転生スライム食堂～チートになれなかった僕の普通に激動な人生～

第５章 生きるためにかえす

63.2話 思わせぶりな昔語り

私の横にいるモブモブは、いつものモブモブでは無いくらい立派に見える。こんなに立派な挨拶を出来るような人だとは、改めて見直してしまった。

私がこの家に引き取られたばかりの頃の事を思い出す。

全てはあのシッコク大陸紛争から始まった。両親の討死、貴族位の剥奪により、私は国を追われた。まだ５歳の私の心は荒みにすさんだ。まぁ今思い出す事ではないのでその出来事は私の記憶の中にとどめておく事にした。

私を引き取ってくれたのは人間族の貴族ポットデだった。私の父とは戦場で何度となく殺し合ったライバルだという。そんな敵の娘を貰い受けるなんて裏があるとしか思えなかった。

しかし裏は無かった。実の娘として溺愛された。7歳になった時、もう一緒にお風呂に入れないと言われた時は私の方が泣いてしまったくらいだ。その日からはモブモブと2人で風呂に入ることになった。

モブモブは常に正直だった。5歳にして感情を殺して生きるのに慣れてしまった私とは正反対だった。我がまま傲慢で、でもいつからか好きになっていた。

多分あの事件がきっかけだろう。

あの重大な事件が私とモブモブの関係性を変え、あの重大な事件から私はモブモブを意識するようになってしまった。

もちろんこれは私とモブモブの2人だけの秘密だ。なのでその出来事は私の記憶の中にとどめておく事にした。

お色直しの時間になる。急いで服を着替える中でモブモブの様子がおかしいことに気づく。不意に式場を出る彼の後を追いかける。そこにいたのはショウ殿とモブモブの姿から元に戻ろうとするヨーコ様だった。横には首輪をしたモブモブがいた。

私はすべてを悟った。なのでその出来事は私の記憶の中にとどめておくことにした。

隷属の首輪をつけたモブモブがお色直し部屋に帰ってきた。手を真っ赤に染めたヨーコ様も一緒だ。ショウ殿はどこにもいない。ヨーコ様は笑っている。

なのでその凄惨な事件は私の私の記憶の中にとどめておくことにした。