にクマの置き物なんかの三点セットであって欲しいわよね」と静香が笑う。
 それを聞いた渉が「俺にコーディネートを考えるセンスは無いっす」と言って肩を竦めるのだった。

「衣装がたくさんあったんだけど、衣装以上に多かったのが小物類で大小いろんなのが出てきたわ」
 衣装の確認を終えた静香がお茶会でそんな報告を他の部員たちにしていた。
「お疲れ様」
 優子が静香と順子にねぎらいの言葉をかける。
「あの段ボールの山、よう開ける気になったなぁ」
 コーヒーをすすりながら笑う古谷に静香が「トオル君を腹掛け一枚なんかにしていたからよ――トオル君に何か着せておかないと落ち着かないんだもん」と苦笑いを浮かべた。
 世間一般の人体模型は何も着ていないのが普通であるが、この学校の人体模型は常に何らかのコスプレをさせている為、何もしていない状態やそれに近い状態だと落ち着かなくなるのは仕方がない事なのかもしれなかった。
「マネキンを裸で放置していたら落ち着かないのと同じ様な感じね」
 香奈子がクッキーをつまみながら笑う。
「人形でも全裸だと目のやり場に困りますよね」
 頬張っていた香奈子特製のクッキーをコーラで流し込んで、巨漢新入部員の丸山が朗らかに笑っている横で、丸刈り高橋が頷く。
「新人さんも入って来た事だし、恒温室に置いてあるトオル君の衣装と小物をリストアップしておいたわ」
 そう言って静香が実験台の上にびっしりと文字が書かれたルーズリーフの用紙を置いた。
「サンタクロースとかはまだわかりますけど、ラメ入り演歌歌手風ジャケットとかメイド服、紅白ピエロとか、変なの」
 リストに目を通して呆れ顔を浮かべた順子に優子が「いろんな着ぐるみパジャマもあるみたいだし、トオル君に着せたら面白いって思う衣装を先輩たちが持ってきていたんでしょうね」と笑った。
「文化祭の仮装なんかにも使えそうやけどな」
 古谷がそう言うと高橋と丸山が「仮装なんか文化祭でするんですか⁈」と驚きの声を上げた。
「クラブ勧誘の時の着ぐるみも仮装の一種だと思うけど…」と苦笑いした渉の言葉を聞いて、一年部員たちは納得顔になる。
「これ、去年の文化祭の写真」
 そう言って静香がスマホを操作して文化祭の時の数枚の写真を一年生たちに見せた。
「…生物部なのに特撮部みたいですね」
 死神博士とショッカー戦闘員に見える骸骨タイツ、ナースに研究員風の白衣などが映っている高橋の目が点になった。
「死神博士の衣装はうちの先輩のコレクションで、白衣は部活なんかでも着るから部員の私物。他の衣装はパーティーグッズの店で買ったコスプレ衣装よ」
 そんな香奈子の説明を聞いて何故か丸山がホッとした表情を浮かべ「僕はそういうの着られないから、仮装はしなくて済むからよかった」と呟いた。その呟きが聞こえたのか静香が巨漢の後輩を見て口を開いた。
「君…丸山君だっけ? 痩せる気ないの?」
「空腹を我慢するぐらいなら、死んだ方がマシです」
 丸山の断言を聞いて、古谷が「あおいちゃんみたいやな」と言って爆笑した。
「あおいの場合は痩せでちびの大食いだから健康問題はあんまり心配しなくて良さそうだけど、肥満は万病の元って聞くわよ?」
 健康の心配をする優子に丸山が「皮下脂肪がたくさんあるといい事もあるんで」と笑いながら答える。
「…たとえば?」
「遭難して食べ物が手に入らなくても、自分の脂肪をエネルギーに返ることが出来るから生存率が高いですし、全体的に丸いんで優しくて可愛い印象を持ってもらえます」と丸山はそう言った後、「極寒でもミートテックを着てるんで暖かいです」と笑った。
「ミートテック‼」
 話を聞いていた一同がそう言って噴き出した。
「上手い事言うわね――ミートって言うより、脂身って気もするけど」
 静香が笑いながら丸山の太鼓腹を軽く叩く。
「あんたって結構顔のパーツがはっきりしてるから、痩せたらモテると思うんやけどね」
 順子の意見に静香も同意見らしく大きく頷いた。
「好きなだけ食べても痩せる方法があればいいんですけどね」
「そんな都合のいい話ある訳ないじゃない」
 香奈子がそう言って、そんな方法があるならとっくの昔に自分はやってるわ…と肩を竦める。
「食べても太らない方法で思い出したけど、体内に寄生虫がいたら、食べた栄養を寄生虫が横取りするから太らないからって、一時期モデルや芸能人の間で寄生虫ダイエットってのが流行ったことがあったわね」
 静香の言葉に香奈子が「寄生虫⁈」と驚きの声を上げた。
「モデルや芸能人の間で流行ったんなら効果ありそう」
 目を輝かせる順子に優子が「運が悪いと大変なことになるけどね」と苦笑いをする。
「どういうことですか?」
 現代では衛生環境が改善されたせいか、寄生虫と言われてもピンとこないみんなの質問に優子が「寄生虫ダイエットって理論的には間違っていないとは思うんだけど、サナダムシなんかだと成体は10m以上になる事もあるし、成体が腸に定着しなかったら宿主の内臓を圧迫したり食い破ったり、脳に住み着いたりして、命にかかわる事になったっていう症例もあるらしいわ」という説明をした。
「げ~」
 優子の説明を聞いて一斉に気持ち悪そうな表情を浮かべながら声が上がる。
「確か東京に寄生虫博物館ちゅうのがあって、そこに言った後はラーメンとかの麺類が寄生虫に見えて食われへんようになるっちゅう話は聞いた事あるで」
 古谷の話を聞いて香奈子が首を傾げる。
「どうして麺類?」
「麺類みたいに細長い寄生虫がぎょうさんおって展示されてるかららしい」
 古谷の説明にさすがの香奈子も嫌そうな表情を浮かべた。
「全く平気な猛者もおるらしいけど、僕は無理やわ」
「一種のグロ生物だもんね――ネットを漁れば鼻から寄生中がにょろにょろ出てる写真とかあるわよ」
 そう言って笑う優子に順子が「キモイ~」と抗議の声を上げる。
「まあ、悪い事ばっかりでもないらしくて、寄生虫って体内にいると花粉症なんかのアレルギー症状が治まるっていうから、寄生虫が宿主の体が異物として認識しないように何らかの成分を放出しているかも…っていう話も聞いた事ある」という優子は、最終的にはメリットとデメリットを考えて、自己責任で判断すればいい話ではあるという意見らしかった。
――そんな気持ち悪いものを体に飼っている人物がモデルや芸能人だとしたら、ちょっと傍にいたいとかお友達になりたいとは正直思えない渉であった。
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