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葛藤
しおりを挟むリュカが帰ってから俺はトマと再び入れ替わり、影の中へ戻ってきた。
影の中でずっと膝を抱えてリュカの事を考えていた。
リュカ……。
トマが愛した男、悠太に似ている…。
それだけだったはずなのに。
数え切れない程、何度もキスを繰り返した唇に指先でそっと触れてみる。
リュカの温もりは本当に気持ちが良くてまるで夢みたいだった。でも、まだ仄かに身体に残っている熱と酷い倦怠感が夢じゃなかったと教えてくれている。
去り際に「また会いたい」と言われた。
凄く嬉しかった。
リュカはあいつの手先なのに。
どう考えてもこれ以上接触するのは危険だということは分かっている。
なのに…、何故……?
正直、俺はまだ「好き」とか「愛する」とかの意味がよくわからない。
でもリュカを想うと胸がぎゅっと締め付けられて苦しい。苦しいのにふわふわして気持ち良い。
もしかして『初めて』を捧げたから…?
初めて他人の温もりに直に触れて、初めてあんな淫らな行為をして…初めての体験に浮かれているだけなのかも……。
俺は自分が思っているよりずっと浅はかな奴だったんだな…。
ほんとバカだ……。情けない…。
リュカの綺麗なピンク色の瞳が俺の心を染めてしまった気がする。
唇を触っていた指をきゅっと強く噛んでみた。口の中にあの時と同じ血の味を感じる。こんなに痛いのに、リュカはずっと受け止めてくれてたんだと思うとやっぱり胸がきゅんと切なく鳴いた。
トマもこんな気持ちだったのかな?
悠太やブラッドに触れる時…。
トマは大丈夫だと言っていたけど、やっぱり気になる。
だってリュカは悠太に似過ぎている。
もし…、リュカがもっと若かったら…。
トマはきっとリュカを好きになる。
俺は本当は知っている。
トマは悠太を忘れてない。
ブラッドのことも確かに愛しているのかもしれない。
でも、悠太はトマの中で特別なんだ。
俺はリュカに会い、直接触れて、その気持ちがなんとなくわかる気がする。
本当はまた会いたい。
会って確かめてみたい。
自分の気持ちを。
「また、月の輝く夜に」
俺は叶うかも分からない約束に期待してしまっている。
心の中にモヤモヤしたものが蠢いてる。
トマが恋をした時に感じたような心の靄を。
トマ……。ごめんなさい……。
罪悪感に苛まれながらもリュカの体温を忘れてしまわぬよう、自分をぎゅっと抱き締めながら複雑な気持ちと闘い続ける。
それから数日間、何となくトマには会いづらくて子供に俺の身体を預けていた。
子供の俺と遊ぶトマはとても無邪気だ。
同じ視線で向き合ったり、時には悪戯する俺を叱ったり、まるで母のように優しく包んでくれる。
ブラッドも見えない俺やトマを気遣い、優しく見守ってくれている。
『家族』ってこんな感じなのかな?
不安はあったけど、結果ブラッドにトマを託したのは正解だったかもしれない。
3人でいると『幸せな家族』の形そのものだ。
このまま『俺』という人格が消えて子供の魂に全てを委ねてしまった方が幸せ…、なのかな…?
そういえばあの時トマは俺の力を借りなくても身体を入れ替えることが出来ていた。
肉体が入れ替わった時、どういうわけか俺の身体に首輪が嵌っていた。
重なるように入れ替わったから首輪が残ってしまったのかもしれない…。
首輪に吸い取られていた魔力が解放されていたとはいえ、まだトマの魔法を使う技術はまだまだだと思っていたけど…。
過去を思い出さなくても魔力が自由に使えるようになってきたのか?
…だったら無理に過去を思い出さなくてもいいのかな…。
精霊として過ごしてきた俺達の過去は俺にとってかけがえのない大切な思い出だ。トマが居たから俺は頑張ることが出来たし、生きてこられた。
……でもトマは……?
今のトマに俺は必要なんだろうか?
過去なんか思い出さなくともとても幸せそうだ。
むしろ俺が力を得る為に別の世界の過去を引き摺り出して余計に辛い思いをさせただけなんじゃないのかな?
『悠太』のことや殺されたあの日のことを思い出させて苦しめただけなのかもしれない。
俺は…いない方が、生まれてこない方が良かったのかな…。
ふいによぎる強い不安…ーー。
自分の存在意義が分からなくなる。
『夜が好き』
そんな時はいつもリュカの言葉が俺の心を励ましてくれていた。
もしかしたらリュカも…。
惹かれているのは俺じゃなくてトマの方かもしれないのに。
あの日の温もりが、言葉が、俺に淡い期待を抱かせてしまうんだ…。
リュカ……、俺…、やっぱりリュカに会いたいよ…。
勘違いかも、と自分を抑えつつもリュカへの特別な感情はそうしてどんどん膨らんでいき、自分ではどうにも出来ない位その想いは強くなっていった。
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