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しおりを挟む「要らないからやる。」
大量の菓子や玩具、ゲーム機もある。
「マジで!?ナオすげぇ!ありがと!」
「不要な物は持ち帰りたくない。」
ぶっきらぼうな口調だが頬は少し紅く、照れているように見えるのは、夕日のせいではないだろう。
これらは全てナオが射的で討ち取った物だ。
「なんでこんな当たるわけ?」
「どうして君は当たらないんだい?射的だっけ?こんなの、弾の重さと速さ、標的までの距離と角度、そして標的の重心を確かめながら撃てばいいだけじゃないか。
……それより、あっちも見てみないか。」
誘った当初は面倒臭いと渋っていたくせに、年相応に好奇心旺盛だ。
「あれ~?人混みが嫌いで、屋台なんか金と時間の浪費だ、って言って無かったっけ?」
ついからかってしまう。
「……うるさい。いいだろ、消費時間と消費した金、獲得賞品の期待値は放物線を描いているんだから。」
何を言っているのか全くもって分からない。
「難しい事言うなよ~。要は、楽しいんだろ?」
「うるさい!初めてなんだからな!!」
つい言ってしまってから真っ赤になる、そんなレアなナオを見られただけでも、連れて来て良かった。
「俺は、ナオと来られて楽しいけどな。」
「…………フン。」
ふて腐れた様にして、無言でお目当ての夜店に向かうナオの後を追う。
ナオが向かったのは、金魚掬いの屋台だった。
赤の中に少しの黒や白がいて、小さいのから大きいのまで、網をくぐり抜けながら水槽の水面を埋めている。
「……おどりぐい?」
綺麗だなと思った矢先、不穏な単語が聞こえた。
「これは、この網で、破れないように金魚を掬うんだよ。」
店のオヤジに、隣の幼稚園児と同じ説明をされていますが。
「わかった。こんな汚れた水で成育には悪い環境から、死にかけた金魚を網で救って助け出せばいいんだな」
店のオヤジの目が険しいぜ。
「ナオ!金魚掬い!やったことないよな!やってみよーぜ!」
「……ふむ」
金を払って、網を貰ったナオ。
意外な程、簡単に網が破れる。
「網の浸水時間と水圧、標的の重さと表面張力、なにより、動きを予測しないといけないのが難しい。……生命の神秘だ。」
お前の方が神秘だよ。
俺も網をもらい、ターゲットを見据え、じわじわと隅に追い詰めていく。
「金魚掬いってのはな、金魚を追い詰めて、直感でやるんだよ。コツを掴めば簡単だ。」
伊達に毎年この祭りに来てる訳じゃねぇぜ!
「……網下さい。」
ナオの負けず嫌いに火がついた。
でも、これだけはナオに負けられない!
結局、ナオは五回、俺は三回やって、俺は十二匹、……ナオは0匹という結果になった。
ナオはまだやりたそうだったけれど、花火の音が聞こえてきたので神社を出て、少し歩いた先の橋に移動した。
橋の上にはあまり人が居なかった。
大抵の人は神社の境内から見る。
ここは、俺が見つけた特等席だ。
「神社からより、ここの方が空いててよく見えるんだ。」
音と共に色とりどりの華が夜空に咲いて、すぐに散っていく。
「綺麗だな」
ナオが呟く。
そんな風に素直に感想を漏らす珍しいナオが花火に照らされていて、ついまじまじと見つめてしまった。
「……何?」
「いや、……そうだ、金魚やるよ。俺の家、水槽無いし。ほら、ナオが狙ってた黒の出目金も入ってるし。」
「別に、狙っていた訳じゃない。」
嘘だ。
それは、あそこの金魚達の中でも一際大きくて、ナオは何度も挑戦していた。
「どっちにしてもさ、せっかく俺が取ったんだから、貰ってくれない?」
うわ、なんか凄く押し付けがましくなってしまった。
「いや、別に、無理にじゃなくて、思い出というか、お礼と言うか、連れて来てよかったなっていうか、いや、ごめん。」
もう、何を言いたいのか分からない。
この瞬間も、ひっきりなしに花火が上がって、消えていく。
ナオは、俺の持っている金魚袋を見ている。
「……貰っておく。」
金魚袋の、ビニールの紐がナオの手首にかかる。
俺は、なんとなくホッとして花火と金魚とナオを見る。
「ありがとう。」
いきなりナオが礼を言う。
俺と、目が合うと、もう一度
「ありがとう。」
と言った。
「何度も言わなくいいって。俺も、射的の景品、貰ったんだし。」
なんだか照れた。
「違う」
予想外の言葉が飛んで来た。
「ん?何が?」
俺は、意味が分から無くて、聞き返す。
「一回目は金魚。二回目は……」
ナオが俺から目を逸らして花火を見たので、俺も釣られて花火を見る。
ちょうど、一日目の締め、十連発花火の打ち上げ中だった。
……ドォン……
音に少し遅れて、光の華が咲く。
十連発。
重なりながら夜空のキャンパスに咲き誇った華は、つかの間の命。
記憶にあったより、呆気なく終わってしまった。
そういえば、さっきの続きを聞いてない。
「……連れて来てくれて、ありがとう。」
ナオが、視線はまだ夜空に向けながら、呟いた。
名残惜しむかの様に闇夜を見ているナオは、なんだか儚げで、そんなナオを見ている内に、思い付いた事があった。
「あのさ、三日目、もう一度来ない?」
ナオは振り向くと、少し考え込んでから言った。
「来てもいい。金魚掬いもやりたいし。」
「根に持ってんじゃん。」
俺がツッコムと、ナオはムッとしたような顔で、俺に背を向ける。
「いや、ごめん。」
思わず謝ると、ナオはそのまま、歩きだした。
「ちよっ、おい…!」
呼び止めるが、止まらない。
「拓也と来て、楽しかった。だから、5時に境内で!」
怒ったように、でもちゃんと明後日の予定を告げて、ナオは帰ってしまった。
帰り道、ナオに、初めて名前で呼ばれた事に気づいた。
「森本」から、「拓也」に。
ちょっと嬉しかった。
とりあえず帰ったら、明後日のために母さんに小遣いを貰おうと思った。
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