ここタマ! ~ここは府立珠河高等学校~

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~たこ焼きロシアンルーレット~

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 ぽかぽか陽気の土曜日の放課後の生物室。
 新入部員の高橋がラッキーのケージの掃除にいそしんでいた。
「いい天気で暖かいから、後で外に日向ぼっこしに行くか?」
 そんな事を話しかけている高橋の言葉に反応する事無く、ラッキーは新しく与えられたキャベツを食べるのが忙しい様であった。
「ラッキーを外にって…古谷先輩に怒られない?」
 水槽の中の状態を確認していたあおいが高橋を見る。
「お散歩用のリードがあるし、ラッキーは健康維持の為に紫外線をある程度浴びないといけないって古谷先輩言ってましたよ」
「え? ラッキーはずっとそのケージの中にいるから、紫外線なんて浴びた事ないよ?」
 そんなあおいの言葉を聞いて、高橋の目が丸くなる。
「紫外線を浴びた事ないって…ここに紫外線ランプがついてるじゃないですか」
「へ? ただの明かり用の電球じゃないの?」
「…」
 あおいのまさかの言葉に高橋は絶句する。
「あおいさんって…ダブりの一年だから、一年間ラッキーのお世話をやってきたんですよね?」
「そだよ」
「ええっと…」
 同学年とはいえ、先輩でもあるあおいにどう説明しようかと高橋が悩んでいると、生物室に渉が入って来た。
「あ、渉先輩…」
 いい所に来たと高橋が渉に助けを求める様な目で見る。
「ん? 何かあった?」
 怪訝そうな渉に高橋が事情を説明しようとしていると、荷物を抱えた優子と香奈子、静香が賑やかに話しながらやって来た。
「お待たせ~、今からタコパ―(たこ焼きパーティ)するよ」
 静香が後輩たちに声をかける。
「その荷物…どうしたんですか?」
 先輩たちの抱えている荷物が気になるらしく渉が訊ねた。
「タコ焼き器とか、タコパ―に必要なもの一式を持ってきたの」
 笑いながら答える香奈子は、大きな袋から持ってきた道具を出し始める。
「道具と材料をいったん帰って家から持ってきたから、ちょっと遅くなっちゃった」
 すぐ用意をするからと先輩女子たちが準備を始めたので、渉は話の途中だった高橋に視線を向けた。
「…ええっと、何だっけ?」
 改めて問いかける渉に高橋は少し困った表情で「大したことじゃないです」と首を振る――あおいの事について相談したかったらしかったのだが、雰囲気的に訊きずらくなったらしい。
「わぁい♪ たこ焼き大好き~」
 無邪気にはしゃぐあおいを見ながら、複雑な表情を浮かべる高橋であった。

「学校でたこ焼きパーティなんていいんですか?」
 購買部でパンを買い込んできた丸山が、実験台の上でたこ焼きを焼き始めた先輩たちを見て目を丸くしていた。
「なんか文化祭の模擬店みたいですね」
 丸山の横の席に座って居た順子が笑う。
「新入部員歓迎会やってなかったから、今日のタコパーは歓迎会って事で」
 器用に焼け始めたたこ焼きの生地を金属製の串で器用にくるりと返しながら香奈子が微笑む。
「食いしん坊さんが多いから、材料は模擬店レベルの量を用意してきたけど、足りなかったら追加で買いに行かないとね」
 優子の言葉に丸山が嬉しそうな顔になった。
「高橋君——髪の毛伸ばすの?」
 クラブ見学に来た頃は丸刈りだった髪の毛が中途半端に伸びているのが気になったのか静香が訊ねる。
「野球は辞めたんで、伸ばそうかと思ってるんです」
「野球少年だったの?」
 初めて耳にする話に興味を持ったのか優子が高橋を見る。
「小学生の時からやってたんですけど、野球の才能が無い事に気が付いたんで中学で引退する事にしたんです」と高橋は語る。
「ふぅん…野球を辞めたのはわかるけど、坊主頭のままでも良かったんじゃない?」
「坊主頭って、お洒落が出来ないですから」
 ずっと丸刈りで育ってきたので、お洒落なヘアースタイルに憧れがあるらしい。
「え~坊主頭って撫でると手触りが気持ちいいから私好きなのに」
 そう言って静香は手を伸ばして高橋の頭をワシワシと撫でまわした。
「それって一種のセクハラじゃない?」
 困惑顔の高橋を見て優子が静香に指摘をする。
「スキンシップよ…ねぇ」
 すまし顔で静香はそう言い返すと、悪戯っぽい顔で高橋の顔を覗き込んだ。
「ええ…と」
 返答に高橋が困っていると、香奈子がたこ焼きが焼けたと言って、焼きたてのたこ焼きが入った皿を一年生の前に置いて行く。
「どんどん食べてね」
「香奈子先輩~私も一年生なのに~」
