君と花火と黒金魚

猫足ルート

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ナオは、一度も夏祭りに行った事がないらしい。
なので俺は、いつも勉強を教えてくれるお礼やらなんやらで、毎年行っている華祭りにナオを連れていく事にした。


ナオ(直人)に出会ったのは、今年の4月。
親の転勤で、中3から編入してきた転校生。
第一印象は「ガリ勉」だったし、その直感は当たっていた。
細い体つきに、あまり表情がなく神経質そうな顔立ち、ダサい銀縁メガネ。
「アホで人懐っこいムードメーカーが近くにいる方が早くクラスに馴染めるだろ」
との担任先生の計らい(誰がアホだ)で俺の隣の席になった。

俺含めクラスメイトは最初は取り囲んで色々と質問していたが、ナオ自身、話しかけられると応答するもののあまり自分から積極的に友達を作る気は無いようだった。
休み時間も殆ど勉強している。
一度「なあ、そんなに勉強ばっかして楽しいか?」と聞いてみたことがある。
「親が『ハカセ』で、僕も『ハカセ』になりたいんだ」と返ってきた。
親はポケモン図鑑を作ったりしてる人なんだろうか。
俺はナオのガリ勉ぶりに正直引いていたが、いつも俺が忘れた教科書を見せてくれるし、授業中に寝ていると後で眉を顰めながらも宿題の内容を教えてくれるので、まあ悪い奴ではないなと思っていた。


そして、一学期の中間テスト。
転校してきていきなり各教科でトップ5に躍り出たナオと裏腹に、俺は各教科、過去最低の点数を取ってしまった。
今月の小遣いなしは当たり前、担任にも、
「流石にそろそろ受験先の自覚を持てよ。せっかく隣の席なんだから分からない所は神崎(ナオ)でも聞け」
なんて言われる始末。
小遣いをなんとか奪還したい俺はテスト返却翌日から、授業中でも分からない所はナオに聞きまくった。
ナオは、呆れつつも丁寧に教えてくれた。
ナオの教え方はとても分かりやすい。
俺は、放課後までナオの時間を使って、勉強を教えてもらった。
その甲斐あって、期末ではかなり点数が上がった。
ナオの事は、ただのガリ勉だと思っていたけれど、それ以外にもいろいろな事がわかった。
まず一つ、性格に、少し、いや、多大な問題がある。
教えるのは上手いけど、怒るポイントや、喜ぶポイントが分からない。
つか、本気で笑っているのを見た事がない。
そして、常識がない。
俺に常識があるかと聞かれれば、Yesと即答はできないが、ナオは破壊的に無い。
家に篭って勉強ばかりやっていたせいだろう。
ただ、隣で過ごすうちに段々表情の変化は分かるようになってきたし、クラスの中ではまあ相対的に一番打ち解けてもらえたんじゃないかとは、自負している。


勉強を教えてくれているお礼、あと何より祭りというものをナオに体験させてみたくて、俺はナオを華祭りに連れて来た。
華祭りというのは、俺の町にある広い神社で毎年夏に行われる祭りだ。
夏祭りと花火大会が一緒になっていて、三日間行われる。
神社の境内に様々な屋台がひしめき合い、ステージでは盆踊りやらビンゴ大会やらが開催される。
そして、
一日目には花火が百発。
二日目には花火が二百発。
三日目には花火が五百発、打ち上げられる。
ナオは人混みが苦手そうだし、とりあえず一番人が少ない初日、夕方の早めの時間に待ち合わせた。
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