 ソースや鰹節、青のりの匂いが食欲を刺激するのか、あおいが香奈子に抗議の声を上げた。
「新入部員歓迎会なんだから、次が焼けるまで待って」という言葉にあおいはたこ焼きを食べる新入部員を凝視する。
「そんなよだれを垂らしそうな顔で見たら食べにくいって」
 渉があおいに苦笑した。
「うう…」
 恨めしそうなあおいに順子が気を使ったのか、私のを少し食べますか? と声をかける。それを聞いたあおいの表情がぱっと明るくなったが、それを優子が慌てて止める。
「あおいを甘やかしてはダメよ――あおい、人のモノを欲しがるんじゃありません」
 まるで母親の様な優子の言葉に古谷がぷっと噴き出す。
「あおいちゃん…『待て』って言われへんで良かったなぁ」
「私、犬じゃないもん」
 あおいはそう言って口を尖らせ抗議をする。
「たこ焼き器、やっぱもう一台出した方が良さそうね」
 食べる人数に対して、焼くペースが追い付かないので静香はそう言うと、袋にいれたまま教壇の上に放置していたたこ焼き器を出した。
 手際よくガスホースを実験台のガスコックに繋げ、たこ焼き器に点火する。その様子を見ていた順子が「たこ焼き器ってホットプレートじゃないのもあるんですね」と感心した様子で呟いた。
「最近はホットプレートにたこ焼き用の鉄板が付いているのも多いもんね――うちのはママが結婚した時に買ったやつって言ってたから…何十年物だろう?」
 首を傾げる香奈子に静香が「うちのもママのだから骨董品よ」と笑う。
「そんな古いのが今も使えるってすごいですね――ホットプレートって鉄板のコーティングが剥がれてダメになっちゃう事が多いのに」
 そんな順子にガスのたこ焼き器の鉄板は鉄だから錆止めの油をしっかり塗っておけば、鉄板自体は100年ぐらいなら余裕で使えると順子に説明をする。
「まあ、鉄板は使えてもガスのたこ焼き器の場合は本体が先にダメになっちゃうけどね」
「そうなんだ…って、静香先輩、何を入れてるんですか?」
 静香が焼き始めたたこ焼きは、具材がタコではなく、小さなタッパーに入った、刻んだ複数の食材であった。
「香奈子さんが焼いているのは普通のたこ焼き。私が焼いてるのはロシアンたこ焼きだから、具材はたくあん、ウインナー、梅肉、キムチ、海苔の佃煮、黄金イカ、チーズ、コーン、明太子、チョコレート」
「チョコレート⁈」
 まさかの具材に新入生たちが驚く。
「チョコレートは当たりだから、ひと鉄板に一個だけに入れてあるから」と静香がにやりとする。
「俺、チョコ入りのたこ焼き食べてみたいなぁ」
 丸山がそう言って静香が焼いている実験台の方へ席を移った。
「僕は普通の奴の方がええわ」と言って、古谷が丸山が座っていた席に移る。
「私はどっちも食べたいですぅ」
 そんなあおいに優子が「いっぺんに全部食べられないんだから、交替で食べればいいじゃない」と苦笑いをした。
 そんな会話をしているうちに、新たにたこ焼きが焼きあがる。
「やっと食べられる~」
 あおいがようやくたこ焼きにありつく事が出来て嬉しそうに食べ始めた。
「いい匂いがしていると思ったら、たこ焼きか」
 ソースの匂いが準備室にまで届いたのか、顧問の武田が実験室に顔を出す。
「あ、丁度いい――先生もどうぞ」
 そう言って、焼けたばかりのロシアンたこ焼きを静香が皿に盛って、何も知らない武田に手渡した。
「ちょうど小腹が空いていたからありがたい」と言って武田はたこ焼きを口の中に放り込む。その次の瞬間、武田の表情が何とも言えないものに変わり疑問符が飛ぶ。
「…何だこれ?」
 武田の戸惑い声に笑いが起きた。
「何味でした?」
「何でたこ焼きなのにキムチ⁈」
 それを聞いて一斉に「あ~キムチだったかぁ」という声が上がる。
「ロシアンたこ焼きなんで、具材は食べてからのお楽しみです」
 そう言って静香は次のロシアンたこ焼きを焼き始めた。
「ロシアンたこ焼きって…ちゃんと食べられるものを入れてるんだろうな?」
「大丈夫ですよちゃんと食材ですから」と静香が笑いながら不安そうな武田に答える。
「そうか…闇鍋みたいに食いもんじゃないものが入っていたらどうしようかと」
「さすがに闇たこ焼きは僕も嫌やわ」と古谷が笑った。
「タコが苦手な外人なんかに、たこ焼きをピザボールなんていって売ってる店がたまにあるけど――タコじゃない具材だらけってのは画期的だな…」
 最初驚いたものの、意外に美味しかったからなのか、武田は次々にロシアンたこ焼きを口に放り込む。
「先生、こっちに普通のたこ焼きもありますよ~」
「ありがとう…これはビールが欲しくなるな」と香奈子に返事した武田が突然驚きの表情に変わり固まる。
「…先生?」
「なんでチョコ⁈」
 それを聞いた瞬間、一同から「あったり~」という笑いを含んだ声が上がった。
「…これ、罰ゲームじゃなく当り⁈」
 目を白黒させる武田に静香が大きく頷く。
「当りと言っても景品がある訳じゃないですけど」
「酒のつまみになりそうな具材ばっかりだったから、これは意表を突かれたな…」
「おかわりありますよ?」
 静香の勧めに武田は首を振る。
「俺、甘いの苦手だからもう結構——あとはみんなで楽しいでくれ」と武田は言い残し、準備室の方に戻って行った。
「…先生、怒らないんですね」
 驚いた様子で高橋が先輩たちの顔を見る。
「新入生はまだ入ったばかりやから知らんやろうけど、生物部顧問のたけやんは優しいしおおらかやから、最低限のルールさえ守っていれば怒る事ないで」と古谷が説明をした。
 ずっと野球部だった高橋からすれば驚きである。
「優しそうな顧問でよかった」
 順子もホッとした表情を浮かべ感想を口にする。
「俺、ずっとチョコ入りたこ焼きが食べたくて見てたけど、先生の所に入っていたとは…」
「場所によって焼き加減が違うからたこ焼きの位置替えを頻繁にしていると、移動させているうちに焼いている人間も、どれに何が入っているかわかんなくなるのよね」
 丸山の言葉に静香が笑った。
「ロシアンたこ焼きも気になるし、普通のたこ焼きも美味しいんで、どんどん焼いてくださ~い」というあおいの言葉に、香奈子と静香が「私たちの分まで食べつくさないでよ」とたこ焼きを焼きながら苦笑する。
 そんな会話を聞いていた高橋が渉に小声で「——生物部って変なクラブですね…」と感想を口にした。
「確かに変なクラブではあるけど、みんないい人達だとは思うよ…ちょっと食いしん坊が多いけどね」
 渉がそう言って苦笑する。
「いい人達…まあ、みんな仲が良いって言うのは伝わってきますけど、このクラブって飼育している小動物のお世話以外はお茶会ばっかりしてるし、大丈夫なのかなぁ…て」
 髙橋が知っているのは野球部の経験だけであったし、上下関係の厳しい体育会系のノリとは全く違う事に戸惑いを隠せない様であった。
「ゴールデンウイークも終わったし、一年生にはぼちぼち普通の授業では使わない実験道具の使い方講習とか、実験観察なんかをしてもらおうかなとは思ってるけど、やりたい事の希望とかある?」
「いえ…特に…」
 急に渉に質問されても、何をすればいいのか全く見当がつかない高橋は困り顔になる。
「急に聞かれてもわかんないよな――俺も入部した時そうだったから、問題は無いよ」と言って渉が笑い「丸山君と川田さんは生物部として何かやりたい事ある?」と他の新入部員にも希望がないかと尋ねた。
「やりたい事って言われても、何ができるのとかもわからないし…」
 やりたい事があって生物部に入部したのではなく、なんとなく面白そうだからと見学に来て、お茶会が意外に楽しかったからという理由で入部届を出して、その後は惰性で生物室に顔を出している順子と丸山が顔を見合わせる。
「——まずは両眼顕微鏡を使うのに慣れてもらう事から始めれば?」
「そうですね…授業じゃ単眼の顕微鏡しか使わないし、そこから始めましょうか」
 優子の提案に渉が頷き、新入生たちに向き直る。
「うちは体育会系から見ればかなり緩~いクラブなんで、部活はお茶会の合間に生物部としての基礎の勉強とか観察研究をしていくって流れで活動していくので、一応、頭の片隅にその事を置いておいてください」
 そんな渉の方針説明を聞いた香奈子が「お茶会の合間ってのがミソ」と言ってケタケタ笑った。その横で優子が「体育会系の暑苦しい人がたまに顔を出すかもしれないんで、そのギャップに驚かないでね」笑いながら言う。
「体育会系の暑苦しい人って…まさか」
 この春に卒業していった人物が渉の脳裏に浮かんで言葉を失う。
「なんか今度の長期休暇の時に顔を出すかも…って」
「あいつ他に行く所ないのかしら?」
 優子の話を聞いて静香が呆れ顔で呟く。
「新入部員たちがびっくりせんかったらいいけどな」
「暴走しそうな時は静香ちゃんよろしくね」
 そんな会話の内容が全く分からない新入部員たちは、不思議そうな表情で黙って先輩たちの話に耳を傾けていた。
 そんな後輩たちに「…そのうち誰の事かわかると思うから、軽く聞き流してればいいよ」と渉が苦笑いしながら言葉をかける。
――どうか『彼』の来襲時、先輩たちがいてくれますように…。
 そう願わずにはいられない渉であった。
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